第13話 力強い意志

で付き合ったのは良いものの。

この後はどうすれば良いのか全く分からない。

どういう意味かと言えばそのまま。

つまり俺はメルという人間にはそれなりに接してきたが。

そもそも涼子に対しては全くの素人である。


「ね、ねえ」

「.....は、はい?」

「て、手を繋いでも良い.....かな」

「手を繋ぐ.....」


言われて手を差し出せない。

真っ赤になってしまう。

手汗とか半端じゃないのだが。


何だこれ.....おかしい絶対に。

一体何故こんなにも恥ずかしい?

横に居る涼子の肩なんかずっと触れていた。

それに支える為に身体にも触れている。

だがそれじゃない。


明らかに別感情が芽生えている。

これは.....どうしたら良いのだ。

明らかにおかしい。

俺が俺じゃ無い感じがする。

心も身体もバラバラの様な感じだ。


「.....て、手を繋ぐのは.....恥ずかしい」

「な、何を女子みたいな事を言っているの.....逆だよ。普通」

「だってお前が可愛すぎるから.....」

「.....ななぁ!!!!?」


ななぁ、という新しい名言を生んだ涼子。

それから真っ赤に赤面する涼子。

そうして沈黙しているとノイズキャンセリングイヤホンに触ってから。

そのまま俺の手を握ってきた。

まさかの展開に俺はボッと赤面する。


「あ、あはは。手汗がすごい」

「だから嫌だって言ったのに!?」

「わ、私だって.....汗まみれだから。.....い、嫌じゃないよ」

「嫌じゃ無くても俺が嫌だぞお前.....」


あ、あはは、と言いながらニコニコしながら手を繋いでくる涼子。

俺はその姿を見ながら胸に手を添える。

これはマズイ.....心臓があり得ないぐらいバクバクいっている。

落ち着け相手は涼子だ.....涼子だ。

駄目ですね!恥ずかしい!


「涼子.....やっぱり手を繋ぐのはナシにしないか」

「いや.....だ」

「.....そ、そうですか」

「わ、私が繋ぎたいって言っている。か、彼女の言い分も聞けないの」

「.....だから恥ずかしいのに.....」


彼女だから恥ずかしいんだが.....、と思いながら俺は抵抗するも虚しくそのまままるで老人の手を引く様に手を繋がれる。

俺は心臓を落ち着かせながら歩いて帰宅していると。

涼子が俺に聞いてきた。

と、ところで、と言いながら。


「め、メルさん.....大丈夫かな」

「大丈夫ってのはどういう意味だ」

「い、いや。自殺未遂をしたし.....」

「.....確かにな。.....でも俺達からしてみればもう見守るしか出来ないよ」

「そ、そうだね。確かに」


失わなかっただけでも良かったかもしれない。

アイツはゴミクズだけど。

だけど俺は死なせなかった。


今回は救えたのだ。

あの時と違って。

救えなかったあの時と.....。


「す、凄い剣幕だったよね。本当に元一」

「.....死なせてはならないって思ったからな。.....実際」

「あの時に失ったら後悔したよね。きっと」

「俺も自殺していたかもな。.....アイツはアイツでゴミクズだけど。.....人間を救えないのはもっとゴミクズだ」


それは違う気がするけど.....、と俺を見てくる涼子。

俺は、いや。違わないよ。.....明らかにゴミクズだって認識出来る、と俺は告げながら俺は真剣な顔をする。

あの時.....お前が居てくれて良かった、とも。


「.....今度は2人で救えたから」

「そ、その時は1人だったけどね」

「そう。あの時も.....お前が居たら変わったんだよな」

「.....元一.....」


悠希.....を。

あの時は何故救えなくて同じ価値とは思えない印象の人間を今回は救えてしまったのだろうか.....。

結局助けても助けなくても同じなのか。

思いながら俺は涙を浮かべる。

すると横からこう声がした。


「も、元一。.....一緒に仏壇に手を合わせに行っても良い?」

「.....え?」

「私は報告がしたい。.....悠希さんに」

「それは付き合い始めたっていう報告か」

「うん。絶対に喜ぶと思う。.....今度は.....後悔させない」


そんな会話をしながら居ると交差点あたりで通行の問題で物凄く大きな車のクラクションの音がした。

それは流石の俺もビックリするぐらいの。


ハッとして青ざめながら横の涼子を見てみる。

涼子は耐えていた。

今にも倒れそうな感じで顔が真っ白だが。


「た、おれないよ。だって.....私は元一の彼女だからね」

「.....お前.....」

「もう二度と気を失わないって思う。.....だって元一を守りたいから。こんなので気絶なんかしてられない」


言いながら顔を引き攣らせながらも俺に笑顔を浮かべる涼子。

それから、私はこんな所で倒れる訳にはいかないからね、と冷や汗まみれでノイズキャンセリングイヤホンを触る。

俺は力強いその意志を感じながら唇を噛む。

そうだ。

俺が弱音を吐いていられない。


「.....サンキューな。涼子」

「.....え?え?何が.....」

「俺、お前に励まされてばかりだな.....」

「.....???」


首を傾げながら俺の顔を見る涼子。

それから俺は握りしめる。

涼子の手を。

優しく包む様に、だ。


「.....じゃあ行こうか」

「も、元一.....」

「大丈夫。.....もうきっと」


とは言ったけど大丈夫じゃないかもしれない。

まあ大丈夫じゃなかったらその時は休もう。

人生山あり谷ありだろうけど。

きっと最後に良い事はあると思うから.....。

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