第9話 採用基準

「クランランキングが上がったぜ!!」




 クランマスターの雄也さんが嬉しそうに言う。

 

 僕がこのクランに来たばかりの時はクランランキングは120位だった。


 国から認可を受けているクラン数は128。


 『白銀の輝き』より下のクランはできたばっかの新興のクランなので、はっきり言って実質最下位だった。


 それが今は50位まで上昇。


 クランの人数は増やしていないが、ギルドへの納品数と質が上がったことと、それを少人数で成し遂げていることによる。


 このくらいの順位だと中堅クランといえる。


 帰還石や他の消耗品を僕のスキルで復活して売りさばいていることもあってクランの資産は500億円ほどまで回復し、資産規模でもなんとか中規模といえるところまできた。



「これもあなたのおかげよ。ありがとう誠」


 そう言いながら綾が僕の近くに寄ってくる。


 近いよ、近い。


 このまま腕でも組んできそうな距離だ。


 聖剣クラウ・ソラスを直してから、他にもいろいろと用立てているせいか綾さんともだいぶ仲が良くなったと思う。


 ここまで親しく気楽に話せるのは里香以来だ。


 美人なのにどこか焦ったような感じがしてとっつきにくかったけど、最近は明るくなってきた。


 それが本来の綾さんなのかもしれない。 



「いや、そんなことないよ。みんなの努力の成果だよ」


「いえ、間違いなく誠のおかげよ。みんなもそう思うでしょ?」


 綾が言うと、クランメンバーは一律にうなづいた。


「ま、こんな贅沢なパーティは他にいないだろうな」

 

 マスターがどや顔で言う。


 そりゃそうだ。


 帰還石は使い放題。


 上級ポーションなんかも空瓶に対して【リターン】を使えばあら不思議、中身が満タンに戻るんだ。


 一度使えば5時間だけ取得経験値が増加する使い捨ての『経験の護符』も【リターン】でもう一度使えるようになるのでレベルアップも早い早い。


 それと今は一つしかないが一度だけ致命傷から回復する不死鳥の指輪もある。


 パーティメンバーの澪さんたちのレベルは既に700を超えた。



 そして倉庫に埋もれていたS級の武器や防具。


 ヴァルキリーアーマー、イージスの盾、プリンセスローブ、魔杖アポカリプス、聖杖ユニコーンホーン、クリスタルロッドなどなど。


 神器とまではいかなくても上位クランのパーティでさえなかなか揃えられない武器や防具が直されて再び活躍するときがきたのだ。


 あっという間に上級ダンジョンをクリアできるくらいにパーティは成長した。


 あとは綾さんの後遺症が治れば超級ダンジョンにも挑み、さらには最難関ダンジョンも見えてくるのだけれど……


 それとは別に人を増やすという方法も考えられる。


「そういやクランランキングが上がったからクランへの加入を希望する人も増えるんでしょうかね? もしくは出戻りの人とか」


 僕はマスターに向かって聞いてみる。


「いやあ、どうかな。いったん落ちたクランだしな。そうそう実力者はこねえ。昔の主力たちも軒並み『漆黒の瞬き』に取られちまってな。それにな、このクランは約束していた給料も払えない時期があった」


「また払えなくなる事態になるんじゃないかって思われてるってことですか?」


「そういうこった。一度信用を失うと取り戻すのはかなり難しい。新しく出てきた探索者も調べればうちのことはすぐわかるだろうから避けるだろうな。あと、今となっては贅沢かもしれんが、うちは加入の審査が本来厳しいんだよ。基本給を保障する代わりに人格を最優先で見ていたからな」



 え? あんな適当な面接だったのに?


 どの口でそんなこと言うの?

 

 不思議に思った僕はどうやら顔に出ていたらしい。


 綾さんがフォローに入った。


「あのね誠くん、これでも昔は加入希望者が後を絶たなかったのよ。たいていはクランランキング1位の表面しか見てない人とか、自分で言うのもなんだけど私目当ての人とかが多くてお断りするほうが多かったけど」


「綾さん美人ですもんね」


「あ、ありがとう…… さらっと言われても照れるわね」


「んー、ごほん。うちのクランはな、当然綾目当ては弾いていたし、基本給の保障が目当てとか、ノウハウを自分だけに閉じ込めて情報を共有しないやつとかはいらないんだ。信用できてスキルやノウハウをお互いに高めあう人間同士でやっていこうというのが親父の代からの理念なんだよ。今思えばよくあんなに人を集められたもんだと思うよ」


「何で僕は採用されたんですか?」


「人畜無害そうだから」


「……そうですか」


「冗談だよ。捨てられた子犬みたいな目をしていたからほっとけなかったし、たくさん面接してきた俺の目でみて信用できると思ったのさ。絶対裏切ったりすることはない。【リターン】なんていう超優秀スキルがついてきたのはまあ、あれだ、おまけだ」


「お父さん、『やっと信頼できるメンバーが増えたぜ、綾!!』ってめっちゃ喜んでたじゃない」


「おまっ、それを言うんじゃない!」


 そうかあ。

 僕は信頼されて歓迎されていたんだな。


 ちょっとうるっときてしまった。


「でな、当面はメンバーを増やす予定はない。正直以前の人数は管理もしんどくて俺も前線にでられなかったからな。超少数精鋭を考えている。そして、誠、お前の戦力強化もだ。そのための人も呼んでいる」



◆◆◆◆◆◆


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