第6話 涼子が持病を抱える原因になった出来事

涼子が調子があからさまに悪くなったのは5年前の事だった。

それまではひたすらに元気な女の子だったのだ。

あくまで推測であるが。


俺が悠希を失ったあの時と悪くなった時期と重なっている。

あくまで.....これはあくまで。

本当にあくまで推測だが。


「わ、私のどもりって煩いよね」

「煩いなんて言っているか?俺。.....お前のどもりは持病なんだから仕方がないだろう」

「そ、そうかな。私は.....煩いしウザイって思うけど。怖い」

「それは考えすぎだ。そして俺がそんな事は言わせない」


そんな事を言いながら俺達は近所のアクセサリーショップに来た。

ここは身近なアクセサリーが売られているお店だ。

親しみやすいと思う。

値段も学生向けだしな。

何故こんな場所に来るのか分からないがおしゃれしたい年頃なのだろう。


「ね、ねえ」

「?.....どうした?」

「メルさんの事.....まだ何か引っかかる点がある?」

「アイツの事なら常に引っ掛かっているな。.....最悪の気分だしな」


人の心を弄んだ感じだから。

思いながら目の前の天然石のアクセサリーを見る。

この場所はネックレス売り場か。


思いながら見ていると.....懐かしいネックレスを見つけた。

それは俺と.....ああ。

マズイ。


「.....も、元一?」

「すまない.....すまない」


涙が止まらなくなった。

この場所の見るもの全てを思い出してしまう。

俺と悠希を最後に引き合わせたネックレス。


引き合わせた.....というか。

俺たちの運命を分けたネックレス。

このネックレス.....は悠希が最後に首にしていたものと同型だな。


「元一。これ買いたい」

「.....何言っているんだ。これは.....」

「い、良いんだよ。例えば私に重ね合わせて。.....悠希さんの存在を」

「駄目だって」

「良いから」


ネックレスを手に取る涼子。

タイガーアイの石が一個付いた紐のネックレス。

それはまさに悠希を彩っていたネックレスだった。


だけど今はもう.....終わりしか感じない。

と思っていたのだが。


だがいきなり俺と悠希のそれなりの運命のネックレスを、買いたい、と涼子が言い出してビックリした。

俺は衝撃を受けながら涼子を見る。

涼子は俺を見てから真剣な顔をする。


「.....わ、私は何よりも3人で幸せになりたい」

「お前は変わらずだな。まあそれがお前なんだけど」

「う、うん」


タイガーアイはアイツが好きだった色である。

俺はタイガーアイを見る度にアイツを思い出す。

悲しい思いもあるだろう。


だけど今は。

何か別の事を感じた。

ふと思いながら俺は涼子を見る。


「涼子。タイガーアイは好きなのか?」

「す、好きだよ。悠希さんが好きだったから」

「.....俺も好きな石ではあるけどな。でも何だか前よりも好きになったよ」

「え?そ、それは何で?」

「さあな。お前のお陰かもしれない」


そんな事を言いながら俺はタイガーアイを見る。

そして今日は涼子はネックレスを買っていく。

しかし何で今日はいきなり外に出るって事になったのか?

それがちょっとよく分からない。



「き、今日は元一の為だった。元一が悩んでいたから」

「そうだったんだな。.....別にそんな配慮しなくても良かったんだが」

「そ、それは思うけどね。でもメルさんにも裏切られて.....私.....元一の周りの事、感情もそうだけど全部複雑になっているって思っていたから」

「そうなんだな」


そして俺を、楽しいね、という感じでチラチラ見てくる。

それからデジタル時計を見始めた涼子。

そうしてから、じ、時間あるよ。つ、次何処か行く?、と聞いてくる。


俺はそんな涼子の期待の眼差しに、そうだな。じゃあ公園でも歩いてみるか?、と言ってみる。

涼子は、う、うん、と笑顔になってから俺の腕をチラチラ見る。

何だ今度は?、と思って俺は自らの腕を見る。

すると手をグーパーして真っ直ぐに俺を見据えてきた。


「その!」

「う、うん!?」

「う、腕を組んで歩いてみて良い?」

「.....手をつなぐ!?」

「そ、そう。.....元一と腕を組みたい」


バカな.....何を考えている!?

俺は真っ赤になりながら涼子を見る。

積極的過ぎるし一体全体何がどうなっている!?


思いながら俺は深呼吸をしてから、元一君はいつでもお前の手を握ったりしているんだが.....?と苦笑して聞いてみる。

すると。


「う、うん。そ、そうじゃないの。それは、そうじゃ.....ないの」


と涼子はワタワタし始めた。

そしてあからさまに落ち込む。

俺はその姿に我慢が出来なくなった。

分かった、と言いながら。


「.....じゃあとにかく腕を組めば良いんだな?」

「そ、そうなの!あ、有難う」


それから涼子と腕を組んでみる。

側から見れば聴覚障害者を援助している奴に見えなくもないが。

俺は構わない、と思っているが。


でも俺はそれを考える暇があまり無い。

恥ずかしすぎるのだ。

メルとやったとはいえ、だ。


「りょ、涼子。流石に恥ずかしいんだが」

「あ.....う。確か、に」

「止めるか?」

「や、やだぁ.....」


涼子は頭をブンブン振る。

そしてそのまま、このままが良い、と寄り添って来る涼子。

俺はその姿にまたズキーンと胸が痛む。


痛むっていうのが.....何だかその。

可愛すぎて胸が、だが。

困るんだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る