Another Story From.Fox tail「最初の足跡」

ソメイヨシノ

最初の足跡

 

それは小さな魔法。

本のちょっと・・・・・・本のちょっとだけ・・・・・・信じてくれりゃいい。

そうすりゃ笑顔になれる。

こんなくだらない世界でも輝くもの、それは笑顔だって、キミが教えてくれたんだ。

なにもかも、キミから始まったんだよ。

こんなオレが頑張れるのも、キミが笑顔で、魔法だって言ってくれるからなんだ。


「フックス?」

オレが戦争や賊達の戦いの世に生まれ、家族を失い、ブライト教会に孤児として住む事になって、最初にオレの名を呼んでくれたのは、その教会の牧師の娘リサだった。

膝を抱えて、毎日つまんねぇって不貞腐れて、動こうとしないオレに、

「遊びに行こう?」

と、手を伸ばして来た。

その手を睨みつけ、遊ぶってなんだ?遊ぶって誰に言ってんだ?遊ぶってバカにしてんのか?って思っているオレは、本当にいじけたくだらねぇ奴だったなぁと今更思わされる。

只、この時のオレはどれだけ膝を抱えて座り込んでいても、抱えきれない悲しみが拭えなくて、もっともっと強く何かを抱いてないと自分が全て崩れ落ちてしまいそうで、オレから家族を奪った奴等に復讐してやるんだって思いばかりが募る日々だった。

そんなオレに毎日毎日懲りずに声をかけに来るリサに応えようと思ったのは、彼女がミリアム様の話をした時からだった。

「ミリアム様はね、奇跡を起こし続けたのよ」

奇跡。

なんじゃそりゃ?

バカじゃねぇの?

何も知らんガキ共め。

オレは毎朝毎晩ミリアム様に額で十字を切って手を合わせる子供等を見下していた。

神が何をしてくれるっつぅんだ?

奇跡を起こし続けたってなら、どうしてオレは独りなんだ?

奇跡から外されたハミ出し者ってか?

なら、オレが神を欺いてやる。

奇跡って奴を暴いてやる。

「奇跡、見せてやるよ」

オレがそう言うと、リサは驚いた顔をした。オレの台詞じゃない。オレが喋った事に。

3.2.1で、何もない手の中から飴玉を出して見せた。

その飴玉は昨日のオヤツに出たものだ。

だから、奇跡じゃないってわかるだろう、種と仕掛けがあるんだって、世の中くだんねぇ事ばっかだって知ればいい!!

知ってうんざりすればいい!!

奇跡なんてないって神なんて嘘ばっかだって知ればいいんだ!!

「すごい! 魔法!?」

「え!?」

今度は逆にオレが驚いた顔をした。だってリサが目を輝かせて、キラキラの笑顔で、オレを見て、その目が何の疑いもない目だから、だから・・・・・・だからオレ——。

「あぁ! オレ魔法使いだから」

と、笑顔で応えてしまった・・・・・・。

こんなのオレのキャラじゃねぇ・・・・・・。

なのにこっからオレのキャラ崩壊の日々。

つまり、なんだ、オレは根っからの三枚目キャラであって、二枚目気取りで、クール装うなんて、その方が無理だったって事みたいだ。

オレの3.2.1で皆を欺く行為は、子供達に大人気で、自称ではなく、みんなから魔法使いと言う肩書きさえ頂いた!

自他共に認める魔法使いだ。

だが、大人達には大不評だった。

牧師もオレを幾度となく叱りつけ、くだらないトリックはやめろと、世間がどう思うかなど説教を繰り返した。

世間? 誰だそれ? どこのどいつだって?

こんな世界で誰がオレの事をどう囁こうがどう見ようが、どうだっていい。

そんなの知ったこっちゃない。

オレは大人達に反抗するように、魔法を止めなかった。

復讐してやるんだ、大人達にわからせてやるんだ、オレを押さえつけるなら、こんな世界を押さえつけたらどうなんだ、結局、なんもできない癖に偉そうに説教ばっかしやがって。

オレなら、ガキ達にそんな顔させない。

みんなを笑顔にさせれる。

だってオレは魔法使いだから。

全て失ったオレに残るのは、みんなを笑顔にする魔法だった。

みんな、孤児達は、オレの魔法に夢中になって、こんな世界でも、笑顔になってくれた。

笑ってくれたら、オレも仏頂面の不貞腐れた表情が和らいで笑顔になれた。

笑顔って不思議なんだ。

連鎖するんだ。

そう、あくびみたいな。

この前、リサがあくびしたら、オレもあくびしちゃったみたいな・・・・・・移るって奴かな。

大きなあくびした後、二人で笑ったっけ——。

このまま笑顔が続く日々であるようにと願った。

みんなが笑顔でいられる日々が延々と続けばいいと祈った。

この時間を守れたらいいと思った。

親と一緒に暮らしていた頃、オレは頭のいい子と言われ、自分もそうだと思っていたから、将来は偉い学者みたいなもんになると思ってた。

もう少し大きくなった時、勉強より体を動かす事が好きになって、身体能力も他の子より優れていたオレは、この体力をつかえる大人になれるかもと夢も見た。

だけど夢なんてもんは儚く消えてくもんだと知る。

それに世は大人達で動く。

子供達のチカラなんて無力だ。

どんなに夢をみようとも、どんなに夢に向かって突っ走ろうとも、大人が築いた世界で、それが無力だと言われりゃ、それまでなんだ。

実際、大人がいなけりゃ何もできないオレ達ガキは・・・・・・大人に従うしかない。

だから12歳になった時、オレはブライト教会を独りで出た。

リサを連れて行きたかったが、オレがいなくなって、リサまでいなくなったら、教会の孤児達が悲しむだろう。

アイツ等からリサを奪う事はできない。

そしてアイツ等には笑ってて欲しい。

それにオレ自身が家族を失ってどれだけ自分が傷付いたか知ってるから、その痛みを大好きなリサに味わってほしくなかった。

それと・・・・・・これ以上、牧師さんに迷惑をかけたくなかった。

オレがいる限り、あの教会では神に反した子がいると言われてしまう。

奇跡は神にしか起こせないもの、オレの魔法は紛い物だって言われりゃ、奇跡じゃないって知ってるオレはそりゃそうだって頷くしかない。

リサには種も仕掛けもある事を教えたが、種も仕掛けもバレなきゃ魔法だって話した。

これからどうすっかなって、大きなリュックにパンパンに詰め込んだ食べ物やら衣類やらが、背中で重く圧し掛かって、森の中を彷徨う。

計画性なしの行き当たりバッタリのオレって、これからどんな大人になるんだろうか。

オレの知ってる大人達みたいにはなりたくない。

ガキ達が、オレみたいな捻くれたガキにならないように、ガキが叶わない夢を当然に見れるような幸せな世界を築きたい。

それには争いなんてない平和な世界を築けたらいいんだ、そう、笑顔で溢れる世界を——。

そんな世界を築ける大人になれるかなぁ・・・・・・無理だろうなぁ・・・・・・世界を変える事なんてオレ独りでできる訳ないしなぁ・・・・・・無謀な夢だ——。

やっぱりガキが叶わない夢を見れない世だけあって、夢に向かっての第一歩の旅で、挫折寸前のオレは俯いて、引き摺るように重い足取りでトボトボ・・・・・・。

大体なんで12歳で教会を出てきちゃったか。

15歳までいられるのに。

オレの存在が迷惑だとしても、後3年くらい牧師さんに我慢してもらえばいいじゃないか。

なんでオレはこう猪突猛進で、後先考えず、思い立ったら、直ぐ実行してしまうのだろう。

今更、戻るっつーのはアリだろうか。

ナシだな。

カッコ悪すぎる。でも格好気にしてる場合だろうか?

うん、気にしなきゃなんねぇから出て来たんだよな。

15歳まで教会にいたら、その後、自立する為に職を探す。

オレはどんな仕事も立派だとは思うが、人を笑顔にする仕事がやりたい。

それって、どんな仕事かわかんないし・・・・・・そんなのまた牧師さんに説教されて諭されて、適当な職を与えられるに決まってる。

そんな人生を望んじゃいない!

だから早いトコ教会を出たのは正解だ!

後悔なんてコレっぽっちもない!!

俯いていたオレは、ムリヤリにも顔を上げた瞬間、知らぬ間に囲まれていた事に気付き、足を止めた。

オレと同年代くらいのガキ1人と、オレより遥かに小さいだろうガキ等数人が、オレをくるりと囲んで、

「命が欲しかったら荷物を置いて行け!!」

そう叫んだ。

皆、木の棒やらナイフやら只の石やら、武器となるものを手に持っている。

眉を顰め、オレはオレと同年代のガキを見ると、

「命までは奪わねぇよ、俺達ウルフ団は優しい賊なんだ、感謝しろ」

なんて言われるから、賊?と、

「ガキが何やってんだ、ふざけてないで帰れよ、邪魔だ」

と、歩き出そうとするが、俺の前に更に立ち塞がり、

「痛い目に合わなきゃわかんねぇか!?」

そう言われ、拳が向かって来た。思わず、あっぶね!と、サッと避けたが、リュックが重すぎて、そのまま後ろ体重に退いたまま引っ繰り返ってしまい、オレより小さいガキ共がオレの無様な格好に大笑いする。

いや、笑いは大事だ、だが、この笑いは求めてない。

そっからは無様が更に無様になるっつーね、なんつーの、そう、ボコボコです、ハイ。

殴られ蹴られ、両手で顔を防御するしかできないオレはやられ放題。

リュックは勿論奪われました。

なんですか、この仕打ち?

そんなオレの事が嫌いなんですか、神様?

なら、なんでこの世に生み落としたんですか、オレって命を——。

最初から大人しく渡せば怪我しなくて済んだんだと、面倒かけやがってと、唾まで吐かれて、オレは引っ繰り返ったまま、ずーっとそこで木々の間から見える青空を見つめていた。

折角、顔上げて、歩き出した矢先、これかよ。

「なぁんで・・・・・・ガキが賊になっちまうんだよ・・・・・・」

そう呟いて、オレも賊になっちまうのかなと、このままだとそうなるのかなと泣けてきた。

なりたくない、そんなもんになってたまるか!

オレから何もかも奪って、この世に争いしか生まなくて、笑えない状況を作り出す存在になんかなるもんか!

そんなクソみてぇなもんになる為に生まれて来た命なら最初っからいらねぇんだよ!!

いてて・・・・・・と、起き上がって、水辺へと足を向ける。

小川で顔を洗い、目の所に大きな痣が出来てるのを水面で確認して、クソッと呟く。

本気で殴りやがって、めっちゃ痛ぇし、口の中も血の味しかしねぇしと、うがいをして、ペッと水を吐き捨てると、腹減ったなと空を見上げた。

そして、流れていく雲を見つめ続けながら、荷物を奪い返さないとなと考える。

アイツ等、この森にまだいるだろう。

賊とか言ってたけど、オレと変わらないガキだ。

テリトリーも狭い筈!

問題はオレに闘うという手段が何もない事。

ここは思い立って行動したらバカを見る。

ガキとは言え、オレもガキだし、その上、相手は数人いて、オレはたったの独り。

不利な状況はオレの方。

さて、どうすっかな。

空を見上げながら考えていると、泣き声が木々にぶつかり、木霊して聞こえてくる。

子供の泣き声だと、オレは顔を下ろし、辺りを見渡し、水の流れではなく、風に耳を傾け、あっち側だなと、泣き声がする方を見る。

アイツ等かな、それともアイツ等に襲われた別のガキかなと、兎も角、行ってみるかと小川の石の上を飛び跳ねながら、移動する。

木々に隠れ、見ると、アイツ等が賊に捕まっている。

勿論、賊って言っても子供の賊じゃなく、本家本元大人の賊連中だ。

小さいガキは泣き喚き、オレと同年齢くらいのガキは賊等を見据え、

「離せコノヤロウ!! 俺様を誰だと思ってんだ!! お前等みてぇな賊は俺がいつか統一してやんからな!! 俺はナンバー1になるんだ!! 賊の頂点に立つ賊の長になる男なんだかんな!!」

そう吠えて、賊達に大笑いされている。

オレも木々に隠れ、ヘッと笑いを溢す。

ザマァねぇな。

粋がっても本当の賊に敵う訳ねぇだろ、バーカ!

チッ! しょうがねぇな、オレの荷物はくれてやるか。

そう思ったのに、リサがオレの脳裏で余計な事を言う。

『フックス、復讐なんてよせば? だってフックスは人を笑わせる天才じゃない。なのに復讐なんて似合わないし、らしくないし、それにね、許す事って笑顔にする大事な事だと思うの。難しいけど、でもフックスなら、きっと簡単に許しちゃえると思う。だってフックスって、いつも余裕綽々で、山積みの問題もスルリと切り抜けて、魔法でなんでも叶えちゃうから』

オレはその場から離れられなくなって、立ち止まったまま、クソッと呟く。

『ねぇフックス? 魔法使いって自分に魔法はつかえないんだね。だからみんなを魔法で笑顔にしても、フックスは悲しいままだね。でも大丈夫、私が、フックスが悲しい時、一緒にいてあげるから。復讐とか考えるアナタは好きじゃないけど、みんなを笑顔にするアナタは大好き。大人達が何て言おうが、アナタは魔法使いで、みんなを笑顔にしてる。だから私、そんなアナタが大好き』

そう言っていたリサの『アナタが大好き』の部分だけリピートする脳に、

「わかったよ!!」

思わずデカイ声でそう言ってしまい、しまったと、口を押さえるが、ガキの泣き喚く声でオレの声なんて誰にも届いちゃいない。

ホッとして、わかったよと溜息混じりに呟いて、

「リサってホント、嫌になるくらい牧師の子だよな。でっかい愛持って来て、なんだかんだ諭してきやがってさ。本気かよ?って思うような気持ち悪い事ばっか言ってきやがって、気に食わねぇけど・・・・・・お前の言う事は聞いてやる」

と、唇を尖らせて、拗ねる顔で、そう呟くと、オレは、アイツ等を助ける事に決めた。

どうすっかなと、様子を見ていると、賊達は、今夜はここで宴だと、この森を抜けた町で食い物やら酒やらを持って来いと大騒ぎ。

月夜に殺してやるからなと、祭りの肴だと子供達を木々に縛りつけて、高笑い。

直ぐには殺さないようだと、安心し、だからって、どうやって助けるかと悩む。

こればかりは余裕綽々って訳にもいかない。

賊連中の大半は食料調達などに町ヘ移動し、残った賊連中等はキャンプをする為の薪集めや寝床作りなどを始め出した。

今なら助けられるかとも思ったが、数が少なくなったとは言え、残った連中相手にも勝てる訳もない。

殺すのは月夜だと言っていたが、賊連中は酒が手に入ると、直ぐに飲み始めるだろう。

酔いもまわり、気分上々で、子供達の事など忘れる・・・・・・事を願い、ここは夜になるのを待った方がいいかもしれないと、空を見上げる。

光でイッパイの空に、小さな溜息を吐いて、闇で動くかと、木に凭れ掛けて座り込む。

知らない間にウトウト眠りこけていたようで、バカ騒ぎの騒音にハッと目を開けると、空はすっかり暗くなっていて、賊達が騒いでいる所で炎の揺らめきが見えた。

アイツ等は無事か?と、まさかもう殺されたりしてないだろうなと心配したが、まだ木に縛り付けに合っていて、諦めたのか、それともオレのように眠ってしまったのか、どいつもこいつも大人しくしているようだ。

アイツ等の傍にいる賊は見張りとして置かれた一人だけ。

ソイツも酒を飲んだのだろう、気分が良くなって眠ってしまっている。

他の連中は少し離れた場所で焚き火を囲み、歌え踊れで祭り騒ぎで、酒を浴びている。

今がチャンスだと、オレはアイツ等が縛りつけに合っている木の場所まで近寄った。

直ぐにオレに気付いたのは、オレと同年齢くらいの、そう、アイツだ。

「お前!?」

「シッ! 静かにしてろ! 解いてやるよ・・・・・・ダメだこりゃ、ナイフか何かで切らねぇと・・・・・・」

硬く結ばれたロープは解けそうもなく、オレはナイフを探す為、直ぐ傍にある荷物を漁り出し、なんじゃこりゃ!?と、ひとつひとつ荷物の中のモノを出して見る。

「オモチャの鉄砲、オモチャの剣、ぬいぐるみ、積み木・・・・・・オモチャばっかじゃねぇか、コレお前等の荷物か?」

「あぁ、そうだ! 俺等の荷物だよ!」

「オモチャばっか詰めて、お前、バカだろ?」

「俺の荷物じゃねぇ! 俺等の荷物だが俺のじゃねぇ!」

それは小さい奴等の荷物だと言いたいのだろう、オレはクッと笑いながら、

「静かにしてろよ、声のトーン落とせ」

と、言うと、チッと舌打ちされた。

荷物は幾つか置いてあったので、オレは他の荷物の中身を探してみる。

ていうか、ここにオレの荷物がないのが痛い。食料が入ってたから賊連中が持って行ったのだろうけど、オレの荷物さえあればナイフもあったのに!

「おい!」

オレを呼んでるのか?と振り向くと、

「お前、何しに来たんだ? 笑いに来たのか?」

「いちいち危険な場所に来て笑う訳ないだろう、それに、とっくに隠れて大笑いしたよ」

「なんだとぅ!?」

「ザマァみろって大笑いさせてもらったさ! でもその笑いは後味悪かった」

「は?」

「笑いってのはさ、人を見下して笑ったり、痛い目に合ってる人を笑ったりするんじゃなく、みんなが笑顔になれるような楽しい事で笑うってのが一番だな。みんなで面白ぇから笑うってのが何よりだ」

「なんなんだ、お前?」

「何って?」

「だから何しに来たんだっつってんの! お前、俺達を笑いに来たんじゃねぇなら、ここへ何しに来たんだよ?」

「だから助けてやるっつってんだろ? てか、これ何?」

オレが鞄から出したモノを見て、

「ソレ貴婦人とかがダンスパーティーとかでね、付ける仮面。仮面パーティーとかすんの」

と、答えてくれたのは小さなガキ。

オレはへぇと珍しそうに、その仮面を見て、目の部分だけなんだなと、顔に付けて見る。

「どう? オレ、貴婦人っぽい?」

仮面を付けて、そう言うと、小さいガキ連中は縛り付けられているにも関わらず、楽しそうにクスクス笑った。

「なんじゃこりゃ!?」

と、次に取り出したのは、変な動物の尻尾みたいな奴で、尻尾かなと腰に付けて、お尻を振ると、小さいガキ連中はもっと笑い出す。

「結構面白ぇもん持ってんだな、お前等」

そう言ったオレに、ずっと怒った顔で睨みつけているオレと同年齢くらいの奴が、

「助けるんじゃねぇのかよ!? 遊びに来たなら、とっとと消えろ! 目障りだ!」

オレの行動に、もう耐えれないとばかりに、そう怒鳴った。

その声に、見張りの男がハッと目を覚まし、オレの存在に気付き、

「な!? なんだぁ!? ガキが一匹逃げたか!?」

と、だが、皆、ちゃんと木に縛り付けられてると、

「何者だぁ!?」

と、腰からサーベルを抜き、オレに向かって来た。

ヤベェと焦ったオレは、かなりビビッた顔になったと思うが、仮面のお蔭で、ソレは誰にも知られずに済んだ。仮面ってなかなか使えるなぁって、この時はそんな事思う余裕はあったのか、なかったのか。

兎も角、オレは賊の男にサーベルを振り上げられて、そして、振り落とされて、捕まっている子供達全員が目を閉じた。

オレが斬られ、殺されると思ったからだ。

だが、オレは斬られない。何故なら——・・・・・・

「な!? なんだこれ!? なんで剣がオモチャになってんだ!?」

へっへっへっと悪戯大成功とばかりの笑みを見せるオレに、男は腰の銃も抜いた。

そう来ると、最初からわかってたよ。

だからね、ほら、オレは魔法使いだからさ。

パンッと男が引き金を弾いた銃から飛び出した紙吹雪。

「???」

何が何だかサッパリわからないと言う風に、銃口を自分の方へ向けて、首を傾げている男。

その間に、オレは男から奪ったサーベルで、子供達を縛り付けているロープを切った。

「逃げろ」

そう言うと、直ぐに向かって来る男相手に、オレは自分の指先を向けて、銃を撃つ真似で、パンッと音を鳴らした。男は夜の闇と言う事もあり、本当の銃と思ったのか、一瞬だけ怯んだが、直ぐに向かって来る。

オモチャの剣でも思いっきり振り回されて殴られたら、結構なダメージにはなると、避けては、手の中から、ありもしない火の玉などを出して攻撃をしてみる。

何1人で騒いでいるんだと、別の賊がやってきて、オレと戦っているのを見ると、ソイツまでオレに剣を向けて来るから、たまったもんじゃない。

必死で、使えるモンは使えとばかりに魔法を披露。

怖くなかった訳じゃない、怖かったさ、だって相手は平気で人を殺す賊だ。

オレも逃げなきゃ殺される。

オレの表情は恐怖と焦りで酷かっただろうけど、仮面ってのは本当に便利なもんで、全てを隠してくれている。

必死に逃げ道をつくらなきゃと、戦えもしないのに、闘い続けるオレは、

「オレは魔法使い! オレは魔法使い! オレは魔法使い!」

そう口に出して言い続けていた。

オレ、神とか奇跡とかホント信じてなくて、だから神に対しての作法とかも無知だから、ミリアム様に祈る時、声に出して願いを言ってしまってて、そしたら、心の中で願うもんだって知って、堪らず恥ずかしくなった事があった。そしたらリサが『願いは口に出して言う方が叶うと思うの、だから祈りは声に出したっていいのよ』って、その時、リサも声に出して祈りを唱えた。

だから、オレは口に出す、その声で、願った事は、呪文と同じで、魔法が成功する確立が上がるんだと信じている。

神じゃない、リサを信じている。リサがオレを魔法使いだと信じて、そしてオレが自分は魔法使いだと信じるから、オレは魔法使いなんだ!!

なんだコイツは!?と、こんな妙な攻撃をしてくる奴は初めてなのだろう、賊も驚いて慌てている。


「アニキ・・・・・・アイツ・・・・・・僕等がボコボコにしたのに・・・・・・本当は賊相手に戦える程・・・・・・強かったの? しかも僕等がボコボコにしたのに僕等を助けてくれたの?」

「強いんじゃねぇよ・・・・・・」

「え? でも闘ってるよ?」

「あぁ・・・・・・闘ってるけど、アイツは強いから闘ってるんじゃねぇ。アビリティだけで闘ってんだ。それは強いからじゃねぇ。アイツには俺達を助けられる術があるからだ」

「どういう事? アニキ?」

「お前等は逃げろ。俺は強いから闘って来る!!」

「アニキ!!」


賊二人相手に無理だと、しかも片方の男は真剣で、もう避けれないと、オレは死を覚悟した瞬間だった、アイツが、オレの前に立って、男の剣を剣で受け止めた。

驚いたのはオレだけじゃない、賊の男も、木に縛り付けてた子供達がいなくなっている事に気付き、更に剣を受け止められた事にも驚いて、もう何が何だかという顔だ。

「なんで逃げないの!? ていうかメッチャ強いじゃん!?」

「そりゃこっちの台詞だ!!」

「は!? ていうか人が折角助けてやったんだから早く逃げろよ、バカ!!」

「お前も一緒に逃げんだよ、この阿呆!!」

と、ビックリするような剣裁きを見せ、賊から剣を弾き飛ばすと、オレの腕を持って、引っ張って走り出すから、オレはアワアワしてしまう。

勿論、仮面をしてるから、オレのアワアワは知られちゃいねぇ。

「子供達が逃げた!! 妙な仮面付けて、キツネの尻尾を付けた奴が現れたんだ!!」

賊の男が大声で叫んでいる。

オレは引っ張られるがまま、引き摺られる感じで走っていたが、途中から自分でちゃんと走って逃げていた。

アイツの背を見ながら——。

オレ、コイツに助けられたんだなと思うと、ちょっと嬉しかったりした。

元はと言えば、コイツが捕まるのが悪いし、オレの事を殴るし蹴るし、更に荷物を奪うから悪いんだけど、なんつーか、急がば回れって奴かなって思えた。

どこまで逃げただろうか、息を切らし、もう大丈夫って所で、止まって、呼吸を整えながら、森を見渡し、気付いた。

おい、オレ、森の西入り口付近まで戻ってるぞってね。

そう、ここを下っていけば、直ぐにブライト教会のある町に着くって訳。

一晩かけて振り出しに戻って来てしまった。

なにやってんだ、オレ。

「アニキ!」

どうやら小さなガキ連中も、こっち方向へ逃げて来たみたいで、無事に、皆、落ち合った。

笑顔で、無傷である事を喜ぶコイツ等を見ながら、振り出しに戻って来たけど、そんな事、ま、いっかって、思えて、オレも一緒に喜ぶように微笑んでいた。

おっと、ここは仮面を外した方がいいな、微笑んでいる顔は見せた方がいい。

「賊の宝、持って来た!」

そう言って、金貨を数枚見せる小さなガキ連中。

おいおい、そんなもん、いつの間に——!?

よくやったと褒めているアニキと呼ばれているオレと同年齢くらいの奴が、オレに金貨を幾つか差し出して来て、

「分け前だ」

そう言ったから、分け前?と、眉間に皺を寄せた。

「受け取れ、お前の分だ」

「・・・・・・サンキュ」

オレは頷いて、金貨を数枚、受け取り、そして空を見上げ、そろそろ夜明けかと思う。

「なぁ、お前、俺達と一緒に来いよ」

「は?」

「俺達の仲間になれ。俺達、いいチームになると思うぜ?」

「・・・・・・チームって? オレに賊になれって?」

「あぁ! 勿論、分け前は俺とお前が多めだ」

オレはもらった金貨を見つめ、そして、

「腹減ったな」

そう呟き、

「食べる物、持って来る。ここで待ってろ、お前等も腹減ったろ?」

と、1人、森を抜けた。

ブライト教会へ忍び込み、厨房で、パンを盗んで、それから、金貨をミリアム様の所へ置いた。

今、生きている事に感謝したくて、神も奇跡もあるかもしれないって思わされたからだ。

物音で、牧師さんが起きて来てしまい、咄嗟に隠れたが、ミリアム様の所に置いてある金貨に直ぐに気付いた牧師さんは、礼拝堂から、なかなか出て行かなくて、オレも出て行かれない状態になった。

「リサー!! リサ! 起きろ! 直ぐに礼拝堂へ来てくれ!!」

おいおい、呼ぶなよと、焦りまくるオレは、身を小さくして、長椅子の下へ隠れたまま。

「なぁに? お父さん? まだ夜明け前よ」

「ミリアム様が金貨の涙を落とした!!」

「え?」

「奇跡だよ、奇跡が起きたんだよ、これで保護できなかった子供達も救えるぞ!」

「・・・・・・奇跡? ミリアム様の?」

そう言って、ミリアム像に近付くリサの横顔をチラッと覗き見すると、目が真っ赤で、少し顔も浮腫んでて、泣き腫らした顔をしている。

折角の美人が台無しのひでぇ顔——。

「フックスの魔法かもしれないわ」

そう囁いたリサに、

「リサ、フックスの事は忘れなさい。これはミリアム様の奇跡だ、紛い物の彼がいなくなって、ミリアム様が真実の奇跡を起こしてくれたんだ。ほら、見なさい、本物の金貨だ。これで多くの子供が救われるんだよ」

牧師さんは、そう諭し、リサは、コクンと小さく頷き、悲しげな微笑を浮かべた。

そして牧師さんが礼拝堂から出て行った後、リサは1人、ミリアム像に祈りを捧げた。

「ミリアム様、私はフックスの魔法だと思っています。どうか、人々を笑顔にするフックスの願いが奇跡となって表れたモノでありますように——」

と、そして、ミリアム像を見つめ、

「ねぇ、フックス? アナタなんでしょ?」

そう願うように、口に出して唱えた、その声が、オレの耳に届き、オレは、

「あぁ! オレ魔法使いだから」

と、リサの横顔に小さな小さな小さな消える程に小さな声で囁いた。

リサが礼拝堂を出て、オレも外に出て、明るくなって行く空を見ながら、気分爽快じゃんって深呼吸した。

今度は荷物なしで、この町を出て、駆けて行くオレ。

森に入って、直ぐの場所で、アイツ等は、オレを待っていた。

小さなガキ等にパンを渡し、

「悪いけど、オレ、お前等の仲間になる気ないから」

笑顔でそう言った。

「・・・・・・俺達がお前を襲った事、怒ってんのか?」

そう聞いたオレと同じ年齢くらいの・・・・・・ていうか、コイツの名前聞いた方がいいな。

「お前、なんて名前?」

「俺? 俺、ウルフ。言ったじゃん、俺等ウルフ団だって」

「そっか、やっぱお前がこの賊の親か。ま、頑張って、賊やれよ。オレは賊なんて絶対頼まれてもならないけどね」

「なんだと?」

「オレは賊なんてやりたない。オレから何もかんも奪ってった奴に、なりたい訳ないだろ? お前等もオレと一緒で戦争や賊に家族を奪われて孤児になったんじゃないのか? 嫌な時代だよな。何もしてない奴から、しかもこんないたいけな子供からさ・・・・・・・生きる術もないに等しいオレ等から何もかも奪いやがってさ。夢も見れねぇ。やっとこ希望見つけたと思ったら奪われて、この手の中、何も残らねぇ。オレが何したっつーんだって、オレ、ずっと奇跡とか神様とか信じれなかった」

そう言って、オレはウルフにニヘッと笑って見せると、

「でも奇跡ってあるんだな。よくあの賊から無傷で逃げて来れた! すげぇよな! 絶対これ奇跡だって! きっと神様はオレ等がまだ生きて、この世界に何か残せる価値を見出してくれたのかもしれないって。この助かった命でオレ、何かできんじゃないかって。そう思ってさ。ガキなりに足掻いてやろうと決めた。オレ、この世界で奇跡を起こす」

間抜けな笑い顔から、だんだん真剣な顔になっていくオレを、ウルフはジッと見ていた。

「でさ、オレ、荷物なくなっちゃったし、金貨、もう奇跡につかっちゃってさ、悪いんだけど、もうちょっと金貨分けてくんない?」

パンをモグモグと食べていたガキ等が、ええええええ!?と、大声を上げて、もう金貨使っちゃったの!?と、まさかこのパンが金貨だったんじゃ!?と、手に持っているパンを見つめたり、口を押さえたりしている。

ウルフは、金貨の話はどうでもいいと、

「奇跡ってなんだ?」

真顔で、そんな事を聞くから、オレは、さぁ?なんだろ?と、首を傾げる。

「とりあえずさ、オレ、孤児院で暮らしてたんだけど、結構、厳しい環境なんだよ、孤児院も今いる子供達だけでイッパイイッパイだから、他の子供を受け入れられなくて、ストリートチルドレンって奴も増えてるらしいし。お前等もそうなんだろ? そういう彷徨える子供達を救う為にも孤児院に金貨を置いてこようと思っててさ。今回、賊と戦って、思った事があるんだ。計画たてて、もっと作戦練って、事前に逃げ道も確保しとけば、賊から宝奪えるかもって。オレに出来る事って、魔法で驚かせたりする事なんだけど、賊達にも効いてたっぽいし、悪党相手にしても、オレ、誰も傷付けたくないしさ。もうこれ以上、誰か傷付けんのって、嫌なんだ。知ってるか? 笑顔って連鎖するんだぜ? だったら、悲しい事も連鎖するかもしんねぇじゃん? 悪党共を笑わせてやれたら、オレから何もかも奪った奴等でも、許せると思うんだ、んで、一緒に笑えたら、ホント奇跡だよな!」

自分でも何言ってんだろうって思うくらい、理想論で綺麗事だけど、これが今のオレの夢と希望だ。だから熱く語る今のオレは、リサみたいにキラキラの笑顔だと思う。

「オレ、笑われるの専門だし、だからこれからオレが言う事に笑ったっていいぜ? でも、オレは真剣に思ってんだ。お前等が賊になる為に、賊の足跡を辿る人生を送るなら、オレはこの時代にない新たな時代へと、オレの足跡をつけにいく!! オレだけの最初の足跡!」

小さい頃の儚い夢じゃない、この夢は一番、現実味がないけど、何もしないまま終われないと、オレの心に刻みつけられた確実な夢だ。

誰も笑わないけど、みんな、ぽかーんとした顔でオレを見ていた。

ちょっと、なんか、意味不明に無我夢中過ぎたかと、苦笑いしながら、

「それで、お願いがあんだけど・・・・・・」

オレがそう言うと、ガキ等が、金貨分けろって話だろ?って言うから、違う違うと、

「この仮面、オレにくれない? どう足掻いたって、オレ、ガキで、賊相手に、余裕綽々なんてのは無理な話で、脅えて情けない顔しちゃうから。でも仮面付けてたら、オレの恐怖で脅えた顔なんて、わかんないだろ?」

そう言ったら、ガキ等は、チラチラと、ウルフを見始める。

そうか、これはガキ等のオモチャでも、ウルフが頷かなければ、誰にもやれねぇ代物って訳なんだなと、オレはウルフを見る。ウルフは、

「条件がある」

と、そう言うと、ニッと笑い、

「俺等もお前の仲間に入れろ」

そう言った。へ?と、眉間に寄る皺。

「おもしれぇ。新たな時代に足跡つけにいく。気に入ったよ。賊なんかやってられねぇ。つまり、あれだろ? ヒーローだろ? 賊から金奪って、賊共倒して」

そんな事を言い出すウルフに、オレは慌てて首を振る。

「ヒーローじゃない! ヒーローじゃないよ、オレがやろうとしてる事って、正義じゃない。悪でもないけど・・・・・・誰にも認められない事だ。孤児院に金貨を置いてくるのも、名乗ったりしない。奇跡というカタチで、降って湧いたくらいに思わせたい」

「は? それじゃ名は売れねぇぞ?」

「売らないよ、別に世間にどうこう思われたい訳じゃない。世間なんてどうでもいい。でも、きっと、わかってくれる人はわかってくれる」

と、オレは、リサがわかっててくれるなら、それでいいと思っていた。

ウルフはしかめっ面になり、ムゥッとした顔で、腕を組み、考え込むから、

「それにお前等は仲間にできない。オレ、まだ12歳なんだ。ガキなんだ。オレより小さいガキ連中の面倒はみれないよ。自分の事でイッパイイッパイだ。今回はうまく逃げれたけど、賊相手にして、簡単に逃げれるなんて絶対にない。奇跡はそう何度も起きない。オレは誰も助けれない。だから、お前等とは仲間になれない」

そう言うと、皆、ウルフを見るから、ウルフは、

「あぁ、俺は、賊になろうって決めた時に、コイツ等に、賊は裏切り当然だし、見捨てて当然だから、何かあっても絶対に助けないって教えて来てるんだ」

と、正に賊らしい台詞を言う。でも賊なんだから、そうなんだろうと、オレは頷き、

「でもオレは賊じゃないから、仲間は見捨てられない」

そう言った。すると、ウルフは頷き、

「わかった。ウルフ団は解散。お前等とはここでお別れだ」

と、ガキ達に言い出すから、オレは、ええええええ!?と、ビックリするが、ガキ等も驚きすぎて、凄い顔になっている。裏切り当然で見捨てて当然と言われてもウルフに付いて来たガキ等にとって、ウルフに解散宣言される事は、かなりキツイ筈。

「俺はコイツの仲間にしてもらう。コイツが、仲間は見捨てないと言うなら、コイツの言う事に従うまでだ。リーダーはコイツだ。俺がコイツの仲間にしてもらうんだからな。そんでもって、コイツが、ガキの面倒はみれねぇっつーなら、お前等とはここでバイバイだ。言ったろ? 裏切り当然、見捨てて当然。お前等はウルフ団として賊だったんだ。だから、ここで俺はお前等に見切りを付ける」

うわあああと急に泣き出す子に、オレはビクッとする。

すると涙は連鎖するのか、わんわん泣き出して、目から次から次へと滴を落とさせるから、

「森から抜けて、直ぐに町があって、孤児院がある。そこへ行くといいよ」

オレは、そう言うと、笑顔で、

「すっごい美人の優しいおねえさんがいるよ。オレと同じ年で、面倒見が良くて、厳しい事も言うけど、笑顔で迎えてくれると思うよ」

と、言いながら、何も持ってない手の中から飴玉を出してみせた。

泣き止む子供達に、腰を落とし、目線を合わせた。

「ごめんな、一緒に連れていけなくて。でも、わかってほしい。オレ、自分の可能性を試したいんだ。どこまでいけるか、全然、見当もつかないけど、やってみたいんだ。それだけオレってガキなんだと思う。だからガキがガキの面倒はみれないし、お前等のこれからの人生を決めてしまうのは勿体無い。もしかしたら明日、明後日、数年後、お前等が人生を選べる岐路に立った時、世界は平和になって、今とは違った時代かもしれない。その可能性を今から捨てるのは、絶対に勿体無い」

まるでリサみたいだ。

誰かをこうして諭すような台詞をオレが吐くなんて、リサが見たら、笑うかな。

「ホントにごめん。賊に出会って、一緒に手をとって逃げるなんてできないんだ。よーいドンの合図なんてないからな。お前等が今、生きている奇跡に、オレは神様の最大の愛を感じるよ。生きてるだけでいいんだ。生きてるだけで素晴らしいって、思えるよ。だから無闇に命が消えてしまう選択をさせたくない。わかってくれ」

オレ達はこんな時代で生まれ、多くを失いながら生きて、何かを得る為に伸ばした手も、何も掴めないまま終わってしまうのが殆どだろう。

でもオレ達から全てを奪っても、笑顔まで奪えやしない。

誰もオレ達が笑う事を止めれない。

笑顔が連鎖して、世界中に笑顔が広まって、みんなが笑顔になれたら、こんな時代でも優しいモノが生まれる、そんな奇跡が起こる気がする。

「でも、キミ達はいつまでもウルフの仲間でいいと思うんだ」

そう言ったオレに、俯いていた奴等は顔を上げた。

「大好きなウルフとずっと一緒だよ。離れても心は一緒だ。約束するよ、オレは、お前達とウルフを引き離してしまうけど、でも大人になった時、こんな悲しい場面は二度とゴメンだから、オレは命を懸けてでも子供達を守る大人になれるよう、頑張るよ。賊相手に子供達を救えるような、そんな大人になる。救えないから、助けれないから、ゴメンなって諦めるような奴にならないように、オレ、絶対に子供達を見捨てない大人になるから。オレは、仲間を裏切らないから、仲間との約束は絶対に守るから——」

オレに、精一杯の笑顔を見せてくれて、頷いてくれて、だから、オレは、これは口から出た出任せとかじゃなく、寧ろ口に出した以上は、絶対に守るべき約束だと、心に誓う。

森から出て行くガキ等の背を見送るウルフは、無表情だけど、少し悲しそうに見えて、

「よーいドンの合図なんてないからな」

オレはそう言って、ウルフを見た。ウルフが、オレを見るから、

「お前もまだ12歳だ、みんなと孤児院に行っていいんだぞ。言っとくけど、お前の面倒もみれないからな? オレ、ちゃんとお前にも言ったからな? よーいドンの合図なんてないって」

そう言った。ウルフはフッと笑みを溢すと、

「お前にいつか言わせてやる。俺の強さが大事だって。俺がいなきゃ何もできなかったって。俺がいてくれて良かったって。俺がいなきゃ・・・・・・終わってたって——」

不敵宣言。オレは言ってろと、笑い返した。

「あ、やべ、そういや、オレ、この尻尾つけっぱだよ」

「いいんじゃね? それ付けて尻振ったら、アイツ等、笑ってたし」

「あぁ、そうだな、笑ってたな。いいかも。これ、笑い取れるかも」

と、尻を振ってみるオレに、ウルフは、阿呆がと呟く。

「お前、阿呆丸出しで、ヘラヘラしてっけど、お前の事すげぇと思わされたよ。俺、大人に助けてもらえなくて、救ってもらえなくて、大人に傷付けられて、賊になって見返してやるって思ったけど、そんな大人になったらダメだよな。自分が嫌いなもんになって、どうすんだって、気付かされた。だから俺も、ガキ等を守れる大人になる。ガキ等を救える大人になって、誰にも知られなくても、自分が認める自分になる」

「おー、いいんじゃね? まー、頑張れよ」

他人事のように、そう言ったオレに、笑いながら、

「お前、魔法つかった?」

とか言い出すから、

「は?」

と、今は尻振ってるだけだけど?と、バカにしてんのか?と、ウルフを睨む。

「だって、この俺様がこんな事思うなんて、らしくねぇ! 魔法でも使われない限り、こんな簡単にお前みてぇな奴に影響されっかよ! あぁ! クソっ! でもアレだ、きっと、お前に付いて行くって仲間、俺以外にも現れるぜ? だって、お前、なんか、すげぇから。阿呆丸出しなのに、なんか、影響力すげぇから! ホント魔法使いだろ、お前」

オレ、すっげぇ頭いいガキだって言われてきてんだけどなと、でも、コイツが笑ってるの見てると、そんなんどうでもよくなって、一緒に笑ってたら、急にマジになって、

「なぁ? でもなんで? なんで正義じゃないからって、悪でもないなら、奇跡起こしたのは自分だって公にしねぇの?」

そう聞いて来たから、オレも笑いが止まって、マジ顔になったが、直ぐに笑顔で、

「だって、賛否両論が調度いいだろ。正義にも悪にも傾きすぎるから、おかしな事になるんだ。みんな平等に、賛否両論の意見言える世の中がいい。そういうのは、いちいち出て行かなくても、勝手に意見分かれて、勝手に正義だの悪だの思ってくれるもんだ。いいんだよ、オレの存在が世間で認められなくても、紛い物と言われても、オレ自身、世間ってどこのどいつか知らねぇもん。つぅか、ホント、わかってくれる奴だけわかってくれればそれでいいんだ」

オレは、リサを思って、そう言っていた。

「そうか・・・・・・でも言っとくぞ。俺は紛いモンになる気はねぇし、お前も紛いモンじゃねぇ。紛いモンは、こんな時代築いた大人達で、俺等を見下す連中だ。いいか、俺等は、世にでねぇなら、完全に姿を消し、誰も追いつけない場所で、紛いモン等を誘ってやろう。正しき道へな!」

今さっきまで賊だって言ってた奴の台詞かねと、オレが笑うと、

「リーダー」

オレをそう呼ぶから、思わず、笑いが消える。

「リーダー、お前の言う通り、俺達はこれから新たな時代に足跡をつけにいく! 誰も追いつけない場所で、奴等を誘うんだ、いいな?」

どっちがリーダーだか、わからねぇな、こりゃ。

でも、その通りだと頷くオレに、

「で、リーダー、お前、名前なんつーの?」

と、今更、ふざけた台詞。

名乗ってもなかったオレ自身にも、突っ込みたくなる。

そんなこんなで、数年後、ウルフの言った通り、オレに付いて行くと言って現れた奴等がいて、オレ達は5人で活動する事になり、おっと、忘れちゃいけない、5人と一匹だ。

オレ達は、本格的に怪盗として動き出し、ブライト団が結成されたけど、誰もオレ達をブライト団と呼ぶ者はいない。

賊達が、キツネの尻尾アクセサリーを見て名付けたのか、『フォックステイル』。

だから、そう呼ばれいてる。

ま、怪盗がいちいち名乗るのも変だし、オレ達は卑怯極まりないので、予告なんて正々堂々とした宣言もしねぇから、勝手に仇名が付けられたのだろう。

そんな事はどうでもいい、世間がオレをどう呼ぼうが、どう思おうが、そんなの知ったこっちゃねぇ。

要は世界中で奇跡が起きてるって事。

今日もミリアム様の奇跡は起きる——。

その奇跡で、1人の子供が救えるなら、オレは何度でも賊に挑もう。

まず世界を変えるには、子供の未知なる可能性とチカラが必要だから。

「つかね、リーダー、アレキサンドライトの宝奪うって、無理あるだろ」

「オレ言ったよね!? 無理っつったよね!? なのにオレの意見無視したのはウルフだよね!? 何かと厄介事になったらオレをリーダーって呼んで責任押し付けんのやめてくれる? マジムカつくから! オレちゃんと言ったよ!」

「怪我してんの俺だぞ!!」

「そりゃアレキサンドライト相手に無傷でいられる訳ないだろう?」

「お前は無傷じゃねぇかよ!!」

「だってオレ魔法使いだから」

「なら、魔法で俺も守れ!! 大体魔法使いならアレキサンドライトの腕くらい圧し折るか、斬ってくるかして来いよ!」

「オレの魔法で、そんな邪悪な事できねーから」

「仲間がやられてんのにか!?」

「掠り傷程度で毎回毎回ぎゃあぎゃあウルサイんだよ、ウルフは!!!!」

「刺されてんだぞ!!!!? 血ぃ出てんぞ!!!! 大量に!!!!」

「元気にデカイ声で叫べてるじゃねぇか!!!! いいか、アレキサンドライト相手に死なずに、しかも計画通り、宝奪えて、こりゃもうかなり奇跡っつうか、オレ等に運が向いてるっつーか、ツイてるっつーか、そんな状態なんだからよ、感謝しろよ」

「誰に感謝すんだよ」

誰だろなと、思いながら、ヘラッと笑った顔で、ウルフを見る。

そんなオレに、笑えばいいと思いやがってと、チッと舌打ちするウルフ。

「はいはい、リーダーもウルフもそれくらいにして、傷口縫うから大人しくしないと」

ウルフの傷を診て、針と糸を出して来たコイツは、医学を独自で学んで、度々やられたオレ達を癒すタピル。

タピルはどっからどう見ても、美形男子で、女に不自由しない容姿をしているが、実はコイツ自身が女で、でも、女に見えねぇし、タピルも女と思われるのを嫌がって、なんつーか、女だと知ってても、オレ達は男としてコイツを見ている。

どっからどう見ても本当に男にしか見えんのだけども——。

「リーダー、無線イヤフォン壊れてるよ、修理代稼がなきゃ」

金の勘定をしているコイツはテディ。オレは悪いと全く思ってないが、一応、わりぃと、頭を掻いて謝ってみる。だって壊れたのって、オレのせいじゃないよね?

「リーダー、謝るなら心から謝ってよね」

ジロッと睨まれ、テディにそう言われ、苦笑いする。

テディは、雑用なら何でもこなす。破れた衣装も直すし、料理もうまいし。

裏方作業は全部任せてある。

「テディ、イヤフォン貸して? 直してみるよ」

そう言って、テディから無線イヤフォンを受け取ったのはペンギーノ。

コイツのお蔭で、オレの魔法もレベルアップしたと言うか、ハイテクになったと言うか。

オレより天才っているんだなって思わされた。

世は広いね、全く——。

そして、最後に、ウルフの懐から、もぞっと顔を出したのは、小さなリスのスクイラルだ。

ウルフが森で怪我しているのを拾って育てた。

それ以来、スクイラルもフォックステイルのメンバーとして、大体ウルフの懐にいる。

直ぐにイライラして怒鳴り散らすウルフには必要な癒しだろう。

そしてオレ、フックス・ブライト。

コイツ等のリーダーだ。

オレ達ブライト団は世には出てないけど、それでも高い山を笑顔で越えて来てる。

こんなんでいいのか、わかんねぇけど・・・・・・

正しい事なんてわからないまま、とりあえず、やれる事を頑張って踏ん張って生きてる。

オレ達は正義じゃないけど、悪ではないと自分達を信じてるから。

オレ達は足跡をつけれてるのかな。

オレは、オレ達の足跡を踏み締めて来てくれる奴がいない事を祈ってる。

でも本当は誰か、オレ達が残した足跡を見つけて、辿ってきてほしい。

そう願う自分もいる。

なんせ、オレがやって来た事、オレの今までの人生、結構、楽しかったもんで、それを誰かにやらせてもいいんじゃないかって思ってしまうからだ。

いい仲間に巡り会えて、支えられて、自己満足かもしれないけど、未来へ向けて足跡を残す。

それって、悪くないだろ?

だけど、年を重ねて、大人へと近付いていくオレは、子供達への想いも変わってきてて、牧師さんや町の大人達が、オレを叱った理由が、今になってわかってしまって。

人を欺いたり、騙したり、そんな人間は良くない。

子供は素直に正直に真っ当に育ってほしい。

極当たり前の大人達の願いだ。

幼かったオレは、そんな大人達の願いを無視して、子供達の将来に期待を抱く気持ちさえも、踏みにじっていたんだ。

子供が大人を見て育つように、大人は子供を見て生きている。

牧師さんがオレを叱ってくれた事、それは大事な事で、こんな時代で尤も貴重な大人の1人だったって事。

もっとそういう大人が増えて、もっと子供が未来へ向かう道の道標となって、子供が迷わず、踏み締めて歩んで行ける足跡がイッパイあるといい。

その足跡の中に、オレ達の足跡はないけど。

誰か、オレ達の足跡を辿ってきてくれる奴がいるかもなんて、そんな甘い考えは持っちゃいけないし、願っちゃいけない。

オレ達の生き方は賊と変わらない。

悪党相手とは言え、欺いて、騙して、宝を横取りして、真っ当じゃないオレ達の生き方に、後継者なんていらない。

それでいいんだ。

オレ達は誰にも知られずに、闇で動き、闇で消えて行くのがいい。

いつも、そう考える時のオレは、多分、とても悲しいんだろうな。

自分の生き方に後悔なんてないけど・・・・・・

でもやっぱ、オレは神じゃないから、どんなに奇跡を起こし続けても、不完全な人間のオレは孤独なんてものを情けないけど大人になっても感じてしまうんだ。

だから目を閉じると、目蓋の向こう、リサが現れるんだ。

きっとリサに慰めてほしい心の表れなんだろう。

そして、リサはオレだけに笑ってくれて、優しい声で言うんだ。

『魔法でしょ?』

って——。

騙しじゃない。

欺いたりしてる訳じゃない。

真っ当な正真正銘の奇跡のチカラ。

リサが目を輝かせて、キラキラの笑顔で、オレを見て、その目が何の疑いもない目だから、だからオレ——。

「あぁ! オレ魔法使いだから」

口に出して、そう唱えて、その声で、オレは目を開けて、目の前にいる仲間達に笑顔で応え、新たな時代へ、またオレ達の足跡をつけにいく——。


〜最初の足跡 END〜




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Another Story From.Fox tail「最初の足跡」 ソメイヨシノ @my_story_collection

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