第16話 冤罪
「元『白銀の剣聖』白鳥綾だな。ちっと面を貸せよ。おっと、俺たちは泣く子も黙る『漆黒の瞬き』の黒き三連星だぜ。無駄なことは考えるなよ」
剣、槍、斧を持ったいかつい3人組の男たち。
綾はデータ上ではあるが本来取るに足らないこの男たちのことを知っていた。
ろくに戦えない状態が長く続いていた綾であったが、その間も何かできることはないかと情報収集も欠かさず行っていたからだ。
「山村、川村、沢村のトリオよね。村三兄弟が私に何の用?」
名前に村がつく彼らは村三兄弟と言われるのがいやで黒き三連星を自称している。
ちなみに山村→ガイア、川村→オルテガ、沢村→マッシュらしい。
心底どうでもいい情報だけれども。
ただ、超級ダンジョンを踏破できる程度の実力はある。
以前の綾だったら命の危機すら感じていただろうが……
「ようやく一人になったな。この機会を待ってたぜ。さあ俺たちとイイことしようぜ?」
「終わったら金も援助してやるぜ、貧乏クランの一人娘さんよお」
「抵抗は無駄だぜ。怪我が治りきってなくて初級ダンジョンくらいにしか潜れないんだろ? 大人しくしてろよ」
さて、弱い私を手籠めにきたのね。
いつもなら4人で行動しているのだけど、今日のサプリームの用件に3人は関係なかったから先に帰ってもらっている。
「弱い人間を狙い撃ちにするなんてホントクズなのね、あなた達。後悔するわよ」
「ダンジョン内で魔物を相手するときだって弱い奴から狙って頭数を減らすのがセオリーだろう? 全然俺たちの行動はクズじゃないな、マッシュ」
剣をぶら下げている山村(ガイア)が得意げに言い、斧を持っている沢村(マッシュ)もうなずく。
てか実際に目の前で見るとその名前呼びホントに痛いわね。
見ていられない。
「怪我を増やしたくなけりゃ大人しく股を開けよ、お高くとまってんじゃねーぞこの雑魚アマァ!!」
川村(オルテガ)の言葉がちょっと頭にきた。
「オルテガ、マッシュ、こいつを押し倒して抑え込むんだ!!」
こうして二人が襲いかかってきた。
そして次の瞬間、綾の姿がブレたのち3人の武器がバラバラに破壊され地面に落ちていた。
「あっ?」
「えっ?」
「なにいっ!? ローンで買った俺の武器が!?」
やっぱり弱いじゃない。
ちょっと本気出して動いたのもわからなかったようね。
ついでにウェポンブレイクで獲物を壊しといてあげたわ。
「じゃあ、おやすみ。命が惜しければ二度と絡んでこないでね、村三兄弟」
そういうと綾は素早く3人の首の後ろを手刀で打ち気絶させた。
◇◇◇
そして次の日、綾のスマホにギルドから呼び出しの連絡が来ていた。
ギルドに行くと、大部屋に案内されそこには村三兄弟と青い制服を着たギルド職員がいた。
青い制服はギルド警察の制服。
中年の男性は
一般人ではなく探索者を相手とするギルド警察。
警察ということは昨日のやり取りで村三兄弟を罰するため被害者である私が呼ばれたのだろうか。
しかし予想とは反してギルド警察の鴻上から出てきた言葉は……
「白鳥綾、この3人から武器を破壊されたと訴えがあった。つまり器物損壊の罪だ。相違ないかね?」
武器を壊したことに違いはないが、それは襲われそうになったからだ。
当然正当防衛の範囲に入るだろう。
そのあとだって気絶させただけで怪我はさせていない。
後遺症も残らないようにしてやったのだから私の温情に感謝してほしいくらいだ。
「ほう? だが彼らが君に襲いかかったという証拠はあるか?」
「いや、それは……」
あの場に他に誰かいたわけでもない。
証明のしようがない。
しまった。
彼らを気絶させた後に警察を呼んでおけばよかった。
そして鴻上はこれ見よがしに言う。
「つまり今分かっていることは武器を壊された可哀そうな探索者が3名いるということ。綾くんは今度サプリームの認定を受けるのだろう? いきなり無実の探索者の武器を壊すような素行が悪い探索者は認定を受けられないかもしれないね」
「そんな……」
「私はまだ彼らの訴えについて上に言っていない。私のところで報告を止めているんだよ。わかるかな?」
「何が言いたいんですか?」
「彼らの武器を直したまえ。そして迷惑をかけた彼らに相応の誠意を示すのが筋じゃないかね」
「武器は直すのでちょっと待ってくださいね」
そして綾はスマホで誠に連絡を取る。
で、誠がくるまでこれで時間稼ぎだ。
「私はそこの3人に襲われたんですよ。その取り調べはしないんですか? 武器をもって襲いかかられたんだからその武器を破壊されても自業自得でしょう?」
ていうかそもそもあいつらの言うことを鵜呑みにしているのがおかしい。
私の言うことを最初から聞く気がないみたいだ。
……もしかしてこいつらグルじゃないのかしら?
「彼らは今一番国に貢献している『漆黒の瞬き』のメンバーなんだよ? そんなことするはずないじゃないか。『白銀の輝き』ごときと比べてどちらが信用できるかなど言うまでもない」
鴻上はそう言った。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
黒い三連星は、別に兄弟でもなんでもなく、ただ村という姓が共通しているだけです。
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