第5話 揺らぐ心

チークキス。

これは外国では要はこう言われている。

ハグキッス、という感じ。

つまりは端的に言えば挨拶をしている様なものだ。

だがその。


チークキスを日本でやった挙句。

仲が物凄く良い女子の幼馴染にされては話が別だと思う。

それにこれは本当にチークキスか?


そして何でチークキスとか知ってんのよ。

思いながら俺は真っ赤になりながら歩いて帰って来る。

集中力を高める為に首絵を振ってから俺は仏壇を見つめる。

そこに四葉のクローバーを押し花にしたものを捧げる。


「.....悠希(ゆき)。涼子が四葉のクローバーをくれたぞ。良いよな。四葉って」


カーテンを閉めている為、静寂に包まれ.....まあ時計の針の音は聞こえるが。

その中で俺は仏壇に置かれている悠希の写真を見ていた。

亡くなる直前に撮ったものである。

俺はそんな悠希の写真を見ながら涙を拭った。

馬鹿だな俺は。


「.....お前が生きていたら何て言うんだろうか。この先の事とか。お兄ちゃんは.....絶望しかない」


そんな事を言いながら俺は別の写真をもう一度見る。

5年前の写真であるが。

これは事故が起きる1週間前に家族で集合して撮った写真だ。


これが.....最後の家族写真となった。

この後に山に登って家族写真をまた撮ろうとしたが。

悠希が滑落して状況は変わった。


「だけど今を生きないといけないと思うから。頑張るよ。俺達を、アイツを見守って下さい」


そんな事を言いながら俺は手を合わせる。

葬式で使った写真だが。

悠希が笑顔で居た。

俺はその顔にまた涙が浮かぶ。


「.....く.....」


呻き声を上げながら。

俺は俯く。

それから絶望に暮れる。

あくまで反省しかない人生だ。

そう思っているとインターフォンが鳴った。


「.....?」


俺は顔を上げて玄関に向かう。

それからドアを開けると.....ノイズキャンセリングイヤホンを着けた涼子が居た。

俺をチラチラ見ながらかご?に入ったお菓子を差し出してくる。

目をパチクリしてからそれを受け取る。

そして、どうしたんだこれは?、と聞くと.....、さっきカップケーキ作った、と涼子が言ってくる。


「そ、その。おいし.....かったら良いけど」

「お前が作った物だったら何でも美味しいと思うんだよな」

「そ、その言葉は恥ずかしい.....かも.....で、でも有難う」

「大丈夫。自信を持って良いんだぞ」


そして俺はその場でカゴから取り出して食べた。

あ、と赤くなって止める涼子を差し置いて、であるが。

何だこれめっちゃうめぇ.....染み渡る。

思いながら俺は涼子を見る。


「相変わらず料理上手だな」

「お、お母さんが包丁とかは触らせてくれないけどね」

「それでもここまで出来るんなら才能だな」

「えへ、えへへ」


ニコニコする涼子。

俺はその姿を柔和に見ていると。

涼子が、そういえば泣いていたの?、と聞いてくる。

ハッとしてから俺は涙跡を拭う。


「.....後悔のある人生だから」

「後悔.....」

「でもお前が居てくれて.....全部が変わる。だから今は後悔って思ってない」

「そ、そうなんだね」

「ああ」


そ、その。じゃ、じゃあ落ち込んでいるなら。

い、一緒に外に出ませんか、と聞いてくる。

俺は?を浮かべてからその姿を見る。

どうして外に出るんだろうか、と思ったら。


「えと。あっと。.....えと。.....で」

「.....で?」

「い、一緒に買い物したい.....」

「それって、で、は関係無いと思う.....は!!!!?」


俺は言葉に答えたのだが。

数秒考えてから真っ赤になったが。

でも少しだけ考えてから俺は胸に手を添える。

成程、と思った。

それから俺は笑みを浮かべてから涼子を見る。


「なあ。涼子。何で買い物に行きたいんだ?」

「そ、それは簡単だよ。だって元一と一緒に居ると楽しい.....から」

「そうなのか.....そ、そうか」

「う、うん。私.....元一の事は心から信頼しているし」


言いながら、あ、あはは。何を言ってるんだろうね、と恥ずかしがりながら前髪を弄ってから前頭部を掻く涼子。

俺はその言葉に!と浮かべながら苦笑する。

それから涼子を見る。

良いんじゃないか?、と言いながら。


「俺としては嬉しいよ。そんな事を言ってくれて。感謝しかない」

「そ、そう?」

「ああ。近所のショップに行くか」

「あ、有難う!い、行きたい」


ふぇへへ、と言いながらはにかんでニコニコする涼子。

俺はその姿を確認しつつ柔和になる。

可愛いもんだな。


それに丁度良かったかもしれない。

よく考えたがメルの事がまだ頭で怒りで残っている。

これを晴そう。

そう思えるしな。

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