第5話「求心力の化け物」


 

 『これで一国』と謳う鉄の箱の内部は、西洋の古城のような様相だった。


 豪華さはなく、むしろ要塞のような構造。


 要塞と一般家屋と城を足して三で割ったような感じだ。



 シックな雰囲気でカッコいいが、大人数での作業には向いてないな。


 なんつーか、せまい。



『みんな〜、準備はいいね〜☆? よーし、爆発王冠ゲーム〜〜〜……スタートぅっ☆!!』



 天井のスピーカーから、ハイテンションなイルカの声。


 ゲーム開始を告げるブザーが鳴り響く。



 俺は間髪入れず、口を開いた。



「王様なりたい人、挙手!!」



 俺は力強くバッと手を挙げる。



 腫れた目ん玉をぎらぎら光らせて、他に手を挙げてるバカもんはいないか確認。



 巨大なテーブルの周りにまばらに立つ、この国の国民、総勢十九人。


 どいつもこいつも辛気臭い顔をしている。


 ちなみに、マイとカタリもここにいる。


 囚人番号順に、十九人ここにぶち込んだんだろう。



 ……よし、いないな!



 まぁ普通はいないに決まってる。


 命令がどうの権限がどうの言ったって、ゲーム終了時にはバッチリ爆発して死んじまうんだ。


 道理なら、そんな役誰も引き受けない。



「いないな!? じゃー俺が王様でいいな文句あるか!?」



 沈黙する群衆。


 首を振る奴、泣きそうな奴、ドン引きって顔の奴、色々いるが、待ったをかけるやつはいない。



「よし!!」



 俺はバッと卓上の"王冠"を手に取って、自分の頭に被せる。



 ぴろりん♪ と、手首のバンドから軽快なSE。


 液晶の中のイルカに、王冠が被さっている。



 よし、これで王様だ。



 いつもの俺のプレイスタイルなら、ここで迷わず《侵略》を宣言し、一国ずつ攻め滅ぼすんだが……。


 『犠牲者ゼロ人』という条件で、俺らが取るべき最善手は……!



 ぴんぽんぱんぽーん♪


 アナウンスでお馴染みのあの効果音が、スピーカーから流れ出す。



『《国際会議》が開催されます!各国王様は中央会議場にお集まりください!』



 内容に、硬直する指。



 ぴんぽんぱんぽーん……♪



 アナウンス終了の効果音を聞き流し、俺はバン!とテーブルを叩いた。



「…………負けた……!!」



 湧き上がる悔しさに、わなわなと震え出す肩。


 奥歯をぎりぎりと噛み締める。



 トウコの奴……!!


 俺より早く手を打ちやがってぇ……!!



「ちくしょう……」



 テーブルに突っ伏し、崩れ落ちる俺。



 最速厨の矜持が……。



「ぷははははははッ!! 競り負けてやんの!!おーいオイオイ、"最速"サマ〜? ねぇ、息してる〜? ねぇ〜?」


「アァァアあアッ!!? うっせ黙れこのちんちくりん!!」



 俺を指差しながらゲラゲラ笑うカタリ。


 俺は軽率にブチギレながら、カタリに中指を突き立てる。



 それを見て、ただただ困惑する国民たち。


 マイは周りに合わせてドン引き顔だ。



 ふぅ……ちょっと取り乱したな。


 切り替えよう。


 さっさとゲーム進行させないと。



「はぁ…………あ、じゃあ、会議行ってきまーす……あー、ここの"タスク"なんだっけ?そこの人 」


「え、あ、あぁ、『毛布を千枚作る』……です 」


「そうそれ。それ適当にやっといて。頑張り目で頼むわ。あとお前ら殺し合いは禁止な。自殺も禁止。意見が食い違ってどうしようもなくなったときは、コインでもクジでも使って意思統一して……あと、万一怪我があれば、治療道具もったいぶらずバンバン使え。《侵略》がもしあったら、そんときゃ俺が最前線に立ってやるから安心しろ。以上 」

 

「は、はい……」



 言うべきことだけさっさと喋って、背中に視線を浴びながら、俺は真っ直ぐ出口へと向かう。



 さて、ゲームクリアしに行くか。







 白亜の円卓会議場。


 並んだ五つの玉座には、それぞれ王が座している。



 厳かな場に似つかわしくない、スカイブルーとピンクの囚人服を着た、年若い男女五人。


 その頭には、煌びやかな王冠が光る。


 栄華と権力を象徴する豪華絢爛な王冠は、しかし、云時間後には爆発する砂上の楼閣であった。



「……で、誰が呼んだんだ?」



 集まってすぐ、筋骨隆々な大男が口を開いた。


 スキンヘッドの彼は、綺麗な頭部と目をギラリと光らせて、周囲の面々を睨む。



「私よ 」



 短い返答。


 呟くほどの声量にも関わらず、その声は会議場全体に染み渡る。


 鏡のような水面に、一滴の雫が溢れたかのような、力のある声。



 藤宮ふじのみや 濤子とうこ



 彼女はゆっくりと卓上で手を組み、おもむろに視線を上げる。



「皆さんと、話がしたかったの 」



 薄く微笑む美人。


 頭の爆弾など気にも留めず、笑ってみせる女。


 その表情には、数多の実績からくる自信と余裕……優雅とも語り得るオーラが滲み出していた。



 カリスマの覇気。


 求心力の化け物……。



 そのインパクトは、人に盲信の種を植え付ける。



「まずは……自己紹介でもしましょうか 」





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