12.それはフォックステイルのいない世界


「いたいた。ここにいると思った」

と、ツナは、フォックステイルの銅像の前にいる王の傍に駆け寄った。王は振り向いて、ツナに、やぁと、手をあげる。

「なんなんだよ、あれは」

「何が?」

「あれじゃぁ、お前1人が悪人じゃねぇかよ」

「それを狙ったんだけど?」

「そんなもん狙うなよ!」

「いいんだよ。それに何があっても、ツナは僕の味方だろ?」

「当たり前だろ」

「忠誠誓ってるもんね」

と、笑う王に、そんな口だけのもんじゃないと、ツナは思う。

そこにカモメもパンダもシカも来て、みんなで、フォックステイルの銅像を見上げる。

あの日、フックスに助けられた命は、今、こうして、フックスの思い描いたであろう世界をつくりだした。

「やっとだよ・・・・・・やっと・・・・・・フックスの願いが叶う・・・・・・フックスがフォックステイルになった理由も、フックスが守ろうとしてきたモノも、全て今に繋がった!これから大きく変わる世界は、僕達がフックスの足跡を追って来た証!」

そう言った王に、皆、頷いた。

もう子供達が路頭に迷う事もない、無暗な戦いもなく、無意味に失われる命はない。そして笑顔が絶えない平和な世界への一歩――。

「いつか、僕達も、フックスがいる世界へ逝く時が来るだろう。その時、自信持って、フックスに逢って、話す事ができる。僕達がやって来た事、そして、僕達が築き上げた事」

王がそう言うと、

「あぁ、フックスに言ってやろうぜ、あの時、命に変えて救ってくれた俺達は、フックスがやろうとしたであろう事を、やってやったぜってな」

ツナがそう言って、

「オイラ達を助けた事を、彼は自慢に思ってくれるよね。もしかしたら、今頃、見てくれてて、アイツ等は自分が救った命なんだって誰かに自慢してたりして」

カモメがそう言って、

「まだまだこれからだけどね。もっともっと自慢に思わせたいから、ボク達は長生きして頑張らなきゃね」

シカがそう言って、

「つまりさ、まだ終わりじゃないって事なんだよね。賊がいなくなったら、いなくなったで、またなんか問題があるんだよ、絶対に。結局は変わらず大変なんだよ、きっと。世界はそんな簡単に良くはならない」

そう言ったパンダに、今そういう事を言う必要ないだろと、お前はいつも一言多いんだよと、皆で言っていると、そこにセルトが来て、ツナは、気を利かせ、カモメとパンダとシカを連れて、その場を離れた。

「あの・・・・・・話があります・・・・・・」

「うん」

「あの・・・・・・おれがフォックステイルだって事・・・・・・実はオヤジは知ってて・・・・・・」

「え? オヤジってガムパスの事だよね?」

「はい」

「いつから知られてたの?」

「えっと・・・・・・シャークとスカイが戦った後くらい・・・・・・」

「だいぶ前じゃないか」

「報告しなくてスイマセン」

「いや、それはいいよ、でも、なら、何故、その後も、セルトはサードニックスにいられたの?」

「おれがアレキサンドライトから、サードニックスに戻った後、オヤジに呼び出されて、もう殆ど寝たままだったオヤジは、弱気になってた部分もあると思うんだけど・・・・・・その頃はスカイはシンバと名乗ってて、サードニックスのガムパスの秘蔵っ子なんて言われてたから・・・・・・」

話ながら、セルトは、その時の事を思い出している。

『セルト・・・・・・何故・・・・・・儂がお前じゃなく・・・・・・シンバにサードニックスを任せようと思ったか・・・・・・わかるか・・・・・・?』

ガムパスに呼び出されて、そう聞かれ、

『そりゃアイツの方が強いからだろ』

そう答えた。

『強さで言うなら・・・・・・お前の方が強いだろう・・・・・・いつだってお前は本気を出さないだけだ・・・・・・』

『いや、おれはいつだって本気でやってるよ』

『いいや・・・・・・お前は本気を出さない・・・・・・何故なら・・・・・・お前は誰も殺さないからだ・・・・・・』

『そ、それは・・・・・・おれが臆病だから・・・・・・』

『違うな。臆病な奴がアレキサンドライトに寝返って、傷を負ったとは言え、シャーク相手に踏みつける真似する訳ないだろう・・・・・・』

『それはだから・・・・・・おれだって賊な訳だし・・・・・・』

『もう嘘は吐くな・・・・・・お前はサードニックスの賊じゃねぇ・・・・・・お前はフォックステイルなんだろう・・・・・・?』

そう聞かれ、おれの腰のフォックステイルを見ていた。

おれは笑い飛ばして、なんだそれ?と、頭がイカレたんじゃないか?と、誤魔化したが、

『お前はサードニックスの中に入り込んだキツネだ・・・・・・だから儂はお前をサードニックスの後継者に選ばなかった・・・・・・』

と、真剣に話出すから、茶化す気分にもなれず、黙るしかなかった。

『だが・・・・・・もう後継者など必要ない・・・・・・』

『え?なんで?』

『シンバは儂に忠誠を誓い過ぎた・・・・・・賊はもっと軽率ななもんだ・・・・・・シンバを見てると・・・・・・賊になろうとしている子供を見ていると・・・・・・悲しくなる気分だった・・・・・・儂がそう育てたのにな・・・・・・』

『・・・・・・』

『儂がシンバを大事に想ってるからこそ・・・・・・そう思うんだろうな・・・・・・』

『・・・・・・』

『サードニックスは儂が呼吸をしている間は最強の賊として君臨させる・・・・・・それに協力してくれないか・・・・・・フォックステイル・・・・・・』

おれをフォックステイルと呼び、一生で最初の最後の願いだとばかりに、

『大勢の賊を欺いてくれ・・・・・・フォックステイル・・・・・・』

と、大きな手で俺の腕を掴んで来た。

『わかった』

おれは頷いた。そして、

『今後一切、サードニックスに人は入れないし、これ以上、誰も賊にはさせない。つまりシンバ以上の後継者も現れない。サードニックスはオヤジの代で終わりだ』

そう言ったら、それでいいと、オヤジは頷いた。

それはオヤジの戯言のように、夢でも見てたんじゃないかって事で通るくらい、数時間後には、いつものオヤジで、おれをいつも通りサードニックスの賊として扱っていた。

そして、オヤジは死に際におれだけを呼んで、おれに言ったんだ。

『ありがとう、フォックステイル。最強の賊として、今の今までサードニックスを守ってくれた事、恩に着る。後はお前の好きにしていい、全て終わらせて、新たな時代を築け、フォックステイル。儂は満足だ』

オヤジはおれがフォックステイルである事を承知の上で、傍に置いたのは、サードニックスを終わらせる為。

終わる為に、最強でいる為。

だからおれは、それに応える為に、サードニックスに居続けた――。

その話を聞いた王は、フッと笑いを零した後、アハハっと声に出して笑い、青空を見上げ、

「最後はやられちゃったなぁ、ガムパスに」

と、騙す筈が騙されてたなぁと、大笑いした。

「そうかぁ、セルトがフォックステイルと知ってたのかぁ。流石だねぇ。それで? セルトはどうしたいの?」

「はい。おれは、ガムパスの銅像をつくって、こうしてフォックステイルみたいに崇めたいと思うんです。そこにはガムパスの遺体を埋めたい。シンバと・・・・・・いや、スカイと、たまに銅像を見上げながら、オヤジの話をしたい。でも、それをシャークは許さないと思うんです」

「だろうね」

「どうしたらいいでしょうか・・・・・・」

「だから僕に頼みに来たんでしょ? 王である僕なら、それを許可できる。シャークとは、また話してみるよ」

「ありがとうございます!!」

頭を下げるセルトに、

「暫くは、ツナを派遣するよ。シャークの横暴に、うまく対処していかないとね。今後もカーネリアンはアレキサンドライトと仲良くやっていきたいし」

「それはアレキサンドライトと言う国をつくった責任があるからですか?」

「違うよ。キミがいるからに決まってるだろ」

そう言って、王は笑顔で、

「これからはもっと甘えていいんだから、しょっちゅうカーネリアンに来てよ。僕もそっちへ行くけど」

と、セルトを想っていると言う台詞。

「それは・・・・・・おれがアナタの腹違いの兄弟だからですか・・・・・・?」

「そうだよ」

速攻で頷く王に、セルトは、

「おれ・・・・・・あの父親から生まれて来て良かったって・・・・・・今初めて思ったかも・・・・・・」

そう言って、照れたように俯くが、

「僕も思ってるよ。セルトが生まれて来てくれて、僕の弟で良かったって。うん、ホント、セルトで良かった」

照れもなく、そう言って笑っている王に、余計に照れてしまって、

「じゃぁ、おれ、行きます」

と、ペコリと頭を下げ、素早くその場から離れて、駆けて行く。その背を、王は見送りながら、

「いつまでそこで拗ねてるつもり?」

と、銅像の裏で座り込んでいるフックスに言った。

「出ておいでよ。そこにいるのはバレバレ」

ゆっくりと姿を出すフックスは、ムッとした顏をして、下を向いている。

「なんて顏してるんだよ」

「なんで・・・・・・パパはフォックステイルだってオレに隠してたの? オレがフォックステイルごっこやってるの見て、バカにしてた訳? だからオレがフォックステイルをやるとダメって怒ったの?」

唇を尖らせて、そう言うから、ハハハッと茶化すように笑いながらも、王は真剣な表情をしている。

「お前がフォックステイルごっこをやるのをダメだと言ったのは、バカにしてた訳じゃなくて、お前が・・・・・・フックスが、余りにもフォックステイルだったからだよ」

フックスは顔をあげた。そして、

「オレの名前・・・・・・フォックステイルから・・・・・・?」

そう尋ねた。

「そうだよ。僕が尊敬してて、憧れてて、絶対に超えられない人。そして大好きな人。その人の名前からだよ。フックスが生まれた時、僕にもネインにも似てないカラーで、そのアンバーの髪色や瞳は、まさにフックスそのものでね、隔世遺伝なんだろうけど、生まれ変わりだと思ったくらい、本当にフックスにソックリだったんだよ。成長するお前も、本当にフックスみたいで、フォックステイルになるって言い出して、フォックステイルの真似事を始めた時は複雑な気持ちだったよ。その内、お前の真似事は、遊びじゃなくなってきた。遊びでやるにはダメな程、ホンモノだったから。だから、フォックステイルを目の当たりにした人が、フォックステイルに憧れるんじゃないかって思うと、尚更、ダメだと言うしかなかったし、やめさせるしかないと思っていた。でも、お前があんまりフックスに似てるから、僕の嫉妬だった部分もあって、強く言い過ぎたかもしれない」

「・・・・・・」

「僕は、イロイロ間違ってるし、間違って来たし、間違いだらけだ。いろんな選択を間違って来て、今があると思う。本当はね、王になる事もイヤで、今だってイヤだ」

「え!?」

「そんな驚く?」

「だってパパは絶対に王になる為に生まれて来た人みたいなトコあるから」

「ホントに? そう見えてる? それならうまくやれて来てるのかな。本当はね、ずっとフォックステイルでいたかったんだ。でも、僕は、フォックステイルになりたいのか、それともフックスのようになりたいのか、どっちなんだ?って考えた事がある。フックスはフォックステイルだったけど、フックスがフォックステイルになったのは、世界を変えたかったんだって思った。もっと優しくて、思いやりがあって、笑顔が溢れてる世界。それを思ったら、世界を変える事ができるのは、フォックステイルより王だよね。僕が王になれる事は血筋だけど、この血筋は奇跡だなって思った。フックスが世界を変えたいと言うチカラを、僕は持ってる事になるから」

「・・・・・・王のチカラに頼るなんて・・・・・・虎の威を借る狐だ・・・・・・」

「まさにそれだね。王というチカラを使うと言う事は本来の自分のチカラじゃない。でも狐はそういうもんだよ。自分はこっそり隠れて、何食わぬ顔でさ。賊達が手に入れた宝をシレッと頂いて、自分はサッサと逃げちゃうんだからね。だから賊達にはよく言われたよ、卑怯者、小物、敗者、卑劣、姑息に低俗。下衆に下等。賊に言われるんだよ? 笑っちゃうよね」

と、声を出して、笑う王に、フックスは黙ったまま。

「でもホントその通りだろ? フォックステイルのやり方は、あくまでも結果論。過程を知られない為にも、正体さえ誰なのかわからないのがいい。彼等は自分の正義を信じてるだけで、誰にとってもの正義ではない。彼等は賊と同じ闇の世界で生きている。誰もが光ある道を選ぶべきだから、彼等の跡を追ってはいけない。でも誰でもフォックステイルにはなれる。騎士だって、学校の先生だって、絵本作家だって、医者だって、飛行機乗りだって、王だって、そう、賊だってね、フォックステイルにはなれるんだ。正しい事をするのに、何者かは関係ない。だから――」

「わかったよ! オレが悪かった! もうやめるよ!! だからわざわざ子供を諭すような説教を延々とやめてよ!!」

そう言うと、フックスはプイッと横を向いて話し出した。

「オレのせいで・・・・・・オレがフォックステイルをやったせいで、ギャングが生まれたのかもって思ったら、やっぱりパパの言う事は正しかったのかなって思ったよ・・・・・・。思い知ったよ!! オレは特別な人間でもなんでもないから、オレが出来るなら、他の奴等だって出来て当然だし、アイツに出来るならオレにも出来るって、そう思われて、フォックステイルになろうとした奴が、全然違う者になるのもわかる。パパが話した騎士になれなかった者が賊になって、賊時代になったって聞いて、騎士と賊は全然違うけど、なろうとしたモノは同じなんだなって思ったし。でも、オレは本気で本当にフォックステイルが好きで、大好きで、憧れで、なりたかった。多分、それはこれからも変わらない!!」

「うん」

「だからオレは王になる」

「そうか」

「うん。パパを超えるよ。フォックステイルとしては超えれなかったけど、王としては超えれる自信あるからね」

と、イタズラっぽい顔で笑うフックスの頭を、王はクシャクシャと撫でたが、もうそんな年齢ではないのだろう、やめてと嫌がられる。

「ねぇ、パパ」

「うん?」

「さっきセルトさんと話してたのを聞いたんだけど…セルトさんもフォックステイルなんだよね? ツナ騎士隊長も? それからカモメ先生達も?」

「そうだな・・・・・・僕はいろんな人に助けられてフォックステイルをしてきた。そういう意味では、みんな、フォックステイルだったよ」

答えにはなってないが、そう言って、微笑んでいる王に、フックスは頷いた。

「じゃぁ、オレ、着替えて、イロイロと手伝って来るよ」

早速、王族として、これからの事を考え、自ら手伝おうとするフックス。

「パパは? 行かないの? パパ行かないと始まらないでしょ?  王の間も、まだ賊達が沢山残ってるよ」

「あぁ、そうだな。でも、もう少し、ここにいるよ」

と、王は銅像を見上げる――。

フックスの言う通り、王の間は、まだ賊達が残っていた。

既に騎士達により、連れて行かれた者もいるが、多くの賊が、王に言いたい事があると居座っている。

そんな中、シャークと、リーファス、リンシー、そして、その間にシンバがいて、そこだけが酷く緊迫した空気が漂っていた。

その空気を打ち破ったのは、

「ダンナ! ダンナ! 準備できやしたよ! 行きやしょう! いやぁ、お堅い格好と喋りは窮屈でやしたよ~」

と、トビーが、大きな荷物を持って、ドタバタとシャークの傍に来たからだ。

「トビー・・・・・・」

と、低い声で、名を呼び、シャークは、トビーを冷めた目で見下ろす。

「さささ、コチラへ! 行きますよ、ダンナ!」

そう言って、トビーがシャークの前を歩き出し、シャークは黒いマントを翻し、行こうとしたが、

「オジサン!!」

シンバの呼ぶ声に足を止め、振り向いた。

「オジサン!! オジサン、王様になるの? だったら、作れるね!! オジサンの世界!! ボク、言ったよね!! オジサンの世界を作ればいいって!! オジサンの世界、作れるね!! ね!! 作れるね!!」

何度も作れるねと言うのに、その後の台詞が言えない。

オジサンが作った世界にボクはいるのかな?

それが聞けない。

何故なら、シャークが、他人を見る目で、シンバを見るからだ。明らかに、ずっと傍にいた時とは違う目だ。突き放すのとも違う。初めましてと言うに近い、全く知らないと言う目だ。それがシンバには怖くてたまらない。

「シンバ、こっちへおいで」

リーファスがそう言って、手を広げるが、シンバは見向きもしない。シンバの傍に行けばいいのだが、寧ろ、コッチから行けば逃げてしまう気がして、リーファスもリンシーも動けない。

「オジサン!!」

そうシャークを呼ぶシンバ。黙ったまま見つめるシャーク。

「オジサン!! オジサンの世界はきっとこの国より素敵なんだろうな!! そうだよね? オジサン?」

「・・・・・・誰だテメェは。馴れ馴れしいガキだな。俺様に話しかけてんじゃねぇ。テメェなんざ知らねぇよ」

「オジサン・・・・・・?」

「おい、テメェのガキだろう、リーファス・サファイア」

シャークは、リーファスを睨み見る。

「あぁ、そうだ。知ってたんだろう、俺の子だって!」

「ハッ! 知るかよ。さっさと連れてけ。うっとうしい」

「貴様ッ!! 狙うなら俺だろう!! 憎いのは俺だろう!! 息子は関係ない!!」

「あぁ? なんだそりゃ? 俺様がいつテメェを憎いと言った?」

「俺は賞金稼ぎだった。お前のアレキサンドライトの賊も、何人か狩った事がある。それを恨んでるんだろう?」

「バカじゃねぇのか? 俺様は空賊だ、狩る事も狩られる事も承知の上でやってんだよ。それをいちいち恨んでたら、やってらんねぇだろ」

シャークに、そう言われ、リーファスは黙ってしまう。

「俺様が恨んでいる相手は、只1人、俺様から強さを奪ったフォックステイルだ。テメェなんざ、眼中にさえねぇよ」

だったら、何の為に飛行機から降りたんだろうと、リーファスは思う。今更、飛行機乗りに戻れと言われても、だいぶブランクがある。

「オジサン・・・・・・」

「オジサンオジサンうるせぇガキだ! さっさと親のトコに帰れ!!」

「オジサンだってボクの親だ!!!!」

そのシンバの台詞は、リーファスとリンシーに衝撃を与える。だが、悲しいのか、嬉しいのか、憎いのか、わからない感情だ。

「だって・・・・・・ボクはアレキサンドライトなんでしょ・・・・・・? オジサンの家族なんでしょ・・・・・・?」

シャークは何も答えず、再びマントを翻し、背を向けた。

「オジサン!!」

シャークは横顔だけ振り向いて、

「お前が住みやすい世界にしてやるよ、いつか、飛行機に乗って遊びに来い」

そう言って、早く早くと急かすトビーの後を追って行く。そのシャークの背に、

「オジサーン!! 王族は王族の血族者が跡を継ぐんだよー!!」

と、叫んだシンバは親指を出して、シャークの背に見せる。

シャークと契約する儀式をした親指。

2人の血が混ざった傷跡のある親指。

今、シンバの周りに風が吹く――。

「父さん、母さん」

やっと振り向いてくれたとリーファスとリンシーはホッとして、シンバの傍に駆けて行く。

「ごめんね、父さん、母さん」

「いや、いいんだ、もう」

「そうよ、シンバ。もういいの。アナタが無事だっただけで」

「父さん、飛行機乗りになるの?」

「え? あぁ、いや、どうかな・・・・・・?」

「あら、飛行機乗りに戻りなさいよ」

「そう簡単じゃない。ブランクがあるし、それなりのタイムが出ないと賞金ももらえないし、結果を出さないと援助もされない。収入源がなくなったら困る」

「私が働いてるじゃない。アナタとシンバくらい養ってあげるわ」

そう言ったリンシーに、リーファスは苦笑い。だが、2人の風がいつもと違い、心地よくて、うまく混ざり合い、優しくそよぐから、シンバは嬉しくなって笑うと、

「何笑ってんだ、全く、お前は誰に似たんだか!」

と、リーファスはシンバの頭をぐしゃぐしゃに撫でまくり、よいしょっと、肩車して、

「重くなったなぁ・・・・・・」

と、最後に肩車をしたのは、いつだっただろうかと、幸せな記憶を辿った。その幸せな家族の横を、

「セルトー?」

と、スカイが通る。セルトを捜しているようだ。

セルトはと言うと、今、王の間に戻る通路を歩いていると、向こうから、トビーとシャークが来るから、セルトは足を止める。

トビーが、セルトの横を通り、シャークが、横を通り抜け、セルトは身動きできず、突っ立ったままでいると、

「おい、フォックステイル」

そう言われ、思わず、振り向くと、シャークがニヤリと笑みを浮かべ、

「やっぱりな」

と、帽子を深く被り、

「テメェもだろ? テメェもフォックステイルだろ。後何人いるんだ? あの王の直ぐ傍に立っていた騎士隊長もフォックステイルか?」

そう言われ、セルトは、

「何の事だ」

そう言って、無表情を作っている。だが、シャークは心の中をお見通しなのか、ニヤついた表情のまま、

「今は見逃してやる」

と、

「だが、次はないと思え」

そう言って、行こうとするから、

「だから何の話だ!!」

セルトはシャークの背にそう怒鳴った。すると、トビーが駆けて来て、セルトの前に立ちはだかり、

「王に無礼ですぞ!! この方はアレキサンドライトの陛下ですぞ!!」

と、大臣風の喋り口調で、そう言って、セルトに怒鳴り返した。シャークは笑いながら、トビーの頭を大きな手で鷲掴み、

「昔よりはいい仕事をするじゃねぇか」

そう言うと、セルトを見て、

「次はない」

と、シャークがそう言うので、セルトは、ハッとして、頭を深々と下げた。そして、シャークがその場から去る迄、頭を下げ続けた。

そこへ走って来るのはスカイ。

「セルト! 何やってんだよ!」

「何って・・・・・・」

「オイラ、サードニックスに戻るのか?」

「あぁ、そうだな。まぁ、またリーファスと話す必要があるだろうけど・・・・・・」

「いや、リーファスとかじゃなくて、オイラの意思は!?」

「意思っつったって、お前、賊がいなくなったら、賞金稼ぎできねぇだろ? だから飛行機乗って、優雅に旅をするのも無理だろ。収入源なくなるからな」

「そうだけど・・・・・・」

「それとも他にやりたい事あるのか?」

「いや! サードニックスに戻る事に不満はねぇよ!」

「言っとくけど、サードニックスっつっても賊じゃねぇからな?」

「わかってるよ!」

「それにアレキサンドライトに忠誠を誓うって事だからな?」

「それが納得できねぇんだけど!」

「おれも納得はできねぇけど、シャークじゃなきゃ務まらないだろ、全賊を束ねるなんて」

「セルトがやりゃいいじゃん! セルトのが強いんだろ?」

「強さじゃねぇんだよ。わかってんだろ、そんな事! オヤジだって、病気で弱ってたけど、サードニックスを束ねて来た。それができるのは、おれでもお前でもねぇよ」

「だけどッ!!」

「まぁ、騙されたと思って、やるだけやってみようぜ。ダメだったら、またそん時考えりゃいいんだしさ」

「騙されたって誰に!!?」

そう聞かれ、セルトは少し考えて、

「フォックステイル?」

と、クエスチョンで言ってみる。なんだそれ!と、スカイは、答えになってねぇよと言うが、

「でもビックリだよなぁ、あの王様、フォックステイルってんだから。フックスは知ってたのかなぁ?」

そう言った時、

「知らなかったよ」

と、背後にいるフックスが言うから、急に現れたせいで、スカイはビックリして、後退する。

「ビビり過ぎ」

「バカ! お前! 突然後ろにいるからビビって当然だろ!! このクソ王子!!」

「あのさ、スカイくん」

「あ?」

「今までは、キミを一般的な普通の民だと思ってたからさ」

「は?」

「だから民がオレをどう思っても自由だから、オレは何も言わなかったけど、これからはキミはアレキサンドライトと言う国の戦士? 騎士? 軍の一員になる訳だよね?」

「だ・・・・・・だったらなんだよ!!?」

「オレはカーネリアンの王子であり、いつかは王になる」

「だから?」

「アレキサンドライトは、カーネリアンの王子をクソ呼ばわりする訳? 王になるオレを侮辱するんだ?」

まさかそんな事を言われるとは思わず、スカイは目を丸くして、言葉を失っていると、そのスカイの頭を掴んで、頭を下げさせて、

「申し訳ありません!! 今後、そのような失礼のないよう、躾て行きますので!!」

と、セルトが大声で、そう言って、自分も頭を下げる。スカイは、なんだよ!?と、頭をムリヤリ下げさせられて、もがくが、セルトは力いっぱい押さえ付ける。

なんなら土下座する勢いだ。

「いいよ。今回は見逃してあげる。次はないから」

シャークと同じ台詞を言って、去っていくフックスに、やっとセルトから解放され、スカイは頭を上げて、

「ふざけんなッ!! オイラ、こんなんヤダからな!!」

と、セルトを睨んで、そう言うから、

「だろうな。お前だけじゃねぇよ。きっと、他の連中も同じ事言うだろうな。どうやって躾ようか・・・・・・」

と、セルトはこれからの事で頭を悩ませる。

まだまだ頭を悩ませる事は沢山あり、何も解決していないと言えば、その通りなのだが、この日、王は、とても嬉しそうだった。

フォックステイルの銅像を見つめ続ける王は、とても安堵に満ちた笑みを浮かべ、本当に心穏やかな表情をしていた。

賊がいなくなれば、フォックステイルもいなくなる。

フォックステイルが存在しない世界。

それこそがフックスが望んだ世界の筈。

フォックステイルがいなくても、誰かが誰かを救う、誰かが誰かを助ける、誰かが誰かを笑顔にする、そして皆が笑顔になれる、それが当たり前となる、そんな世界。

新しい時代が来る。

そしてその年、フォックステイルの絵本の最終巻が世に出回り、子供達だけでなく、大人達も、その物語を、いつまでも心に留める内容となった。

全ては1つの魔法から始まった。

魔法使いの彼が助けた命は、彼を追い駆け、魔法使いになって、王様になり、そして世界を平和に導いた。

魔法を悪く言う者もいる。

人を欺いたり、騙したりする事は不誠実で、不正直で、神に反すると言われる。

だが、それでも、今、この世界には、彼がかけた魔法が溢れている。

「笑えよ――」

笑顔が溢れている。

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SkyPirates×FoxTail ソメイヨシノ @my_story_collection

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