第2話 俺はかーちゃんの降臨を見る

 俺は震える手でウエストポーチを探った。

 たしか、二本……、宝箱の鍵があったはずだ。

 メインフロアにある宝箱はポップする場所も時間も知られているから、俺は手に入れた事は無い。


 金の宝箱は滅多にポップしない。

 中身は回復系ならエクスポーション、エリクサーが出る。

 他に魔法を覚えられるマジックブック、しかもレア物の奴。

 そして全てのDチューバーが出てくれと狙っているスキルが所得できるスキルオーブ。


 どれも換金所に持ち込めば数千万からの値段が付く。

 文字通りのお宝だ。

 パーティ内で殺し合いが起こるぐらいの品物が出る。

 こんな穴蔵の奧で……。


 余さんありがとう。


 鍵があった。

 鍵を使えば宝箱の罠を作動させずに安全に開けられる。

 鍵自体も高価で取引される品物だが、配信冒険者は一二本は自分で持って居る。

 いつか、こんな幸運が舞い込む事を夢見ているんだ。

 配信冒険者って奴はさ。


 手が震える。

 鍵を宝箱の鍵穴に入れる。


 大きさはそれほどでもない。

 一般宝箱の方が蜜柑のダンボール箱ぐらいの大きさででかい。

 金の宝箱はその半分ぐらいだ。

 キラキラ光って神々しい。


 カチリ。


 鍵が回って蓋が開いた。


 中身は……。

 オーブだ。

 やったぞ、スキルオーブ!!

 これで俺もスキル持ち配信冒険者になれる!

 魔法を使い、凄まじい体術スキルで跳び、剣術スキルで魔物を一刀両断するS級配信者の仲間入りが出来るかもしれない。


 宝箱のオーブの近くにカードがあった。

 そこに流麗な字でスキル名が書いてあった。


『オカン乱入』


 ……。

 …………。

 ………………。


「ネタスキルだったーっ!!!」


 俺はがっくりと地面に伸びた。


『なんかすまん』

「いや、別に余さんのせいじゃ無いよ」


 くそう、リボンちゃんがスキル名をカメラで激写して、がっくりきている俺の顔にパン(カメラを横移動させること)した。


 あんまりだよ~~。

 ネタスキルというのは、運営が冗談で入れたスキルの総称で、一日中おならが出まくる『屁無双』とか、美しく重々しい衣装に早着替え出来る『さちここばやし』とかだ。

 ちなみに『さちここばやし』はアメリカで出て、しばらく謎のスキルとして話題になっていた。


 おもに宴会芸として笑いを取る系のスキルだ。

 スキルオーブではあるので売れるのだが、十万から百万ぐらいである。

 金の宝箱から出るものとしては大外れだな。


 ああ、まあ、俺の人生はそんなもんだ。


 しかし。

 『オカン乱入』?


 俺のかーちゃんは五年前に死んでるぞ。

 かーちゃんが来るのか?


 ネタ的には、十年ぐらい前の普通の動画配信サービスで配信中に親が後ろにでて、怒られたり喧嘩したりする奴だよな。


 かーちゃんの幻影が出るのか?

 それで、俺の事を叱ってくれるのか?


 ……。


 会いたいな、かーちゃん……。

 幻影でもな、見たら泣いちゃうかもしれない。

 ……。


 使って見るか。

 スキルだから、いつでもかーちゃんが見られるようになるかもしれない。

 かーちゃんの写真とかあんまり残ってないし、動画は無かったからな、俺んち貧乏だったから。


 俺はスキルオーブを握った。

 ええと、スキルを覚えるには……。

 スキル名のカードの後ろに説明書きがあった。

 オーブを握って『スキルゲット』か。


「スキルゲット」


 ぶわっと金色の粉が辺りに現れて俺の中に渦を巻いて吸収されていった。

 ネタスキルだというのに、大仰な事だ。

 リボンちゃんがニコニコしながら激写していた。


 ええと、使うにはスキル名を宣言か。

 この狭い横穴の中に呼べるのか?

 でも、外にはミノさんが待ち構えて……。


 ドッカンドッカン!!


 げっ、壁が揺れてる。

 何してんだあのミノタウロス?


 と、思ったら壁がガラガラ崩れ落ちてミノタウロスがこんにちわした。

 お前はなんという粘着ミノタウロスかっ!!

 や、やべえ、やべえ、俺の事を見てニチャアと満面の笑みを浮かべた。

 斧で壁を崩すとか有り?

 奧は石壁でどう見ても逃げ場無し!


『さあ、召喚せよっ、オカンを!!』


 俺は片手を上げた。


「オカン乱入!!!」


 ビカリと光の柱が上から落ちてきた。

 光の中から、ちょっと太めでパーマの女性が現れる。

 ヒョウ柄の皮甲冑、手には釘バット、いや、あれはメイスか、そして丸い盾。


「タカシ、ひさしぶりやな!」

「か、かーちゃん!!」

「せや、タカシを一人置いて死んでもうて、ごめんな、勘弁やで」

「かーちゃん!!」


 ああ、懐かしい姿だ。

 ずっと会いたかったかーちゃんだ。

 涙で視界が歪む。

 かーちゃん、かーちゃん、会いたかったよ。


「積もる話は後や! うちは一日三回、一回三分しか召喚でけんっ! とりあえず、この牛さんをぶっとばすでっ!!」

「かーちゃん!!」


 ミノタウロスが吠え声を上げてかーちゃんに向かって斧を振り上げた。


 涙でぼやける視界の中、かーちゃんとミノタウロスが激突した。

 がんばれかーちゃん!!

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