11.王になる者


「俺様は王に知り合いなんぞいねぇぞ。どこぞの国と手を組む賊もいたが、俺様は誰かと手を組まねぇとデカくなれねぇ訳じゃねぇ」

そう言ったシャークに、笑顔を絶やさない王。

ツナはポーカーフェイスで、真正面を向いたまま、ピクリとも動かないが、内心、何を言い出す気なんだと、ヒヤヒヤしている。

それはツナだけではない、この部屋にいる、カモメもパンダもシカも、王の発言に、冷や汗をかいている。

王は、シャークを見た後、皆を見渡し、そしてまたシャークを見て、

「さぁ、ショータイムの種明かしと行こうか!」

そう言ったから、ツナもカモメもパンダもシカも、息を呑んで、一瞬、呼吸を止めた。

「種明かし?」

シャークの怪訝な表情と、如何わしそうな口調に、周りも、何が始まるのかと、緊迫する。

「さて。どこから話そうかな。まずは僕の父親の名前かな。僕の父の名は、ベア・レオパルド」

その名を聞いて、声を上げたのはセルト。

「ハァ!?」

と、そんな話は知らないと、思わず声が出たのだ。

「そう、セルトの父親と同じ名前だよね」

王がそう言うと、サードニックスの賊達も驚き、スカイも驚いて、セルトを見て、

「セルト? 本当なのか?」

と、問うが、セルトは、何も答えられない。

「それと俺様とどう関係があるんだ? 全く関係ねぇだろ」

そう言ったシャークに、

「まぁ、慌てないで。ここまで来た僕の足跡は長いから、ゆっくり聞いてよ」

と、王は再び話し出した。

「僕の父親は、とある国の騎士隊長をしていた。当時、騎士はとても偉くてね。僕より、もっと大人の、そう、シャークや、ガムパスくらいの人達が子供だった頃、世界は戦争が行われていた。僕はまだ生まれていない。その頃、国同士の戦争で、騎士になる事が名誉とされていた。皆、偉くなる為に、騎士になろうと、幼い頃から武器を持って、体を鍛えて、戦士として育って来た者が多いと思う。だけど、騎士になるには、厳しい試練を勝ち抜き、多くの条件をクリアし、エリートと呼ばれる者だけが厳選される。そうなると、騎士になれなかった者も多くいて、その者達は、騎士の真似事を始める。それが賊の始まりだ」

王の話に、皆、黙り込んで、シーンとした静けさが流れる。

「賊の狙いは、偉そうにしている騎士を退かせる事。そして、サードニックスと言う賊が偉そうにしている空軍さえも退かせた。あっという間に賊時代の始まりだよ。僕が生まれた時代は、騎士が、賊達と戦って、民達を守っている・・・・・・そんな風に見せかけた嘘偽りの時代だった」

王は昔を思い出しながら、時折、遠い目をして話す。

「僕はそうとは知らず、騎士隊長の父を尊敬し、敬い、将来は父のようになるのだと思っていた。あの頃は、人を見下すような冷たい子供でね、本当に生意気で、自分が一番優秀だと思い込んでいたんだ・・・・・・」

王がそう言った時、

「今はあの頃とは違い、心優しい王様になりました、なんて言わないでよ?」

と、突然現れた窓の縁に立っている女2人。

「あんまりじゃない? アタシを助けてくれないんだもん、相変わらずの冷たい人」

と、長くふんわりした髪を耳にかけて、ふふふっと笑うラビ登場。

「てかさ、エル・ラガルト調べろって教えてやったよね? だったら最後までちゃんとやれよ、使えねぇな!」

と、短い髪が王と同じカラーのバニ登場。

「やっと来たの、遅かったね」

そう言った王は、2人が来る事がわかっていたようだ。

「来るに決まってんじゃん! エル・ラガルトどこだよ!? 殺してやるから!」

そう言ったバニに、ラビが、

「安心して。口だけだから。これでも守ってるのよ、アナタが誰も殺すなって言った事」

と、王にウィンク。王は、だろうねと、

「じゃなかったら、バニ1人でラビを助けれただろうしね。相変わらず、手加減が苦手なのかな、バニは」

そう言って笑うから、バニは、

「笑ってんじゃねぇよ!! 殺すよ!? マジで!!」

と、中指をたて、ラビから、下品よと、手を下ろさせられている。

「あのめちゃくちゃスッゲェ美女2人って誰なの?」

スカイがセルトにそう聞いた時、シャークが、

「どうでもいい事は省け!! さっさと俺様に関係ある事だけを話せ!!」

と、また怒鳴った。

「あぁ、ごめんね、でも話は長くなるから、逸れる事もわかってよ。ちなみに、セルト、キミの父親と僕の父親は同じ。僕達は腹違いの兄弟だ。そして、そこにいるバニが、キミの姉になる」

姉!!?と、セルトは、バニを見て、いやいやいやいやと首を振るから、

「ラビとバニは、不老の薬を飲んでるんだ。その話はまた後で」

と、バニを見て、

「お前は・・・・・・興味ないよな、誰が兄弟や姉妹でも・・・・・・」

と、苦笑いして、話を戻すかと、

「ある日、僕が住んでた場所に、サソリ団と呼ばれる賊が現れた。母は僕に妹のバニと一緒に逃げろと言って、妹を守れとも言われた。でも僕は、途中で妹の手を離してしまった。僕はバニを見捨てて逃げた。父も助けに来てくれなかったと、僕は、思い悩んだ。そしてブライト教会で保護されたんだ」

と、王は、そこにいる神父とシスターに、お世話になったんだと、ブライト神父とリサシスターを見た。

シャークは、一体何の話なんだと、面倒そうに溜息を吐く。

「そこで僕は、僕の人生を変える人に出逢った」

そう言った王の声が、今迄の声と少し変わったように思えた。

皆、シーンとして、王の話を聞いている。

王は、グッと拳を握り締め、そして、

「フォックステイルと出逢った」

そう言った。

一瞬、ざわついたが、直ぐに静まり返る。

フックスが、真っ直ぐな瞳で、王を見つめている。

ツナも、カモメも、パンダも、シカも、王の話に、胸が熱くなる。

「ブライト神父、リサシスター、あの頃、ミリアム様の奇跡が起こってましたよね。金貨の涙を流すというミリアム様。その軌跡を起こしていたのはフォックステイルです。そしてフォックステイルは、2人がよく知っている人物です。彼の名はフックス――」

王がそう言った途端、リサは口元を手で押さえ、涙を堪える為、俯いた。ブライト神父は、

「覚えている。聡明な子で、手品が得意で、だが、その行為は神を欺く行為として許されなかった。12歳になる前、フックスは孤児院から出て行ったよ・・・・・・」

そう言って、リサ同様、俯いた。

「彼は旅をしながら、ミリアム様の奇跡を起こしていたんです。僕は彼と出会い、彼に惹かれ、彼に追い付こうとしてました。賊から奪った宝を貧しい国や施設や人に配って、それを決して自分の手柄とはしないで、奇跡にしてたんです」

リサは、やっぱりそうだったんだと、俯いたまま、頷いて、涙を流し続けている。

「彼は、子供の僕に見つかって、ちょっと困ってたかな。それで、フォックステイルの存在を知った僕は、何度か彼に出会うんだけど・・・・・・」

悲しい想い出を話さなきゃいけないなと、ツナもカモメもパンダもシカも、グッと喉に力を入れ、込み上げて来る想いを押さえている。

「僕は12歳になって、騎士になる試験を受けてみないかと、神父さんから言われていた。騎士にはなりたくなかった。父のようにはなりたくない。だけど、僕は何になりたいのか、わからないままだった。そんな時、同じ孤児院で暮らす子達が、前の孤児院に行く事になって、僕も気分転換に一緒に行く事になった」

ちょっと待てと、ツナもカモメもパンダも、王に声を上げそうになる。何故なら、ツナの存在も、カモメの存在も、パンダの存在も話さないからだ。

「そこの孤児院から、僕が子供の頃に住んでた場所は、そんな遠くないから行ってみる事にした。そこでまたサソリ団に出逢った」

ちょっと待てと、シカが思う。シカの存在が出て来ないまま、話が進んだからだ。

「サソリ団に捕まった僕。そこに現れたヒーローがフォックステイル。彼は自分の命を引き換えに僕を助けてくれた」

思い出すと、今にも涙が溢れ出そうな光景が脳裏に浮かぶが、〝笑えよ、シンバ〟そう言ったフックスを思い出し、王は笑顔で話し続ける。

「サソリ団のアンタレスは、フォックステイルの命と引き換えに僕を解放すると言った。フォックステイルは、その条件に頷いた。アンタレスが、自らの命と引き換えにして守る価値があるのか?って、そう聞いたよ。フォックステイルは、即答で頷いたんだ。僕に、自分の命を捨ててもいい程の価値を感じてくれた。フォックステイルは・・・・・・フックスはサソリ団の毒で亡くなった・・・・・・そして僕はフックスの命の変わりに生き残った――」

何か思い当たる事があるのだろう、シャークが、難しい顔をし、そして、

「ちょっと待て。その話だと、フォックステイルはサソリ団の毒で死んだって事になる。それはサソリ団のハッタリだった筈だ。フォックステイルは生きてた」

そう言った。王は頷いて、

「サソリ団はハッタリなんて言ってない。でもハッタリにしたんだ」

と、笑いながら言うから、シャークは、余計に眉間に皺を寄せ、どういう事だ?と、険しい表情になる。

「ははは、なんでわかんないの、ハッタリの専門はサソリ団じゃないでしょ、フォックステイルだ」

そう言って笑う王に、だからフォックステイルは死んだんだろう?と、シャークは余計に難しい表情。

「僕はね、フックスが亡くなった後、フックスの変わりにフォックステイルをやる事にした」

皆が皆、クエスチョンで、王を見始める。

フォックステイルをやる事にした???と、首を傾げる者までいる。

「フックスは死ぬべきじゃなかった。死んじゃいけなかった。まだまだフックスが必要な世界だ。12歳の僕にどこまでフォックステイルがやれるだろうか、わからなかったけど、只々、フックスの死を受け入れられない僕は、フックスを生かす事を考えたんだ」

「じゃぁ・・・・・・お前が・・・・・・俺様の・・・・・・」

やっと理解したのか、シャークは、驚愕の表情で、王を見て、途切れ途切れ、そう言ったから、

「そう! そうだよ、シャーク! 僕だよ! キミの腕を斬り落としたのは、この僕!」

王は、嬉々とした表情で、そう答えた。シャークは震え上がる程、怒りに支配され、

「貴様かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

と、その怒鳴り声で、皆が震撼する。王は笑顔で、

「斬るつもりはなかった。でもキミが僕の腹を刺したから、僕は、キミの腕を斬り落として、大量の血をその場にばら撒く必要があったんだよ。何故って、僕は腹を刺されていない、僕は無傷、僕は存在すらしないかもしれない、だって僕は魔法使いフォックステイルだからね」

まるで狂ってるなと、皆が、王に思う。

笑顔で、シャークに怒りを買うような事を言えるなんて、狂っているとしか思えない。

「いい度胸だ・・・・・・黙ってれば良かったものを・・・・・・よく告白してくれたな・・・・・・ただで済むと思うなよ!! ここを出たら、お前を絶対に殺す!!」

そう言ったシャークに、王は、

「それは無理だね」

と、余裕綽々な表情と声で、

「だって、シャーク、もう強くないでしょ」

なんて言い出した。皆が、またも驚くような発言を次から次へしていく王に、もうどんな顔をして話を聞いていいか、わからない。

「なんだと!?」

「僕がフォックステイルになる事で幾つかの誤算があった。シャークの腕を斬り落とした事で、フォックステイルは、ちょっとした有名人になった。架空かもしれない、いや、でも実在するかもしれない、そんな存在になってしまったんだ。子供達も、フォックステイルごっことか始めたりしてたしね。そして、ハッタリをかましたと思われたサソリ団を、シャークが放置した事。てっきり、直ぐに裁きを下すものかと思っていたのに、シャークは、サソリ団に手を出さなくなった。手を出す程の価値もないと思ったかと思ったんだけど、違ったんだよね。シャークは、もう本気の強さが、弱くなってしまってたんだ」

そんなバカなと、皆、王の話を聞いてはいるが、有り得ないと思っている。

「そもそも、僕に腕を斬り落とされる前に、足もどっちかが義足だよね? 鉤腕に鉤足と言われてるよね?」

足にしがみついているシンバが、そうなの?と、シャークを見上げる。

「勿論、それでもそれなりに強かっただろうけど、その強さはシャークと言う男の恐怖で成り立ってるだけ。それに僕が気付いたのは、そう、そこにいるスカイくんが子供の頃、シャークと戦った時だったかな」

オイラ?と、スカイは、自分を指差した。

「スカイくんは、ガムパスの右腕と言われる程だったらしいね。でも、そうは言ってもまだ子供だった。ねぇ、もし、あの頃、ガムパスと戦ってたら、勝てたと思う?」

「え? いや、オヤジは最強だったし、オイラなんて足元にも及ばねぇよ」

「だよね。でもガムパスとシャークが同等な強さを誇ってたら? キミが勝てるなんて絶対に有り得ない。なのにキミが勝利した。おかしいなって思ってたんだよね。勿論、かなりの苦戦だっただろうし、シャークも小さな子供相手に、戦い慣れてないのもあったとは思うけど、だからって負ける訳ないよね? でも負けたよね? それだけじゃない、シャークはジェイドに捕まった後、脱獄したが、ずーっと大人しくしていた。あのシャーク・アレキサンドライトが、何の動きもなかった。やっと動き出したかと思ったら、ギャングに奪われた旗を取り戻そうとしていた。そしてギャングにも、結構やられたみたいだね?」

「・・・・・・」

シャークは、黙り込んで、何も答えなくなった。皆が、ざわつき出す。

「つまり、僕が、シャークの腕を斬り落とした事で、体のバランスも悪くなり、戦えたとしても、強さが半減した。だからサソリ団に手を出さなかった。スカイくんにも負けた。いつまでも、強さを誇っていた自分を偽り続けていた。そうだろう?」

「だからなんだ? 俺様の強さは、半減しても、そんじょそこらの奴等より強い」

「だね。でも僕を殺すのは無理だよ。何故なら、強さが半減したシャーク・アレキサンドライトなんて、僕の敵じゃない。僕はもっと強いから。だって、僕は、全ての賊を欺いて来たフォックステイルだから」

そう言い切った王に、再び、静粛が生まれる。

「ま、サソリ団は、その後、また出会う事になってね、その時に解散させたんだ。そう、妹のバニは、殺されずに、サソリ団にいたんだよ。だからこんな賊みたいな奴に育っちゃってね。まぁバニはそこが問題じゃなくて、ラビと一緒にいるのが問題だと思うけどね」

どういう意味だと怒り出すバニと、ふふふと笑っているラビ。

「そして僕はフォックステイルをやりながら、旅をして、母が生きている事を知った。母に会う為に、母の生い立ちを探る為、父に会いに行った時に、ここにいる今はジェイドの騎士隊長のレオンと出逢う。彼もまた父の息子なんだ」

ハァ?と、セルトが、また声をあげそうになる。

「彼の助けもあって、母がカーネリアンの王族である事を知る事ができた。だが、父とは、完全に縁が切れた状態に終わったよ。そんな時に、立ち寄った場所で、小さな少年に出逢った。まるで自分の小さい頃を見てるようにも思えた。それがセルトだ」

スカイが、セルトを見ると、セルトは、その時を覚えているのだろう、言い表せないが、そういう表情で、王を見つめている。

「僕の憧れのフックスは、僕の心を救い上げてくれたのに、僕はセルトをうまく救い上げれなかったと思う。全然ダメダメなフォックステイルで、本当に自分が嫌になった」

そんな事ないと、セルトは、叫びたい衝動をグッと抑える。

「セルトは、僕を見て、フォックステイルを賊だと勘違いしてしまったと思う。次に僕がセルトと出逢った時、セルトはサードニックスの賊をしていた。僕のせいだと思った。僕のせいで、子供を賊にしてしまったと思った」

だから、そうじゃないだろと、セルトは叫びたくなるが、ツナもカモメもパンダもシカも黙ったままなので、自分が叫ぶ訳にはいかないと、必死で声を呑み込む。

「細かい話は長くなるから、しないけど、まぁ、そんなこんなで、ラビバニにちょこちょこ邪魔されながらも、僕は、空の大陸で、ガムパス・サードニックスと、エル・ラガルトと、そしてジェイドの軍と、戦う事になった。今となっては、聖戦なんて呼ばれてるけど、アレは、そんなもんじゃなかったよ。うまく僕が戦いを喜劇にして、笑いに変えたんだ。うまく騙されてくれたよ」

と、笑う王に、シャークは、

「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」

と、

「テメェは何様のつもりだ!!? 世直しのつもりでフォックステイルごっこをやって来たかもしれねぇが、テメェがやってる事は賊と変わりねぇだろ!! だからテメェは賊を裁けねぇだけじゃねぇか!!」

と、怒り露わで、今にも、手にかけられている錠を力任せに千切ってしまいそうだ。

「その通りだ、シャーク」

そう言った王に、

「罪を認めるか」

と、シャークが睨む。

「僕は罪を重ねて来たと思っている。フォックステイルはそういう事なんだって、フォックステイルをやって思い知った。フックスはどんな気持ちだったんだろうって、今も考える。子供の頃は、どうして、フックスは闇に消えて活動するんだろうって、もっと光に出て活躍したら、きっと人気者のヒーローになれるのにって思った。でも、それをやっちゃダメだったんだ。何故なら、子供は大人を真似る。騎士になる事を名誉にした結果、賊が生まれ、賊が国の軍を一掃すれば、賊時代になった。フォックステイルが公になったら、それを真似る人が現れる。僕みたいにね。そしたら、それを違う見解で捉え、新たなフォックステイルが生まれ、もう最初のフォックステイルとは全く違うフォックステイルになる。それじゃぁ賊と変わらない。だから、フォックステイルは、誰もやっちゃいけないんだ」

今、父親が何を言いたいのかを噛みしめるフックス。

痛い程、自分がやってきた事は間違いだったと知る。

自分がフォックステイルを遊びで真似た結果、ギャングが生まれたんだと、ラファーの事を思い出しながら、フックスは、後悔している。

「空賊は終わる。だってガムパスが亡くなったんだ。空賊は終わりだ。シャークだって、ガムパスがいないなら、もう戦う意味はないだろう?」

突然、王がそう言って、皆、それはどうなんだと、

「セルトがガムパスの跡を継ぐんだ!!」

と、

「サードニックスは終わらない!!」

と、

「賊を終わりにするとか、そんなのテメェが決める事じゃねぇ、フォックステイル!!」

と、

「シャークがどうなろうが関係ねぇ!! サードニックスは永遠だ!!」

と、皆が皆、騒ぎ出す。

勿論、サードニックスだけでなく、他の場所にいる賊達も、マイクで、王の話は聴こえていて、ふざけるなと怒鳴り散らしている。

「おい、セルト、この騒動なんとかしねぇとヤベェぞ」

スカイがそう言って、セルトを見るが、セルトは、どうすればいいのか、自分の立ち位置が全くわからなくなっていて、黙ったまま立ち尽くすしかなく――。

「お前達賊は、何か勘違いしてないか?」

王の今までの優しい口調ではない、少し厳しい口調で、そう言った。皆、何が?と、訳が分からず、黙り込む。

「お前達が空賊をやって来れたのはガムパスのおかげだ。と、言うか、お前達が生きて来れたのはガムパスのおかげだ。その今ある命はガムパスが与えた命だ」

どういう事だ?と、皆、考えてもわからない事を考えている。

サードニックスの賊達ですら、クエスチョン顔だ。

「ガムパスが亡くなって、ガムパスの意思をそれでも継いで行きたいなら、それは空賊じゃない。ガムパスが最初で最後、最強の空賊でいる為にも、ここでガムパスが全てを終わらせるのがいいと思わないか? それとも、尚、ガムパスを超えて行こうって言うのか?」

「何言ってやがる!! サードニックスの連中だけに言える事じゃねぇか!! ガムパスに守られて生きて来れたんだからなぁ!!」

ローカでそう吠える声に、サードニックスの賊達が、

「誰だ今言った奴ぁぁぁぁ!!? 出て来いコノヤロウ!! ぶっ殺してやるぁぁぁぁ!!」

と、いきり立つ。

「ガムパスに与えられた命だって事は、これから説明するよ。ラビ、説明してもらえる?」

そう言った王に、ラビは、あぁ・・・・・・と、小さく頷いて、

「空の大陸で手に入れた薬の話ね」

と――。

「空の大陸で、アタシは不老の薬を探してたんだけど、ガムパスにも雇われてて、空の大陸で万能薬を手に入れろと言われていたわ。既にガムパスは空賊として空にいたから、体調をかなり崩していたの。多分、その時の事を覚えてるサードニックスの賊もいるんじゃないかしら? 空賊として、空に一機漂う飛行船サードニックス。その時の活動は殆どなかった筈。皆、体調を悪くしてたから。原因は地上で暮らしてた者が、空に来て酸素が欠乏したから。症状としては、頭痛や疲労や吐き気や食欲不振。そして、怒りっぽくなる事も。まだその程度で、重症ではなかったけど、更に空に居続けて、重症になって来ると、息切れ、錯乱、そしてやがては昏睡状態に。高山病と言うのを御存知かしら? それと似た病ね。只、空はもっと高く、飛行船が漂う場所は、風も地上の平地や山頂でも、また違うみたいね。低酸素状態をどうにかしても、もう治らない病となるの。未知のウィルスもあるかもね」

皆、ラビの話を黙って聞いているが、表情は、何も知らないと言う感じのキョトン顏だ。

「アタシは、その薬を手に入れて、ガムパスに渡した。ガムパスからは、その薬を、空賊となる者達に飲ませたと聞いたわ」

ザワザワと騒ぎ出す声。誰もが、飲んだか?と、隣の奴に聞いて、飲んでないと首を振っている。

「飲んでないなんて有り得ないわ。だって、みんな、病になってない。あの時のサードニックスの賊で、体調を崩した者も、今は元気そうじゃない? 薬の効き目は知らないけど、アタシは空の大陸で不老の薬を飲んで、今も尚、この姿よ」

だが、皆、ざわついたままだ。

「ちょっと! アタシはちゃんと仕事はしたわ! アンタ達が飲んでないとか知らないから!」

そう言ったラビに、

「どうする? これ以上、ゴチャゴチャ言うなら、首斬っちゃう?」

と、剣を抜こうとするバニ。すると、セルトが、

「おれが!! おれが飲ませた!!」

そう叫んだ。

「オヤジが、おれに空賊になる者に薬を飲ませろと言ったから、おれは、空賊になった飛行船に、小型飛行船で近づいて、その飛行船の飲み水に薬を入れた。おれはまだガキで、小さくて、すばしっこかったから、誰にも気付かれずに出来た事だ。サードニックスの飲み水にも入れた。オヤジも、その飲み水は飲んだけど、もう手遅れ過ぎて、体調は良くならなかった。それでも、最後の最後までオヤジは、意識もあったし、寝たきりにはなったけど、昏睡状態にはならなかった。それは薬のおかげかもしれない」

セルトがそう言うと同時に、

「だったら・・・・・・なんで・・・・・・話してくれなかったんだ・・・・・・」

と、サードニックスの賊達は知らなかったと、口々に、話してくれればと言い出す。

「オヤジは、サードニックスから、施しなんて受けたくないだろうって、だから誰にも言うなって。サードニックスの連中も、それを助けてやったんだって、優位に持って行く奴がいるかもしれねぇから、黙っとけって。それじゃぁ、オヤジが命を救った意味あんの?って聞いたら、サードニックスに続いて、賊達が空を舞台にし、空賊になったはいいが、皆、病で全滅したら、カッコ悪いだろって・・・・・・これは誰かを救った訳でも、誰かを助けた訳でも、誰かの為でもなく、自分の為だからって・・・・・・」

セルトは、そう言った後、暫く、口を閉じたが、顔を上げて、王を見て、

「薬なら、まだ持ってます。サードニックスの船の、おれの部屋にある。必要なら持ってきます」

そう言った。

「そう、薬もまだあるなら、それが証拠となるね。これで理解できたか? お前等賊は、ガムパスに命を救われてるんだ。とっくに全滅してたのに。寧ろ全滅してくれてればって、ガムパスが余計な事をしなければって、何度思った事か」

王のその台詞は、賊達に反感を与えるだけ。皆、王に対し、怒りで震えている。だからこそ、

「ガムパスに与えられた命ってなら、これからも賊であるべきだろうが!! テメェもフォックステイルに与えられた命だからフォックステイルになったんだろうが!!」

そう怒鳴り散らされて当然だ。でも、

「フォックステイルが、僕がフォックステイルになる事を望んだと思うか!!!!」

そう怒鳴り返される。

「フックスは僕がフォックステイルになる事を望んではない!! それでも僕はフォックステイルになった!! なるからにはフックスの望む世界に近付けるようにと、いつも考えている!! お前達はどうなんだ!!? ガムパスが望む世界はなんだ!!? ガムパスが自分の命に代えても、お前達を生かした意味はなんだ!!? 少しでも考えた事があるか!!? お前達が空賊として生きて行く為に、ガムパスはお前達を生かしたのか!!? 違うだろう!!」

王の叫びは、シーンと、再び、静粛を生んだ。

「おい、さっきから聞いてりゃぁ、どうでもいい話で盛り上がってるけどよぉ、ガムパスが誰を生かそうが、殺そうが、自由気ままな風と同じ空賊に、信念とか、思想とか、決意とか、そんなもんはねぇ筈だ。あるとしたら、覚悟。それから独自の哲学。どんな生き方でも自分を貫きたきゃぁ、覚悟しろって事だ。王であろうが、神だろうが、俺様を止める事はできねぇ!! いいか、この命が、誰かによって救われ、助けられたとしても、その誰かを、俺様は、邪魔だとしたら、殺す事を躊躇わねぇ。それが空賊ってもんだ。恩も義理もいらねぇ。恩得は自分で掴み取ってこそだからな」

そう言ったシャークに、皆が、それが空賊だと、賛美の声を上げだした。

スカイは、この異様な雰囲気に、オロオロしている。まさかのシャークへの台詞で、皆がシャークに賛同しているからだ。

最早、敵ではない、味方同然だと言わんばかりだ。

セルトは必要以上に口を開かないし、スカイは、どうしたらいいのかと、困惑するばかり。

なのに、王は緩い笑顔を崩さないから、どういう神経してるんだと、スカイは思う。

そもそも普通の神経ではないと、フォックステイルだと賊達の前に名乗り出て、正体を明かすなど、殺してくれと言っているようなものだ。

「それで? この俺様に何の用なんだ? テメェがフォックステイルだって正体を明かす為だけに、俺様を呼んだのか? それともフォックステイルは、賊達の宝を奪って来た事を反省し、俺様達に土下座でもしてくれるってのか?」

「いや、シャークを僕の目の前に呼びつけたのは、罪を償わせる為に呼んだんだ」

「あぁ!!?」

「確かにカーネリアンは罪人を裁かず、チャンスを与えている。でもそれは罪を償わせる為にチャンスを与えているんだ。わかるかな?」

「俺様に何をして欲しいんだ?」

「王になってほしい」

その台詞には、ポーカーフェイスを続けられなかったツナが、

「おい!!?」

と、大声で叫んで、王を見た。どよめいた賊達も、どういう事だ!?と、ザワつき、フックスも眉間に皺を寄せ、スカイもポカーンと口を開けた間抜け面になる。

セルトも、何を考えているんだろうと、わからないばかり。

「テメェ、本気で頭がおかしいのか? 俺様に王になれと? 何の王だ?」

「一国の王だよ。言っとくけど、簡単な事じゃないよ? 王である僕が言うから絶対だけど、ホント、毎日大変なんだ」

「バカなのか、アイツは・・・・・・」

と、そう呟く他ないシャーク。

「実はね、我が国は、罪人にチャンスを与える為、今迄も多くの賊を受け入れて来た。その結果、民達が不安を感じて生活をしている。そりゃそうだ、人殺しと隣人になるなんて、普通ならお断りだろうからね。幾ら足を洗ったとしても、その罪深き過去は消せない。このまま、僕が、罪人達を受け入れたら、民達から反乱が起きそうだ。それで僕は考えた。新たな国をつくればいいと。賊達を全て受け入れられる国。そして、その賊達を全員束ねる事ができる王。そんな王は、シャーク、キミしかいない」

「・・・・・・貴様、正気か?」

「勿論、正気だよ。その為に、カーネリアンから、そう遠くはない場所の島国を開拓して来た。まずは城と城下町ができてる。そこをアレキサンドライトとして、国をつくってみないか?」

いやいやいやと、賊達だけでなく、騎士達も、皆、王の意見に首を振るばかり。

「ハッ!! 俺様は空賊で生きて行く!!」

そう言い切ったシャークに、王が、

「だとしたら、他の国へシャーク・アレキサンドライトを移送し、キミは死刑になるしかない。ジェイドでも脱獄しているし、今度ばかりは逃げれない」

そう言うから、シャークは、上等だと吠えようとした時、

「でもオジサンは誰も殺してないよ!!」

と、ずっとシャークの足元で、震えていたシンバが叫んだ。子供の叫ぶ声に、皆、静まり返る。

「オジサンは誰も殺してない!! それに殺しは悪くない!!」

そう言ったシンバ。そして、

「オジサンが教えてくれたんだ。人を殺しちゃいけないって、そんな法はないって!罰則はあるけど、法はないんでしょ?」

と、真っ直ぐに王を見て問う。今、リーファスが、

「シャーク!! お前!! 子供になんて事を教えるんだ!!」

と、怒り露わの顔と口調で怒鳴る。そして、リーファスの隣にいるリンシーも口元を手で押さえて、涙ぐんでいる。

だが、両親よりも、今は、シャークの事で頭がイッパイなのか、

「オジサンが裁かれる理由はない筈!! だってここは誰も裁かれない国だし、他の国だって、人を殺しちゃダメなんて法はないんだもんね?」

シンバは必死にシャークを守ろうとしている。そんなシンバを見て、王は、嬉しく思う。何故なら、シャークが王をやるべきだと思った、自分の考えは間違いではないと確信したからだ。

「ねぇ、王様!! 答えて!! オジサンは罰を受けるとしても、死刑にまでなる程の事はしてないよね!!」

「シャークは、キミに何て教えたのかな」

「えっと、人を殺してはいけなくはないけど、でも、世界を平和にする為にそうなってるだけで、だけど戦争になれば多くの人を殺した人が英雄になるって!!」

「そうだね。さっき僕も話したね。国同士の戦争で、騎士は、英雄となったって。そして騎士になれなかった者達が賊になったって。そしてシャークは殺してもいいと言う賊の世界で生きている。そういう事かな? でもここはカーネリアンだ。賊が好き勝手していい世界じゃない。僕の国では、殺しはダメだね」

「で、でも・・・・・・オジサンは・・・・・・」

「シャーク、自由にしたいなら、国をつくればいいじゃない? キミの国だ、人を殺しても罪にならないと言うなら、国をつくって、そうすれば?」

そうする?とばかりに、シンバが上目遣いで、見て来るから、その目をやめろと、シャークは舌打ちをする。

「シャーク、ガムパスは亡くなったんだ。今更、空賊に戻って、何があるんだ? もう目指すモノはないだろう?」

「ハッ!! そうだな!! だが、俺が王になった所で、それこそ目指すモノはない!!」

「僕がいるのに?」

「なにぃ!!?」

「キミの腕を斬り落とした僕がいるのに? 僕に負けたままでいいの? 僕は健康で、長生きするから、まだまだ僕に勝てるチャンスはあると思うよ。それには、僕と同じ土俵に来てくれないと」

「空賊としてテメェを殺してやるだけだ!!」

「どうしても空賊としてガムパスの後を追いたい訳だ? 追ったところで、ガムパスにはなれないし、亡くなったガムパスを追い越す事もできないのに?」

「貴様に関係ないだろう!!」

シャークが苛立ちながら、そう怒鳴ると同時に、サードニックス達が怒鳴り出した。

「シャークの国に誰が住むってんだ!!? おれ達賊が、奴の手下みてぇにして暮らせってか!!? お断りだ!!!!」

「それなら今すぐ殺せ!! その方がマシだ!!」

「サードニックスはアレキサンドライトなんかの支配下にはならねぇ!!」

皆が皆、そう怒鳴り出す。スカイも、そりゃそうだろうと、頷いていると、一瞬にして、王の間の空気が変わり、それに逸早く気付いたシンバは、目を丸くし、王を見たまま、シャークの足に、更に、ギュッとしがみついた。そのシンバの異変に、シャークが気付き、なんだ?と、王を見る。

そこに立っているのは、王だ。

間違いない、王だ。

さっきからそこに立っているから、間違いない。

見た目も、何も変わっていない、カーネリアンの王だ。

なのに、王の纏う風が変わった。

「お爺ちゃんの風・・・・・・」

シンバがそう言った時、王が、

「テメェ等ぁぁぁぁ!! くだらねぇ事言ってんじゃねぇ!! 黙って儂の言う事聞けぇ!! いいか!! サードニックスの名を挙げたのは儂だ!! テメェ等は儂の手となり足となり動いただけだろうがぁ!! それを我が物顔でサードニックスがどうたらと意味のねぇプライド見せびらかすんじゃねぇ!!」

そう怒鳴った。その怒鳴り声は、まさしくガムパス・サードニックス!!

シャークさえも、驚きを隠せない程、目の前にいるのは、若い王だったのに、何故か、ガムパスに見えてしまう。

「おい、シャーク! お前に王は無理だ」

「なんだとぉ!!?」

「笑わせるよなぁ、お前が王になれる訳ないだろう?」

来い、シャーク! 話に乗って来い!!と、王は思いながら、

「儂がなれなかったものを、お前がなれる訳がない」

シャークを挑発する。

「儂が育てて来たサードニックスを、テメェが手懐けれる訳ねぇよなぁ?」

来い、来い、来い、シャーク!

「サードニックスは最強だぁ!! それはこの儂が最強だからだ!! 儂にしか束ねられん!! サードニックスはな!!」

乗って来い、シャーク!!

「いや、テメェはサードニックスじゃなくても束ねられねぇさ。誰もテメェには懐かねぇ。所詮独りが合ってるんだろうよ、まぁそれが空賊だ」

来い!! シャーク!!

「好き勝手気ままに生きる。ラクだよなぁ。だがな、テメェはもう空賊として名を残せねぇぞ」

来い!!!! シャーク!!!!

「儂に勝てないままだからなぁ!! シャーク!!」

頼む!! 来てくれ!!

「この先くたばるまで何も残せねぇさ!!ハーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」

来てくれ!!!!

「黙れ老いぼれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

シャークがそう叫んだと同時に、王は、来た!!と、ガッツポーズを心の中でしながら、

「この老いぼれ相手に負けたのはテメェだ、シャーク」

と、ガムパスを続ける。

「俺様はまだ負けちゃいねぇぇぇぇ!!!!」

「ほぅ、儂が育てたサードニックスを、お前が手懐けられるってのか?」

「誰に口聞いてんだ、老いぼれ。テメェに出来て、俺様に出来ねぇなんてねぇ!!」

「なら、やってみせろ。儂に、シャーク・アレキサンドライトは、スゲェ男だったと思わせてみろ。王の中の王だったと、世界中の王に思わせてみろ!!」

「いいだろう、俺様の世界をつくってやろう」

そう言ったシャークに、誰も、何も言えないのは、王が、ガムパスに見えているからだ。

サードニックスの連中も、皆、ガムパスが、そう言うならと言わんばかりに、黙り込んでいる。だが、

「オヤジ!! 俺達にアレキサンドライトになれってのか!!?」

と、誰かが叫び、皆、また騒ぎ出した。

「シャークが王になって、そこに住むなら、俺達はアレキサンドライトなのか? サードニックスの名を捨てるのか? それは違うだろう!!」

そう言った奴に、皆、そうだそうだと頷く中、気付けば、ガムパスのオーラと言うのか、風というのか、そういうものが全て消え失せているから、誰もが、ハッとして、騙されてるのか?と、思う。

そうだ、相手はフォックステイルなのだ、騙されては行けないと、頭ではわかっているが、ガムパスの圧が、今も尚、残っているから、誰も何も言えない。

「アレキサンドライトと言う国で、軍を作る。 キミ達は賊で、優れてるモノがあるとしたら、戦う力だと思う。その戦力を国の軍として使えばいい。セルト、キミが軍の指揮官。隊長だ」

そう言って、セルトを見る王に、セルトは、え?え?え?と、うろたえる。

「そりゃいい。俺様の国の軍か。そんな事を提案して、カーネリアンと言う国が潰されないとでも思うのか?」

と、悪い顔をしながら、シャークが言うが、王は、笑顔で、

「僕の国にも軍とも言える程の数の騎士はいるし、戦争となっても負けるとは思わない。だけど、戦争の為に軍を作れと言ってる訳じゃない」

なら、何の為だ?と、シャークが眉間に皺を寄せるが、サードニックスの連中も眉間に皺を寄せている。

「セルト、サードニックスと言う軍をつくったらどうだろう?」

「サードニックスと言う軍・・・・・・?」

「うん。騎士にもチームがあって、チーム名がある。それと同じでサードニックスと言う軍をつくったらどうかな?」

「い、いや、でも、軍なんて作って・・・・・・結局は賊と同じじゃないですか・・・・・・」

そう言ったセルトに、王は、ううんと首を振って、

「国に仕える戦士達は戦争の為だけにいる訳じゃないよ? 国を守る為にいる。人を守る為にいる。みんなの為にいるんだ。例えば災害にあったら、真っ先に救助に行く。キミ達賊は、空で、多くの災害にも耐えて、生き抜いて来た筈。トルネードにも恐れないし、その予想もつかないモンスター級の風さえ、回避の方法も知ってるよね。これからは、人々を守る為に、サードニックスは、その戦う力を使ったらどうだろう? 地震、津波、台風、多くの自然災害が世界中で起きている時に、真っ先に、飛行船で駆けつけて、救助にあたる。そして多くの人を助ける。今までは、賊という事で、民達から忌み嫌われたが、これからは民達から感謝されるんだ、サードニックスと言う名を聞いて、皆が思う事は、人々を救うヒーロー! それこそがガムパスが望んだ事じゃないかなぁ? ガムパスが空賊になって、偉そうに人々を見下してた空軍を一掃して、ヒーローとなった時のようにさ!」

戦争だけが戦う力を必要とする訳じゃないと、そんな事、考えた事もなかった連中は、間抜け面で、ポカーンとするばかり。

「そ・・・・・・そんな事が・・・・・・可能なんですか・・・・・・賊が人の為になるチカラを持ってるって・・・・・・事ですか・・・・・・?」

「天災は神の怒りとも言われてるけど、神にさえ、立ち向かえる最強のサードニックスなら可能なんじゃない?」

その台詞で、俺達ならできる!と、サードニックスの連中は興奮さえ覚える。

「俺様がそれを許可すると思うか? 軍をつくるのはいい。だが、セルトはダメだ。アイツは裏切り者だ」

と、シャークが言う。そして、セルトを睨み見て、

「大体テメェも賊の中の賊だろうが。サードニックスを平気で裏切り、アレキサンドライトへ来たと思ったら、平気でまた俺様を裏切る。仲間などいねぇ。そうだろう? セルト。テメェは・・・・・・」

そこまで言った後、シャークは気付いた。

セルトの腰に付いているフォックステイル。

只の飾りだと思っていたが・・・・・・

何故、あの時、セルトはサードニックスを抜けたのか、そして何故、アレキサンドライトに来たのか。

問題はそこじゃない、またサードニックスに戻った理由だ。

ガムパスに言われたからと言って、即座に戻る事は理由にならない。

簡単にガムパスを裏切ったくらいだ、言う事など聞く筈もない。

そして、その後、死にかけのガムパスを殺す事もなく、寧ろ、手厚い介護をしたのだろう。

なのに、そこには何のメリットもない。

つまり今現在に至って、ガムパスの後釜を狙う素振りもないのだ。

そして、フォックステイルと名乗り出た王の腹違いの兄弟。

だが、それはセルトも今さっき知った風だった。

だから、そこじゃない、ガキの頃にフォックステイルに会っている、そこだ。

「おい、貴様・・・・・・なんでサードニックスに戻ったんだ・・・・・・?」

「あぁ?」

「あの時!! アレキサンドライトに来た後だ!! 何故サードニックスに戻った!!? テメェの狙いはなんだったんだ!!?」

「何の話だよ?」

「何か狙いがあって、サードニックスを裏切ってみせたんじゃねぇのか? そう、欺いてみせたんだ・・・・・・違うか・・・・・・?」

どういう事?と、スカイは、シャークとセルトを交互に見るが、セルトは溜息を吐いて、

「意味わかんねぇ事言ってんじゃねぇよ、そんな昔の話、どうでもいいだろ。今は、お前が王になれる器があるかって事だけが心配だ」

そう言うから、

「そんな心配をするのは、アレキサンドライトという国の軍の隊長をするからって事でいいのかな?」

と、王に言われ、セルトは少し考えながらも、

「オヤジからも武勇伝は聞いてた、偉そうにしていた国々の軍を一掃して、その時、サードニックスは一躍ヒーローだったって、何度も聞いた。オヤジがなりたかったのはヒーローだったのかなって思ったら、賊ではないけど、そのヒーローとしての後を継ぐのもいいのかもなって。新しいサードニックスとして、やっていけるなら、やってみたいかも・・・・・・」

そう言った。

「だから俺様はそんな軍を認めねぇっつってんだろうが!!」

吠えるシャークに、

「でもシャーク、国の王ってのは、民達に認められないと王として威厳もない。どうしたって、サードニックスという軍は、民達のヒーローとしてアレキサンドライトに必要なモノとなる筈。まずは、僕と同じ場所に来ないと、勝負にはならないよ。僕に勝ちたいでしょう? ガムパスに流石シャークだって思われたいんでしょう? だとしたら、僕と同じ土俵に上がって来なきゃ始まらないって言ってるじゃないか」

王が、笑顔でそう言うから、シャークはチッと舌打ちする。

「全ての賊は、アレキサンドライトに委ねる! サードニックスという軍も、全てセルトに任せる!」

王がそう言って、皆が、シーンとした後、ワァァァと、声を上げた。その悲鳴は歓喜なのか悲観なのか憤りなのか――。

「それと、エル・ラガルトの事だけど。この場に呼ぶか悩んだけど、やめて正解だったかな。ラビバニが来ると思ってね、案の定、来たからね。彼がいたら、バニが怒り狂いそうだろ?」

「殺してやろうと思ってたのに、どこにいるのよ!?」

そう言ったバニに、ラビが、ふふふっと笑いながら、

「何度も言うけど、バニの殺すは只の口癖よ。実際には殺さないわ。只、殺してくれと願うような事はするかも」

と、笑えない事を言い出す。

「と、言う事で、エル・ラガルトは、ラビバニ・・・・・・じゃなく、アレキサンドライトに引き渡すよ。彼を支持する国は多く、僕が、彼をどうこうした所で、後ろから手がまわってしまう。カーネリアンと条約を結んでいる国ともなると、コチラもなかなか動けない。だが、アレキサンドライトなら、どこから手がまわろうとも、知った事じゃないと、好きに動けるだろう? 好きにしていい。彼を生かすも殺すも任せる。どの道、シャークは彼に話があるだろう? 旗の事で。好きにするといいよ、エル・ラガルトの事は」

この判断が今後、吉と出るか凶と出るか――。

「おい! お前とお前!」

シャークが王とセルトを指差す。

「絶対に俺様はテメェ等を許さねぇからな。俺様を王にした事を後悔させてやる」

と、薄ら笑いを浮かべ、王とセルトを睨み見ている。

「セルトは関係ねぇだろうが! アレキサンドライトを裏切ったっつーけど、そんなんで恨み辛み言ってたら空賊やってらんねぇだろ! みんな裏切り当然で、次の瞬間は一緒に笑ってんだからよぅ!!」

スカイがそう怒鳴り、セルトは、

「あのッ!! コイツもッ!!」

と、スカイを指差して、王に、

「コイツもサードニックスに!!」

そう言った。は?と、スカイはセルトを見て、セルトはリーファスを見て、

「コイツを飛行機乗りに育てたんだろうけど、コイツはスピードを競うような事は、これからもしねぇと思う。だからおれに、コイツをくれ」

と、頭を下げるから、スカイは、おいおいおいと、何頭下げてんだよ!?と、驚く。リーファスは何も答えないから、セルトは頭を上げ、

「頼む! コイツをサードニックスに戻す事を許してくれ! 空軍として、飛行機部隊もつくりたい! 飛行機と対話できるコイツなら、それができる! コイツなら飛行機を率いる事ができる! コイツはサードニックスである事を捨てれないんだ!」

と、再び頭を下げた。だが、リーファスは、黙っているから、

「いいんじゃない?」

と、王が勝手に許可を出すような事を言い出すから、リーファスは、ダメだと言おうとするが、

「リーファスが飛行機乗りに戻ればいいだけの話だしね」

と、王にそう言われ、リーファスは何も言えなくなる。

「まだ引退する年齢でもないんだし、確かオグルさんが世界最速の記録を出したのは、今のリーファスより、もっと上の年齢だったよね? だったらリーファスだって、これからオグルさんの記録を抜くかもしれない。大体、リーファスが飛行機乗りを辞めた理由って、賞金稼ぎをしてた事が原因な訳でしょ? 賊達に恨まれてるかもしれないって、復讐されるかもって、妻子に何かされたらって言う恐怖と、家族を守りたいって理由なら、もう必要ないんじゃない? 賊はこの世界からいなくなる訳だし。それにリーファスはカッコいい飛行機乗りでいた方が、リンシーさんも嬉しい筈」

何故リンシーの名前が出て来たのか、勿論、妻としてだとは思うが、それ以外の理由がありそうで、でもリーファスは、わからなくて、リンシーを見ると、リンシーは、ツナ隊長を見て、

「ちょっと!! 王様に変な事言ってないでしょうね!!」

なんて言うから、リーファスは、どういう事だ!?と、眉間に皺を寄せる。ツナは、ポーカーフェイスのまま、黙っている。

「兎に角さ、リーファスは飛行機乗りに戻ればいいんじゃない? リーファスがカッコよく生きて行けば、リーファスの跡を追う者も現れると思うよ」

王はそう言って、これで終わりかなと思った時、

「おい!!」

と、再びシャークが吠える。

「テメェ等の事なんざどうでもいい!! それよりフォックステイルが王だってんだから、それでいいのか!!? カーネリアンの騎士はフォックステイルを支持してんのか!! 賊相手とは言え、コソ泥だ、犯罪者に変わりねぇだろ!! そんな奴が頂点でいいのか!!? テメェ等のボスは犯罪者だ。それを許すのか? テメェ等の方がよっぽど善人だぞ!! 自分より罪のある奴に、これから先も頭下げて行けるのか!!? えぇ!!? どうなんだ!!?」

シャークの言う通りかもしれないと、騎士達はザワザワ騒ぎ出し、王と腹違いの兄弟であるレオンの事も不審に思うのか、ジェイドの騎士達も騒ぎ出す。

「王に疑問を持つならば、カーネリアンの騎士を辞めろ」

ツナがそう言って、皆、シーンとする。

「フォックステイルは、我が国のシンボルと言ってもいい。絵本で有名になったが、童話の主人公の彼が、実際に存在し、王であったとして、何が問題だ? フォックステイルについて、賊が何を主張しようと、我が国のヒーローだ」

ツナ隊長の言う通りだと、頷いて聞いている騎士達も多い。

「今後、フォックステイルだからと言って、王を侮辱する者がいるならば、騎士隊長の権限で、カーネリアンの者だろうとも、処罰する!」

その過激なツナの発言には、誰も頷かないが、ツナが、王に跪いて、

「これからもアナタに忠誠を誓います。例え、私だけでも――」

と、頭を下げた。その姿に、カーネリアンの騎士達は、その場で、次々と跪いて、王に頭を下げた。同時にジェイドの騎士達も跪く。

「今後も騎士の活躍を期待してる」

と、王は笑顔で、ツナにそう言うと、

「あ、そうだ、シャーク! 新しい国の王として、キミにイロイロと教えてくれる人が必要だよね」

と、王は、シャークにそう言うと、更に、

「元々、キミの世話をしてた人だ、キミに返すよ」

そう言うから、シャークは、意味がわからず、眉間に皺を寄せるが、

「我が国の大臣と言う肩書をくれれば、なんでもするって言って住みついたトビーだ」

と、王が手を広げ、大臣の登場に拍手までする。

「トビー!!!!!???」

今迄で一番驚いた声を上げたシャークに、

「へい!ダンナ!なんでやんしょ!」

と、思わず、賊だった頃の口調で答えるトビー。

「貴様!! よく俺様の前にのこのこと!!」

「ダンナ! そう苛立ちなさんな。朗報があるんすから」

と、トビーは、シャークに軽やかな足取りで近付く。

「朗報?」

トビーはへいへいと頷きながら、

「あの忌まわしきフォックステイルの正体が明らかになるって話っすよ!」

そんな事を言うから、シャークは、そうだった、こういう奴だったと、

「相変わらずだな」

と、呟き、舌打ちをする。

「トビーは、ホントに働き者で、何でもよく知っているし、城内を管理もしてくれてるしね。ちょっと変なトコ・・・・・・いや、だいぶ変なトコかな、そういうトコもあるけど、とってもいい奴だ。これからはシャークの側近として役に立つと思うよ」

ふざけるなと、王に怒鳴り散らすが、トビーが、まぁまぁまぁまぁと、シャークを宥め出し、シャークの苛立ちが、王からトビーへと移るが、トビー相手に本気で怒れなくて、余計にイライラする。

「さて、これにて終了!」

と、王はこれで全て終わらそうとしたが、シンバが、シャークの傍から離れ、王の傍に駆け寄り、騎士達がシンバに剣を向けようとするから、リーファスが、シンバの名を叫んだ。だが、シンバは怖いもの知らずなのか、王の目の前に立って、

「どうして? どうしてそんなに沢山の風があるの?」

そう聞いた。王は、首を傾げ、目線をシンバに合わせる為、腰を下ろし、そして、騎士達にも剣を降ろさせた後、シンバを見て、

「風って?」

そう尋ねた。

「人はね、みんな、いろん風を持ってる。ボクはその風が見える。王様の風はたくさんあって、サードニックスのお爺ちゃんの風だけを纏ったら、お爺ちゃんみたいになった。どうしてそんな事ができるの? 王様の本当の風はどれなの?」

「へぇ、そんな風があるの? それが見えるなんて不思議なチカラだね。キミにも風があるの?」

問い返されて、シンバはううんと首を振り、

「ボクは風がないの。だから先がないみたい。ボクには未来がないのかも」

そう言って、俯いた。そんなシンバの頭を軽くポンポンとして、王は、

「きっとこれからなんだよ。だって、キミ、なりたいもの、見つかったでしょ? それに向かって明日を見始めたら、きっと未来、あると思うよ」

と、優しく微笑んだ。シンバは、なりたいもの?と、少し考えていると、王は、なにもない手の中に、飴玉を出して見せた。

シンバは、わぁっと、嬉しそうに飴玉を受け取ると、王は、シンバの頭を撫でて、腰を上げ、幕の後ろへ姿を消したので、シンバは、もらった飴玉を見つめる。

「シンバ!!」

リーファスの声に、ハッとして振り向くと、父親と母親の姿に、シンバは少し泣きそうなるが、涙をグッと我慢する。何故なら、シャークがいるからだ。

それだけじゃない、今、どっちへ走って行けばいいのか、わからなくて、シンバは固まって動けなくなる。

両親の所なのか、シャークの所なのか・・・・・・。

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