Dチューバーな俺とオカン ~俺のゲットしたレアスキルが【オカン乱入】だった件 大バズりしながらかーちゃんと一緒に迷宮最深部を目指すぜ~
川獺右端
プロローグ
それは、いきなり駅前の複合商業施設に現れた。
ごちゃごちゃと悪趣味な彫刻がくっついた巨大な門が商業施設の広場に現れた。
俺はそれをテレビの中継で見ていた。
自衛隊の装甲車が門を取り囲み、銃を撃ったり、大砲を撃ったりする映像が映し出された。
その門は何をしても傷一つ付いていなかった。
「こわいなあ、タカシ、何が出てくる門なんやろうなあ」
「なんだろうなあ、かーちゃん」
「なんやろうなあ」
かーちゃんはキュウリの漬物をポリポリ食べながらほうじ茶をすすって中継をみていた。
テレビの報道によると、同様の門は世界各国に同時に現れたようだ。
「まるで地獄の門みたいやなあ」
「地獄……」
本当にあの門の中は地獄に通じてそうで俺はぶるった。
地獄の門がわずかに開いた。
『おおっと、門に異変がありました、カメラさんアップをお願いします』
スタジオからライブ中継に画像は切り替わる。
門の中からきわどい格好をした美少女が現れた。
手にはマイクを持っている。
背中にコウモリの羽が生えていた。
『日本のみなさんこんにちはっ、私はデモンズダンジョンの広報部のサキュバスのさっちゃんですっ♡』
「「は?」」
かーちゃんと俺は同時に動きを止めていた。
それぐらい画面の中の美少女が意味不明だったのだ。
パシャパシャとフラッシュが焚かれた。
『この後ろの門、世界各国の主要都市に同時に現れたこれですが、みなさん、とっても興味津々ですよねっ♡』
テレビの画像が中継に切り替わる。
ニューヨーク、ロンドン、パリ、北京、各地に現れた門から、まったく同じさっちゃんが現れ、現地の言葉で同じ事を喋っていた。
『ここで速報です、謎の門から現れた、さっちゃんと名乗る存在は同時多発的に門のある場所に現れている模様です』
『みんなさっちゃんなんですか?』
『そ、そのようです、外国語でも自称『サッチャン』のようです』
ど、どうでもいいだろそんなの。
『あの門の奥には広大な地下迷宮が広がっています。中に居るのは凶悪な魔物、恐ろしい罠、そして素晴らしい財宝が入った宝箱も。深く潜れば潜るほど魔物は強くなり賢くなり、そして得られる財宝の価値も跳ね上がります♡』
「迷宮やて、タカシのやってるゲームみたいやな」
「そうだね、かーちゃん」
『地下迷宮の最下層は百五十階、そこではこの迷宮の主様である魔王様がお待ちです。あまりお待たせすると怒って出てきて地上を破壊しちゃう、かもしれませんねっ♡』
カメラがスタジオに切り替わった。
『た、大変です、中国軍がさっちゃんに対して攻撃を開始しました! 現地からの映像に切り替えます』
なにかほがらかな調子で中国語で喋るサッチャンにむけて中国軍が機関銃を、手持ちミサイルを、ばんばん発砲している映像が映った。
チャイナサッチャンは銃弾やミサイルに対して避けもせずにアナウンスを続けている。
銃弾を跳ね返しているっ。
「ま、まったくきいておらへんなあ、すごいなあ」
「す、すごいね」
というか、ためらいなく攻撃する中国軍も凄いな。
あ、キレた中国の兵隊さんがサッチャンに銃剣で斬りかかった。
サッチャンは流麗にアナウンスしながら中国兵の頭に手を当て……、握りつぶし……。
あ、映像が切り替わった。
日本のサッチャンは依然説明を続けている。
『デモンズダンジョンは参加してくれる冒険者を歓迎します。どうぞご自由にダンジョンに入り、魔物狩りをして、富をお持ち帰りください。そして失敗をして魔物に負け、死ぬよりも辛い目にあったり、本当に死んでしまったりしてくださいっ♡ 皆様の喜びや苦しみは迷宮を育てるエネルギー、魔力に変換されて迷宮内を循環し、新たな魔物を作ったり、宝物を生み出したりに使われます』
「なんや、危ない所やなあ。鉄火場みたいやな」
「そうだね、かーちゃん」
『冒険者の皆様の勇姿は、迷宮内に多数放ったカメラピクシーによって多方向から撮影され、動画となります。この動画は迷宮最下階にある動画編集部にて凄腕デーモンたちによって編集されインターネットに配信されます』
「「はあ?」」
『このシステムを我々はデモンズチューブと名付けました。将来的には配信冒険者さんたちはDチューバーと呼ばれるかもしれませんねっ♡』
なんだか……。
さっちゃんは魔王一味なのに、現代社会をちゃんと研究してるなあ。
「Dチューバーかあ、配信が人気出たら儲かるのかねえ?」
「きっと、広告料でがっぽがっぽなんだよ」
『Dチューブはさっそく今日から配信いたします、インターネットで検索してみてくださいねっ♡ また、Dチューブに広告を出してくださるクライアント様も絶賛募集中ですっ。お問い合わせは、Dチューブまで電子メールをくださいませっ♡』
「「……」」
俺たちはいったい何を見せられているのだろうか。
ブツンとテレビが唐突に切れた。
かーちゃんがリモコンで止めたのだ。
「じゃあ、かーちゃんは仕事に行ってくるわ」
「わかった」
「晩ご飯は冷蔵庫にあるからチンして食べるんやで」
「うん、わかった、いってらっしゃい」
その日、かーちゃんは仕事に行って、そのまま帰ってこなかった。
地獄門に入らせろという群衆と、入らせないという警察との対立が、ついに暴動に転じ、街に大火災が起こって、かーちゃんは焼け死んだ。
二度と帰らないかーちゃんを、ずっと待っていた時のひもじさを今でも俺は覚えている。
そして地獄門の出現から五年が過ぎた。
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