第10話 最強の殺し屋クロは、部屋への来客に困っている

 俺は女性がどうしても苦手だ。それは六色光のある一人、いや二人だなそれが原因だ。俺はただ任務をこなして日々の生活を満喫したいだけなのにこいつはずっと俺にちょっかいを掛けてくる。


 レイはため息をついた。


 「近況報告とはなんだ?」

 「まぁね。近況報告は表向きで本当は任務を伝えにきたの」

 「でもお前よく目立たずにここに来れたな」


 レイがいる寮は通常寮と特別寮が合同になった寮だ。そしてレイは特別寮にいるのだがここに入るにはカードキーが必須だ。広いロビーにはボディーガードもおり入るのは非常に困難だがこのリリーはそれを容易く突破してきたらしい。


 「アホだけど流石だね」

 「最初が余計だなぁ~」


 ピンク髪のおさげの片方をくるくると指でなでながらそう言う。


 「リリー早く要件話して」

 「あ~そうだったね」


 思い出したように立ち上がりレイの方を向いて胸に手をあてる。これが六色光いや殺し屋と言う組織のルールだ。任務を伝える時には胸に手をあてる。


 「六色光の黒任務だ。○○〇〇〇を遂行せよ!」

 「ハ! 黒の名において任務達成いたします!」


 リリーは速やかにレイの部屋を後にする。そしてリリーがどこかに消えたことをレイは自分の目で確認してベットに倒れる。


 「はぁ~あいつといると疲れるな……」


 レイは右に寝返りをした。何か変な柔らかい感触が背中に伝わる。嫌な予感しか感じない……。ルクスはおそるおそる後ろに顔を向けるとそこにはどこかに消えたはずのリリーの姿が見えた。


 「わぁ!! お前なんでまだいるんだよ!」

 「だってぇ~あれは殺し屋のルールじゃぁん。私はプライベートでレイちゃんと絡みたいの!」

 (俺は嫌だぞ)


 レイは今から友達が部屋に来ると言うていでリリーを何とか返した。もちろん友達はこないのだが――。


 「レイっちいる?」

 (なんなんだよマジで……。ゆっくりさせてくれ…… )

 「はいはい、いるよ」

 「やった!」


 ドアが開く、レイはそれを止めようとするが元気な少女には勝てなかった。


 「失礼します~」

 「まったく……」


 レイは仕方がなく少女を部屋に入れた。とりあえずレイは少女の前に椅子とテーブルを持ってきて座らせた。


 「たしかお前……フェリンだったような」

 「レイっち覚えてくれていたんだね!」


 この金髪ツインテールの美少女はニッコリと嬉しそうにしていた。フェリンと初めて会ったのは商業区に建てられている店の一つでファッション専門店だった。レイが休日に誰からの任務か分からないけど服を買い行ったときに。あいつは出た。


 「あんたちょっと待ちなさい!」

 「え、俺?」

 「そうあんただよ!」

 「どうした?」


 その頃から元気で扱いが大変だった。


 「あなた私の服どう思うの!」

 「え……あ、あぁ。良いと思うよ」


 フェリンはぴょんぴょんとウサギのように飛び跳ねて喜んだ。別にダサいとか言うのは無くてその頃は正直な感想を述べたまでだ。でもなんかこのフェリンを見ているとなぜかリリーに少し似ているなぁと思った。


 「今日はなぜここにきた?」

 「そうそれ!」

 (めんどくせぇ~)


 心の中でそう思いながら今日の要件を聞いた。


 「なんかお姉ちゃんの気配がしてね。お姉ちゃんは忙しくてなかなか会えないんだよ」

 「それは寂しいな」


 この時の俺は何も気にしていなかったがこれから最悪な展開になる。


 「で、お姉ちゃんはどのような方なんだ?」

 「お姉ちゃんはね、どんな感じかな……。あ! お姉ちゃん!」


 レイの後ろに指を指すとレイは後ろを振り向いた。いや俺終わった。レイは考えていた可能性が全て無になったことを理解した。


 「あれれ、妹ちゃんじゃん! 久しぶりだね~最近忙しくて!」

 「レイっち、お姉ちゃんは六色光のピンクなの」

 「うん、しっている」 

 「え?」

 「うん、しっている」


 終わった終わった終わった。レイは人生初めて焦った。レイの天敵であるこの女の妹がまさかのフェリンだったとは……。確かに似ていた。


 「なんでレイっち。お姉ちゃんの事を知っているの?」

 「いや、昔いろいろあってね」


 レイが何かを隠そうとしている意志をさすがのリリーも理解した。そして妹のフェリンにレイとは古い友達と言うていで話をしている。まだ俺がクロとはばれていないそれが一番の安全地帯だ。


 「レイっちありがとうございました! お姉ちゃんに会えてよかったよ。じゃあねお姉ちゃんとレイっち!!」


 そしてまた部屋が静かになる。もはや誰かがいないとか珍しい。普段からレイの部屋は何かしらの会を開くための会場として扱われているが。確かにこの部屋は一人で済む分にはちょうどいい。


 レイは結局あの後誰もこの部屋のベルを鳴らすことはなく、風呂を入りそのあとに寮の一階にある食堂でご飯をもらいいつもの席でご飯をたべ、また後ろから背中をぶたれて振り返ると、いまや王子ともいえる救世主が見えた。


 「よ! レイ」

 「よ! ルイス」

 「枕投げするぞ」

 「え……」


 俺に普通の部屋と生活はできないだろうか。何もかも完璧にこなすレイには新たな弱点が見えたのだ。


 

 

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