第10話 絶望に飛ぶ

だ、だからといえ返事は今は要らない。

私が伝えたいだけだったから、と涼子は笑みを浮かべる。

いやまあお前はそうかも知れないけど。

何というか恥ずかしいとしか言いようが無い。


「どうしたお前。真っ赤だぞ?」

「.....なあ。奈良よ」

「ああ。どうした?」

「例えばの話だ。ラノベの話な?.....先にキスされて告白ってどう思う」


奈良は、え?、と顔を顰めたが。

顎に手を添えて数秒間、深く考えてくれてそのまま顔を上げてくる。

それから、まあ俺なら心底から愛すだろうなそんな女子だったら、と柔和に笑みを浮かべる。

俺は、そうか、と少しだけ困惑する。

奈良は、何か?お前が告白されたの?、と目をパチクリする。


「まさか。俺にそんな価値は無いのはお前も知っているだろ」

「でも俺が女子ならお前に惚れると思うが?忙しなく動いているだろうしな」

「気持ちが悪いわ。.....でも有難うな。そう言ってくれて有難い」

「こんなので良ければバンバン言うが」


それにしてもクラスは変わらずだがメルが居ないんだが?

何処行った、と思いながら奈良に聞いてみる。

奈良。アイツってか.....その。メルは何処行った、と。

すると奈良はその方向を見てから肩を竦めながら、知らんな、と答える。

俺は、ふむ、と思いながら奈良を見る。


すると何故か知らないが俺の視線は屋上に行く。

そこにメルが居た.....のだが。

柵を乗り越えようとしている.....マジか!!!!?

アイツ自殺しようとしているのか!?


「奈良!ヤバイ!あの方角でメルが飛び降り自殺しようとしている!」

「は!?.....あ!?うわマジか!?」

「すまないがアイツを見ていてくれ!」


奈良は飛んで行ってから慌てて窓を開ける。

その姿を確認しながらドタバタと教室を出て行く。

次の時間とか最早そんな事を気にしている場合じゃない。

メルのスマホに即座に電話した。


「何やってんだお前は!!!!!」

『ゴメン。反省の意味も込めて自殺した方が良いかなって思って』

「馬鹿野郎!俺まで迷惑が掛かる!」

『.....そうだね。.....でも生きている価値って無いし。私』


俺は、ええい!間に合え!、と吐き捨てながら走る。

すると目の前に人影が走って行った。

それは.....見慣れた人影だ。

つまり涼子である。

何処で見ていたのか知らないが駆けている。


「涼子!」


声をそう掛けたがその声は間に合わなかった様だ。

屋上に駆け込んで行く涼子。

それからバァンとドアを開ける音がして、メルさん!、と大声がする。


俺はその声を追い掛ける様に屋上に飛び込んだ。

クソッタレ。

マジに、はた迷惑だな!


「メル!何している!」

「え.....元一.....!?」

「元一.....」


そんな驚きの声と呼ぶ声。

それぞれがする。

それから俺達は柵を越えようとしているメルを見る。

死んでもらっては困るのだが。

思いながら俺は、メル。良い加減にしろ。全てお前が導いたんだぞ。自業自得の結果だ。.....だけど死ぬまではないだろ!、と絶叫する。


下の階とかでは、何事だ!?、とか声がする。

全校生徒が俺達に注目が集中していた。

地上でも先生達が驚き慌てている。

俺はその姿を見ながらメルを見つめる。


「.....メル。死ぬのは早い。.....お前は確かにやらかしたんだ。だけどそうだとしても生きてほしい。お前が死んだら.....周りの奴らが悲しむぞお前」

「反省の意味も込めて死んだ方が良いと思う。.....私は。浮気はやったらいけない事だけどやってしまったしね」

「待て。マジに死ぬから。4階だぞここ。マジに死ぬ気か」


俺はゼエゼエと息を切らしながらメルを見る。

メルは手すりを触りながら俺に頭を下げる。

私は反省している.....だけど私自身が許せないから、と言葉を発する。

それから涼子を見るメル。

そして頭をまた下げた。


「.....ゴメンなさい。涼子ちゃん。貴方にも迷惑を掛けたね」

「待って。止めて。お願い。こんなのおかしい」

「.....」

「涼子も言っているが。.....言っちゃ悪いがお前のヤケクソには飽き飽きだ。.....だが死んでもらっては困る」


幾らコイツでも生きる人権はある。

死んでもらう必要までない。


思いながら見ていると一歩進んだ。

それからフッと重力が無くなる。

きゃー!、とか悲鳴が上がる。

俺は!!!!!と衝撃に思いながらメルの手を何とか握った。


「くそ!俺の力じゃ.....涼子!.....涼子!!!!!」

「う、うん!」


下から、頑張れ!もう少しで先生とか行くから!、とか声がする。

その声は僅かにしか入らない。

今はそれどころではない。

思いながらありったけの力を込めて握り締める。

後悔なんぞ.....もう二度とゴメンだ。


『お兄ちゃん。もう離して。.....有難う。私の為に頑張ってくれて。お兄ちゃんは生きてね』


「クソが!!!!!二度とそんな目に遭うか!」

「そだ.....ね!頑張って!メルさん!」

「.....」


メルは力無く俺の腕に捕まっている。

これはマズイんだが。

迂闊にすると落ちてしまう。

思いながら居ると下の階から、こっちだ!、と声がした。

そこは音楽室なのだが先生の声がする。


「こっちに足をついて!早く!」

「メル!聞け!.....マジで今、死ぬな!」


俺が必死に引っ張ると。

何とかメルは下の階から保護された。

それから俺は項垂れる。

涼子が安心したのか泣き始めた。


「.....本当に.....良かった.....」

「.....ったくクソッタレだわマジに」


後ろに腕を置きながら俺は盛大に溜息を吐く。

二度と。

もう二度と失くしてはならない。

悠希を失った時の思いで。

俺は腕をありったけの力で引っ張った。


脳血管でもガチで切れそうだったが。

血流ってか血圧で、だ。

その分、助かって良かった、と思う。

幾ら何でも死ぬ必要までは無いから.....良かった。


それから先生達が、警察が、救急車が来た。

大騒ぎになったが。

何とかメルは死なずに済んだ。

これからだろうけど.....一応死ななかった。

良かった、と思う。

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