第3話 オカン無双

 ガッチャーン!!


 ミノタウロスの巨大な斧が小柄なかーちゃん目がけて打ち込まれた。

 かーちゃんは丸盾を掲げて斬撃をいなした。


 あ、あれ、かーちゃんものすごく強くない?

 小柄でぽっちゃりしていて、見た目は強そうに見えないんだけど、重心の移動とか武芸の達人みたいな感じがする。


 俺はかーちゃんに加勢しようと立ち上がり、がはっと血を吐いた。


「タカシ、そこで見てな、こんな牛、かーちゃん一人で大丈夫や」


 かーちゃんはそういうとミノタウロスの斬撃をガッチャンガッチャンと丸盾で巧みにさばいた。

 ミノタウロスは怒りの表情を浮かべ吠えた。

 かーちゃんはするりとミノタウロスの間合いに滑り込み、ドカンと大きなメイスで軸足の膝を打った。


 BUMOOOOOOO!!


 ミノタウロスは吠え、重心を崩し、たたらを踏んだ。

 かーちゃんは流れるように斧を持つ手の甲をメイスで打つ。


 ボキュ!


 鈍い音がしてミノタウロスは斧を落とした。

 す、すげえっ。

 かーちゃんは達人か!


「とどめやっ! 【輝く戦棍】シャイニングメイス!!」


 かーちゃんの持つ凶悪な形のメイスが光輝く。

 薄暗い洞窟の中に鮮やかな光の帯を紡いで伸び上がるようにミノタウロスの頭をメイスは打ち砕いた。


 バッキャーーーン!!


 戦技スキル!!

 かーちゃんはS級配信者なのかっ!!


 血しぶきが迷宮の岩壁にふりかかり、目玉を飛ばし、脳を撒き散らかし、角は折れて飛んで壁に突き刺さった。

 頭を砕かれたミノタウロスは地響きをたてて床に倒れ落ちた。


「まあ、ざっとこんなもんや、タカシ」

「か、かーちゃん、な、なんでこんなに強いんだ」

「えへへ、ちゃんと鍛えているからなあ、って血や、怪我したんやなタカシっ」

「あ、うん、もう駄目かもしれない、でも、最後にかーちゃんに会えて良かった……」


 あばらが折れて肺が駄目になっている気がする。

 遠からず俺は死ぬだろう。


「あほいうないな、うちが死なせへんよ。『我が女神に願いて、ここに請願せいがんす、わが友の傷を癒やしたまえ』」


 かーちゃんの手が光輝くと俺の胸に粒子が集まり、一瞬で痛みが消えた。


「か、かーちゃんすげえっ、治癒魔法まで、ど、どうして」

「おかあちゃんは『僧兵』やってんねんで、これくらい朝飯前や」

「そ、僧兵? そんな職業ジョブしらないよ」

「なんやー、聖騎士になるための前段階ジョブやのに、こっちには無いんか」

「し、しらない」


 デモンズダンジョンで狩りをして経験値が溜まるとレベルアップする事がある。

 そしてレベルアップによってステータスが一定以上になると、一階のデモンズ寺院で別の職業ジョブにクラスチェンジすることが出来る。

 職業ジョブが変わるとステータスにボーナスが付いたり、基本スキルが貰えたりする。 


 ちなみに俺は最初の職業である『参入者』ビギナーを卒業して、一年前に『戦士』ウォーリアになっている。


「強敵相手にがんばったな、タカシ」

「かーちゃん……」


 かーちゃんは俺を抱きしめてくれた。

 ああ、五年もたっているから、俺の方が大きくなっているけど、懐かしいかーちゃんの匂い、かーちゃんのやわらかさに包まれた。

 もう、だめだった、涙がボロボロ出て、俺は泣いた。


「大きくなったなあ、立派になって、うちはうれしいで」

「うん、うん」


 リボンちゃんがニコニコしながら抱き合う俺たちを激写していた。


 ミノタウロスの死体がぶわりと塵に変わって行く。

 紫色の魔力が漂ってきて、俺の体に吸い込まれた。


 お、おおっ!!

 レベルアップ特有の体が膨らむような感じがした。


「レベルアップやなあ、だいぶレベル差があったから沢山あがりそうやな」

「おおおおおおっ」


 体がミチミチと音を立てた。

 スマホのステータスアプリを起動した。

 おおっ!! 5レベルも上がった!

 コモンスキルの【気配察知】も生えていた!

 やったぜっ。


「こっちではステータスオープンでけんのか?」

「え、主にアプリだよ、【鑑定眼】持ってる奴は別だけど」

「ふむ、ウインドウは女神さま系の術なんかな」


 ミノタウロスの居た所に野球ボールぐらいの大きさの魔石とドロップアイテムがあった。


「おお、肉だ!」

「なんや、こっちのミノさんもお肉落とすんか」

「うんA5の肉なんだ、一緒に食べようよ」

「ああ……、そうしたいんやけどな、うちはウルトラマンと一緒で三分しかおられんのよ」

「ああ、そうだった、帰っちゃう……」


 かーちゃんはどっから来たんだ?

 なんで『僧兵』なんかやってたんだ。


「かーちゃんな、五年前に死んで異世界転生したんやで、向こうの世界ではぴちぴちの十七才や、なんか前世の体も懐かしいなあ、こんなに太ってたんやなあ」


 異世界転生!!

 もう、十七才!!

 時間が合わない!!


「あ、もうそろそろ帰らなきゃや、合えて嬉しかったでタカシ、また呼んでな、うちは戦闘も治療もできるさかい」

「あ、かーちゃんっ!!」


 かーちゃんは笑って光の粒子になって消えていった。

 あとにはポツンとおれとリボンちゃんだけだった。

 ああ、さびしいな。


 でも、一日に三回、三分間だけでもかーちゃんに会える。

 凄く強かったり、有能なスキルを持っていて力を貸してくれる事よりも、ただただ、生きているかーちゃんに会える。

 それだけで、本当に嬉しくて素晴らしいレアスキルだ。


 はあ、今日はもう帰ろう。

 ミノタウロスの魔石を売ればおばさんも満足だろう。


 スマホのライブ配信アプリに切り替えて見ると同接数が五増えていた。

 あ、嬉しいな。


『あの女性が消えたぞ』

『まさかのサーバントシステムなのか、運営が導入するってアナウンスがあったが』

『タカシー、マザコーン』

『ばか、男の子はいつだってかーちゃんが好きなんだ』


 どの時点から見ていてくれたのかな。


「みんなありがとう、見てくれて嬉しいよ」

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