第32話 教導魔術師団① 

「で、さっさと直せ。そして詫び料として貴様の神器を渡せ」




 クランのあらゆるメンバーに睨まれつつ、受付に話をして案内されたのはだだっ広い訓練スペース。


 しかも2時間以上待たされたうえ、なんかスペースに着々と人が集まっていた。



 やっと来たクランマスターの冒頭のセリフである。


 この後の展開も何となく予想できる。



 が、ちゃんと直すべきは直しとかないとね。


 というわけで【リターン】を使って『反撃の衣』を元に戻す。


 どこからともなく粉が集まってきてあっという間に服が形成されていく。


 僕の手元に現れた反撃の衣をクランのマスターに手渡した。


「じゃ、僕はこれで……」


「ただで帰れるわけないじゃろ」


「いや、『オノレンジャー』のマスターは試合の規定の通りだから僕を責めたりしていませんでしたよ?」


「ふん、あんな歴史の浅いクランの若造に何がわかる!」


 ていうかさ、試合じゃなくてダンジョンで武具を壊す敵がいたとしたら敵に文句言ったりしないでしょ。


 『教導魔術師団』のクランマスターは僕よりちょっと背が低く、白いシルクハットとマントを纏っているんだけど、ちょっとアレな感じの人なのか?


「貴様、手ぶらで来ているようだが魔法返しの神器はどうした? 持ってこなかったのか?」



 ???



 何のことだろうか。


 僕はまだ神器を持たせてもらっていない。


 そもそも魔法返しの神器なんか知らないし。


 どうもこのクランとしてはそんなものがあったら困るらしい。


 魔法至上主義の『教導魔術師団』の大敵だからだ。


 さらに、一度は底辺まで落ちた『白銀の輝き』が猛スピードでランクを上げていることにも危機感を持っていて、また『教導魔術師団』が『白銀の輝き』の後塵を拝するのはいやだ、ということらしい。


 Wikiで見た通りプライドの高い集団だ。


「大会で使ったであろうが。拳でウインドアローを殴り返していたであろう。しかも返ってきた魔法はレナが放ったものより威力が上がっておったからの。私の目はごまかせん」


 いや、別に攻撃を跳ね返せるスキルもあるでしょうに。


「不勉強な貴様に教えておこう。反射系のスキルはな、本来の威力以下でしか返せんのだよ。つまり貴様のナックルが神器である可能性が高い」


 残念、普通のガントレットでした。


「ふむ、どうしても渡さぬか。なら貴様を人質にして『白銀の輝き』にある神器と交換といこうか。お前たち、死なぬ程度に魔法を放て!!」


 ざっと目視だけで前後左右に40人くらいはいる。


 さすがにこんだけの人数から間断なく魔法を放たれると厳しかっただろう、以前の僕なら。



「燃やし尽くせ、ファイアランス!」

「凍てつく氷の風よ、フリーズブロウ!!」

「疾く駆けよ、ウインドアロー!」

「飛来せよ石礫、ストーンバレット!」

「貫け雷鳴、ライトニング!」

「まばゆき光の玉、ライトボール!!」

「はばたけ闇の翼、ダークウイング!」



 とまあいろんな魔法が目白押しだ。


 僕のレベルまだ500台とかなんだけど、僕じゃなきゃ死んじゃうよこんなの。


 だが、僕に向けられた色とりどりの全ての魔法は僕に当たる直前でどこかへ消え去った。


 しばらくの間何回使われたかわからないがやっと魔法の嵐が止む。


「なぜ……? なぜ無傷なのだ? はっ、まさか魔法無効化の神器でも持ってるのか!?」


 いい加減神器という視点から離れればいいのに。


 僕には都合がいいから黙っているけど。


 【エクステンション】により強化され使い勝手がよくなった【リターン】。


 その一つに持続時間の増加がある。


 今までは同時にされた攻撃なら全て跳ね返せるだけだったのが、時間差がある連続攻撃全てを一度の発動だけで対象にすることができるようになった。


 あまり時間が離れすぎると無理だが、ある程度の時間内なら【リターン】1回の発動だけで事足りる。


 そしてもう一つ。


 跳ね返すタイミングを調整できるようにもなっていた。


 今までは攻撃を受けたらすぐに跳ね返していたが、受けた攻撃をいったんとどめておいて、あとで放つことができるようになったのだ。


 受け止めた攻撃はいったん消えてしまい、その間の攻撃はいったいどこにあるのかは僕にもよくわからないが、そのせいで魔法無効化をされたように見えたのだろう。


 対象は魔法だけじゃないんだけどね。


 魔法をめっちゃストックできたので、後でダンジョン攻略の際にチマチマ使わせてもらおう。


 これだけで勘弁してやろうと思ったが、次の言葉は聞き逃せなかった。



「悔しいが、こんなにも魔法が通じんとはな。だが、お主に魔法が効かずとも仲間は違うまい。調べているぞ、白鳥綾はお主の恋人とな。多少は復調したようだが、そいつを人質にすればよいのだ……」




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る