第31話 クラッシャー 

「おい見ろよ、『クラッシャー』だぜ……」


「あいつに絡むと全身の武器防具を粉々にされるぜ。絶対煽るなよ!」





 中級ダンジョンから帰ってきてギルドに入って成果を納めようとしたら、そんな言葉があちこちから聞こえてくる。


 クラッシャー、って僕の大会の試合を見ていたネット民が勝手に名付けたのだがとりあえずそれが定着しそうな感じだ。


 冒険者界隈は意外と狭い。


 ネットで情報収集するのは当然なのでそういうことが広まるのも早い。


 まあ僕に絡んでくるやつはいなくなるだろうし、みんながそう思ってくれればホントのスキルの効果を誤魔化せるから別にほっといていいかな、と思ってる。


 僕だって何もなければあえて壊そうとか思ったりしない。


 京極が相手ならやるかもしれないけど。



◇◇◇



 ダンジョン攻略を終えた後、僕はクラン『オノレンジャー』を訪れていた。


 クランの建物はちょっと郊外にある3階建てのアパートみたいなやつだ。 



「ようこそ、斧を愛する『オノレンジャー』へ!! クランへの加入希望ですか!?」


「あ、えっと、クランマスターにお会いさせていただきたいです。帰来誠と言います。『白銀の輝き』のマスターから連絡がいっていると思います」


「あ、少々お待ちください」



 僕が加入希望者じゃないと知って少し落胆した受付嬢が話を確認して、そのままクランマスターの部屋に通される。



「お前が誠か。武器を直せるらしいが、あんな粉々になったものをどうやって直すんだ? ああ、別に恨んだりしていないぞ。あれはそういう大会だからな。だがまあ直してもらえるなら直してほしいのだ。あれも風の魔法を使える貴重品だったからな」


 タンクトップから見えるムキムキマッチョなクランマスターがわりとあっさりめに話してくる。


 部屋には斧のレプリカが並んでいる。


 このクランは当然斧好きが集まっている。


 そして、重視するのは斧を扱える肉体と技量。


 なので魔法を使える人はあまりおらず、魔法が必要な時は魔法を使える特殊な斧を使うことになる。


 ちなみに回復は『天使の手腕』から人を借りてるそうだ。


 僕はどう見ても肉体派じゃないのでここのクランマスターから勧誘されなかった。


 そして、【リターン】を発動して僕が粉々にした風の魔法が使える斧を僕が壊す前に戻した。


 どこからともなく粉が集まってきてあっという間に斧の形を成していく。



「ふむ…… これは、壊したり直したりが自由自在か。確かに直す条件として起きたことを口外しない、というのは正しい判断だな。なかなかいいスキルではないか。どうだ、君へ武具の修理依頼を外注することはできないかね。無論、正式にマスターの白鳥殿と話もするが」


「いえ…… それがスキルの発動に条件がありまして。それがなければ僕は直すだけで食っていけたのかもしれませんが……」


 ということにしとかないと、僕はただ直すだけの人間にさせられちゃうからね。


 今の目標は、綾といっしょにダンジョンの攻略をすすめることだ。


 かつては里香といっしょにしていた目標だったのだけど。


 それと、【エクステンション】により強化された【リターン】は粉々になった物さえ元に戻せるのだけど、さすがに何でもかんでも戻せるというスキルじゃなかったというのもある。


 ま、他人に教える必要はないから言わないし、たぶんこの先困ることはないはずだ。


 そして、僕は役割を果たしてからその場を去った。


 このクランは至極まともな対応だった、というのを次のクランで思い知ることになる。



◇◇◇



 『オノレンジャー』を訪れてから数日後、やっと『教導魔術師団』を訪れることになった。


 大会の時に壊した『反撃の衣』を直す、ってうちのマスターが向こうのマスターに連絡していたんだけど、やたら返事が遅かったんだよね。


 都心の一等地に建物を構える『教導魔術師団』は、昔からある由緒正しいクランらしい。


 そして、昔は長いことクランランキング1位で、『漆黒の瞬き』や『白銀の輝き』が出てくるまでは日本のダンジョン攻略を引っ張っているクランだった。


 いまでもランキング3位の実力はあるが悪い方向に働いていてエリート意識ばかり高くなった厄介な集団である、というのがWikiのご説明だ。



 クランの建物に入るなり冷たい視線が突き刺さる。


 さらに冷たいだけならともかく殺気も混じっている。


 マスターが訓練の時にたまに見せてくる殺気に比べれば生ぬるいんだけど、あんまり気持ちのいいものじゃない。


 何かしたっけ? と思うがそういえば、



『え、まさか、嘘よね、やめなさい、この卑怯者! クラン総出であなたを襲うわよ!!』



 って四条レナさんが言ってたな。


 あれマジだったのか?





◆◆◆◆◆◆


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