第11話 スキルの真価
白鳥綾はぼろぼろと涙を流していた。
「また前みたいに動けるなんて…… 夢みたい」
1年前の合同攻略で怪我を負い後遺症により日常生活レベルまでに落ちた身体能力。
綾は自分の治療に父親が大金を注ぎ込んでクランの財政が傾いていくのを為すすべなく見ているだけだった。
そのせいで他のクランへ移籍していく元メンバーたち。
彼ら彼女らにも生活はあるからそれを責めることはできない、その一因が自分にあるのであればなおさら。
だからせめて一刻も早く体調を戻してクランに貢献すること。
それだけに全力を注ぎ、『父親が我が子可愛さにクランを破綻させた』というちまたの評判も見ないようにした。
父親は『一番の稼ぎ頭を復帰させるためだから当然だ』と言い張っていたが、それも虚勢だということはわかっていた。
そしてどうも後遺症のせいでこのまま回復しなさそうとなったとき、わずかに残ってくれたメンバーを指導して何とか初級ダンジョンを攻略し、クランの消滅だけは避けようと頑張った。
かつてダンジョン攻略の最先端にいた人間が初級ダンジョンの成果をギルドに納めてわずかな収入を得るのに汲々としている姿に対して、ネットでは憐み、蔑み、同情、資金援助を隠れ蓑にした下心見え見えの発言が溢れかえった。
そして綾はそれらに一切反応せず、やがて飽きられた彼女は過去の人扱いとなった。
何もかも自分のせいだという罪悪感に蓋をして精神が壊れないよう、ただそれだけに集中していた。
やがて誠がきてクランの装備が充実したことにより多少はマシになったが、身体が万全であれば、と何度思ったことか。
しかし、そんな辛い日々も今日まで。
私は復活した。
全て見返してやる。
だけど、今は恩人の胸の中で泣かせてほしい。
◇◇◇
【リターン】を使って綾さんの状態を重傷を負う前に戻した。
力を取り戻した綾さんは今僕の胸の中でひっく、ひっくと泣いている。
感動して泣いているんだろうけど、僕は僕で心臓がバクバクだ。
いや、綾さんいい香りしすぎだろ。
こんな時に不謹慎なんだろうけどさあ。
どれくらい泣いていたかわからないが僕のシャツが絞れるくらい濡れたあと、ふと綾さんがこちらを見上げる。
そしておもむろに綾さんの顔が近付いてくる。
彼女が目を瞑って……
で、ストップがかかる。
「おいおい綾、あせるなよ。今日の夜俺はどっかの酒場ではるかと一晩飲み明かすからな。それまでとっておけ」
顔を真っ赤にする綾さん。
何をとっておくんだろう?
「はあ、若いっていいわね。ほどほどにしときなさいよ。で、あらためて誠くんのスキルすごいわね。綾ちゃんが完全に治ってるわ。呪いも消えてるわね。治るというよりはどちらかというと時間回帰みたいな感じかしら。万全だった時の過去の状態まで戻しているようね」
「ん、おい? 呪いだって? 綾は呪われてたのか? 今まで綾の治療をしたやつらはそんなこと言ってなかったぞ」
マスターが怒りながらはるかさんにかみついていた。
「もう、私に怒んないでよ。そのヒーラーがヤブだったんでしょ、きっと。というのは冗談で、私の【魔導鑑定】で綾ちゃんに呪いがかかっていたのが見えてたわよ。でも【魔導鑑定】じゃないと見えないくらい強力な永続弱体化の呪いだったわよ。解呪方法がないほどのね」
「いったいいつそんな呪いが……」
「さあね、そこまではわからないわよ。でもとりあえずは治ったからよかったじゃない。そして解呪不能な呪いが消えたんだからこれは過去まで彼女の状態を戻したとしか考えられないわ」
僕のスキルってこんなに強力だったんだ。
過去の状態まで戻せるなんてさ。
そういえば武器とかが新品に戻るってのは、新品だった時の過去の状態まで戻しているからなのか。
消耗品とかも元に戻るのは使用前の過去の状態に戻していたからだったんだな。
気づけばこんな簡単なことだったけど、これはスキルの使用説明書がないのが悪いんだよ。
あ、それと今回のでちょうどスキルのレベルが上がったからはるかさんに言わなきゃ。
「はるかさん、【リターンLv2】になりましたよ」
「!!! じゃああと1回使えるはずよね! 【リターン】の使用回数を元に戻しなさい! 早く!!」
言われるまま【リターン】を使ってみる。
そして【リターン】の使用回数が2回まで戻っていた。
「はるかさん、これって……」
「だから言ったでしょ。『Lv2になったら手が付けられなくなるわよ』って。使用回数が元に戻ったのよね? もうこれで実質使いたい放題じゃない。やっぱり神スキルだったわ。手放した『漆黒の瞬き』の目は節穴だったのかしら?」
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