第18話 初級ダンジョン

「ゴブゴブ、ゴブッッ!!!」



 初級ダンジョン『朝日』にて、僕はゴブリンと対峙していた。


 緑色の小人であるゴブリンに接近して、わざとゴブリンのこん棒振り下ろし攻撃を受ける。


 僕に当たる直前に【リターン】で振り下ろし攻撃を返すと、顔面に衝撃を食らったゴブリンが「ゴブッ」と言いながらのけ反った。


 そこへ腹パンを叩き込み少しだけゴブリンが宙に浮く。


 さらに追撃の回し蹴りを放つ。


 吹き飛んだゴブリンは死んでその体は消えていき、後には魔石が残った。


「いくら『銀狼』の指導を受けたからって、ソロで初級ダンジョンに行ってこいなんてスパルタすぎるよ……」



 連日にわたるマスターの指導しごきにより、何とか初級ダンジョンにソロで潜ることを許された。


 気絶せずかつ僕の心が折れない程度の痛みを与え続けられ(マスターはダメージコントロールが異様にうまかった)、【痛覚耐性Lv3】のスキルを持っている。



 また夜襲も繰り返されたので【気配察知Lv5】のスキルも身に着いた。



 攻撃面に関しては一通りの武器を試してみてどうやら僕には体術が一番向いているらしく、マスターから稽古をつけてもらって【体術Lv2】はできるようになった。


 ダンジョンに入るにあたっては、最初からいい武器や防具を使うと成長しないからという理由で安いアイアンナックル、皮の薄鎧というしょぼい装備をつけさせられている。


 せっかく僕が直したいい武器や防具があるのに使わせてもらえないなんて生殺しすぎる。


 やっぱり綾の初めての彼氏になったことを根に持っているだろ、あのマスター。



◇◇◇



 少し進むと、青くてぷよぷよした物体が見えてきた。

 スライムだ。


 巷によくある創作物だと汚物の処理をする便利キャラだったりすることもあるんだけど、現実だとそうはいかなかった。


 物を溶かすアシッドスライムというのが高難易度ダンジョンにでるけど、テイムスキルで仲間にしても酸が強すぎて容器ごと溶かすので実用化はダメだった。



 そんなスライムだが、ちょっと試してみたいことがある。


 スライムの攻撃方法はただの体当たり。


 普通の大人なら耐えられるレベルだが、何度も受けるとちょっと危険なくらいは強い。


 ぽよん、ぽよんと体を跳ねさせながらやってくるスライム。


 僕に当たる直前で【リターン】を発動し、それを跳ね返すと、スライムは少し後ろに飛ばされる。


 そんなことを繰り返して30回目でスライムは消え去り小さな魔石を残していった。


「あんまり実用的じゃないかもしれない……」


 敵の攻撃を確実に跳ね返せるならそれだけで倒せばいいじゃん、って思ったけど30回もかかるのはちょっとな……


 これなら普通に攻撃した方が早い。


 というか普通の攻撃の合間とか防御的な使い方のほうが良さげだな。


 

 そんな感じでゴブリンやスライム、ホーンラビットやビッグフロッグなどと戦いながら奥へ進んでいく。


 3層の中ほどまで進むと、【気配察知Lv5】に4体の反応があった。


 ゴブリンが正面と左右に1体ずつ、空中にはダンジョンビーが待ち構えている。


 囲まれている。


 珍しく動きが揃っているようで、4体とも同じ速度で距離を詰めてくる。


 ヘイトを買ってくれる盾役や敵を引き付ける斥候役がいればなあ、と思うがいないものは仕方がない。


 この中で一番食らうと痛いのはダンジョンビーの体当たり、その次は正面からのゴブリンのこん棒。


 左右から迫ってくるゴブリンからの一撃は食らうしかないかな。


 【痛覚耐性Lv3】に期待だ。



 やがて僕は4体の攻撃範囲内に入り、同時に襲いかかられる。


 右手の手甲でダンジョンビーの突進を受け止め、左手の手甲でゴブリンの正面攻撃を受ける。


 【リターン】を発動して、僕の利き手である右側のゴブリンからの攻撃を反射、これで3手いけるが、左側は……仕方ない。




 ガイイィィィン!! ×4





 ん、あれ、全部の攻撃を跳ね返しちゃった。


 ゴブリンは自らのこん棒の衝撃を受けてひっくり返り、ダンジョンビーも地面に落ちてきた。


 ここでまた空中に飛ばれると厄介なダンジョンビーに近付き、弱点である柔らかい腹部を連打して倒す。


 残りのゴブリンも起き上がる前に近付いて顔面パンチや正拳突きを叩き込んで順番に倒していく。



 おおっと、新しい発見だ。


 同時に攻撃されたら全部まとめて跳ね返せるらしい。


 これで何とか多対一でも対応できそうだ。





 マスターの指導じゃわからなかったから、やっぱり実戦は大事だよね。


 ダンジョン攻略もなんとかやっていけるかもしれない。


 そして、今日は実質初めてのダンジョンだったので5層まできて、他の探索者がちょうど帰ってきているのを尻目に帰還石を使って帰ってきた。



◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る