第21話 人生の価値

何日か経った後。

俺達はメルと直接話をする為に病院に行く事になった。

まだこのまま直ぐに直接話せるかどうかは分からないが.....それでも今話をしておかなければ後悔すると思ったのだ。

思いながら俺は病院の手前で消毒してから涼子と2人で病院に入って来る。

患者さんがいっぱいだった。


「や、やっぱり凄い圧巻」

「圧巻だな」

「.....そ、そうだね」

「人が多いしな.....まあ」


それから俺達は病院の受付にやって来る。

事務の人が俺達を優しく見上げてくる。

俺はその様子に、すいません。杉山メルさんに会いたいのですが、と声を掛ける。

すると事務の人は、そうなのですね。.....失礼ながらご兄妹様ですか?、と言ってくるのだが.....クラスメイトと答えて良いのかこれ?

そう思っているとそんな事務室の奥から、あらァ!、と声がした。


「涼子ちゃんじゃない!」

「ご、ご無沙汰しております。.....上山さん」

「涼子?知り合いか?」

「わ、私の.....お知り合い。確かに」


たまに付き添いでこの病院には来ているが。

この人に会うの初めてだな。

私は上山杉保よ。宜しく!、とニコニコしながら俺を見てから。

そのままの元気良過ぎな感じで、彼氏さんかしら?、と気圧されている涼子。


俺はその姿にクスクスと笑ってから、はい。彼氏です、と向く。

あらまぁ!!!!!、とアイドルに会ったファンの様にそのまま絶叫する上杉さんは静止された。

患者様にご迷惑で煩いです、と他の職員さんに。


「.....ごめんなさい。病院だって事を忘れていたわ」

「アハハ。良いんです。.....元気が良いのが一番です。.....な?涼子」

「げ、元気良過ぎて逆に不気味.....」

「あらまぁ!あっはっは!」


それから、ところで何のご用事かしら?今日は、と尋ねてくる。

俺達はハッとしながら、あ。患者の杉山メルさんに会いに来ました、と告げてみる。

すると、そうなのね。.....今は会えないけど配慮するわ。あなた方がせっかく会いに来たんですもの。クラスメイトよね?、と聞いてくる。

その言葉に驚きつつ、はい、と返事をした。


「じゃあ何とかするわ。交渉するから座ってて」

「.....すいません。お世話になります」

「良いのよ。.....涼子ちゃんの顔に免じてね」

「涼子。良かったな」

「う、うん」


それから俺達は待っていると。

病院内で呼び出しがあった。

そして俺達は実際に病室に行ってからメルに面会出来た。

上山さんのお陰だな、と思う。



「.....よお。メル」

「め、メルさん」

「.....何の用事」


メルは相変わらずの対応。

それから俺達に真顔を向けてきた。

俺はその姿に、元気か、と尋ねてみる。

メルは、まあ元気、と窓の外を見てそっけない返事をした。


「元気なら良かったよ。.....多少はマシだな」

「多少はね。.....死にたかったけど」

「死ぬ事で全てを解決するなら負け組だ。死ぬのは負けた意味を持つ」

「.....貴方は私を放った癖に」

「それはお前のせいだろう」


言いながら俺はメルを見る。

メルは、そうね。まあ私が悪いのは事実ね、と回答する。

俺はその姿を見ながら、メル。今日来たのはお前の妹と会ったからだ、と話す。

するとメルは驚いた様に俺を見てくる。


「.....お前の事について話していた」

「.....余計な事ね」

「.....俺な。お前のやった事は許せない。だからこそ恨みたい部分はある。.....俺はお前と話し合いがしたい」

「.....」


俺はお前に生きてほしかった。

何としてもな、と顔を真っ直ぐに見据える。

貴方の妹さんが事故にあったせいなの、と尋ねてきた。

その言葉に、そうだな。そうしたらいけないのかもしれないけど、と答える。


「私に何で生きてほしいの」

「.....お前はまだ知らない。人生の価値を。.....だから生かしたかった。俺が言える立場じゃないのは知っている。だけどお前もそれ相応の事をしたから言わせてもらう。.....お前が死ぬには早過ぎる」

「.....」

「俺はお前に生きてから罪を償って。そして俺もお前を思って罪を償いたい。死んだらこの思いも伝わらないだろ」

「.....そう」


言いながらメルは外を見る。

それから外を見ているメルを見ていると。

貴方達が付き合い始めたって聞いたけど、と切り出してきた。

俺は、!、と思いながらメルを見る。


「.....確かにその通りだ。俺達は付き合い始めたよ」

「マナから聞いたわ。なら言っておく。おめでとう」

「.....お前.....」

「でもそれ以上はない。それ以下でもない.....でもあくまで、おめでとう、とは言っておくわ」

「.....」


するとメルを何故か知らないがいきなり涼子が抱きしめた。

それから慌てるメルが、ちょっといきなり何をするの、と言うと。

涼子は、有難う、と呟く。

その言葉に暴れていたメルの動きが止まる。


「.....貴方がそう思えるのはきっとまだ貴方の心に善良な思いがあるから」

「.....涼子さん.....?」

「私は、有難う、って言ってくれた貴方を応援します」

「.....」


全くな変わらずだよな。

涼子も優し過ぎる。

思いながら俺は涼子とメルを見る。


メルは涙を浮かべてそっぽを向いた。

まだ.....ある、か。

善良な思いが.....だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る