第17話 お仕置き
「やあお待たせ綾。マスターの訓練がきついのなんのって。抜け出す口実ができてよかったよ。それで武器を直せばいいの?」
思いのほか早く誠が来てくれた。
これまでのやり取りはあらかじめメッセージアプリで知らせてある。
早速誠のスキルで村三兄弟の武器を直してもらった。
「これでよし、っと」
「ありがとう誠。これで問題ないわよね鴻上さん。そこの3人については私は納得してないけど武器を壊したことだけは謝るわ。ごめんなさいね。さあ、もうこれでいいでしょう?」
だが、鴻上と村三兄弟はニヤニヤしている。
そして鴻上が汚い口を開いた。
「綾くん、武器を直しても君が武器を壊したという事実は消えないんだよ。わかるかな、例えば人を怪我させたら、被害者が病院で治療を受けて完治したとしても傷害罪は適用されるんだよ。つまり君の状況は一切変わっていない」
「何が言いたいのよ」
「さっきも言ったよ。彼らには相応の誠意を見せるべきだとね。それと君の犯罪行為を報告するかどうかは私の胸先三寸にかかっている。いいホテルを取っているんだよ、今晩来たまえ」
そういうことか。
下種め。
こいつらどうしてやろうかしら。
いっそのこと斬り刻んでやろうかしら。
だけど、それよりも誠の行動のほうが早かったようだ。
横で誠が何かを小声で呟くと、鴻上の体は崩れ落ちて座り込んだ。
「誠、何したの?」
「大丈夫、綾。ここは僕に任せて。んでこいつらも、っと。それからついでにっと」
村三兄弟は倒れて……そして寝息を立てていた。
「もう大丈夫だよ。じゃあ誰か来る前に帰ろっか、綾」
「え、ええ」
しばらくしてギルドの大部屋から誰も帰ってこないのを不審に思ったギルド職員が目にしたのは、大の男三人が眠っている姿と、制服をきた鴻上が四つん這いになって「あうあうあぐあぐ~」と幼児退行している姿だった。
◇◇◇
ギルドからクランに帰る途中。
僕は綾に何をしたか説明した。
黒き三連星の武器を直したあと、黙って話を聞いていたがあのギルド警察の最後のセリフで綾に手を出そうとしたことを聞き、僕は怒った。
というか怒りすぎて冷静にすらなっていた。
隣の綾もだいぶとさかにきていたようだからそれを見てやばい、って思ったのもあったかもしれない。
今にも斬りかかりそうだったし。
まずは、【リターン】を使ってギルド警察の脳みその中身を1歳児まで戻した。
その腐った性格を一からやり直せ、という思いをこめてね。
案の定、彼は体のバランスをとれなくなって座り込んでいた。
そして黒き三連星。
元凶のこいつらだが、いろいろと騒がれては面倒なので、まずこいつらの状態を3日前の真夜中に戻す。
夜更かしはしない人たちのようで、ちゃんと寝ていた。
これは綾に襲いかかる前の状態だから、今起きたことを覚えているはずもない。
さらに、3人のレベルを1まで戻した。
僕が『漆黒の瞬き』にいたときに彼らを見たことがあったけど(たぶん向こうは覚えてない)、よく自分よりレベルの低い者たちにマウントをとっていたんだ。
だから、レベル1にしてやった。
蔑まれる者の気分を味わうといいさ。
「誠って、顔に似合わず結構えげつないことするのね……」
綾はそう言ったが、そこまででもないと思うんだ。
◇◇◇
「おいおい、全然話にならないぞ。赤ちゃんプレイとかなのか? まるで1歳の赤ちゃんだぜ」
鴻上の同僚は困惑していた。
言葉が通じない。
自分で立って歩けない。
排泄もできない。
当然ギルドに置いておくことはできず、彼の妻や親族も面倒をみることができなかったので、精神施設に送られた鴻上。
施設でも大人の体で暴れ回る鴻上にずっと手を焼く羽目になる。
一方、目が覚めたがなぜギルドで寝ていたのかわけがわからない山村たちはギルドの聴取のあとクランに帰ってきた。
そして、いつもどおり超級ダンジョン『悪の華』に挑みに行く。
レベル1なことに気がつかないまま。
◇◇◇
入って少しして現れたのは赤オーク。
オークの上位種だが、超級ダンジョンではただの雑魚。
「とりあえず串刺しにすっか!」
ウォーミングアップとばかりに川村(オルテガ)が槍で赤オークの胸を一突きにする。
しかし槍は赤オークの筋肉の鎧の前に少しも傷をつけられず止まった。
なぜ? と行動が止まる川村(オルテガ)の上から赤オークのこん棒が振り下ろされ、そのまま頭が体に陥没した。
「お、おい川村!! このヤロー!!」
山村(ガイア)はかたき討ちとばかりに赤オークに斬りかかるが、先ほどと同じく赤オークの体を浅く傷つけるにとどまり、その攻撃に全く怯まなかった赤オークのこん棒のホームラン張りの横なぎが直撃して吹っ飛んでいた。
腹や胸が大きく陥没していて死んでいるのは明らかだった。
「うわあああ! 川村、山村! こいつはイレギュラー個体か!? 逃げてギルドに報告しなければ!!」
逃げようとする沢村(マッシュ)であったが赤オークに背を向けた瞬間、赤オークが投げたこん棒が頭部にあたり、弾け飛んでいた。
こうして綾に手を出そうとした3人は超級ダンジョンのごく浅い階層で死んでいるのが見つかることとなる。
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