第5話 スキルの用途 

「早速だが綾、こいつのスキルで聖剣クラウ・ソラスが復活したぞ。ピッカピカの新品だ!」



「……うそ……」


 マスターが僕が直したばかりの聖剣を掲げてみせる。


 純白に光り輝くそのお姿は誰が見ても聖剣というに相応しいだろう。


「これで上級ダンジョンまでくらいなら行けるんじゃないか? まあ他にもいろいろと直してもらってからだがな。まったく『漆黒の瞬き』はこんな逸材を手放すなんてアイツも耄碌したのかねぇ」



 マスターから聖剣を手渡されてじっくり見ていた綾は、やがて剣から目を離して不思議そうな顔して僕を見てくる。


 そしてポツリと呟いた。


「お父さんがあちこち大枚はたいても修復しなかったクラウ・ソラスがこんなにもあっさりと…… このせいでクランの財政が傾きかけたのに……」


「あの、信じられませんか? 僕は『漆黒の瞬き』にいるときは魔杖カドゥケウスなんかも直してましたからこのくらい余裕ですよ」


 慌てて釈明をする僕。


 なんだか信じてもらえなさそうだから追加の情報も与えた。


「目の前に現物があるのにあなたを疑ったりしないわ。でも、『漆黒の瞬き』にいたって言ったでしょ? なんでこんなところにきたのよ?」


「綾、それは聞いてやるな。武士の情けだ。言っとくがこいつの人格に問題があるとかじゃないぞ。それと俺のクランをこんなところって言うんじゃねえ」


 マスターのおかげで事情を言わなくてよくなった。


 僕の上位互換が来た挙句幼馴染を寝取られて用済みでポイされたなんて言えないっすよ。


 いつか笑い話として言える日がくるんだろうかねぇ。



「よーし、きょうから新生『白銀の輝き』クランの始まりだー!!」


「お父さんったら、またそんな調子のいいこと言って……」


 気勢を上げるマスターとそれを呆れた目でみる綾さん。


 でも僕はなんとかなるような気がしてきた。



◇◇◇



 当面の僕の役割は、クランの事務員。


 それと、一日一回倉庫にある壊れた品物を新品に戻す作業。


 ごちゃごちゃした倉庫に放置されてた壊れた武器防具。


 マスターによると瀕死だった綾さんの治療と聖剣クラウ・ソラスの修復のためいろいろと後回しにしているうちにお金がなくなりクランのメンバーが抜けて装備を揃えられなくなり、そっからメンバーが抜けて稼げなくなって装備を揃えられず……という負の無限ループにはまったとのこと。


 そのためわりと高価な武器や防具が転がっていて、直すと神器とまではいかないけどS級相当のものがたくさんあった。


 他にも一度限り致命傷から死亡を回避できる不死鳥の指輪が使い終わったままだったり、一個数千万円するのに使い切りで使った後はただの石ころになる帰還石も捨てられることなく倉庫の片隅に放置されていた。



 そして3か月ほどかけて武器や防具は一通り直しきった次の日。

 

「装飾品や消耗品も試してみろ」


 マスターに言われて試してみる。


 このカテゴリーは【リペア】では直らない。


 試しに使い終わって真っ黒になった帰還石に対して【リターン】を使ってみる。


(帰還石の状態を元に戻せ!)


 果たして、真っ黒だった帰還石は元の蒼緑色を取り戻していた。


 思わず僕とマスターでハイタッチ。


 だがまだ確定じゃあない。


 復活した帰還石を綾さんに持たせてダンジョンに突入させて実際に使用させる。



「ちゃんと使えたわ!!」


 ダンジョンから無事戻ってきた綾さんの報告を受けて僕とマスターはもっかいハイタッチした。


 これで確定だ!


 僕の【リターン】は【グランドリペア】の下位互換なんかじゃなかった!


 それどころか完全に上位互換だ。


 リペアで直せないものも復活させられるんだからな。


「やはり俺の目に間違いはなかった。大したやつだよお前は。お前を見出したのは俺だから今更どっかのクランに移籍するなんてぜーったい認めんからな!」


「そんなわけないじゃないですか。たとえ『漆黒の瞬き』でもお断りです。戻ってきてくれと言われてももう遅い、ですよ。新生『白銀の輝き』で日本一のクランを目指しましょう!」


 思わずテンションが上がる。


 そうだ、僕を捨てた『漆黒の瞬き』を見返してやるんだ。


「『漆黒の瞬き』も相変わらずだな。ちゃんとクランメンバーを一人一人丁寧に見てりゃ誠のことにも気がつけたのかもしれねぇのにな」


「確か『漆黒の瞬き』は大量に探索者を雇って競争させる方針でしたね」


 かつていたからそれくらいは知ってる。


「競争といえば聞こえはいいがアイツはな、探索者を使い捨ての駒くらいにしか思ってねえんだ。病気や怪我で動けなくなってクランに貢献できないとなったらそのまま放り出すんだぜ。俺はそんなことはしない。死んだ妻との約束なのさ」



◆◆◆◆◆◆


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