第29話 スキルブックは1人1回まで
マスターが国立ギルド研究所副所長の真矢さんを呼ぶと、今度はすぐにやってきた。
「やあやあ、私も見たよ! ちゃんとスキルを使いこなしているようだねぇ。私の助言は役に立ったかい?」
そう、とても役に立った。
実際の使い方とかはマスターとの訓練で見つけ出したのも多いけど。
そしてまた【魔導鑑定】で【エクステンション】を見てもらう。
ちなみに今回もタダでいいと言う。
「【エクステンション】はセットになるスキルを選んでそのスキルの効果を延長、拡大するもの、とあるね。パッシブ系かな。誠の場合は当然【リターン】一択でしょ。組み合わせた場合何ができるかは試してみないと分からないわね」
となると何を試せばいいのやら……
とりあえず【エクステンション】のセット相手に【リターンLv4】を指定する。
「こういうのはねえ、だいたい弱点をカバーしてくれるのがお決まりのパターンなんだよ。何かないの?」
真矢さんに聞かれるけれども、弱点かあ……。
そういえばあまりに原型をとどめていないものって戻せなかったんだよね。
探索者大会で粉々にしてしまった武器とかも後でこっそり試したけど戻せなかったんだ。
いま使ったスキルブックも使ったら跡形もなく消えてなくなって戻せなかった。
試してみるか。
《【リターン】、スキルブックを使用前に戻す!》
そうすると僕の手元に茶色く装飾された本が現れた。
「いやいや、これはこれは…… 本当に興味深い。使用済みのスキルブックが復活するとはね。さて、口止め料が必要じゃよな?」
「はるか、お前肉体を若返らせてもらったのにまだこれ以上上前はねる気かよ? 強欲すぎねえ?」
おお、マスターがめずらしくドン引きしてるよ。
まあいいじゃんね。
どうせ何人に使っても復活できるんだし。
というわけで真矢さんにスキルブックを渡し、さっそく彼女がそれを使う。
何をゲットしたんだろう。
◇◇◇
「……【変装】だったわ…… いらない」
そしてまた【リターン】でスキルブックを元に戻し、今度はマスターに使ってもらったが……
「え、お父さんの追加スキル【聖者】? 『銀狼』と呼ばれて暴れまくってたのに? 慈悲のかけらもなくダンジョンで魔物を屠ってるし、昔は気に入らない者を端から殴り倒してお母さんに怒られてたのに?」
綾がマスターを煽り散らしている。
マスターが僕を特訓していた間、綾と僕はどこへも出かけられず、夜は夜で【気配察知】のレベルを上げるため不定期に襲撃されていたので、いろいろと溜まっているのだ。
「綾…… お父さんにキツイなあ…… 遅れてきた反抗期なのか? 【変装】よりマシだろ?」
「あたしに喧嘩売ってんのかい? 依頼料取るよ?」
「すまん。【聖者】も見てくれ」
あっさりとマスターは降参した。
「ふん、まあいいさ。最上級の回復魔法、守護魔法と自動回復効果が得られる、と。なかなかいいじゃないか」
「俺はあんまり回復役とかに回る気はしねえんだがな…… 自動回復は便利だが。ほら、綾も使ってみろよ」
また【リターン】でスキルブックを復活させて、綾に手渡す。
「……【白銀の剣聖】が【白銀の剣神】になったわ!!」
おお、正統派な進化だ。
ていうか、剣聖のさらに上があったんだな……
あとで澪さんたちにも使ってもらおう。
これでさらにクランの戦力が上がるぞ!
◇◇◇
ヤミキンさんの配信はメガヒット、とまではいかないがそこそこの同接を稼いでいたらしい。
ただ、僕たちの目論見は独占生インタビューの配信に応じておいて、それを理由に他の取材などを断る名目を得ることだ。
わざわざ独占と銘打ったことを理解していないか、分かってて依頼してくる他のYoutuberやテレビもいたが、全てお断り。
だいたい僕は探索者大会での一発屋だ。
深入りする理由はない。
だが、それとは別にクランに直接乗り込んできた人がいた。
◇◇◇
「おい『銀狼』、いるんだろ。ちょっと話させろや」
練武場で手合わせをしているマスターと綾、それを見ている僕のところにやってきたのは、黒崎大吾、『漆黒の瞬き』クランマスターだった。
「よくもノコノコと顔を出しやがって。貴様に出す茶はない。帰んな」
露骨に嫌そうな顔をしてシッシッと手を振るマスター。
遠目でしか見たことないけどあれはクランマスターの黒崎さんだ。
そういや僕あの人の黒曜剣も修復してたなあ。
もしかして修復してほしくて来たとか?
【グランドリペア】もちがいるからそれはないか。
「そこにいる帰来誠に用がある。クランの移籍は基本的に本人の意志次第だ。あとは移籍金を払えばいい。いくらいる? それと誠、貴様の事情は京極から聞いている。こちらに来れば通常の出来高に加えて無条件で京極の報酬の半分を貴様に追加しよう」
◆◆◆◆◆◆
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