10.王の正体
カーネリアンは、空賊達が自由に出入りできる国で、よく空賊の飛行船がカーネリアンの大陸の付近の海に着水している。
だが、こんなにも多くの飛行船が、嘗て、着水した事があっただろうか。
何艘もの船が、カーネリアンを囲むように、そして、海を支配しているかの如く、浮いているのが、カーネリアンの城下町にある家の窓からでも見える。
ジェイドの騎士達も来て、隊長の指示で、カーネリアンの騎士の手伝いをしている。
「悪いな、レオン。ジェイドの王はコッチに来る事を許してくれたのか?」
そう言って、ジェイドの騎士隊長に近付くのは、ツナだ。
「我が王は、私が不在になる事を余りイイ顏はしませんでしたが、カーネリアンの王から、私が直々に頼まれたのですから、私が来ない訳にいきませんし、カーネリアン王からの願いは、断れない」
そう言って、レオンはツナを見て、
「フォックステイルから頼まれたら、もっと断れない」
と、フッと笑みを零し、そう言った。
「我が王が悪いな」
と、悪びれなく言うツナ。
「それにしても全空賊を捕まえるなど、凄いな。まさかの出来事だ。今年一番の世界報道だよ」
「そうだな。何を考えてるのか、ちょっとわかんねぇよ、うちの王様は」
と、ツナは、溜息交じりにそう言った後、
「カーネリアンで、空賊を捕まえたトコで、罪をどう贖わせる気か。かと言って、罪を償う法のある国へ移送するにも、これだけの賊を受け入れてくれる国はどこにもないだろうな。全くわかんねぇ」
と、頭を掻きながら、眉間に皺を寄せて言う。
「キミでも、彼の考えがわからないなんて事があるんだね」
「え?」
「キミなら、なんでも彼の考えがわかるのかと思っていた」
「んな訳ねぇよ、わかんねぇ事だらけだ」
「それでも彼の考えに従うんだ? 王だから?」
「俺と王は・・・・・・シンバは、一度、心が離れた事があって、その時、バラバラになって、再会して、二度と、アイツの手を離す事はしないと誓った。例え、アイツのやる事が間違いだったとしても、俺はアイツを離す気はない。一緒に奈落の底まで落ちる気でいる」
「凄いね、騎士隊長の鏡だよ。でもキミの凄いトコは、騎士隊長だからって事じゃないんだよね、キミが何者でも、きっと共に落ちるんだろうな、王と。いや、王だからではなく、彼だから共にって事なんだろう」
そう言ったレオンに、ブハッと、吹き出して笑い、
「嘘だ、落ちる気なんてねぇよ、だってアイツに間違いなんて絶対ないから。理解できなくても、アイツのやる事は絶対に正しい! だから一緒に落ちる気でいるって言えただけだって」
と――。
つまり、何があろうと信じてるって事かと、レオンはフッと笑みを零す。
今、リーファスの赤いブライトが、カーネリアンの空を、一筋の飛行機雲をつくって行く。
ツナもレオンも、暫く、その青に光る白い線を見つめた。
パンダが到着したようだ。
「ツナ隊長!」
騎士の1人がツナに駆け寄り、
「王がお呼びです」
そう言うので、わかったと頷き、
「レオン、悪いが、頼まれてくれるか? うちの騎士達の事も暫く指示を出してやってくれ。直ぐに戻るから」
と、レオンにそう言うと、城へ向けて走り出すツナ。
城内のエントランスで、王が誰かと話している。
「お呼びですか?」
と、近寄ると、
「あぁ、ツナ! ほら! 覚えてるだろ? ブライト神父とリサシスター!」
と、王は、笑顔で、懐かしいよねと言いながら、今度は神父とシスターに、
「ツナの事、覚えてますよね? 後、カモメとパンダも、もうすぐ来ると思います」
そう言った。ツナは内心、物凄く驚きながらも、ポーカーフェイスで、
「覚えてます、お久しぶりです。その節はお世話になりました」
と、頭を下げた。
「あのツナくん!? 随分立派になって! しかも礼儀正しく挨拶ができるなんて! あのツナくんが!!」
と、リサシスター。
「長生きはするもんだ、まさかうちの孤児院から、王になる者がいて、騎士隊長になった者までもいるなんてな。カモメもパンダもいるなんて。みんな、いなくなったから、亡くなったと思っていたよ」
と、ブライト神父。
ニコニコ笑顔の王に、
「ちょっと、王。コチラへ」
と、ツナは、王を引っ張り、神父とシスターから離れ、小声で、
「あの2人は、何しに来たんですか?」
そう尋ねた。
「何しにって、僕が呼んだんだよ」
「は?」
「賊時代が終わろうとしてるんだから、神職である者が、その時を見定めておくべきだろ?」
「なんで・・・・・・?」
「なんでって? 歴史が変わる瞬間を神職である者が見届ける。当然だろ?」
「そこじゃなくて。何故あの2人なんですか? 神職となる者ならカーネリアンにもいます」
「あの2人は僕達の恩師でもあるし」
「それはわかります、幼い頃、お世話になった孤児院の神父ですし。でもだからって何もあの2人を呼ぶ必要ありますか?」
「いいじゃない、懐かしいし」
「懐かしい!? 今、それどころじゃない状況ってわかってますか?」
「わかってるつもりだよ?」
「大体、本当に賊時代が終わると思ってるんですか? 確かにシャークを捉える事ができましたが、問題はシャークだけじゃなくなっている。こんな多くの賊を、どう裁くおつもりで? そんな状況の中、俺達のガキの頃を知ってる人が見届けるなんて、何を考えてるんですか!?」
「子供の頃、僕達は、ブライト教会で出逢ったんだよね。ホント懐かしいよね。神父さんがめちゃめちゃ老いてて、正直、ちょっとビビってるよ」
「いや、何の話!!? そういう話は後でいいだろ!! 王は一体何を考えてるんですか!!?」
「呼んだ~?」
と、そこでパンダが駆けて来る、その後ろで、カモメも、
「ごめんごめん、遅くなっちゃった、言われた通りに広間と講堂と裏庭にスピーカー付けて来たよ。後はここのエントランスにもスピーカー付けるんだよね? それより呼ばれたみたいなんだけど、何か用ですか?」
と、小さなスピーカーを手に持って走って来た。
「うん、懐かしい人が来てるんだ」
と、王は、ブライト神父とリサシスターを2人に会わせる。ツナは、
「お前を信じて大丈夫なのか不安になってきた・・・・・・」
と、笑って、話している王を見ながら、小声で呟く。
カモメもパンダも笑顔で、神父とシスターとの再会に喜んでいるが、内心、どういう事なんだろうと思っている。
「カモメ、スピーカーって?」
王とパンダと神父とシスターが、弾んで話をしてる横で、ツナが、カモメに聞いた。
「あ、なんか、王に頼まれたんだ、王の間で話す事を、賊達全員に聴こえるように、スピーカー付けてくれって。王の間には、サードニックスの賊達とシャークと、それからシンバくんに、リーファスにリンシー、後はブライト神父とリサシスターも入るのかな。あ! 後はラガルトとか? さっきシカが無事にエル・ラガルトとギャングを捕まえたって言ってたし。でもアイツはシカに地下に入れられたらしいけど、出してもらってないままだっけ? みんな忙しすぎてラガルトの事、忘れてそう」
「なぁ、王は何の話をするか知ってるか?」
「え? ううん、知らないけど、多分、シャークや賊達の刑についてじゃないかな?」
どうなんだろうかと、ツナは考えながらも、
「あぁ、俺、レオンに任せて来たから、もう行かなきゃ」
と、
「ブライト神父、リサシスター、お元気そうで良かったです、仕事がありますので、これで失礼致します」
と、頭を下げ、王にも頭を下げると、行ってしまった。王も、
「僕も用意があるから行かなくちゃ。後で、大臣が呼びに来ると思いますから、その間、ゆっくり城内を見学でもなさってて下さい」
と、神父とシスターに頭を下げて行ってしまい、カモメもパンダも、また後でと、その場を去った。
カーネリアンは、大勢の賊達で大騒ぎ状態。
勿論、薬が効いていて、全員、眠ってる状態だから、騎士達が、賊達を運ぶ事で大騒ぎなのだ。
そんな中、目を覚ましたのは、フックス王子。
バッと起き上がり、周りを見て、少し考えると、また周りを見て、ベッドから出た。
自分の部屋だよなと、周りをまた見て、騒々しい音に、窓に近付き、開けて、覗き込む。
賊達が騎士達に運ばれているのが見える。そして、いつも海が見える場所には、多くの船が着水しているのが見える。
「どうしたんだっけ・・・・・・?」
まだ頭がぼんやりすると、頭を振りながら、部屋を出た。
着替えてもないから、フォックステイルの衣装を着たままだ。
「おにいちゃーん!」
「リンクス・・・・・・」
フリフリのお洋服を着て、駆けて来る妹。
「おにいちゃん、下の階へ行っちゃダメよー!」
「え?」
「出入り禁止ってー!!」
「そうなの?」
「ママも下へ行かない方がいいって言ってたー!! パパの言う通りにしてってー!!」
「そうなんだ・・・・・・」
「お祭りかなー?」
「祭り?」
「人がイッパイなのー!!」
「あぁ、そうだね・・・・・・」
「お祭りの準備かもー!!」
「だといいね・・・・・・」
「おにぃちゃん、フォックステイルの服でまたパパに怒られるよ?」
「そうだね。パパはフォックステイルの事をわかってくれないから」
「おにいちゃんは王子だけど、フォックステイルなんだもんねー!!」
「うん、そうだよ」
と、フックスはリンクスの頭を撫でる。
「フォックステイルだから下へ行っちゃうの?」
「え? あぁ・・・・・・そうだね。ちょっと様子見て来るよ。リンクスはママの傍にいた方がいいよ」
「わかった・・・・・・気を付けてね・・・・・・」
さっきまで笑顔だったのに、急に悲しそうな顔になって、そう言って、手を振るリンクスに、フックスは少し笑ってしまう。
フックスも手を振って、リンクスと別れ、下へ降りて行く間、だんだん記憶が蘇って来る。
大勢の賊達がサードニックスの船を取り囲み、戦争となっていた、その時、シャーク・アレキサンドライトが現れた。
シャークは、シンバくんを連れていたから、シンバくんをシャークから奪った。
そして、シャークから逃げた。
そして、そして、そして・・・・・・
「そこら辺から覚えてないな」
と、階段を降りきって、ローカを行き、エントランスに出ると、倒れ込んでいる賊達を運んでいる騎士達が目に入った。
「もう講堂は満員だ、裏庭へ運んでくれ」
「後、広間もまだ少し入れそうだ」
などと騎士達は、大きな声で叫んでいる。
倒れている賊達は、怪我の手当てもされているようで、イビキを搔いている者もいるから、寝てるだけのようだと、フックスは思う。
「ギャング達の場所を移動させて、そこに運び込むぞ」
そう言っている騎士に、ギャングも捕まったのかと、フックスはボーッとしながら、忙しそうにしている騎士達を見ていると、
「おい! 離せよ!! オイラは違うって言ってんだろ!! オイラは飛行機乗りなの!! 賊じゃねぇの!!」
と、騎士に捕まった状態で、大暴れしているスカイがいるから、更にボーッと、見ていると、
「おい!! クソ王子!! お前そんなトコにいたのか!! 助けてくれよ!!」
と、騎士の手を振り払い、スカイはコッチへ向かって来るから、あからさまに、フックスは嫌な顔をして、
「何したの?」
と、聞いてみる。
「何もしてねぇ!! お前、オイラの傍にいたろ? オイラ何もしてねぇだろ?」
そう言われても、余り記憶がない。
「なんか頭がぼんやりしてて、うまく思い出せないんだよね」
「いや、思い出すも何も一緒にいただろ!! オイラ達!! ずっと!!」
「そうだっけ?」
と、首を傾げるフックスに、
「王子」
と、騎士が頭を下げ、スカイを捕まえようとするから、
「あぁ、この人、何したか知らないけど、捕まえなくてもいいよ」
フックスがそう言った横で、
「だから何もしてねぇ!!」
と、スカイが吠える。
「しかし、王の間へ連れて行くように言われてまして」
騎士は困ったように、そう言った。
「そうなの? じゃぁ、後でオレが連れ行くから大丈夫だよ」
そう言われてもと、騎士は困った顔のまま。
「大丈夫だよ、ちゃんと連れて行くから。オレもパパに話があったし、もし彼の事で何かあるなら、オレからパパに話すから」
と、一体、どういう始末をつけるのか、この状況をどうするのか、王に聞きたいと思ったフックスが、そう言うと、騎士は、少し考えた後、頷いてくれた。
フックスはスカイを見て、スカイもフックスを見て、
「何があった?」
同時に聞いた。
「いや、オレに聞かないでよ。そっちは何してるの? セルトさんはどうしたの?」
「オイラは気付いたら、なんか、運ばれてて、賊じゃないって言ったんだけど、聞いてくんねぇんだもん」
「聞いてない訳じゃないと思う。キミ、結構、有名だから」
「は?」
「飛行機乗りの旅人って、割りと有名だから、賊じゃないって事はわかってると思うよ。多分、キミを王の間に運ぶよう指示されたんだろうね。だとしたら、セルトさんも王の間にいるのかな。オレ達も行ってみよう」
と、フックスがそう言った時、
「フックス!」
と、呼ぶ声がして、振り向くと、学校の制服を着たクラスメイトが数名、駆けて来る。
「みんな・・・・・・どうやって城に入れたの? こんな状態なのに」
フックスがそう聞くと、長い髪を緩くふわっとさせた女子が、
「いつもフックスが使ってる逃げ道? 隠れ通路? あそこから」
と、だから、髪に葉っぱが付いてるのかと、フックスが思っていると、
「もーッ! デートキャンセルしたと思ったら、全然、連絡もくれなくなって、心配したんだからね!」
と、頬を膨らませるから、フックスは苦笑い。
「それより街は大騒ぎだ、一体何事なんだ? コイツ等って賊なのか?」
と、背の高い坊主頭の男子が、周囲を見ながら問う。
「あぁ・・・・・・パパが全空賊を捕まえたみたい・・・・・・」
「全空賊!!?」
驚いて、皆、声をあげた後、ボブの髪型の女子が、
「すごッ。それって世界中の空にいた賊が、みんなここにいるって事?」
そう言って、メガネをかけた男子が、
「どうやって捕まえたのか気になるんだけど・・・・・・こんなに多くの賊を・・・・・・どうやって・・・・・・?」
と、ズレ落ちたメガネをかけ直しながら呟いた。
「っていうか、フックス、その格好・・・・・・」
と、ゆるふわ女子が、フックスの服を指差す。
「またフォックステイルに成り切ってたのか?」
と、長身男子。
「フックスって、ホントいつまでもお子ちゃま」
と、ボブ女子。
「ていうか、デートキャンセルして、学校も休んで、フォックステイルごっこを1人でしてた訳じゃないよね?」
と、メガネ男子が、そう言った後、皆で、
「もしかして、この賊を捕まえたのって、フックスも関係してるの?」
と、口を合わせて聞くから、どうなんだろうと、フックスが、首を傾げた時、
「この人誰?」
と、ゆるふわ女子が、フックスの後ろにいたスカイを指差した。
「あぁ、空の旅人。知ってるだろ? 青い飛行機の・・・・・・」
フックスがそこまで言うと、ゆるふわ女子とボブ女子が首を傾げるから、
「おいおい、オイラって有名じゃねぇのかよ?」
と、フックスの耳元で囁くスカイ。だが、
「賊狩りのスカイ・パイレーツ?」
と、長身男子が言い、
「流れ星より速いウィッシュスターが相棒の?」
と、メガネ男子が言い、
「割りと有名でしょ?」
と、フックスがスカイに言った。
「フックス、彼と知り合いなのか?」
メガネ男子が、スカイを見ながら、そう言った時、近くを通る騎士が連れてる男に、フックスは目を留めた――。
「ラファー!?」
思わず、フックスはそう叫んだ。皆、フックスの視線を辿り、そこに、手に錠を嵌められて歩いて行こうとしている男を目にした後、フックス同様、
「ラファー!?」
クラスメイト達は、そう叫んだ。
フックスが、ラファーに駆け寄り、ラファーを捕まえている騎士に、
「あの! 彼は・・・・・・なんで・・・・・・捕まってるの・・・・・・?」
と、何をどう言えばいいか、わからず、そう聞くと、
「賊達相手に旗を盗んでたギャングのリーダーのようです」
簡潔に、そう説明された。
「ギャングの・・・・・・? リーダー・・・・・・? ラファーが・・・・・・?」
有り得ないという風な表情のフックス。騎士は連れて行こうとするが、
「ちょ、ちょっと待って! オレの友達なんだ。ちょっと話させて? 忙しいのはわかってる。だから、少しでいいから」
と、騎士にそう言うと、騎士は、王子が言うならばと、ペコリと頭を下げて、2歩、3歩と、後ろへ下がって、待機する。
フックスは、ラファーを見て、ラファーもフックスを見た後、フックスの背後にいるクラスメイトを見て、フンッと鼻で笑い、
「相変わらずのメンバーと一緒にいるんだね」
そう言った。
「ラファー? ギャングのリーダーって、嘘だよね? 何かの間違いだよね? これって誤認だよね? 誰に捕まえられたの?」
「キミのお父さんだよ」
「え?」
「カーネリアン王直々に捕まったんだよ」
「え・・・・・・?」
「で? 誤認だって? そう言ってくれるの?」
「・・・・・・」
「無理だよね、ご立派なお父さんの言う事は絶対だろう? 例え誤認だったとしても、お父さんが決めた事は誰も逆らえないよね」
「そんな事ないよ! 誤認なら、オレがパパに話すよ! だから本当の事を話して?」
「本当の事? お前なんか大嫌いだ」
「え?」
「仲イイふりをしてたんだ、本当はお前なんか大嫌いだったよ」
笑顔で、そう言ったラファーに、フックスは黙り込む。
「一緒にフォックステイルの絵本を読んだね。でもフォックステイルに成り切れるのは、フックス様だけだったね」
「ラファー・・・・・・?」
「だって孤児にフォックステイルの衣装なんて手に入らない。フォックステイルになりたくても、なれない。お前は王子ってだけで、煌びやかな衣装を身に纏って、フォックステイルに成り切れて、失敗しても、王子って事で愉快にその場を笑いに変えれる」
「・・・・・・」
「教えてやろうか、王子様。お前の後ろにいる連中もな、お前の事、王子だから傍にいるだけで、実際は、お前の悪口言いまくりだったぞ」
「・・・・・・」
「女共は、お前の事、いつまでもガキでしょうがないって笑ってた。男友達の方が友情深いと思うか? お前の事、将来、アイツがこの国を継ぐのは勘弁してって笑ってたよ」
クラスメイト達は、何も言わず、黙り込んでいる。フックスはその沈黙に、自分も沈黙になる。そこへ、
「だからテメェは飛行機乗って、賊相手に旗を盗んだってのか? それでフォックステイルになった気か?」
と、スカイが、今、フックスの隣に立ち、そう言った。そして、
「確かにコイツはオイラも気に食わねぇトコがあんけどよ、コイツがフォックステイルに成り切れんのは、コイツがフォックステイルだって自信もってんからだろ。テメェだって、飛行機手に入れて、賊から大事な旗奪って、誰それの真似事しといて、偉そうに言うが、何の自信もねぇから、誰の真似をしても、誰にもなれてねぇじゃねぇか」
と、
「フォックステイルになりてぇなら、フォックステイルに認めてもらえるような事してからだろ。自分の境遇にばっか憐れんで、僻んで、恨んで、そんで、誰かを見返そうとして失敗したら、そうやって、誰かのせいにして。やり方間違ってんだよ。それじゃぁ、フォックステイルを真似ても、ゼンゼン似てねぇし、オイラの真似して飛行機乗ったって、オイラには勝てねぇぞ」
そう言い放ち、今度はクラスメイト達を見て、
「フックスの心配して、城に入り込んで来るくらいだもんな、悪口くらい言える仲だって事だろ?」
と――。
そんなスカイは、今、とてつもなく、良い事言ってると思っている。だが、
「あのさ、ウルサイんだよ、黙っててくれないかな?」
と、フックスに言われ、
「ハァ!? 今、オイラ、お前の為に!!」
と、スカイはフックスに顏を近づけて、怒鳴るが、フックスは、あっち行けよと、スカイの顔面を平手で押す。
「ラファー。キミが、カーネリアンの孤児院にいたのは、勿論、知ってた。でも、カーネリアンの孤児院は、割りと裕福だったし、フォックステイルの衣装だって、欲しいなら言ってくれれば、お揃いで作ったよ。でもね、友達もだけど、同級生や後輩に先輩、学校の生徒達が、みんな、オレを馬鹿みたいって言ってる事、知ってたから、ラファーまで、一緒にオレとフォックステイルをやってたら、馬鹿にされちゃうんじゃないかって、だからオレからは何も言い出せなかった。ラファーから言い出してくれるのを待ってた。それにオレもね、いつまでも子供じゃないから、フォックステイルが絵本のキャラクターだってわかってたし。でも実在するって言われている以上、その可能性は捨てれなくて、いつか会いたいとも思っているし、オレが、フォックステイルになれるならって思ってるのも事実で、バカにされても、笑われても、これだけはやめれないんだよ。その話をできたのは、ラファーだけだったよ」
フックスは、そう言って、ラファーを見つめ、ラファーも、フックスを見ている。
「ラファーに、養父になる人が決まったと聞いて、この国から出て行くって聞いた時、またいつか会いたいって思ったけど、会えたら、その時は、ホンモノのフォックステイルになってるかもなって、そしたら、オレどうしようって・・・・・・焦った気持ちもあった。ラファーなら、なれるんじゃないかって思ってたから。一緒にフォックステイルを真似たよね、いつも、オレより、フォックステイルに成りきれてたから・・・・・・ラファーなら、フォックステイルになれるって、いつも思ってたから・・・・・・」
「なんで・・・・・・そんな・・・・・・嘘ばっかり・・・・・・」
「嘘じゃないよ、だってオレは王にならなきゃいけないから。将来、決まってるから。フォックステイルにはなれないって、どこか諦めてたし・・・・・・」
そう言ったフックスの表情が笑顔だけど、とても悲しく見える。
「ラファー、オレは、フォックステイルはギャングではないと思う。どこで間違ったの? ラファーの養父は、飛行機を買い与えてくれたの? 飛行機乗りになれって事? それともギャングのリーダーになれって? それとも只、意味もなく、飛行機を乗り物としてもらえたの? 何にせよ、その選択はラファーが決めた事だったんだよね?」
フックスの真剣な眼差しに、ラファーは、俯いて、耐えれなくなったのか、
「すいません・・・・・・もう行きます・・・・・・」
と、背を向けて、騎士に、自らそう言った。
「ラファー!!」
フックスが、ラファーの背に、名を呼ぶと、横顔で振り向いて、
「なぁ・・・・・・お前は間違ってないの・・・・・・? もし、お前を真似るヤツがいたら・・・・・・それは間違ってないって言えるのか・・・・・・?」
そう囁いた。
ラファーが行ってしまった後も、フックスがぼんやり見ているから、
「あんな奴の言う事なんて気にしなくていいよ!」
と、ゆるふわ女子が、フックスの隣に来て、そう言った。すると、
「そうそう! アイツ、変な奴だったしな!」
と、長身男子が。
そして、ボブ女子も傍に来て、メガネ男子も傍に来ると、みんなで、フックスに、気にしなくていいと笑っている。
「それって、お前等が悪口言ってた事?」
と、スカイが言って、皆、スカイを見る。
「それなら気にしてないよな」
と、スカイはフックスを見る。フックスは、溜息を吐いて、
「キミは? キミは間違ってない?」
と、スカイを見る。
「胸張って、今の生き方に、自分を褒められる?」
そう聞いたフックスに、スカイは、うーんと少し悩んだ風にして、笑いながら、
「人生の選択を間違った事ない奴なんていねぇって! 絶対フォックステイルだって間違ってたって! いいんだって! 間違っても、またやり直せば!」
そう言って、鼻を擦って、先に行ってるからなと、1人で王の間へと向かう。
フックスは、そんなスカイを見送りながら、またぼんやりとした顏で、
「でもオレは・・・・・・間違ってないと思って来たんだけど・・・・・・」
そう呟く。
「フックス?」
友人達の声にハッとして、
「オレも行かなきゃ。なんか来てもらったのに、ごめんね。また学校で! 普通に正門から出て行って大丈夫だと思うよ、騎士に呼び止められたら、オレの友達って言えばいよ、多分、学校の制服で納得してくれるから」
と、スカイを追い駆けるように走り出そうとしたら、スカイが戻って来るから、
「え? なに? どうしたの?」
と、スカイに聞くと、
「王の間ってどこだっけ?」
と、照れたように頭を掻きながら言うから、フックスはハハハッと声に出して笑い、
「オレも行くから、一緒に行こう」
と、スカイと王の間へ向かった。
王の間への扉は開かれていて、王の間に入り切らない者達がローカにも溢れていた。
だが、騎士達がところどころに立っていて、賊達も目を覚まし、状況が飲み込めてないのもあるだろうが、それとも、もうしょうがなくか、不貞腐れた感じはあるものの、大人しく、指示に従い、綺麗に整列している為、混雑している訳ではなかった。フックスは王子と言う権限があるから、騎士達が頭を下げ、王の間へズカズカと入って行ける。スカイは、そんなフックスの後ろにくっついて行く。
王座には、まだ誰もいない。
皆、ガヤガヤしている中、スカイが、
「シャーク・・・・・・」
そう呟き、フックスは、王座から一番近い場所にいるシャークを見る。
「それからサードニックスの連中と、セルトもいる」
スカイがそう言って、フックスは、シャークの近くにセルトがいるのを見て、頷く。
「後、リーファスもいんじゃん! リンシーさんも!」
そう言ったスカイに、
「勢揃いって感じだね」
と、フックスは、もう少し前へ行こうと、歩き出した時、王が現れ、王座の前で立ったまま、部屋中を見回し、
「ようこそ、我が国カーネリアンへ!」
と、笑顔で言うから、足を止めた。だが、スカイが、
「おい、セルトの近くへ行こうぜ!」
そう言って、男達の間をすり抜けて行くので、フックスも前へと向かう。
王の近くには、ツナ騎士隊長、それからジェイドの騎士隊長のレオンが立っている。
王の登場にも、ガヤガヤと静まりそうにない雰囲気に、騎士隊長のどちらかが吠えるのかと思ったら、
「静かにしろテメェ等!!!! これは一体どういう事なのか!!!! 話を聞こうじゃねぇかぁ!!!!」
と、シャークの怒鳴り声で、シーンと静まり返った。
今、スカイがセルトの隣に立ち、
「セルト、これから何が始まんの?」
と、小声で問う。セルトは首を振り、只、真っ直ぐに王を見ている。
フックスも前へ出て、ふと、シャークの足元にシンバがいるのを見て、不思議に思う。
何故シャークの傍に置いたままにしてあるのだろう。
どうして親元に返さなかったのだろう。
捜していたのは、この男の子だった筈と、フックスはジィーッと、シンバを見つめる。
シンバは、口を開けて、ポカーンとした顏で、王を見ていて、今、フックスの視線に気付き、サッと下を向いて、視線を逸らした。
シンバは思っていた。
目が覚めて、この国に着いた時から、サードニックスの船で出逢ったお爺ちゃんの風を感じていたと。
黒くて大きくて、広く広く広がって行く風。
只、そのゆっくりした風の動きが、強く感じて、若き風のような気がしていた。
それはお爺ちゃんが元気になったんだろうと思っていた。
だが、その風の持ち主が王であった事に、驚いた。
お爺ちゃんではないと言う事に驚いただけではない。
王の纏う風が、色とりどりの様々であり、お爺ちゃんに似た風だけでなく、シャークと似た風も纏っている。
それだけじゃない、本当に、色んな風を持っている。
どれが本当の風なのだろうか、それとも全部が本物の風なのか。
そんな幾つもの風を纏う人など、今迄見た事がない。
どういう事だろうと、シンバは、両親が来ている事すら、目に入らず、王に見惚れてしまっていた。
「お初にお目にかかるな、カーネリアンの王よ。カーネリアンの噂は聞いている。賊達を受け入れる国らしいな? 罪人にチャンスをくれる国だって? そんな国が俺様に何の用だ?」
大声で、王に向かって、そう叫ぶシャークに、スカイが、
「アイツに騎士数名付けた方がいいんじゃないか?」
と、今にもシャークが大暴れするんじゃないかと、そう呟くと、セルトが、
「心配ない。王の直ぐ近くにツナ騎士隊長がいる。迂闊に手は出せないし、暴れられない筈だ、足元にもガキがいるしな」
と、答えたが、あのシャークがシンバの事なんて何も考えてくれねぇだろと、スカイは心配になる。
「いいか!! 俺様は誰からもチャンスをもらおうとは思わねぇ!! テメェからもらう義理もねぇ!! さっさと俺様を自由にしろ!! どうせこの国では裁けねぇんだろう!!」
怒鳴るシャークに、王は笑顔で、
「久し振り、シャーク。元気そうでなによりだ」
と、誰もが眉間に皺を寄せる台詞を放った。
シャークも、眉間に皺を寄せ、王を見たまま、フリーズしている。
足元のシンバだけが、知り合いなの?と、王と、シャークを交互に見ていた。
今、シャークが、王を睨んだまま、
「誰だ・・・・・・? 貴様・・・・・・?」
と、小声で囁いた。
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