第4話 Dアイドルの命を救う

 鞄の中にでっかい魔石と竹の皮に包まれた牛肉を入れる。


 体を確かめる。

 うん、どこも痛くない。

 ただ、セラミック素材の胸当てが壊れた。

 新しいのを買わないとなあ。

 お金が掛かるのは辛い。


 ふうと一息吐いて俺は歩き出す。

 胸ポケットに入れたライトは生きていた。

 点灯して歩く。


 ビヨリンッ!


 スマホから軽快な音がした。

 ……、え? まさか?


 急いで動画アプリを立ち上げる。


 うおおお、スパチャだ!!

 しかも五万円だっ!!

 スパチャなんて、初めて貰うから何の音かと思ったよ。


「うわ、初スパチャです、ええとカーメンさんありがとう、良いんですか」

『すまない、お願いがあるんだ』

「なんですか?」


 ああ、ファンのおひねりじゃなかったか。

 そりゃそうだよな。


『りっちょんを助けに行ってくれ、まだ生きてるんだ。タカシくんが一番近い』

「りっちょん?」

『ゲリラライブをしおった馬鹿Dアイドルじゃな』

『そうだ、ミノタウロスがりっちょんのとどめを刺す前にタカシくんが通りかかった、ライブ映像ではまだ生きている、僕はファンなんだ。頼むよ』


 ああ、そうか、ファンの人はこうやって助けてくれる時もあるのか。

 それはありがたいなあ。


「わかりました、急行します」

『たのんだよ、タカシくん!』


 りっちょんを助けたらカーメンさんも俺の配信のファンになってくれるかもしれないしな。

 ちょっと浅ましい動機ではあるが。

 太い視聴者は欲しい。


 俺は迷宮マップアプリに切り替えて小走りで走った。

 アイドル殺しが出てこなければ十階の魔物は俺の敵では無い。

 5レベルもアップしたしな。


『しかしりっちょんとやらは馬鹿ではないのか、運営に無許可ライブなぞやりおったらアイドル殺しが出るのは解っておろうに』

『りっちょんの事務所が良く無いんですよ。彼らは大手事務所から独立したばかりで強引な事ばかりして、酷い事故が起こるんじゃ無いかと思ってました』


 サブウイドウでカーメンさんと余さんが話しているな。

 やっぱりダンジョンアイドルは事務所次第なんだなあ。


 ダンジョン配信動画も色々種類があって、迷宮の攻略法を真面目に流す配信から、フロアの宝箱みんな開けてみましたとかのネタ配信とか、PV数目当てで山ほどの企画が流れている。

 その中でも人気が高いのが、可愛い女の子が迷宮探検をするDアイドルというジャンルだ。

 大抵は大手事務所が雇ったカメラ栄えするアイドルとサポートする配信冒険者団で構成されて迷宮の中で歌ったり踊ったり、ルポしたりと、楽しい番組を配信しているんだ。


 めったに事故は起こらない。

 起こらないが、人のやる事だ、たまには事故が起こる。

 一番有名なのは三年前、大手事務所のアイドル木の下ゆかりさんが、軍隊殺しで現れたドラゴンに暴れこまれてスタッフごと全滅という、俗に言うゆかにゃん丸焦げ事件だ。

 ちなみに軍隊殺しというのは、迷宮に銃器を持つ集団が居たときに出てくる凶悪な魔物の事だ。

 アイドル殺しの比ではない凶悪な魔物が浅い階に現れる。

 原因は自衛隊の実弾攻略実験だったのだが、日本政府は一般Dチューバーの巻き込んだ被害について公式に謝罪した。

 八階に現れたドラゴンは誰も倒す事が出来ず、一週間ほどして姿を消した。


 そんな事を考えながら通路を歩き、角を曲がった。

 ちょっとした広間に死体がるいるいと横たわっていた。


 りっちょんは?

 あたりを見回すとカメラピクシーが壁のくぼみにカメラを向けているのを見つけた。


 居た。

 無残なありさまだった。

 壊れた人形を思い浮かべた。


「助けて助けて死にたくない死にたくない……」


 顔の半分が砕けていた。

 右腕は肘の所から無い。

 左足が砕けている。

 綺麗なひらひらした服もボロボロだ。


 そんな姿を見ても、俺の心はいでいた。

 死体は、良く見るしな。

 哀れとは思うけどね。


 さて、見つけたけど、これはどうやって地上まで動かせば良いのか。

 しかたがない。


「オカン乱入」


 光の柱が上から落ちてきて、かーちゃんが光の中から姿を現した。


「お、どうしたんタカシ」

「あ、うん、この子を助けて欲しいんだけど、大丈夫?」


 ひょっとするとサーバントの能力は俺にしか掛けてはならないのかもしれない。


「ああ、ええで、ああ、痛そうやなあ、ちょっとまってな」


 意外に気楽にかーちゃんは請け負った。


『我が女神に願いて、ここに請願せいがんす、わが友の傷を癒やしたまえ』


 かーちゃんが詠唱すると光の粒子がりっちょんさんを包み込んだ。

 傷が治っていく。

 すごい。

 ハイポーションぐらいの威力だろうか。


 ビヨリンッ!

 ビヨリンッ!

 ビヨリンッ!


 おおっ?

 慌ててスマホを見ると、スパチャが三件立て続けに入っていた。

 一本はカーメンさん、二本は知らない人だ。


『ありがとうタカシー!!』

『かーちゃんすげえ、戦えて治療出来てかっけーっ!!』

『りっちょんを治してくれて感謝だーっ!! うわあああんっ!!』


 りっちょんのファンの人が俺の配信に来てくれてスパチャしてくれたようだ。

 おおっ! 同接が五十人越えているぞ、すげえっ!!

 こんなの初めてだ。


 りっちょんの顔の傷は消えた、だが、片目はつぶれたままだ。

 片手も治ってはいない。

 足の骨折は治った。

 これで歩けるようになったかな。


「すまんなあ、うちの治癒魔法はしょぼいんよ」

「何言ってるんだよ、かーちゃん、すげえよ」

「そうか、うふふふ」


 嬉しそうなかーちゃんを見て、俺もなんだか嬉しくなった。



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