第15話 サプリーム

「『無能と呼ばれたスキルが実は最強でした。スキルの真価に目覚めた僕は全ての攻撃を跳ね返して最強の探索者の道を最速で駆けあがる!!』 
















 なんて思ってたんじゃねーだろうな? 残念でした、そんなに現実は甘くないんだぜ~?」


 マスターがボロボロになってうつむけになって倒れている僕を煽ってくる。


 くそう。何の恨みがあるってんだよ。




◇◇◇




 1度目の攻撃を受けた後2回目の攻撃を跳ね返すようにとマスターが僕に言ったあと。


 ゆらゆらとやってくるファイアボール。


 いちおう身構えて火の玉が僕にぶつかるのを待つ。


 さっきより威力が低いはずだから大丈夫大丈夫……



 バァァァァン!! 



 激しい破裂音と共に全身に熱のこもった激痛が走る。


 あんまり痛いと声も出ないんだな。


 これも度を超えると気絶とかショック死とかになるんだろう。


 なぜかスローモーションになった思考の中、よろめいた僕にさらに小さな火の玉がぶつかってきた。


 その小さい衝撃で僕は倒れこみ、さっきの罵倒を受けるに至る。



「俺は次の攻撃を跳ね返せって言ったが、痛くてできなかっただろ? それも弱点だってことだよ。いちいち痛みにひるんでたらそのまま攻撃され続けて死ぬんだぞ。聞いてんのか?」


 言いたいことはわかる。


 要は痛みに対して慣れろってことだよね。


 不意打ちとかでも1撃目を何とか耐えられればあとは僕の【リターン】で立てなおせるもんな。


 【リターン】で僕は体を元のダメージのない状態に戻し起き上がって、文句を言う。

 


「さっき『痛くないように威力は加減する』って言ったじゃないですか! 何でさっきより強い攻撃にしたんですか!?」



「すまんありゃあ嘘だった。うっかり力が入ってなあ。あ、違った、お前のためを思って早く痛みに慣れるようちょっとだけ威力をあげたんだよ」



「取り繕うなら顔をにやけさせながら言うのやめてくれませんかね!? 僕に何の恨みがあるんですか?」



「恨み? 心当たりはないのか? 胸に手を当てて思い出してみな」



 えーと。

 何かあったっけ?



 どっちかというと自分で言うのもなんだけどクランの再建に貢献しているからこれぽっちもないはずなんだけど。



「おまえ、大事な綾の処女を奪っただろ? むしろ何で恨まれないと思ったんだ?」



「僕も童貞を失ってるんですけど!?」



「童貞は失うって言わねえんだよ。投げ捨てるものなんだ。確かに綾と仲良くなってくれりゃあいいと思っていたが、いざそうなったら父親としては許し難くてなあ。つい力が入っちまった」


「ええぇぇ……」


「心配すんな。死なねえように鍛えてやるだけだ。お前も綾と一緒にダンジョン攻略したいだろ? 今のままじゃ綾の横に並ぶのはちと厳しいからな」


 そう言われると仕方がない……のかな?



◇◇◇



 一方、綾たち4人は上級ダンジョンを攻略し、魔石やアイテムなどを納品して報酬を受け取ったあと、綾1人だけがギルドに残っていた。


「白鳥綾さん、サプリームの再認定をご希望とのことですが……」


「ええ、そうですよ」


 ギルドの担当者からあらためて用件を確認される綾。


 サプリームとは優秀な探索者のことで、ギルドの認定を受ければ税金が大幅に免除されるし、上位探索者としての名誉にもなる。


 綾はかつてこのサプリームであったが、怪我の後遺症により認定を取り消されていた。

 今回はそれを取り戻すのだ。


「でしたら、3日後に覇王級ダンジョン『炎の聖堂』にて攻略に挑んでいただきます」


「あれ、サプリーム認定の条件は覇王級ダンジョンの攻略じゃなかったっけ?」


 綾が初めて登録したときも超級の一つ上の覇王級のダンジョンをパーティで攻略し、パーティ全員が認定を受けていた。


 当たり前だがパーティ攻略とソロ攻略では天と地ほどの差がある。


「綾さんは再登録ですので条件が厳しくなります。申し訳ないのですが、税金の免除という恩恵を受けるために以前よりも強いということを証明していただかねばなりません」


「はあ、わかったわ」


 初登録時よりも強くなっているとはいえ、さすがに条件が厳しすぎないだろうか。


 サプリーム認定はかなり厳しく、ただ指定されたダンジョンを攻略するだけではだめだ。


 安定して稼げる探索者を求めているため、例えば大量に回復アイテムを持ち込んで攻略したとしても、認定を受けられない可能性が高い。


 大量の回復アイテムをダンジョン攻略の度に持ち込まなければいけないようでは安定して攻略できるとは言えないからだ。

 

 あとは、同行するギルドの認定員の力を借りるような事態になってもダメだ。

 

 その他の説明などを聞いて認定料を納めるなどしているともう夜になっていた。


 一人でギルドを出た綾は、見知らぬ男3人に囲まれた。



◆◆◆◆◆◆


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