第14話 指導 

「ふうっ、やっぱりお父さんにはまだ勝てないのね」


「だてに『銀狼』と呼ばれてたわけじゃねえんだぜ。神器がなくてもまだまだ俺の方が上だ」



 かたや後遺症から復帰した『白銀の輝き』の若きエース白鳥綾、かたや全盛期の力を取り戻した白鳥雄也。


 2人は模擬戦を嬉々として行っていた。

 

 

 クランの敷地内にある練武場は2人の激突によりあちこち壁やら地面やらが捲れていた。


 2人とも模擬戦とか言いながら真剣でやってる。


 非戦闘職の僕からすれば2人の戦いを目で追うことすら難しい。


 綾が地面を蹴って真っ直ぐ突進して地面が抉れた、と思った次の瞬間マスターがいたはずの場所には誰もおらず、剣戟の音を頼りに右を向くとそこで鍔迫り合いをしているのだ。


 魔法も時々めくらましがわりに放たれているが、それだっておそらく超級ダンジョンの魔物ならかするだけで消し飛んでいるだろう威力だ。


 そんな戦いをもう2時間続けている。


 どんな体力お化けだよ。


 エッチする時綾は僕の下で息を切らしているんだけど、同一人物とは思えない。


 あ、ちょっとテントが張られてきた。


 夜まで我慢しないと……。

 


◇◇◇



 で、どうやら終わったようだ。


 見てるだけの僕の方が疲れてるんだけど、2人はいい汗かいたとばかりに爽やかな顔をしている。


「綾、お疲れ様。凄いね。何やってるか全然分からなかったよ」

 

 僕は綾にスポーツドリンクを渡す。


 笑顔で受け取って飲み干す綾。


「やっぱりまだ本調子には遠いわね。お父さんもそうみたい」


「あれで!?」


 もう意味がわからないよ。


 続けてマスターがタオルで汗を拭きながら僕と綾の近くにやってきた。



「おう、呼び捨てか。無事に仲良くなったな」


「もう、お父さんったら」


「こっちとしちゃあ願ったり叶ったりだ。そうだ誠、練武場を元に戻してといてくれよな」


「はあ、わかりました。【リターン】、練武場よ元に戻れ」


 そして、一瞬で練武場がきれいに修復される。


 穴だらけの地面もベコベコに凹んだ壁も何かの燃えカスもきれいさっぱり元に戻った。


「後片付けもしなくていいし、思いっきり暴れられるし、サイコーだぜ!」


「それはよかったです」


「お前もいつかこれくらいできるようになるんだぞ」


「やめて下さい死んでしまいます」


 冗談じゃない。


 日本トップクラスの2人を基準にされたら命がいくつあっても足りないよ。


 しかし、マスターは冗談で言ったつもりはないらしい。


 このあとマスターは僕を鍛えるとのことだ。


 いやあ、てっきり親子でダンジョン攻略にでも行くのかと思ってたのに。


 この2人なら、破滅級の一つ手前の狂気級のダンジョンでも軽々と踏破できるんじゃないかな?



◇◇◇



 綾は他のメンバーとともに上級ダンジョンの攻略に行った。


 僕はマンツーマンでクランマスターと向き合っている。


「お前の【リターン】のもう一つの特性、返すほうははるかも言っていたようにバトル向きだ。【リフレクション】ってスキル知ってるか? 攻撃を跳ね返すスキルだ。極論全て跳ねかえせば負けはない。


 何が言いたいのだろうか。


 全部跳ね返せるなら負けないんだからパーティでも組んで攻撃を他の人に任せればいいんじゃないのか?


「今から出す俺の攻撃を跳ね返してみるんだ」


 そう言いつつマスターは小さい火の玉を僕に向けて発射してきた。


 ただの初級の火魔法ファイアボール。

 弾速も遅い。


 僕の近くまで飛んできた火の玉をマスターのいるところまで【リターン】で返す。


 火の玉を返した先に……マスターがいない。


 直後、背後から衝撃で僕は前のめりに倒れた。



 痛ぇ、熱ぅい!!


 何で?


「つーわけだ。時間差攻撃に対応できないだろ。最初のファイアボールの後縮地でお前の後ろに移動してファイアボールを出したのさ」


 何で縮地とか高等技術使ってるんすか。

 ガチじゃないですか。



 僕のレベル7なんですよ!?



「ほら、早く立て。そして自分の傷を回復しろ。続けるぞ」



 鬼だ、鬼がいる。


 あ、銀狼だったかな。


 とりあえず【リターン】で僕の体の傷を元に戻す。


 すぐに【リターン】で使用回数を戻すことも忘れない。


 これが僕の生命線だろうからね。


「次は最初のファイアボールをそのまま受けろ。んで次の攻撃を【リターン】で跳ね返すんだ。痛くないように威力は加減するから気にしなくていいぞ。いくぞ、ファイアボール!! プチファイアボール!」



◆◆◆◆◆◆


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