行方不明の宝物
夕日ゆうや
行方不明の宝物
僕たちは宝物を近所の神社の、とある樹木の近くに埋めた。
タイムカプセル。
ありふれた行為だが、未来への自分へ託した贈り物だ。
――僕は強いやつが警官になり、弱いやつがヤクザになるのだと思っていた。
友達の
軟弱な僕が生きてこられたのは中学まで虎吉が守ってくれたからだ。
高校生にもなると、ある程度の良識は身につく。
それで僕はなんとか人間関係を構築していった。
頑張って通っていたら、成績も良く、親の言葉を鵜呑みにするようになっていた。
虎吉がどうしているか、なんてあまり考えなくなっていた。
それは独り立ちができたという意味合いでもある。
お陰で僕は司法試験にも合格し、一人前の裁判官になっていた。
この道に進むまで39年。
僕は依頼の内容を見て愕然とする。
――虎吉。
その名が強盗殺人の加害者として裁判に現れたからだ。
「彼は今まで27件の強盗殺人罪の罪にとらわれています。厳正なる処罰を」
そう言われてハッとする。
僕はもう裁判官で、彼は加害者なのだと。
「被告人、
僕は涙を堪えて、そう告げる。
裁判が終わると、虎吉は警官を殴り逃走した。
行き先の分かった僕は慌ててその現場に向かう。
神社のとある樹木の下。
そこに虎吉の顔が見えた。
「ははは。おかしいよな。俺は警官で、お前は農家のはずがよ」
「虎吉……」
僕は少し湿った声を出す。
「いいんだぜ。泣いても」
そのために来たんじゃない。
「自首しろ」
「……分かっている。けどな。最後にこれを見たかったんだよ」
虎吉は爪から血を流しながら、タイムカプセルを見やる。
「お前、願い叶っているじゃん。強い男になるって」
涙を堪えながら僕は聞く。
「俺は正義のヒーローって? バカだな。この世界に正義なんてないのに……」
湿っぽいのは虎吉も一緒なんだ。
「はは。オモチャ見てくれよ」
そう言って顔を上げると、そこには昔集めていた何かの人形が入っている。
「懐かしいな。お前は何をいれたんだ?」
「どう、だったかな……」
まるで子どもの頃のような会話に、僕は胸を痛める。
「あはは。お前も似たようなもんじゃねーか」
同じようなオモチャを入れていたらしい。
少し心がほぐれる。
「なあ。いつかまたキャッチボールでもしようぜ?」
「それもいいな」
震える声を堪えきれなかった。
「大丈夫だ。大丈夫」
虎吉は僕を抱きしめる。
「俺はお前の味方だ」
虎吉はどうしてこうなってしまったのだろう。
「ああ。僕たちは一生の友達だ」
「忘れるなよ。死んでもお前の味方でいてやるんだから……」
そう言って警察署に向かう虎吉の背はなんだか悲しく見えた。
もう会えないというのに。
行方不明の宝物 夕日ゆうや @PT03wing
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