第一章 オカン大地に立つ
第1話 俺は地下十階で命の危機の件
地獄門が出来て、五年、世界は変わった。
俺も大きくなって配信冒険者になって地獄門をくぐった。
そして、今現在、デモンズダンジョンの十階北西ブロックで絶体絶命の大ピンチだ。
十階に出るはずの無い超強いミノタウロスが出て、俺は迷宮の中を追いかけ回されている。
十階は洞窟地帯。
主に出る魔物は、アタックドック、ジャイアントバット、ゴブリン、オークの雑魚ばかりであるはずであった。
ミノタウロスは地下三十階のフロアボスをやっていて、これを越えるとC級冒険配信者になれるというモンスターだ。
こいつは、アイドル殺しだ。
後ろ頭に風を感じてとっさに避けた。
ズガン!!
俺の居た所に超でっかい斧が叩きつけられて岩が砕けた。
あぶねーっ!
ミノタウロスというのは、牛の頭で体は鬼のようなマッチョ、大きな斧を振り回して戦う肉体派モンスターだ。
ゆうに三メートルもある、筋肉ダルマだ。
浅層をうろちょろして小物を狩って小銭を稼いでいる高校生F級配信冒険者の勝てる相手では無い。
BUMOOOOOO!!
ミノタウロスが吠える。
背中がビリビリと震える。
スキル【咆吼】、一瞬前に前に飛びこむように前転。
【咆吼】は効果範囲が小さい。
避ければセーフ。
直撃すれば、体が痺れて動きが止まる。
止まったら、斧を打ち込まれて一撃で死亡だ。
ハアハアハアハア。
アイドル殺しだ。
デモンズダンジョンの運営は心が狭い。
Dチューバーのアイドル活動で、迷宮内でプロモーションビデオを作ろうとかすると、運営に申し込み、大金を払わなければならない。
だが、貧乏なプロダクションややくざなプロダクションはその金をケチる事がある。
ゲリラ的にダンジョン内ライブをしたりするんだ。
そういう時、ダンジョン運営はどうするかって?
当然、強い魔物を送り込んで、そのグループをぬっころす。
そこから付いた名前が『アイドル殺し』だ。
俺は、狩りの途中で、そのアイドル殺しのミノタウロスがスタッフを殺戮する現場にうっかり踏み込んでしまった。
そして、今現在、巨大なミノさんに追いかけられているって寸法だ。
くそっ!
ゲリラ撮影とかすんなよっ!!
ミノさんも、アイドルとスタッフを狙えよ、俺は関係ねえよっ!!
ぶわっと風を感じた。
これは、いずれスキルに進化しそうな気がする。
風の気配読みのような。
ドカン!
読んだ通りに避けた所に斧が降って来た。
が。
視界の中のミノタウロスの腕にぐんと力が入ると、そのまま俺の方に持ち上げてきた。
「ぎゃっ!!」
斧の後ろはスパイクになっていて、俺の胸鎧がひしゃげた。
胸の奥でボキボキとあばらの折れる音がする。
そのままネコのように空中に放り上げられた。
ちきしょうっ、ミノタウロスのくせに技巧派だな、おいっ。
洞窟の壁に叩きつけられて、ごろごろと地面に落ち、さらに転がった。
転がった壁の下の方に小さな穴が空いていた。
しめたっ!
急いで四つん這いで穴に潜り込む。
ミノタウロスの図体では入れねえだろう。
胸がずきずきと痛む。
血が口からだらだらと出る。
ああ、死んでしまうよ。
死んでしまうよ。
薄暗い洞窟の中で、俺は死んでしまうよ。
横穴は結構な広さで奥まで伸びていた。
命拾い。
いや、死ぬのがちょっと伸びただけか。
穴がどこかに通じていたら良いんだけど。
四つん這いになって、スマホのライトを頼りに進んでいく。
穴の入り口ではミノタウロスがドタバタしている。
くそ、胸が痛えっ。
血もだばだば出ている。
今、この暗い穴に居るのは、俺とカメラピクシーのリボンちゃんだけだ。
相変わらず無表情に飛んでカメラで映像を撮っているな。
「助けてくれよ、リボンちゃん、あんた強いんだろ」
リボンちゃんは首を小さく横に振った。
彼女は手の平に乗るぐらいの大きさの美少女で、俺を撮ってくれている
頭に一つ、赤いリボンを付けているので、俺は、彼女をリボンちゃんと呼んでいる。
噂だとカメラピクシーは高レベルで滅茶苦茶強いらしいが、配信冒険者を助ける事はしない。
彼女たちの仕事はあくまで配信者の撮影だ。
対象が死のうと、生きようと関係が無い。
彼女らが撮った動画は迷宮の奥深くにある動画編集局で腕自慢の編集デーモンの手によって編集されて、ライブでDチューブに公開されている。
俺はスマホでDチューブアプリを起動させ、俺のライブを見ている同接数を見た。
たったの一人。
そうだよなあ、F級配信冒険者が死ぬ所なんてありふれているからなあ。
地獄門が開いた頃は人が死ぬのがエキサイティングと結構同接数が取れたらしいが、まあ、死んだら配信料を払い込まれても使えないけどな。
見ている人は余さんかな。
あまりコメントをしない人だが、たまに俺の配信を見てくれる人だ。
唯一の常連さんだな。
『力が欲しいか』
お、珍しいな、余さんのコメントだ。
スマホの中のブラウザで、暗い洞窟で血を口から出してぐったりしている俺の動画を背景にして、字が右から左へゆっくりと流れていく。
「くれるならちょうだいよ、余さん」
『その奧に宝箱ある気がするぞよ、余の勘だが』
「あはは、冗談……」
俺はそれでも蛇のように這いずってずるずると穴の奧に入って行く。
隠し宝箱があれば……。
中身がポーションとか回復薬だったら。
……死ぬのが少々遅れるな。
どっちにしろ、穴の前にミノタウロスが陣取っているから、俺はもう詰んでる。
穴の奧は壁で終わっていて、その壁の前に金色の宝箱があった。
「レア、宝箱」
『余の勘は当たるのだ』
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