一、聖夜の赤い小悪魔姉妹(2)

    ▼▽


 十二月二十四日、いよいよクリスマスイブだ。

 数日前から雪も降っており、そこまで積もってはいないが街並みは綺麗な雪化粧だ。

 クリスマスイブの今日は金曜日で学校があった。

 学校内の光景はというと朝からみんな少しだけソワソワしており、男子から女子を誘ってたり、或いはその逆も多かった。

(ま、せっかくだからクリスマスの思い出は残したいもんな)

 仮に彼女や彼氏が居なかったとしても、普段仲の良い友人とどんちゃん騒ぎをするのも乙なもんだろ……たぶん、亜利沙たちと付き合っていなかったら俺もイツメンでやったと思うからな。

「……う~ん」

 さて、現在時刻はもうすぐ夕方の五時である。

 今日のために予約していたケーキは俺が店に受け取りに行ったし、夕飯に関しては亜利沙と藍那というスペシャリストが手料理を振る舞ってくれる。準備は完璧だ。

「咲奈さんも居てくれたら良かったんだがな……」

 元々咲奈さんも誘うつもりだったけれど、せっかくの夜だから俺たちだけで楽しんでほしいと言われてしまった。

 そのことだけが少し心残りだけど、それなら別の機会に咲奈さんも交えてみんなで騒げば良いだけだ。

「そろそろ来たかな?」

 そう呟いた直後、インターホンが鳴ったので俺は玄関に向かった。

 扉を開けると買い物袋を持った二人が立っており、着替えも入っているであろう鞄も持っていた……というか藍那の鞄ちょっとデカくない? まあ女の子だし、何か色々と必要な物が多いんだろうな。

「来たわよ♪」

「来たよ♪」

 ニコッと微笑んだ二人に俺は心の中で可愛いと大絶叫した。

 にんまりとみっともない顔をしていないかだけ不安になったが、気付かれていないと信じて二人を家の中に招き入れた。

「雪……降ってたんだ?」

「えぇ。少しだけね」

「綺麗だったよ? ホワイトクリスマスってやつだねぇ♪」

 俺が家に帰る時は降ってなかったけど、どうやら気にならない程度とはいえ二人がこっちに来る時には雪が降っていたようで、それに気付いたのは二人のコートに雪が溶けた形跡があったからだ。

 既に暖房がきいたリビングに二人が入るとコートを脱ぐのだが。

 当然その下は私服で……二人がコートを脱ぐ仕草だけでもドキドキしてしまうのは仕方ない。

(……しかも今日、二人はうちに泊まるんだよな)

 そう……そうなのだ!

 明日が休日ということもあって二人は俺の家に泊まることになっており、これに関しては咲奈さんから了解を得ている。

 初めてのお泊まり……いつかこういう日が来るとは思っていたが、まさかこんなに早いとは思っていなかった……正直、既に今から心臓がバクバクしている。

「隼人君」

「ひゃい!?」

 あ……つい変な返事になってしまった……。

 声を掛けてきた亜利沙だけでなく藍那もニコッと微笑んでいるので、どうやら俺の様子は彼女たちには筒抜けらしい――ただ、俺を見つめる二人はすぐに真剣な表情へと変わった。

「またご挨拶させてもらうわね?」

「うん。良いかな?」

 二人の問いかけに俺は頷き、ありがとうという言葉を内心で呟きながら彼女たちを見つめる。

 向かう先は居間の片隅――そこには仏壇がある。

 亜利沙と藍那は仏壇に手を合わせ、数秒間目を閉じた後に口を開いた。

「今日もお邪魔させていただきます――お母さまにお父さま」

「こんばんは、お邪魔します――隼人君のお母さんにお父さん」

 なんつうか……こうして二人が仏壇に手を合わせてくれることが凄く嬉しかった。

 颯太と魁人もうちに来たら手を合わせてくれるけど、本当にありがたいというか心にグッと来るんだよな。

 最後にもう一度手を合わせて静かになった二人の背中を見つめながら、俺は仏壇に置いてある両親の写真に目を向けた。

(母さんと父さんにも実際に会ってほしかったな……)

 本当にそれだけが唯一の心残りでもあった。

 さて、僅かに心に飛来した寂しい感情はこれでさよならだ――亜利沙が率先してご馳走の準備に取り掛かる中、俺は気になったことを藍那に訊いた。

「なあ藍那」

「なに?」

「亜利沙に比べて随分と鞄が大きかったけど……あれは?」

 そう訊くと藍那は笑みを深くし……ってこの微笑み、どこかで見たことがある。

 それがどこだったか考えていると、藍那は唇に手を当てながらお茶目にこう言った。

「それはねぇ♪ 後になってのお楽しみかなぁ?」

「……………」

 とまあこのように教えてくれませんでしたよ。

 無理に聞き出そうとも思わなかったし、少し勿体ぶられた形だけど後で教えてくれるのなら別に……あ~うん、でも大分気になってるわ俺。

「じゃあ俺、お先に風呂入ってくるわ」

「いってらっしゃ~い……あ、お背中を流したりは――」

 以前に比べて大分寒いのもあって丁寧にお断りをした。

 まあ藍那の提案にドキッとしたのは確かだけど、亜利沙も藍那を止めてくれそうだったので押し切られることはなかったかな? ただ……また彼女とお風呂に入れるかもしれない機会を逃したことは心底残念だったけれど。

 その後、俺は二人に見送られて風呂に向かい体を温めた。

 藍那のことだから問答無用で突撃されるかと少し期待と不安を抱いたものの、そのようなことはなく平穏無事にお風呂タイムを過ごすことが出来た。

「上がったよ。藍那入る?」

「うん! 隼人君の残り湯を堪能じゃ~い!」

 だから女の子がそういうことを言うんじゃないよ!

「藍那!」

 ほら、お姉ちゃんがはしたないって怒るぞ――。

「私が入るから代わりなさい!」

 そっちか~い!!

 思わずつんのめりそうになるのを堪え、結局我先にと風呂場へ向かう藍那を俺と亜利沙は見送った。

「あれはどっちかっていうと男の俺の反応では?」

「あの子は隼人君が思っている以上にスケベだわ。だからあの反応は間違ってないわね」

「……亜利沙も代わりなさいとか言ってなかった?」

「幻聴よ」

 それは随分と都合の良い幻聴っすね亜利沙さん。

 たぶん今の俺はジトッとした目を向けていたに違いない――亜利沙は頬を赤くしながらツンッとそっぽを向き、小さな声ではあったが聞き取れる声量で呟く。

「仕方ないでしょ……それくらい好きなんだから」

 それは……あ~うん、そう言われたら俺もこれ以上は何も言えないよ。

 ただまあ残り湯を堪能したいという発言自体はちょっとアレだし、相変わらず彼女たちの愛が重たいなと思う半面、それくらい想われないと満足出来ないと考えてしまうあたり、もう俺はダメかもしれない。

 それからしばらくしてホクホク顔の藍那が戻り、亜利沙も入れ替わる形で風呂に向かった。

「……あぁ……はぁ♪」

「どうしたの?」

「ううん、全身を隼人君に包まれているような気がして……♪」

 俺の目の前で藍那は全身を抱くように腕を交差させ、悩まし気な表情で吐息を零しながら体を震わせる――そしてこんな一言を漏らした。

「この体の熱だけで妊娠しちゃいそう♪」

「……………」

 次の瞬間、俺は予め準備しておいた足つぼマッサージに全力で乗った。

 足の裏から伝わる強烈な痛みに思わず涙を流した俺、そんな俺に向かって藍那が一気に心配そうに駆け寄る。

「ちょ、ちょっといきなり何してるの!?」

「放せ……放せ藍那!!」

「隼人君がご乱心!?」

 色々と意識してしまいそうになっても、これのおかげで理性を保てる。

 ただまあ藍那に唖然とされてしまったが必要なこと……必要なことなんだよ!

「……でもやっぱり痛い」

「そりゃそうだよね!? ……でも足つぼかぁ……よいしょっと」

「藍那さん!?」

 俺の隣に並ぶように、物は試しみたいな勢いで藍那はぴょんと飛んだ。

 彼女の綺麗な足の裏が落下する先には当然獲物を待ち受ける突起……その瞬間、藍那の悲鳴が響き渡った。

「まったくもう……何をやってるのよ二人とも」

 そして、風呂から上がってきた亜利沙に呆れられるのだった。

 三人揃ったところで本格的に夕飯の準備が進められ、チキンやスープなどの美味しそうな料理が並んでいく。

「美味そう……いただきます!」

「召し上がれ♪」

「いただきま~す♪」

 亜利沙と藍那が作ってくれた料理……普段とは違い、クリスマスということで特別メニューだがやはり最高だ。

「いつも思うけど、本当に隼人君って美味しそうに食べてくれるわね」

「うんうん……というか姉さん? このやり取り前もしなかった?」

「何度しても良いモノでしょ?」

「それはそう!」

 二人のやり取りに俺も微笑みつつ、しっかりと料理を味わう。

 そうして食べている間、俺が思うのは料理が美味しいのはもちろんのこと……それ以上にこの空間の居心地のよさが料理の美味しさを更に引き出しているんだと感じていた。

(一人で過ごすには広いリビング……二人が居てくれるだけで、こんなに温かな空間に変わるんだもんな)

 これがうちではなく新条家になると咲奈さんも加わって更に賑やかになる。

 そんな風に彼女たちから与えられる温もりに感謝をしていると、一際強くも優しい視線を感じた。

「……何?」

「ふふっ、何でもないわ」

「何でもないよぉ♪」

 何でもないわけないよね……?

 それから夕飯を食べ終え、買っておいたケーキも三人で食べた。

 かなり人気のケーキ屋さんで値段は張っただけに美味しかったし、二人が喜んでくれたので大満足だ。

「……さてと」

 そうして時間が過ぎ去り、俺は一人自室で彼女たちを待っていた。

 俺も片付けを手伝おうとしたが洗い物は全て亜利沙が引き受けてしまったため、藍那と一緒にリビングを出たのだが、何やら藍那は準備があると言ってここには居ない。

「準備って……なんだ?」

 二人が泊まるということで部屋は彼女たちのために一つ空けてある。

 そちらで何か準備してこっちに来るとのことだけど……腕を組んで、う~んと唸っていると、コンコンとノックがされて藍那の声が聞こえた。

「隼人君、入っても良いかな?」

「うん。良いよ」

 どうやら準備が終わったみたいだ。

 果たして彼女は何を――俺の思考は、部屋に入ってきた彼女を見て止まった。

「じゃじゃ~ん! どうかなこれ!」

「……………」

 思考だけじゃない……息を吸うことすら忘れた。

 だって……だって目の前に現れたのは、露出度の高いサンタのコスプレに身を包んだ藍那だったからだ。

 赤を基調としたデザインなのは当然として、ただのサンタ服ではない。

 よく見るサンタ服は厚着をイメージさせるが、彼女が着ているのはワンピースタイプ……胸の谷間を思いっきり露出させ、季節感を度外視したミニスカタイプ……眩しいほどに綺麗な太ももとガーターベルト……はっ!?

「見惚れてるなぁ隼人君?」

「っ……」

「良いよ良いよ。もっと見て、じっくり見て……穴が開くくらい見て?」

「あ、藍那……」

 四つん這いになりながら藍那は俺に近づいてくる。

 その姿はまるで雌豹――彼女は完全に俺をロックオンし視線を逸らさない……じっくりと、ゆっくりと近づく彼女から逃げるように俺は後退した……のだが、そこで藍那がペロッと舌なめずりをするように口を開く。

「どうして逃げるの?」

「いや……その……」

 俺を見つめる彼女は、先ほど一緒にドジをした彼女ではなかった。

 妖艶……正にサキュバスのように、彼女はジッと俺を見つめて変な気持ちにさせてくる。

「逃げちゃう隼人君にはこんなことしちゃうよん?」

「え?」

 何をするつもり――そう思った矢先に、彼女はがばっと飛び付いてきた。

 藍那に押し倒されたが俺は彼女の体を支えようと手を添える……だがその手の場所がいけなかった。

 ふんわりとした柔らかい感触に右手全てが包まれている。

 そう、俺の右手は彼女の豊満な胸を完全に握りしめていたのだ。

「ぅん……えへへっ、隼人君におっぱいを揉まれるの好きだよ?」

「っ……」

「布地が薄いから分かるよね? 段々とコリコリしてくるのが――」

 ……本当にマズイ、これ以上はマジでヤバい。

 藍那も恥ずかしいはずなのに微笑みは絶やさない……手の平の中心に伝わるアレの感触も全てが鮮明に感じ取れてしまう。

 甘い香りと雰囲気に包まれ、段々と藍那の顔が俺に近づき……そして、あと少しで唇と唇が触れるという瞬間にガチャッと扉が開いた。

「隼人君。藍那もこっちに居るわよね……あ」

「あ……」

「あ……」

 俺たち三人、一瞬にして固まった。

 別に浮気がバレたとかそういったマイナス要素は一切ないはずなのに、この何とも言えない空気は一体何なんだろう。

 藍那に追い詰められて色々と限界だった俺の頭は急激に冷え、いつの間に強くなったのか窓の向こうで激しく降る雪がよく見える。

「藍那……あなたねぇ!」

「えっと……分かってたけどこれはやっぱりマズいかなぁ」

 亜利沙はプルプルと体を震わせ、握り拳も強く作り大きな声を出した。

「私にはするなって言って、どうしてあなたがそれを着ているのよ!」

「……うん?」

 えっと……亜利沙は何を言ってるんだ?

 相変わらず俺は藍那の胸に手を添えたままだったが、あははと笑って藍那は頭を掻きながら俺から離れてくれた。

(ちょっと……残念に思ったり?)

 手の平から離れた感触を残念に思っていると、ようやく亜利沙の言葉の意味と藍那が苦笑している意味を理解した。

「実はこれ、姉さんが用意したものなんだよ。でも流石に色々忙しいから着る機会ないんじゃないって言って止めたんだけど……でもよくよく考えたら勿体ないなって思っちゃって」

「……むぅ!!」

「てへっ♪」

「てへっじゃないのよ藍那!!」

 つまり……このサンタ服を用意したのは亜利沙だったのか。

 亜利沙は以前にメイド服を着てみせてくれたけど、あの時みたいに俺を喜ばせようとしてくれたのか……。

 亜利沙と藍那は別に言い合いをしているわけではなかったが、亜利沙にしては珍しく小さな子供のように唇を尖らせて藍那を睨んでいる。

「あ、亜利沙……」

「……なによ」

 あ、完全に拗ねていらっしゃる……。

 こういう場合、どんな言葉を掛ければ良いのか分からないが……たぶん、今の俺は興奮状態から落ち着くという緩急のせいでおかしくなっていたんだろう――気付いた時にはこんなことを口にしていた。

「亜利沙がそれを着た姿も……見たいかなぁって」

 言ってからハッとしたが、これがこの場における最適解だったようだ。

 俺の言葉に亜利沙は、ぱあっと花が咲いたような笑みを浮かべ、藍那もそりゃそうだよねと笑って頷き、そしてまさかの提案を口にする。

「わざわざ着替えるために部屋を出るのは寒いでしょ? あたし、ちょうど着替えも今持ってるから……どうかな姉さん――ここで着替えたら?」

「え?」

「んなっ!?」

 前半は一理あるけど後半は何を言ってるんだ藍那は!?

 着替えるってことは二人ともここで一旦裸同然になるってことだろ……? いやいや、流石にそれは……って!?

「そうね。ここはちょうど暖かいし……じゃあ藍那、脱いで」

「は~い」

「っ!?!?!?!?」

 俺は瞬時に目を閉じるだけでなく、両手でしっかりと塞いだ。

 クスクスと笑う二人の声とともに服を脱ぐ音が聞こえ……また俺は体温が上昇するのを感じていた。


   ▼▽


 全部見てくれても良いのに……それが私の素直な感情だった。

 本来であれば私が先に着て見せたかったのにこの子は……まあでも、隼人君が見たいと言ってくれた……それがとにかく嬉しくて、私の気分は最高潮だ。

「あはは、隼人君ったら可愛いなぁ。別に見ても構わないのに」

「勘弁してくれ! ただでさえ色々ヤバいってのに!」

「う~ん? 何がヤバいのかにゃぁ?」

 藍那が言ったように、隼人君にならどれだけ見られても構わない……むしろ見てほしい……そして所有物のように命令してほしい……。

「姉さん? どうしたの?」

「……いえ、何でもないわ」

 私は小さく頭を振り、藍那が着ていたサンタ服を受け取った。

 サンタ服ではあるけれど冬の時期には似つかわしくない露出の多い衣装……このフォルムは確かに隼人君に喜んでほしい欲求の現れだ。

 藍那と同様に私のスタイルは優れている方だし、隼人君がいつもドキドキしてくれていることはよく分かっている……その上でこれを選んだのだから。

(……それだけじゃないわね。もう一つ理由があるのよ)

 その理由は単純明快、露出が多い姿はあなたのためだけにしていると、そしてあなたの物だと明確に示せるからだ。

「隼人く~ん? もう着替え終わったよ」

 え? まだ着替えの途中……私も藍那も普通に胸とか何も着てないけど。

「本当に……っ!?!? 藍那!!」

「あははっ♪」

 隼人君は目を開けたものの、私たち二人を見てまたすぐに目を閉じた。

 まったくもうこの子は……でも不思議だ……だって隼人君に肌を見られても一切恥ずかしくないし、やっぱりもっともっと見てほしいって思うくらいだもの。

「……隼人君、可愛いわ♪」

 顔を真っ赤にして照れてる隼人君を可愛いと思いながらも、これ以上困らせるのは彼に悪いので私たちはすぐに着替えを終えた。

「もう大丈夫よ、隼人君」

 そうは言ったものの、隼人君は警戒しながら目を開けた。

 ちゃんと服を着ている私たちを見て安心した隼人君だけれど、私を見て目の色を変えて見つめてきた。

(あぁ……隼人君が見ているわ♪ 私のことをジッと見てる♪)

 確かに燻る情欲をその瞳に宿し、私を見つめる彼は本当に素敵だ。

 藍那が羨ましそうに私を見ているけれど、あなたはさっきまでこれを着ていたし何より隼人君と抱き合ってたじゃない自重しなさい!

「ま、ここは姉さんに譲ろうかなぁ。ということであたしはちょっとお手洗い~」

 藍那が部屋を出ていき、僅かな間だけれど隼人君と二人っきりだ。

 私はそっと隼人君の隣に座り、彼の腕を抱くようにして密着する……こうすると彼を間近で感じることが出来るし私を感じてくれる……本当に大好きな瞬間だ。

「亜利沙」

「なに?」

「凄く可愛いよ……似合ってる」

「……えぇ、ありがとう♪」

 恥ずかしがりながらもちゃんと言葉にして伝えてくれるところが私は好きだ。

 隼人君を見つめていると体が熱くなるのもいつも通り……藍那もそうだけれど、私も隼人君ともっと色んなことがしたい。

(それこそエッチなことだって……隼人君が相手なら私は――)

 何をしろと言われても、それこそ命令されても私は従いたい。

 むしろしたい……この体に隼人君の物だという証を刻み込んでもらいたい……だからこそ、私は隼人君に蹂躙されることを願っているのよ?

 彼に全てを支配されたい……そんな願いがあまりにも強すぎて、私はこんなお願いを口にした。

「隼人君……どうかこのリボンで手首を縛ってくれない?」

「……え?」

 私の提案に隼人君は驚いていたが、すぐに縛ってくれた。

 手渡した赤いリボンで私の両手を繋ぐように縛ってくれたので、これで私は自由に動くことが出来なくなった……そして、私はこう言った。

「プレゼントは私よ、隼人君……♪」

「っ……亜利沙」

 私の言葉に顔を赤くした隼人君を見た時、何かのスイッチが入った。

(……よし、行くのよ亜利沙! 藍那はさっきやっていたし!)

 心の中で意気込み、私は勢いに任せるようにドンと隼人君に体をぶつけた。

 彼は気を抜いていたらしく抵抗らしき抵抗をせずに倒れ込み、私はその上に覆い被さるような体勢に。

「あ、亜利沙?」

「……藍那としてたでしょ? これくらい良いじゃない」

 重たいかしら……そんな不安を抱いたけれど、私は隼人君に私の全てを感じてほしくて全体重を掛けた。

 至近距離で隼人君と見つめ合い、触れるだけのキスを交わす。

 さっき思ったけど本当に彼とはもっと色んなことがしたい……けれど、私は一度のキスで満足してしまった……それだけで心が満たされたのだ。

「ところで隼人君、私たち……こっちで寝てはダメ?」

「こっちに布団を用意するってこと?」

 私は頷いた。

 ちゃんと別の部屋を用意してくれたのは嬉しかった……でも、せっかく初めてのお泊まりなんだから隼人君の部屋で一緒に眠りたかった。

 隼人君はどうしようかとしばらく悩んだ後、観念したように分かったと了承してくれて、私は嬉しくて隼人君の頭を胸元に抱きかかえた。

「ただいま~……って姉さん抜け目なさすぎじゃない?」

「あなたと同じことをしただけよ。藍那、今日はこっちで寝るわよ。隼人君が許可をくれたわ」

「え? 別に聞かなくても最初からそのつもりだったよ?」

「……そう」

 ……時々、藍那を見ていると勉強になるというか見習いたい部分がある。

 私ももう少し、藍那みたいに我儘になっても良いのかしら? もちろん隼人君に迷惑を掛けない範囲なのはもちろんだけれど、もっと押しても良いかもしれない……もっと我を出しても良いかもしれないわね!!

「……ふわぁ」

 その時、隼人君が大きく欠伸をした。

 彼を見るととても眠たそうにしていたので、私は藍那と頷き合って今日はもう眠ることにした。

 夜はこれからなのに……でも、これはこれで良かったかもしれない。

 今日は初めて私たちが隼人君の家に泊まる日……彼が緊張で眠れないよりも、こうして眠くなってくれた方が良いだろうから。

「寝ちゃったね?」

「えぇ……ねえ藍那、楽しかったわね?」

「うん。本当に楽しかった……えへへっ、こんなの経験したら絶対にこの日々を手放せないよ」

 その言葉に強く頷く。

 ねえ隼人君、もうすぐ冬休みがやってくるわ。

 前にあなたに宣言したように、私と藍那はあなたに退屈を絶対に感じさせない……私たちの愛であなたを包んで、退屈のない情熱的な冬休みを提供するわ。

 だからどうか、楽しんでちょうだいね?

「さあ藍那、私たちも寝ましょう」

「りょうか~い♪」

 ……とはいえ、寝る前にちょっと拝むとしましょうか。

 上体を起こした私はベッドで眠る隼人君の顔を見つめる……藍那も一緒に彼の寝顔を見つめ……時間にして十分ほど眺めた後、私たちもようやく眠りに就いた。

 こうして、私と藍那が初めて男の子と過ごすクリスマスの夜は更けていった。

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