第28話 京極の焦燥
『漆黒の瞬き』クランマスターの黒崎は全国探索者大会(Lv1000未満)の中継を見ていた。
レベルは低いが有望な新人をスカウトするため、部下に任せず毎回チェックしているからだ。
「格闘センスはまあまあ。痛覚耐性は高そうだ。それと何かスキルを隠しているな。あの程度の武器や防具ではありえない攻撃力を見せている。もしかしてレベル差があればあるほど強くなるスキル……かもしれん。あいつをスカウトしてみるか」
そして黒崎は京極を部屋に呼びつける。
「京極、まだ俺の武器を完全に修復できる目途がついていないな。あれから報告がないぞ。おまえを遊ばせておくわけにはいかん。全国大会で優勝した帰来誠をスカウトしてこい」
その名前を聞いた瞬間、やはりか、と京極は体を強張らせた。
「どうした、いつも通り我がクランに入るメリットと移籍金を積めばよいではないか。あの『白銀の輝き』に金を渡すのは気に入らんが、どうやら白鳥のやつ持ち直してきたようだ。まだ数少ない人員を引き抜いてわからせてやろう」
「その、お言葉ですが、今のクランメンバーで十分ではないでしょうか? Lv1000以下の雑魚をわざわざ入れなくとも……」
「バカか、有望な奴がいたら他のクランに取られないようにすべきだろう。仮に思ったように使えなくても、飼い殺しにするか使いつぶすかすればよいのだ。それにそいつはLv324で優勝したんだぞ。大会を見ていなかったのか? 引き抜く価値は十分にある」
京極も大会は見ている。
というか事前に知っていたから弟子である雨田をけしかけたし、『スキルブック』を献上させるため妨害魔法の得意な仲間を観客に紛れ込ませて雨田の敵を妨害していた。
が、なぜかその仲間は幼児退行しているし、黒崎の名前とクランの金を使ってギルドにルールを追加させたのに雨田は一撃で負けるし、で散々だった。
そして黒崎の性格からして絶対引き抜きをかけるだろうということは予想していたが、まさかその役回りがやってくるとは思っていなかった。
「ですが、彼は憎き『白銀の輝き』所属なのですよ。求めて敵を引き入れるようなものです。了承したふりをしてスパイをするかも……」
「京極、何か隠しているな? 素直に吐くか、ここで死ぬかどちらか選べ」
挙動不審な京極の様子を黒崎が見逃すはずもなく、黒崎の鋭い目で見られた京極は追い詰められたように感じた。
「誠は…… 帰来誠は、私が【グランドリペア】の持ち主を見つけてクランから追放した者です」
「ということは、俺の黒曜剣を修復していたのもそいつか。ちょうどいい!! 俺の武器を完璧に直せてしかも大会の優勝者で、『白銀の輝き』の戦力も減らせる。一石三鳥ではないか!」
だが、同時に黒崎は京極が誠のことを黙っていたことにも気がつく。
京極には【グランドリペア】の検証と前任の復帰を命令していたはず。
追い出した者が全国探索者大会に出ているのだから前任の居場所を探していました、なんてのは通用しない。
また、【グランドリペア】の検証でいい結果がわかったのなら報告にこない理由はない。
つまり京極はクランマスターへの裏切り、とまではいかなくても報告すべきことを怠っていたということになる。
そのことを指摘された京極は黒崎の鋭い眼光にたじたじになる。
「申し訳ありません、他意はないのですが【グランドリペア】をギルド研究所に見てもらった結果、黒曜剣の修復は半分程度しかできず、完全修復には本人のレベルが9999にならないと無理だと言われまして、他に目途が立つまで黒崎さんをがっかりさせたくないので報告の時期を遅らせていました」
「レべル9999…… 不可能ではないか。なら前任を探せばよかったであろう? そうでなくても早くに報告すれば他の手段を講じる時間を取れたはずなのに、貴様の罪は重いぞ」
「誠に申し訳ありません!! ですがもう一つありまして…… 誠を追い出す際にあいつの幼馴染を無理やり奪っているのです。しかもその幼馴染の初めても俺が奪っています。だから絶対に勧誘に応じないと思います」
京極は言ってしまった。
黒崎からどんな叱責の言葉が飛んでくるのか。
だが、返ってきたのは予想とは異なるものだった。
「女を盗られたくらいでなんと器の浅いやつよ! だが、完全修復能力はやはりほしい。それに大会の様子を見るに直すだけの能力ではなかろう。俺様が直々に赴いて確認してやる。うまくいけば今削っているお前の報酬の半分を誠に渡すことにする」
「はあ? い、いえそんなこと……」
「ここまで対処を遅らせたお前が悪い。本来なら貴様を追放するところだがお前はまだ働いて稼げるやつだ。それとしばらくお前のノルマは3倍にする。怠けていた分を取り戻せ。わかったな?」
ますます状況が悪化してしまった京極は頭を抱えてしまった。
クランを抜けたいと言っても黒崎は許さないだろう。
過去に不義理を働いて逃げ出した奴はことごとく見つかって相応の処分をされているし、それに立ち会ったこともある。
「くそっ、あいつのせいだ!」
袋小路に入り込んでしまった気分と同時にこうなった原因である誠への憎悪を募らせる京極であった。
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