第13話 京極の絶望
「おい、そこの女、真矢女史はどこだ? こっちはバカ高い依頼料を払ってんだぜ。さっさと呼んでこいよ!!」
誠がスキルの詳細を鑑定してもらった一週間後。
京極真也は【グランドリペア】持ちの竹下伸二とともに国立ギルド研究所を訪れていた。
【魔導鑑定】をもつ真矢はるかのいる部屋に入って【グランドリペア】の詳細を見てもらうためだ。
京極は『漆黒の瞬き』クランマスターの黒崎から報酬の大幅減額を言い渡されて以来、【グランドリペア】の検証を繰り返していたがやはり黒崎の黒曜剣の完全な修復はできていなかった。
国立ギルド研究所副部長の真矢のスキルであれば詳細を見ることができるのは知っていた。
しかし、依頼料は見るだけで2億円。
なお国立ギルド研究所に所属する者は公務員なので副業は本来許されていないが、彼女は特別に許されている。
また、忙しい彼女には予約が詰まっているので本来なら会えるのはもっと先であるはずだが、5千万円を足して順番を繰り上げさせた。
これだけの金になるとトップ探索者の京極ですらおいそれと出せる金額ではない。
しかし一向に問題が解決しないため背に腹は代えられなかった。
ようやく会えた真矢であるが、目の前にいるのはどう見ても自分よりも年下にしか見えない女の子。
確か真矢はるかはアラフィフでクランマスターの黒崎に近い年齢のはずだ。
おかしい、一杯食わされたのかと思った京極。
本人に会わせろと要求するのは当然だろう。
普通だったら。
しかし、誠によってはるかが18歳まで若返ったなどとわからないし、はるか本人も決して他人に告げることはない。
「おまえさん追加料金を払ってまで頼りたい相手にそんな口をきくのかい? 最近の若者はなっていないねえ」
「は? アンタが真矢女史だってのか? 真矢女史はアラフィフのB……じゃなくて研究所の古参だったはずだが。化粧して若作りにしてもほどがあんだろ!!」
「ふん。京極真也、【ファシネイトアサシン】、敵のヘイトを引き付けるのが得意、だがその真価は対象を問わない魅り……」
「あーわかったわかった! あんたを、いやあなたを信じます、真矢女史」
「最初からそう言えばいいのさ。で、隣の男を見ればいいのかい? つまらないスキルなら依頼料を倍にするからね」
「ぼったくりじゃねーか!」
だが、【魔導鑑定】を使えるのは真矢はるかのみ。
相場なんてあってないようなもの。
はるかの胸先三寸で額はどうにでも変動する。
ただ、倍にするとは脅すものの、これはただの常とう句でありよほど汎用なスキルでない限りそんなことをしたことはない。
◇◇◇
はるかは竹下の【グランドリペア】を鑑定していた。
武器、防具を修復する【リペア】系統の上位スキル。
A級までのものなら完全修復可能。
それより上のランクのものはおよそ半分ほど修復できる。
使用可能回数は本人のレベルによる。
本人のレベルを上げれば修復能力は向上していく。
◇◇◇
これを聞いた京極は……
「A級より上の武器防具は半分の修復だと!? 黒曜剣は神器じゃないがS級だ…… だから半分しか回復しないということか。つーことは黒崎さんは毎回壊れる一歩手前くらいまで使ってたのかよ」
そして黒崎さんの言うことが正しければ、誠は毎回完全に直していたことになる。
あんな無能のスキルが【グランドリペア】よりも高性能だったなんて!!
いや待て、まだ可能性はある。
「真矢女史、竹下のレベルがいったいいくつになれば完全修復が可能になるんですか?」
「ふむ…… 9999らしいぞ」
真矢から告げられた非情なる事実。
それは事実上不可能じゃねえか。
黒崎さんのレベルはこのあいだ5000を超えたってところなのに。
俺だってまだ3200程だ。
「竹下、レベルはいくつだった?」
「ええと、23です……」
そう、いわゆる生産職だとそんなもんなんだよ。
戦ってレベルを上げるのに向かないし、そもそも戦いに行く必要もないからな。
「バカな…… やつの【リターン】のほうが上だったってのかよ! 認めねえ、認めねえぞ!!」
それを聞いたはるかは口には出さないがいろいろと察した。
(ああ、こいつ誠くんの【リターン】を知っている? そういえば誠くんは以前『漆黒の瞬き』にいたんだっけか。クビになったと噂だったが、こいつの口ぶりだと【リターン】の真価を知らずに誠くんを追い出したのか。ふふ、バカだな。面白いから黙っておこう♬ そもそも教える義理はないんだけども)
◇◇◇
大金を払って絶望の事実を確認するだけに終わった京極。
誠に頭を下げて戻ってきてもらうしかないと頭でわかっているが絶対にそんなことはできない。
竹下とともにすごすごとクランに帰ってきた京極は憂さ晴らしに里香を乱暴に抱くことしかできなかった。
◆◆◆◆◆◆
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