第30話 黒崎襲来

「え、普通にイヤですけど」




 京極の報酬を削り続けるってところだけいいかなって思ったけど、『白銀の輝き』を裏切るなんてありえない。

 

 ヤミキンの配信見てないのかな。


 『白銀の輝き』にずっといます宣言だったのだけど。


 それに恋人の綾もいるし。


 そう思っているといきなり黒崎さんの姿がブレる。


 そして、黒曜剣が僕の首元に突きつけられていた。



「……ほう、ただの寝取られフニャチン野郎じゃなかったか」


「どういうつもりですか?」


「これにビビるやつならいらんと思ってな。たとえ俺の武器を完全に直せるとしてもだ。ホントに刺されると思わなかったのか?」



 マスターとの訓練で本気かどうかは何となく分かるようになっていたからね。


 マスターは僕を痛めつけたが絶対に致命傷にならないようにしていたし黒崎さんも本気で刺す気がないことはわかっていた。


 それと、拡張された僕のスキルのおかげで万が一にも対応できるから、というのもある。


 手の内を明かすようなことは言わないけど。


 にしても、僕の後任の【グランドリペア】はダメだったんだろうか。


 京極があんなに自信ありげに連れてきていたのに。



「ふん、そいつなら俺の武器の消耗具合の半分しか修復できんらしくてな。おかげで稼ぎが減ってかなわん。京極の金は減らしてやったがな。こちらに復帰したら京極の上司にしてやってもよい。顎で使ってもいいぞ。それに、そこの弱小クランだと高い金は払えまいて」


「金、金、金、クランマスターとして恥ずかしくないんですか?」


「これでもクランの総責任者なのでな。生きて行くために綺麗事ではすまんのだよ。金が全てとは思っておらんが、それで動く人間が多数なのも事実だ。ほれ、そこに金に釣られてメンバーのほとんどを引き抜かれた哀れな見本がいるぞ?」



 マスターのことを悪く言ってほしくない。



 『価値観が違っただけだしその人たちにも生活があったのだから気にしていない』、とマスターは言っていた。



 でもマスターの方を見るとさすがに握っている剣が少し震えていた。



「そんな安い挑発に俺が乗るかよ。ガキじゃねーんだ」



「ほう、ここで決着をつけてやってもよいのだぞ。白銀の神狼フェンリルを倒して得たフェンリルソードを持つ『銀狼』、ブラックアダマンゴーレムを倒して得た黒曜剣を持つ『黒狼』、今まで雌雄が決していないが、なに、鈍りきった今の貴様なら容易く打ち破れよう」


「バカ言え。決闘まがいをして勝ったら強引に誠を連れて行く気だろうが」


「そんなの絶対認めないから。お父さん、二人がかりならあの人倒せるよね?」


 そういって綾が聖剣クラウ・ソラスを構える。


 黒崎さんはその剣を一瞥した後、ため息をついた。


「ん? その剣は使い物になっていないはずだが…… そういうことか。まったく京極の奴め、余計なことして『白銀の輝き』を復活させおったな。……さすがの私もお前たち親子を相手にする気にはならん。今日はここまでにしておいてやる。だが、誠、お前を諦めたわけではないからな!」



 いや、男にそんなこと言われてもうれしくないんですけど。


 もう来ないでほしい。


 変に探索者大会で優勝しちゃったから僕をスカウトに来たのかな。



 僕は嵐の如く乗り込んできて嵐の如く去っていく黒崎をみて思わずため息をついた。




「んー悪いな。まさかあいつが黒曜剣直してほしさにスカウトに来るとは予想できなかったな」


 『銀狼』と『黒狼』はどっちが強いんだろうか?


「正直分からん。俺にはブランクがあるが新しく手に入れたスキルもあるし肉体も全盛期だ。勝てたかもしれんが、それでもあいつは諦めんからな。意味のないことだ」



◇◇◇



 誠のスカウトに失敗してから帰ってきた黒崎は先ほどまでのやり取りを思い出す。


 剣を突きつけた誠が微動だにしなかった。


 あれは反応できなかったのではない。


 もし攻撃されても大丈夫だという確信があったのだろう。


 その証拠にあの雄也も動かなかった。


 クランメンバーに甘いアイツが例え俺に当てる気がないと見抜いていたとしても何もアクションを起こさないのはおかしい。


 対応策があるのを知っていたのだろう。



 にしても京極め、本当に余計なことをしおる。


 別にアイツの寝取り癖なんぞはどうでもいいが、その行動が今の状態を招いている。


 俺の黒曜剣を万全の状態で振るうことができなくなり。

 

 無能と追い出したはずの者がわずか300レベル程度で大会に優勝し。


 京極が壊させたはずの聖剣が直っている。


 雄也もなぜだか活力に満ち満ちていて、肉体的に衰えの避けられない俺だと非常に厳しい戦いになりそうだった。


 まるで若返って全盛期になったやつを見ているよう。


 それもこれも全てあの誠という男が『白銀の輝き』に入ってからではないか。



 ということはすることは決まったな。


 ちょうど呼びつけた京極が部屋に入ってきた。


「京極、誠を何としても我がクランに引き入れよ。あいつらを使うことを許可する」


 京極は驚愕した。


 誠にそこまでする価値はあるのかと。


 合同攻略の時は『白銀の輝き』を貶めるために使ったが……


「それでも入らない可能性がありますが……」


「洗脳でも誘惑でも何でも構わん。最悪スキルさえ使えればよい。どう手を尽くしてもダメな場合は、消せ」


 黒崎は考える。


 誠のスキルはぜひとも手に入れたい。


 手に入れて【魔導鑑定】でもさせればいろいろと判明するだろう。


 だがこちらに来ないというのならば、『白銀の輝き』をこれ以上復活させないためにも、闇クランを使ってでも存在を抹消すべきだ。



◆◆◆◆◆◆


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