第7話 京極の誤算②
「ならお前は前任以下ではないか。クビだ。無能はいらん」
修復系のスキルの中では群を抜いて優れているはずの【グランドリペア】を持つ竹下に投げかけられたのは、クランマスター黒崎からの無情なクビ宣言だった。
「そんな、は、話が違います! 京極さんに好待遇で迎えるって言われたのに!」
「京極が? ふん、なら京極を呼んでこい、いますぐにな!!」
黒崎に凄まれ生きた気がせず顔面蒼白となっている竹下は、クラン内の上位探索者に与えられる個室で黒羽といちゃついている京極を呼びに行った。
京極は最初不機嫌だったが恐慌状態にある竹下を見てただならぬ雰囲気を察する。
竹下から簡単に話を聞いた京極もヤバい状況を察し、不思議そうに首をかしげる黒羽を置いて慌ててクランマスターの部屋に竹下と共に入った。
◇◇◇
「京極、どういうことだ? なぜぼんくらを雇ったんだ? 納得のいく説明ができるんだろうな?」
「ええ黒崎さん、彼の【グランドリペア】は神器の修復も可能で一日の使用回数も複数回あります。1日に1回しか使えずクビにした前任より確実に有能です」
そこで黒崎は愛刀を抜き放ち京極の前で見せた。
「見えるか? この細かい刃こぼれを。たったの1時間もせずにこれだぞ。おかげで攻略の成果はいつもの半分もなかった。前までは1日中剣を振るっても大して切れ味は落ちなかったのにな!」
原因は京極にもわからなかった。
ちゃんと竹下のスキルは自分の武器にも使用させて確認していたのに。
しかし、今の彼らにはわかるはずもない。
黒崎は毎回壊れる寸前まで黒曜剣を酷使していること。
そして誠のスキルなら完全に修復された状態まで戻せる。
【グランドリペア】では並の武器なら同じことができるが、黒曜剣ほどの業物になると半分くらいまでしか修復できないのだ。
それでも毎回壊れる寸前まで酷使した挙句修復に出す人間なんて黒崎以外いないゆえの理不尽であった。
だから、京極は次のように答えるしかなかった。
「……現在のところ同様の報告は上がってきておりません。調査の時間をお与えください」
「よかろう。ただしこの剣の完全なメンテナンスが可能になるまで貴様の報酬は十分の一とする」
それは普段から億単位で稼いでおりそれなりにクランに貢献していると自負している京極にとって耐えがたいことだった。
一般人からすれば十分の一でも一千万円単位なのだから恵まれているのだけれども。
当然京極は抗議する。
「そんな……! 黒崎さんそれはいくらなんでも」
「京極、このクランで最も稼いでいるのは誰だ?」
「黒崎さんです」
「その俺の稼働時間をお前が奪ったのだぞ。クビにならんだけ有情と思え。ああ、その前任の復帰でもよいぞ。要は黒曜剣の修復ができればいいんだからな」
報酬の大幅な減額だけでも屈辱なのに、誠の復帰だと?
そんなことは絶対ありえない!
怒りがこみあげてくる京極であったが、目の前の男に勝てるはずもなく怒りを抑えながら言葉を返した。
「お言葉ですが、あいつは1日に1回しか修復スキルを使えない無能でしてこのクランにはふさわしくありません!」
「1回しか使えない? ならば俺の専属にすればよかったではないか。バカなのかお前は? こいつが俺の剣を満足に直せない場合はその前任を探して連れ戻せ、いいな?」
確かに、たとえ1日に1回しか使えなくても黒崎の稼ぎを考えれば誠を専属にした場合の人件費なんて余裕でペイできる。
それを私情でフイにしたなんて、口が裂けても京極は言えなかった。
「…………」
「返事はどうした?」
「わかりました、黒崎さん」
ピリピリした雰囲気のなかほとんど言葉を発せずにいた竹下だが、自分の進退がかかっていたためなけなしの勇気を振り絞って黒崎に問いかけた。
「あのう、僕はクビじゃないってことでいいんですよね」
「俺以外の武器はちゃんと直しているんだろう? ならクビではないな。だが、俺の剣を満足に直せんから報酬は半分にしておけ、京極」
完全にとばっちりを受けた竹下であった。
◇◇◇
クラン内の自分の個室に帰ってきた京極は頭を抱える。
今はまだ報酬の減額だけで済んでいる。
いや、これもなかなかに痛いがこの状態が続けばクラン内の上位探索者と言う地位まで剥奪されるかもしれない。
その地位も使って今までいい思いをしてきたのに……
とりあえずは【グランドリペア】の検証のやり直しだ。
それがダメなら……
黒崎さんの言う通りあいつを呼び戻すしかないが、追放時にあそこまでコケにしておいて帰ってくるはずもない。
しかもクラン同士の人事専用ライッターであいつを雇うな、って流しておいたその口で雇い直すとか他のクランに知られたら恥もいいところだ。
どうすればいいのか何も思いつかないが、とりあえず誠から奪った黒羽の体でうっぷんを晴らすことを決めた京極であった。
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