第10話 魔導鑑定

「ふふっ、君が『銀狼』のお気に入りかい?」



 クランにやってきた少しお年を召した長い黒髪でツバの広い帽子を被った美魔女が開口一番そうのたまった。


「はじめまして。僕は帰来誠と言います。貴方はいったい?」


「あらボーヤ、私としたことが貴重なスキルを見れると聞いたからつい失礼したわね。私は国立探索者ギルド研究部副部長の真矢まやはるかよ」


「なんかすごい偉い人ってことでいいですか? あと『銀狼』って誰のことでしょう?」


「あら、あなたのとこのクランマスターのことよ。はあ、時代の流れってのは悲しいわね。現役時代は『銀狼』って呼ばれて暴れ回っていたのに。対抗できたのは『漆黒の瞬き』のクランマスター『黒狼』ぐらいなものだったわ。そっちはまだ現役だったかしらね」


 つまり、はるかさんはマスターの雄也さんに呼ばれてきたってことか。


 にしても『銀狼』。


 かっこいいと思ったのは内緒だ。


 中二心くすぐるよ。


 もう慣れたけどマスターの風貌は怖いもんな。


 子供が見たら絶対泣くぞ。


 とにかくこの人が、僕の戦力強化のために来てくれた人らしい。


「早速だがはるか、誠のスキルを見てほしい」 



 マスターに促されたはるかさんは僕に向けて何かスキルを発動したようだ。


 え、ナニされるか僕聞いてないんですけど?


「いいわよ。そのために忙しい合間を縫ってきたんだから。これでつまんないスキルだったら依頼料は倍もらうわよ。【魔導鑑定】」


 はるかさんの目が赤く光り、じっと僕を見ている。


 そこへマスターが何も分かっていない僕に説明してきた。


「ギルドの研究所はな、エリート公務員がいるところ、と思えばいい。稼ぎだけなら上位クラン並みだ。はるかはそこの副部長なんだが、その理由はこの【魔導鑑定】にあるのさ。本人すら気づけないスキルの詳細を知ることができる」


「……それはすごいですね。マスターにそんな知り合いがいたなんて驚きです」


「亡くなった妻と同級生だったのさ」


「そうでしたか…… なんかすみません」


「お前が気にすることじゃないさ。探索者なんてそんなもんだ。そうならないようにするのがクランマスターの仕事だと俺は思ってるがな。で、はるか、もう終わったか?」


「ええ、わかったわよ」



◇◇◇



 スキル【リターンLv1】。


 内容は、戻したり返したりすること。


 対象の制限はあんまりない。


 レベルが上がれば1日の使用可能回数が増える。


 最大はLv10で、これは他にレベル表記があるスキルと同じ。


 おそらく10回まで増えると思われる。



「おいおいこりゃあ……」


「ええ、ぶっ壊れスキルね。しかもLv2になったら手が付けられなくなるわよ。何が何でも引き留めておくのを進めるわ、雄也」


「???」


「こりゃバカ高い【魔導鑑定】の依頼料を払う甲斐があったってもんだ」


「私もいいものを見させてもらったわ。何が【リペア】の上位互換スキルよ。気分がいいから依頼料は口止めも含めて一千万円にまけてあげるわ」


「お、いいのか?」


「私が視たなかで一、二を争う神スキルだからね」


 おーい。


 よくわからない僕をおいて二人で勝手に話が進んでいる。


 つか依頼料一千万円って高すぎじゃないか?


 だいたいスキルの内容なんていまどきネットで検索できるし……


「分かってねえなあ…… ネットで見れるやつなんて【簡易鑑定】でわかるようなありふれてて検証済みのスキルか、そうでなければ真実をかくすためにわざと嘘の内容を書いたレアスキルの説明しかないんだぜ? こいつに鑑定を依頼したら年単位で待たされるうえ億単位で金がかかるのが普通なんだ」


 ええ、この人そんなに凄い人だったんだ……

 

「Lv2になったら絶対私を呼ぶのよ! 絶対よ!!」


 はるかさんが必死になっている。


 何でだろう?


「こいつまだ分かってねえぞ。おい誠、今日はまだスキルを使ってないよな? 綾を呼んでこい」


「えーと、わかりました」


 マスターに言われて僕は綾さんを迎えに行く。


 呼ばれた綾さんも特に心当たりがないようで二人して何でだろうと思いながら戻ってきた。


 そして、はるかさんからスキルを使うように言われる。


「誠くん、あなた無機物にしか【リターン】を使ってなかったでしょ? そんな勿体ないことはないわよ。最初に使えたのが武器の修復だったからって先入観に囚われてはだめ」


「はあ」


「綾ちゃんにスキルを使いなさい。彼女の身体がように意識しなさい。うまくいくはずよ」



◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!

 

 第4話でクランマスターが誠になんとかしてやるよ、と言ったのが【魔導鑑定】のことでした。

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