ナニカトナリニナニカイルヨ

山梨から東京には大月を経由して中央線で戻った。

大月での一泊は風呂がよかった。


1時間半かけて、新宿の紀伊國屋の近くのカフェで、およそ25歳の赤い服の中山真知子に会うことになった。今回の依頼人だ。


「私、ストーカー被害にあっているんです。いつも見られているのではないか、もうこわくて怖くて。」

「それは、お気の毒に。お困りなんですね。」

僕は中山ががくがくと震えるのを見て、よほど心労があるのだと思った。

事前に、依頼人の中山には最低限のプロフィールを書いてもらっていた。


「お任せください。」

僕はふと鞄を持って席をたとうとした。


すると、中山は突然慌てて、それを止めた。

「先生、実はもう一人同じ被害にあっている私の友人がいます。

助けられませんか?」


僕はここであまりにも、強引にとめられた。

そこで不可解に思った。

「なるほどね。まず、出身の小学校から書いてくれる。」

「そ、それは、勤め先のことがあるから。」

「そうか。そうだよなー。ご友人とは。」

気を取り直したようだ。

「友人っていうのは、仲のいい子が5人です。」

「5人も?やけに多いな。仲のいい子って女の子だよね。その5人のうち」

くいついてきた。

「1人、いえ2人、いえ、ひ...1人です。」

「そうか、ごめん、被害にあっているあなたの目の前で、こんなことを言うのも心苦しいんだけど、ストーカーだもんね。じゃあ。警察に届ければいいんだよ。

でも、そのストーカーは普通は男だけど」

中山は、自然にか不自然にかスイッチを入れたように、ねっとりとした目をした。

僕と目が合うと、中山はすぐに下を向いた。


「その子に、気をつけて」

どこからか、声がする。


ガチャン!!


突然、何かが割れる音がした。

向こうの方を見ると、ウェイターがコーヒーカップを落として割ったようだ。


「またあいつか!」

中山が心のなかで叫んだのを、僕は聞き取った。


「ありがとう。ナニカトナリニナニカイルヨさん。」

僕は、心のなかで、その男に礼を言った。

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