第8話 臨時収入

「うっははは、笑いが止まらんぜ!」




 誠がクランメンバーになってから3か月後、『白銀の輝き』クランマスター白鳥雄也は億単位の臨時収入に顔をにやつかせていた。


 クランランキングでほぼ最下位であり収入は一千万円程度となってしまっていた『白銀の輝き』は、そこらの自営業程度と変わりないくらいまで落ち込んでいた。


 しかし誠がクランに参加したことにより状況は一変する。


 使い捨ての帰還石を誠のスキルで復活させる。


 そして、倉庫に山ほどあったのを全て使用前に戻して国が管理する探索者専用ギルドに売りつけたのだ。


 どうせ今の『白銀の輝き』には4人パーティが一つしか在籍していない。


 誠のスキルで使い終わった分を元に戻せるから在庫を抱える理由もないので必要な分だけ残して売り払っても全く問題なかった。


 ダンジョンに入ってしまえば帰る手段は基本徒歩による移動だ。


 最奥のボスを倒したはいいもののそこで力尽きて帰路で魔物に襲われて全滅、なんてことも珍しくない。


 どこまでダンジョンに潜るか、引き返す場合の余力も考えながら攻略しなければ生死に直結する。


 安全確実に帰ってこようと思えば数千万円もする帰還石を使うか、レアな帰還専用の魔法を使うしかない。



 雄也は市場で値崩れを起こさない程度に少しずつ帰還石を売り払っていった。


 あと、売りに出す分も帰還石がなくなっても問題ない。


 超級以上のダンジョンの入り口には使い捨てられた帰還石がごろごろ転がっているからだ。


 超級に挑める程度の実力を持つ中堅以上のクランなら帰還石を常備しているし、もっと稼げるパーティなら攻略にかかる帰りの時間を節約するためあえて使っているところもある。


 使い終わった帰還石は形がちょっと真円に近いこと以外はただの石ころと同じだ。


 その辺にポイっと捨てても問題ないし、そんなもの拾ったところで誰が咎めるんだ、という話だ。

 

「これだけ臨時収入がありゃあ、また綾の後遺症を治すのに金を使えるな。まったく誠様様だぜ。綾も満更でもなさそうだしな……。こりゃ俺が言わなくてもいいか?」



◇◇◇



 時は少し遡って誠が『白銀の輝き』に加入した少しあと。


 白鳥綾は誠に修復してもらった聖剣クラウ・ソラスを携えて東京にある初級ダンジョン『朝日』に潜っていた。


 いつものメンバーである澪(重騎士)、香織(魔法使い)、瀬玲奈(聖女見習い)も連れている。


 ダンジョンに入ってすぐにゴブリンが3体現れる。


 今までは安物の鉄の剣で戦っていた。


 怪我の後遺症でほとんど力を発揮できない綾は初級ダンジョンをクリアできるかどうかの力しかない。


 ただし、ダンジョンにこれまで潜ってきた経験は残っているからまだレベルも経験も少ない3人をまとめて面倒見てもクリア自体は何とかできる。


 それでも頭の中の攻略イメージについてこない身体の動きに綾はずっともどかしさを感じていたし、徐々に成長していく3人に対してもいつかおいていかれるのではないかと不安はあった。


 それを少しでも払拭しようと剣を振う綾。


「やあっ!」


 久しぶりに振るう聖剣の感触。


 少し大振りに横に薙いだ聖剣は光の軌跡を見せながらいともたやすくまとめてゴブリン3体を両断した。


 ああ、この感じ。


 久しぶりの爽快感だ。


「すごいな綾さん! これが聖剣の力なんだな!」


 念のため大盾を構えていた澪が感心する。

 

 そう、これは聖剣だけの力。


 それでも上級ダンジョンくらいまではいけそうだ。


 誠には感謝しなければいけない。


 高い金を積んで頼んでもほとんど直らなかった聖剣を修復する力を持ちながら彼は驕り高ぶるところがない。


 時々クランにやってきては「このクランにきてやるから感謝するがいい」などとほざく勘違い甚だしい輩とは違い、むしろクビにならないかという心配さえしていた。


 だいたいこの業界にいてわかるのは大きな力を持つ者はその本性が現れがちということだ。


 例えば合同攻略のときにパーティを組んだ『漆黒の瞬き』の京極。


 アサシンの上位スキルもちだけあって、索敵能力は高くマッピングもできる。


 魔物を引き付けるのもうまいし、彼単体の攻撃力自体も低くはなく異常に高い敏捷性のおかげで高位の魔物にも引けを取らない。


 だが、性格は最悪だ。


 執拗に絡んできては交際を求めてきたが、身体目当てがまるわかりな濁った眼はいつ見ても気持ち悪い。


 付き合った人間は数か月で捨ててるという。


 しかも既に他人のものである女が特に好みという。



 そんな人間を数多く見ているせいか、私を色目で見てこない誠のポイントは高い。


 よくよく見れば顔も悪くない。


 会話も気負うところがなく話しやすい。


 彼女はいないのだろうか。


 そんなことをぼんやり考えながら初級ダンジョンの攻略はいつもの半分以下の時間で終えることができた。



◆◆◆◆◆◆


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