第11話 学校に行くとなんだか騒がれていた

「ちょっと新宮くん、あなた凄いじゃない、レアスキルゲットしたんだって」


 朝、学校へ行くと、クラスの最上位カーストの峰屋みのりが俺の机の前に来て興奮気味にそう叫んだ。


「すごいなあすごいなあ、クラスにもDチューバーは沢山いるけど、レアスキル持ちって初めてじゃないっ」

「そうかもね」


 遠くてカーストの違う女子が嫌な顔をした。


「峰屋の奴、昨日まではあの陰キャに興味も持ってなかったくせによう」

「あれだ、あのビッチ、金持ちになりそうな奴大好きだし」


 そんな陰口はクラス最上位クラスの峰屋みのりにはちっとも効かない。

 ひまわりのようににっこり笑うと俺の目をまっすぐ見た。

 正直な所、りっちょんの方が綺麗だな。


「ねえねえ、今日の放課後暇? ファミレスで昨日の話を聞かせてよ、良いでしょ」

「放課後は迷宮行くから」

「えー、一日ぐらい良いじゃないっ、配信料いっぱい入ったんでしょ」


 ……。

 そういや、配信料とか入るのか。

 俺は、F級配信者だから、配信料もスパチャも縁が無かった。

 ロビーでの同接数すごかったからなあ。


「ふん、【オカン乱入】なんてネタスキルのどこがありがたいのかね」


 Dチューバーをやっていて、同じくアッパークラスの東海林三太郎がぼそっとつぶやいた。

 こいつは十階のフロアボスのワーウルフを倒して、めでたく十二階あたりを探索中だったっけかな。

 高校生五人組でE級パーティを組んでいるんだっけ。


「えー、新堂くんのお母さんすごいじゃんっ、ミノタウロスを瞬殺だよっ」

「ミノタウロスの時も、ロビーでカメラピクシーが暴れた時も、こいつは怪我して寝てただけじゃないか」


 そう言われりゃそうだな。

 かーちゃんが活躍中の時は、俺はだいたい倒れている。

 そうならないように頑張ろう。


「おう、このクラスにタカシはいるか?」


 ドアをがらりと開けて、凄いリーゼントの不良生徒が入って来た。

 上履きの色は青、三年生か。

 ドア近くの生徒が俺を指すと、リーゼントくんはずかずか教室に入ってきた。


「お前がタカシか」

「そうですが」


 俺が答えるとリーゼント先輩は満面の笑顔になって机をバンバン叩いた。

 峰屋みのりがひゃあと言って体を縮めた。


「おうおうっ、確かにタカシだっ!! 俺はこの臨海第三高校で一位の迷宮ぶっつぶし隊ってえパーティの番を張ってる後醍醐だっ!! 俺はお前の動画見て気に入っちゃってよっ、スカウトに来たんだっ!! どうだっ、オカンと一緒に俺の隊に入っちゃくれねえかっ」


 笑顔になると、なんか人が良い感じになるな後醍醐先輩。

 迷宮ぶっつぶし隊は確かD級配信パーティだったかな。


「先輩は今何階ですか」

「二十をやっと抜けたっ! もう大変でよおっ、でもみんな頑張ったんだっ」


 二十階、フロアボスはゴブリンロードと各種ゴブリンが十五体だったか。

 パーティとしてのまとまりが無いと突破出来ないと言われているボスだな。


「これからどんどん敵の攻撃がきつくなるからよっ、タカシをスカウトに来たってわけさ、どうだっ!」


 後ろのドアがガラッと開いて、凄く派手で綺麗な女生徒が踊るように入ってきた。


「ちょっとまったーっ!! タカシくんはこの私、Dアイドル、北村チヨリのスタッフになるのよっ、つっぱりは下がりなさいっ!!」

「げえっ、Dアイドルっ!!」

「タカシ君、うちのリーディングプロモーションは、りっちょんの居たクソプロダクションと違ってとっても大手なの、所属Dアイドルは五十人を越えて、有能な配信冒険者スタッフをいつも募集しているのよっ」


 北村チヨリさんは俺の席の前に立ちにこやかに宣言した。


「社長に絶対スカウトしてこいって言われてるの、レアスキル持ちだし、あなた本人も磨けば光る感じだわ、どうかしらっ!」

「おうっ、チエリ、俺が先約だぞっ」

「なによ、あんたの所の面白ネーム隊なんかにタカシくんはもったい無いわよっ、彼はスタッフを経て、自らも男性Dアイドルになる運命なのよっ」


 Dアイドル業界は今や大産業だ。

 ある程度腕の立つ配信冒険者はアイドル事務所のスタッフとして、アイドルの護衛、設営の手伝い、カメラの操作などの裏方を受け持つ。

 華の無い職場だが、抜群に儲かる。

 普通の人がネタ配信をやって小銭を稼ぐぐらいなら、Dアイドルスタッフの方が儲かるとも聞くね。


「ねー、タカシくーん。放課後、一緒に遊びにいこうよー」


 峰屋みのりも諦めていないようだ。

 しかしモテモテだなあ。

 昨日までは誰一人声を掛けてこない、陰キャボッチ生活だったのに。

 いきなり派手になったもんだな。


 というか、俺の机の近くでワイワイ騒がないで欲しい。

 

 予鈴が鳴った。


「おっと、いけねえっ、じゃ、考えておいてくれよう、タカシっ」

「タカシ君、放課後事務所に行こうっ、社長が是非会いたいって、こんなの滅多に無いんだからねっ」


 二人の大物先輩は教室を出て行った。


「ば、馬鹿な、学校一位のパーティと、業界二位の大手プロダクションの社長が新宮を呼んでるだとっ、た、単に運が良いだけじゃないかっ!! ゆるせんぞっ!!」


 東海林くんは悔しそうだ。


「また後で相談しようよー、タカシ君、ねーっ」


 そして、峰屋みのりも諦めないな。

 さすが、クラスカースト上位だ。

 考え方がポジティブだね。


 先生がのっそりとやってきて、ホームルームが始まった。

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