第19話 勉強代
「サプリーム認定おめでとう、綾」
「ありがとう、誠」
綾は覇王級ダンジョン『炎の聖堂』にソロで挑み、最奥のフェニックスを撃破して余裕で生還してきた。
同行していたギルド職員によりしっかり実績を確認されているので問題はなかった。
僕は前のことがあったからギルド職員ってちょっと信用できなかったんだけど、今度の職員はちゃんと真面目な人だったようだ。
「さてと、サプリームのリストはギルドによって公開されている。これとクランランキングの上昇もあわせて『白銀の輝き』復活に気づくやつも多くなるだろう」
笑みをこぼすクランマスター。
「これで『白銀の輝き』にサプリームは二人になったね、お父さん!」
「そうだ。ま、目指すはメンバー全員だがな」
ん? 二人ってことはもう一人は……
「当然俺のことだよ。ギルドのリストにも名前は載ってるぜ。何年かほっとくとリストから抹消されてめんどくさいことになるからたまにダンジョンには行ってたさ」
そうだったんだ。
現役の綾とあれだけやりあえるんだからそりゃそうかね。
「次は、誠の番ね」
「さすがに覇王級ダンジョンをソロってのはハードルが高すぎる気が…… 初級でもなんかしんどいのにホント綾を尊敬するよ」
「大丈夫だよ誠。お前の時は残りの3人とパーティ組めるまで待つからな。初挑戦ならパーティでもオーケーだ。つーか、ホントはソロとかありえないんだよ、死亡率が高すぎるからな。綾は特別だ。でも横に並びたいんだろ。頑張れよ」
おお、マスターがいつになく優しいぞ。
「だから、明日は初級ダンジョンを踏破してくるまで帰ってくるなよ」
前言撤回。
やっぱ鬼ですわ。
◇◇◇
初級ダンジョン『朝日』に入って最近見慣れてしまったゴブリンたちを殴り飛ばしながら進んでいく。
いつもと何か違うのは【気配察知】でわかるとおりずっと後方で誰かが僕を追いかけていることだ。
強い探索者のあとをこっそり着いていって取りこぼしの魔石なんかを拾うハイエナっていうのがいるけど、ここは初級ダンジョンだし違うと思うんだよね。
結局一番奥のボス部屋までその気配は消えなかった。
◇◇◇
ここのボスはゴブリンキングとゴブリンガード×2。
適正レベルはパーティで100くらい。
ソロならその1.5倍ほど。
レベルが上がれば上がるほど身体能力の上昇幅が上がるので、レベルが2倍違ったら単純に2倍強いということはなくそれ以上に強いということになる。
今の僕はレベル70なんだけど。
生意気にも頭に小さい王冠を乗せているゴブリンキングが剣をこちらに振り下ろすとそれを合図に2体のゴブリンガードが突撃してくる。
1体は躱して、もう1体の攻撃をギリギリまで引き付けて【リターン】でゴブリンガードのロッドの衝撃を跳ね返すと同時に深く腰を下ろして正拳突きを当てる。
こうやって【リターン】の跳ね返しに自分の攻撃を重ねるとダメージが増えるんだよね。
吹き飛ばされたゴブリンガードと入れ替えにやってきたゴブリンガードにも同じことをして最後は2匹まとめて回し蹴りで吹っ飛ばす。
その2体は余裕をもってこちらを眺めていたゴブリンキングにぶつかり消えていった。
顔をしかめた(ように見える)ゴブリンキングは僕に向かって大剣を振り下ろす。
もちろんそれも跳ね返して、
「ナックルブロー!」
追撃のボディブローを叩き込む。
少しよろめいたゴブリンキングだが、さすがにボスだけあって体勢の復帰も早い。
今度は大剣を横なぎに払うが、それも再び跳ね返し今度は飛び膝蹴りを顔面に食らわせる。
さらにゴブリンキングが態勢を立て直す前に
「マシンガンナックル!」
ドカドカドカドカ……と拳の連打を叩き込んでやる。
今のところこれが最大の攻撃だ。
やがてゴブリンキングは大剣を手放して、膝から崩れ落ち消えていった。
◇◇◇
「……ふう、終わった。疲れたなあ」
「よう、お疲れさん。疲れてるとこ悪いんだけどさ、帰還石持ってるよな? よこしな」
後ろから話しかけられる。
何かデブ、チビ、ハゲの3人組だ。
当然知らないやつらだ。
「何で僕が帰還石を持ってると?」
「おまえ、初級ダンジョンなのに毎回帰還石使ってるって話題になってんぜ。使うなら人のいないところで使うべきだったな。さあ、ボスを倒した後で体力も魔力もないだろう。死にたくなければ帰還石を渡しな!」
「これを売ればしばらくダンジョンに潜らなくてよくなるな!」
「俺たちは上級ダンジョンもクリアできるくらい強いんだぜ。見られたお前が悪いんだ、高い勉強代と思いな」
そう言ってるが、ダンジョン内で犯罪をして相手を生きて帰すはずはないことくらい僕にもわかる。
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