第6話 京極の誤算①

「おい、俺の黒曜剣を直しておけ」



 日本最大手のクラン『漆黒の瞬き』のクランリーダー黒崎くろさき大吾だいごはダンジョン攻略から帰ってきて愛剣のメンテナンスを部下に投げた。


 全身黒のバトルスーツに身を包んだ黒崎のいつもの光景だ。


「我がクランのランキングは月間1位、年間1位か。まあ当然だな。あの『白銀の輝き』が没落して以来敵はいないな」


 黒崎はにんまりと笑みを浮かべる。



 毎月国内のクランのランキングが国から発表される。


 かつては『白銀の輝き』が1位に座っており、たまに『漆黒の瞬き』がその座を奪うがすぐに『白銀の輝き』が奪い返すという状態が続いていた。


 クランのランキングは、魔物から採れる魔石やドロップ品、宝箱からの収獲品を国の管理下にある探索者専用ギルドを通して国に納めた分の成績により決まる。


 クランの規模や収支も考慮される。


 国への上納品が同じ成績であれば、クランの規模がより小さい、または収支がより黒字のクランが優秀と判断され順位が上となる。


 『漆黒の瞬き』はとにかく探索者を集め上納品の数で勝負するという方針を取っている。


 そのため必然的に稼げなくなった探索者は早めに見切りをつけてクランから追い出して別の者を補充することとなる。


 完全に成果主義であるため上位探索者は並の金持ちよりも遥かに稼ぎがいい。


 そのうえダンジョン攻略を一刻も早く進めたい国は優秀な探索者の税金を優遇する措置をとっていたため、手元に残る金はそこらの経営者よりも多くなっていた。


 そのため『漆黒の瞬き』にはクラン内の上位に入ることを夢見る者が絶えず人員の確保には困らなかった。



 これとは違う方針を取っていたのが『白銀の輝き』。


 クランの人数は『漆黒の瞬き』の半分程度ではあったが、クランメンバー間の連携を重視し、ダンジョン攻略のノウハウを隠すことなくメンバー間で共有していた。


 怪我などがあっても一定期間は基本給を保障し、基本給+出来高を給料としていた。

 新しく入った者とスキル構成が近い者は先輩として指導にあたっており、メンバーは常に高い質を維持し続けていた。


 国に納める魔石やアイテムの数は『漆黒の瞬き』より少ないことが多いものの上質な物を納めていたため総合評価ではほとんどの場合『白銀の輝き』が上回っていた。



 しかし、一年前の両クランの合同攻略失敗が全てを変えた。


 主力となる若きエースの白鳥綾を欠いた『白銀の輝き』は収入が激減したにもかかわらず所属する探索者に基本給を払い続け、そこに瀕死だった白鳥綾の治療費や聖剣クラウ・ソラスの修復費用もかさみ、探索者に給料を払えなくなりつつあった。


 それに対し、相応に人員を失っていた『漆黒の瞬き』はすぐに補充の人員を確保したうえ、『白銀の輝き』で給料をもらえるかどうか不安をもっていた探索者をここぞとばかりにヘッドハンティング。


 長年のライバルである『白銀の輝き』を突き落とすことに成功し、クランランキング1位を独占したことはクランマスターの黒崎の手腕として評価された。


 『白銀の輝き』以外のクランなぞ有象無象も同然。


 『漆黒の瞬き』の首位はもはや揺るがないものと黒崎は確信していた。


 京極が余計なことをせず誠がクランに居続けたらそれは続くはずだった。



◇◇◇



「ボス、いつもより早いお帰りで。どうされたんで?」


「どうもこうもあるか! 俺の黒曜剣を直したやつを今すぐ連れて来い!!」



 ダンジョン攻略で浅くはない傷を負い帰ってきたクランマスター黒崎は傷の治療もそこそこに部下を怒鳴りつけた。


 いつもより早く帰還したうえ傷だらけのボスをみてただ事ではないと焦った部下はすぐに倉庫にいるはずの修復係を呼びに行く。 


 ほどなくして【グランドリペア】を持つ竹下たけした伸二しんじはクランマスターの部屋におそるおそるやってきた。


「お前が俺の武器を直したのか? たった小一時間で黒曜剣の切れ味が落ちたぞ。おかげで俺は負わなくてもいい傷を負い早めに攻略を切り上げねばならなかった。どう落とし前をつけるんだ? 手を抜きやがったのか、あぁ?」


 クランマスターである黒崎が武器を誰が直しているのかいちいち把握しているはずもなく、竹下を問い詰める。


 心当たりがない竹下は自分が何を仕出かしたがわからないが目の前の男が激昂しているのだけはわかった。


「ひっ、いえ、いつもどおりスキルを使って直しました……」


「ならなぜいつもより耐久が低いんだ? いつもどおりなんだろ? まさか俺の剣を直すのが初めてじゃああるまいしな」


「えっ、その、私採用されたばかりで、マスターの剣を直すのは初めてです……」


 ここでやっと黒崎が正しい認識に至る。


 だが、続く言葉は竹下にとって苛烈なものだった。



◆◆◆◆◆◆


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