第2話 お祈りメール
『帰来 誠 様
この度は当クランの採用選考をお受け頂き、まことにありがとうございました。
ご提出いただきました応募書類を精査いたしました結果、当クランでは誠様が活躍できる場所をご用意することが難しいという結論に至りました。
せっかくご応募して頂いたにも関わらず、申し訳ございません。
まことに心苦しいのですが、なにとぞご了承いただけるようにお願い致します。
末筆ではありますが、誠様の今後のご活躍をお祈り申し上げます。』
はあ、何通目だろうこのお祈りメール。
『僕の真の才能が目覚めて引く手あまた。以前お祈りメールを出してきたクランから今さら手のひらドリルでぜひ来てくれとお願いされるがもう遅い!』
なーんてことにならないかな。
お祈りメールも一通目はすごくショックだったけどさすがに何十通も見たらもう何にも思わないな。
どこのクランに応募しても全部書類だけで断られている。
しかもほとんどが申し込んだその日に断られるというハイスピードお祈り。
面接にたどり着いたことはないよ。
いっそ清々しいくらいの連敗ぶりだ。
アピール欄にはちゃんとノーコストで高価な武器防具を修理できます、って書いたのに。
どこもお金に困っていないのかなあ。
僕の後任にきたという【グランドリペア】は別格としても、【リペア】系統のスキルなんてかなりレアな部類だってアイペディアに書いてたから就職できると思ったのに。
やばいな。
そろそろ貯金がなくなりそうだ。
スマホの料金も払えなくなりそうで、最近は三食カップラーメン。
たまにはさく屋で腹いっぱい牛丼食べたいなあ。
◇◇◇
クラン『漆黒の瞬き』を追い出されて失意の底に沈んでいた僕は2週間ぐらい部屋に閉じこもったままだった。
もう涙も枯れ果てたけど、さすがに死ぬ気にはなれなかった。
実家に帰ろうかとも思ったけど、最大手クランに就職して大喜びだった両親に向かって「幼馴染を寝取られてコネがなくなったのでクビになった」とは恥ずかしすぎて言えない。
ちくしょう。
街行く恋人たちを見るたびどいつもこいつも寝取られてしまえ、なんてすさんだ考えをしていた。
口には出さないけど。
はあ、だいたい付き合ってからどのタイミングでヤればよかったんだよ。
デート3回目でホテルに連れていってとかなのか?
世の中の恋人たちはどうやってるんだ?
そんなことを思いつつ、適当に歩いていると
『クランメンバー絶賛大募集!! いつでもすぐに面接します!』
というボロボロの張り紙を発見した。
電柱に貼ってある『日給3万円すぐに稼げます(女性限定)』とか『10万円まで超簡単審査で即日スピード融資!』みたいなのと同じノリだよ。
いつまでたっても面接にすらたどり着けない僕にはすぐに面接はとても魅力的に見える。
そんな条件での募集ネットで見たことはない。
あったら僕が見逃すはずがない。
ってことはネットに広告を出せないくらい貧乏クランなのか?
地雷案件かもしれない、とは思いつつ張り紙にあったクランに向かっていった。
溺れる者は藁をも掴む、とはこういうことなんだろうな。
◇◇◇
大きいけどボロボロの建物。
剥げかけた塗装の看板には『白銀の輝き』と消えかけたクラン名が書かれていた。
クラン『白銀の輝き』。
かつては『漆黒の瞬き』とともに二大クランとも称されたクランだ。
しかし一年ほど前、『漆黒の瞬き』と合同パーティを結成して破滅級ダンジョンの『煉獄』に挑んだ際、『白銀の輝き』の主力が重傷を負い攻略は失敗。
日本のダンジョン攻略記録を更新すると銘打って二大クランが手を組むことを発表し日本中が期待していたものだったにもかかわらずだ。
◇◇◇
僕が生まれる前、全世界で突如ダンジョンが発生した。
人口が増えすぎてそれをまかなうエネルギー、食糧をどうするのか世界中が悩み資源をめぐって戦争が起きるのではないかと皆が思い始めていたときだったらしい。
ダンジョン内の魔物を倒せば得られる魔石のエネルギーは従来のエネルギー問題を解消するのには十分だった。
というよりダンジョンに潜って魔物を倒し無事に魔石を持ち帰ってきた者たちが金持ちになる一方、命を落とす者も多く世界の人口が減少したので図らずも人口問題とエネルギー問題などは同時に解決を見るのだった。
そして、現在ダンジョンの攻略もある程度進み各国の攻略進度がその国のステータスとなっている。
かつては4年に一度オリンピックを開いて国の威信をかけていたのがダンジョン攻略に取って代わられることになった。
◇◇◇
日本中から期待されていたにもかかわらず攻略に失敗した両クランは地位と名声を失った。
ただその後の両者は明暗が分かれた。
主力を温存できた『漆黒の瞬き』は汚名を晴らすべく国からの依頼を優先的に受けてクラン最大手の地位を取り戻した。
一方、主力を欠いた『白銀の輝き』は立て直すことができず他の主力メンバーも見切りをつけ他クランの次々と移籍していき零細クランに転落していた。
そんな僕もそのクランの名前を見るまでは存在をすっかり忘れていた。
◆◆◆◆◆◆
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