第7話
「お母さん、宿題どれからすればいいの?」
長女の瑠美は、台所にいる母の絵里香に声をかける。よりによって、父の晃は職場の親睦会で遅い日でずっと自分が子どものことをしないといけないと思うと額の筋がだんだん大きくなりそうだ。たださえ、偏食の子どもたちの食事作りというものは大変だと言うのに、父でもあり、夫である晃はわかっているのか。
育児主婦はご飯作りの他に学校の宿題を見てあげなくてはいけないというミッションも生じる。やらなくてもいいと言っても学校には持たせないとプレッシャーを感じるようでそれはできないらしい。それでも、まだ1人では宿題をしない。
先生の指示で算数プリントの丸つけをしないといけないし、大人でも難しいものがあり、計算ミスをして、結局先生に訂正される。
親として丸つけしなくてもよくないと反論したくなるが、そこは昔と今の時代の宿題のやり方は違う。
その時間の塁は、ゲームをするが、充電がなくなるとすぐ騒いでやめると言って、YouTube見るとか始まって、結局テレビ画面やゲーム画面を見ることしかしなくなり、折り紙や幼稚園児ドリルを用意しても興味ないとか言い出す始末。知育なものを用意しても、ゲームやYouTubeには勝てない母はもう、諦めて姉の方に熱をあげる。
ご飯の後は、定期で飲む耳鼻科の薬を飲ませて、お風呂を入れて、皮膚科の軟膏塗って、自分の髪を乾かすのは中途半端に一気に寝かしつけまで持っていく。
もう、時間との勝負。早く自分自身の時間を作りたい。心の中では早く寝てくれと何度願うか。その考えがあると子どもたちは全然寝てくれない。気持ちを切り替えて、絵本を読んだり、学校や幼稚園の話を聞いてあげてやっとこそいびきをかいて寝てくれた。
母としてのお仕事ミッション完了。
父がいなくてもこなすことができる。わかっている。
いなくてもできるって。
いつも寝かしつけの後に帰ってくるから。
でも、今日は明らかに遅すぎる。
なんで帰ってこないのか。
どこかで酔いすぎて駅を徘徊しているおじいちゃんになってしまったのか。強盗にあって、誘拐されたか。
変な心配をするが、ギリギリまでラインや電話はやらなかった。楽しんでいるのかもしれないし、邪魔しちゃいけないと思っていた。
交際して15年、結婚して、8年。もう、息をするタイミングをわかるくらいに付き合いが長い。付き合って初めてですみたいな恋人同士のように嫉妬するなんて薄れている。ライン交換なんて、業務連絡のようだった。お互いに既読スルーや意味のないスタンプを送って終わることもある。それくらい信頼関係を得ていたと思っていた。それは妻としての絵里香だけだったのかもしれない。
本当は些細な連絡や、会話をする時間、気にしてあげるところがこどもと同じくらいに夫を見てあげなくてはいけなかったんだろうなと後々なってから気づいた絵里香だった。
寝かしつけも終わり、連続ドラマを見る自分の時間や洗濯物を畳む時間、洗い物をする時間を確保して、どうにか落ち着いた。ソファに座り、ふとスマホを見て、時間を確認すると午後23時。こんなに遅く帰ってくることはなかった。ラインのスタンプを押すと、すぐ既読にはならない。
無料通話をしてみると、応答がないと出る。かけ放題の電話の方を試してみるとそれでも、出る気配はなかった。
ついでにメッセージを残してみる。
『今、どこにいるの?帰り遅くない?何時帰るの?』
質問攻めのメッセージを残して、気にしている素ぶりを見せて、体は正直だ。瞼が重くなってきて、ソファにブランケットをかけて、寝入ってしまっていた。
本当は夫のことを気にするほど、体力は残されていなかった。
体を休めたいし、明日も仕事がある。とにかく、明日の朝にまでに帰ってきてさえすれば、どうにか仕事に行ける。
そう思っていた。
世の中の奥様方はきっと怒って、鍵を閉めて夫をうちに入れないとか、鬼電をするとか、ネチネチと足跡をのこすときく。
そういう労力あるって素晴らしいって感じる。絵里香にはそこまでする気力、体力は残されていない。
だから、夫との夜の営みも全然気にすることはなかった。
男は出さないと発散されないってわかっているのに相手にする余裕がない。
いや、でも絵里香も、わかっている。これじゃ、ダメなんだって。
確かにずっとレスでいるのも、夫婦としておかしいって。
気持ちがお互いに外側に向いているのがよくなかったのかな。
子どもも2人で体力的なこともあり、もういいって思っていたし、ホルモンバランスもあって、月経も来るか来ないか、安定しない。
プレ更年期かという症状もある。
婦人科のクリニックに通うことが多くなっている。
夫にもうときめかないのがいけないんだろう。
スーパーで働く、上司のダメ店長の方が、夫より若くて、ダメなんだけど、自分を上げてくれるそういうところが、今の絵里香には安心できた。
仕事は完璧で家事、育児はほどほどの夫より、何もできない店長がそばにいてくれた方が自分自身上に上がれないが、下がりはしない。
心の安らぎって、ただ一緒にいるだけではなくて興味があるか、結婚したら生活というものが存在し、それによって恋愛が消えていく。人間、良いとこどりがしたい生き物なのかも。
不倫はほぼ、外で会うし、生活は見えない。
お互いが綺麗な状態で心だけが鷲掴みする。
ごく一部分がフォーカスしているから世の中の男女は現実逃避して、不倫に走るのかもしれない。
絵里香もその1人なんだ。
仕事という本当で包み隠して、休憩時間に人目を盗んで、身を委ねた。
期待してくれている自分に満足感を得られていた。
ダメだってわかっていても、やってしまう。
ニコチンの入った紙タバコと同じ感覚だ。
母親として、妻として良くないって知っている。もう、良いんだ、それで。
絵里香は、今まで吸ったこともないタバコを彼から奪い、自分も吸ってみたが、思いっきり、むせる。
自分には合わない。
このスーパーの独身店長#加藤龍次郎__かとうりゅうじろう__#。
絵里香の前ではダメな店長を演じているが、本当は敏腕に仕事をこなす男だった。
そうでもしないと絵里香はこっちを向かないことを知っている策士だった。
既婚者でもあっても、このスーパーには欠かせないベテランのレジ打ちパートの榊原絵里香。
辞めてほしくないって思ってから、体の付き合いも始まった。
ある意味、アイドルの枕営業のような、そんな状況だった。
加藤にとっては、絵里香は絶対いてもらわないといけない存在だ。
バックヤードで過ごしていた2人に、新人の井上舞子がやってきた。
「せんぱーい!何か、セルフレジがエラー表示なって動かないんですけど、どうしたらいいですか?」
「え、なに、また動かないの?今すぐ行くから。んじゃ、店長、それでお願いします。」
シフトの希望休をお願いしていたということにしようと2人で話し合っていた。まさか、違うことしてるなんて疑うことはないだろう。
「ああ。」
「2人で何してたんですか??」
舞子が白々しい態度に察した。
「別にシフトの希望休をお願いしてたところだよ。」
「そう。井上さんも来月の希望休まだ間に合うから、メモしてカレンダーに貼っておいてね。俺も、棚卸しやらないとな。今日休みの鈴木さんの代わりしないと菊池さんが怒っちゃうからな。」
腕まくりをして、加藤はバックヤードからごまかすように出る。
2人の様子が明らかにおかしいことに舞子は疑問符を浮かべる。
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