第22話 二人で歩む道
人生の価値とは何だろうか。
それは俺にとってはあまりに小さく感じる。
だけど常に横に立っている涼子が教えてくれる。
人生の価値とは、人を愛する、という事だと。
「ね、ねえ。元一」
「ん?」
「.....わ、私.....これで良かったのかな。.....い、色々と」
「俺はお前のやりたい様にやったら良いって思ってる。.....俺だけじゃ何も.....マイナスしか考えられない」
病院の待合室でそんな会話をする。
すると待ち合わせている上山さんがやって来た。
御免なさいね!、と言いながら。
それからニコニコしてくる上山さん。
「今日は来てくれて有難う。涼子ちゃん。そして.....元一くん。お二人が来てくれた事によって世界が変わっているわ」
「.....そ、そんな大袈裟な。.....俺は何もしてないっす。全部彼女がやった事です。.....彼女が世界を変えたんです」
「わ、私?.....私は抱きしめただけ」
「あーっはっは!とにかくお二人共に最高ね!」
上山さんはずっとニコニコしながら椅子に腰掛ける。
俺達はそんな上山さんに苦笑いを浮かべる。
すると上山さんは、あの子は私も見ているんだけど今日は特に嬉しそうだったわよ、と言ってくる。
俺達は、!、と反応する。
「今日は.....あの子にとっても君達にとってもとても幸せな日になったんじゃないかしらね」
「.....俺は.....何もしてないっすよ」
「.....いや。貴方は最高の人よ。勿論、涼子ちゃんもだけど」
あなた方ならとても幸せなカップルになりそうね、と笑顔になる上山さん。
俺達は見合わせてから赤面する。
ところで元一くん。貴方の目は私に似ているわね、と話掛けてくる。
俺は、?、を浮かべて上山さんを見る。
「私は.....兄を事故で失った。.....貴方もそうかしら。.....御免なさいね。こんな事を聞いて」
「そうだったんですか?」
「そうね。.....私の場合は単独の交通事故。.....だから何とも言えないけど。.....貴方は身近に誰か失ったのかしら.....」
「俺の場合は妹です。.....名前は悠希って言います。崖から落ちました」
そうだったのね、と沈黙する。
間違いでなければその子はこの病院に搬送されてきたわ、と沈黙する。
俺は、!、と思いながら、そうですね.....上山さんはその時に居たんですか?、と聞いてみる。
私はその時に先輩から悲惨さを聞いたわ、と眉を顰める。
「.....あの事故は本当に悲惨ね。.....くいを崖に打ってなかった管理会社とか社長の責任でもあるけど」
「.....当時はニュースになりました。.....損害賠償とか言いますけど.....そんなものを何億積み重ねても悠希は戻って、帰って来ません。だから俺は生涯全てを恨むでしょうけど」
そこで、でも、と話す。
それから真剣な顔で聞いていた涼子を見る。
涼子は、な、何?、と聞いてくる。
その顔を見てから俺は上山さんを見る。
「.....俺は恨むのが全てとは思わなくなりました」
「.....それはどういう意味かしら?」
「.....コイツが。.....涼子が変えました。俺の世界を」
「!」
涼子は真っ赤になる。
それから俯いた。
俺はその姿を柔和に見ながら、恨む事が全てじゃないんだなって思ったんです、と上山さんに告げる。
すると、あのすれ違った時の泣きじゃくっていた男の子がこんなにも逞しく育つなんてね、と涙を浮かべた。
「.....悲惨な目に遭ったのに」
「.....いえ。.....俺は強くないっす。.....ただ涼子にありとあらゆる事を教わっただけです。.....人生の価値を」
「.....も、元一.....」
「.....俺はこれからの人生で.....きっと人を恨む事も出てくるでしょうけど。根本を考えて生活するでしょうね.....」
涼子は涙を浮かべてから俯いた。
俺はその姿を見ながら涼子の頭を撫でる。
すると上山さんは、お似合いね、と笑顔になった。
そして、よし!それじゃあ仕事に戻りましょうかねぇ!、と絶叫する。
「ちょ。上山さん?!」
「貴方達を見ていたら家に居た旦那を思い出したわ!あーっはっはっは!」
「う、上山さん。うるさい.....」
「あら。そうね。あーっはっはっは!」
患者もスタッフも驚いてから顔を引き攣らせている。
顔馴染みが多いのだろう。
俺はその姿に同じ様に苦笑いを浮かべながら涼子を見る。
涼子はニコッとしながら俺を見ていた。
柔和な顔で、だ。
☆
「.....どうする?涼子。このまま帰るか?」
「わ、私.....まだ帰りたくない」
「.....そうか.....ならどっか行くか?」
病院から出るとそんな会話になった。
それから俺達は病院を後にして歩き出す。
すると、じゃ、じゃあカラオケ屋に行きたい、と言ってくる。
俺は、!?、と思いながら涼子を見る。
「マジかお前!?カラオケ!?」
「な、慣れる為。.....それから、わ、私.....元一とイチャイチャしたい」
「お前な.....カラオケ屋はそんな事をする為の場所じゃないぞ」
「い、良いの。私がゆるす」
「お前が許すなよ.....」
俺は額に手を添えながらムッとしている涼子を見る。
その涼子の頭をまた撫でてやる。
それから、じゃあ行くか。カラオケ屋に、と笑顔になる。
すると涼子もニコッとした。
「そ、そうこなくちゃ」
「.....全くな」
「え、えへへ。元一とイチャイチャ.....」
「.....」
ホワホワする涼子。
いつもイチャイチャしていると思う。
だけどコイツにとってはそれすらも特別な事なのだろう。
思いながら俺は笑みを浮かべた。
それから俺達はカラオケ屋に向かう。
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