第3話 落ちぶれクラン 

「で、何ができるんだ?」



 クラン『白銀の輝き』の建物に入ってすぐにクランマスターが面接してくれた。


 マスターは白鳥しらとり雄也ゆうやさん。


 茶髪のイケオジっぽい風貌だが、左目に爪痕の傷が残っていてちょっと怖い。



 書類もなくいきなり面接。


 大丈夫かこのクラン?


 机もなんかガタガタだし椅子も座り心地が悪い。


 マスターもなんか赤ら顔だし……。


 昼間っから酒でも飲んでた?


「えっと、1日1回ですが武器とかを新品にもどせる【リターンLv1】があります。だからその辺の費用を節約できると思います」


「はあ…… ライッターで言われてることと同じだな。神器でも直せるんだろ?」


「ええ、そうですよ」


「お前それ嘘って思われてるぞ」



 ええー!? なんで?



「これ見てみろよ」



 とマスターが差し出してきたスマホにはクラン人事担当者専用とタイトルのライッターのページが開いている。


 そこには、



ーーーーーーーーーーーーーーー

 『漆黒の瞬き』をクビになった帰来誠、エースの黒羽里香と幼馴染であることをかさにきてクランで威張りまくっていた。


 中級程度の武具までしか修理できないのに神器を修理できると偽り高給を貰っていた。


 そのお金で毎晩女を取っ替え引っ替え遊んでいた。


 そして、寛大な黒羽もとうとう堪忍袋の緒が切れて黒羽のコネがなくなった誠は追放された。


 人事担当の皆様におかれましては彼がクランに応募してきた際には十分に注意されたし。

ーーーーーーーーーーーーーーー


 って書いてある。


 投稿者は『漆黒の瞬き』京極真也。



 何なんだよこれ。


 僕が何をしたっていうんだ。


 京極の死体蹴りのせいで僕はどのクランからもお祈りされてたのかよ。


 どうりで応募からの返事が当日とかいうあり得ない速さだったんだな。



「どこのクランもな、『漆黒の瞬き』から目をつけられたくない。だからお前はどこにも採用されなかったんだろ? 違うか?」


「僕がどこにも採用されなかったのは事実ですが、そこに書いてあることは全部嘘です。だって僕は京極の持つ短刀『ブラックナイン』だって新品に直したんですよ。なのに中級までしか直せないなんて嘘つきはあいつだ!」


「……ほう、京極の武器なんざ知ってるやつは限られているはずだがな、そうかそうか。こりゃ俺にも運が向いてきたか? おい坊主、ちょっとついてこい」


 何かを勝手に納得したマスターは部屋を出て僕を倉庫まで連れてきた。


 何にも整理されず雑然と置かれた武器や防具、アイテムが無造作に置かれている。


 そしてその中からボロボロになった剣を一振り僕に渡してきた。


「そいつを直してみろ」


 僕はその剣を握りしめてスキルを発動する。


 スキル【リターン】、この剣を新品に


 次の瞬間、黒ずんでボロボロだった剣が輝きを取り戻した。


 『マジか、マジなのか』、と呟きながらマスターは僕から乱暴に剣を取り上げてしげしげと見つめた。



「お前のスキル、本物だな。この剣は聖剣クラウ・ソラス。一年前の合同攻略に失敗した時にうちのエースが持っててな、本人が重傷を負うときにこいつも壊れちまったのさ。となるとわかんねえのがなんでお前がクビになったのかだな」


「それは【グランドリペア】をもつ後任がクランに入ってきたからで……」


「だとしてもお前には、言い方は悪いがそいつのスペアとしての価値もあるだろうに」


 あんまり言いたくないんだけど、僕も雇ってもらえるかどうかの瀬戸際だ。


 言ってしまおう。


「京極は僕のことを追い出したかったんです。エースの黒羽里香と幼馴染の僕が邪魔だったから。里香は僕と付き合ってましたがいつのまにか彼女は京極と……」


「あーわかった。寝取られたのか。あいつ他人の女を盗るのが趣味だからな。そんな女なんか早く忘れちまって前を向けよ。人生の先輩からのありがたーい忠告だ」


 カチンときた。


「あなたに僕の何がわかるんですか!!」


「早くに母を亡くして男手一人で育ててきてクランのエースになった一人娘が合同攻略に失敗して瀕死の重傷で帰ってきたときの気持ちがお前にわかるか? そのあと支えてくれると信じていたクランのメンバーが『漆黒の瞬き』に引き抜かれて落ちぶれクランのマスターになった俺の気持ちがよ? ほんの一年の出来事だぜ? 信じられるか? 俺たちはもう過去の人扱いだ。だがな、俺は別にお前と不幸自慢をしたいわけじゃないんだよ」


「……なんかすみませんでした」


「なんだったら俺の娘と付き合ってみるか?」


「それは父親としてどうなんですか?」


「それだけお前のことを評価してんだよ。言わせんな」


◆◆◆◆◆◆


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