9.生き残ったのは


静かに青空が広がり、多くの飛行船が集まり、その船の上では、多くの賊達が倒れている。

飛行船の横をスレスレに飛ぶ飛行機から、船に飛び乗ったり、飛行船の真上を飛ぶ飛行機から、船に飛び降りたりして、飛行機から降り立ったのはカーネリアンの騎士達。

ヘルメットのようなモノで顏全体を覆い尽くし、マスクからは、シュコーシュコーと、妙な音を出しながら、倒れている賊達が生きてるのか、怪我はどの程度なのかを、1人1人、確認し、死んでる者、生きてる者、怪我が軽い者、重い者などを、分けて運んでいる。

数名の騎士達は、それぞれの船の操縦室へ向かい、船が動くか、操縦可能なのか、壊れた部分はないか、確認している。

また別の騎士達は武器を拾い集め、賊が持っている武器も奪い集めていく。

「隊長!! 隊長!! 発見しました」

無線で、そう聞こえ、サードニックスの船を束縛していたロープを切る作業の指揮をとっていたツナが、

「どこだ?」

無線を肩から外し、口元に持って行くと、そう聞いた。

「サードニックスの船から南方向にある船です」

「船旗はあるか?」

「ちょっと待って下さい・・・・・・あります! ええっと・・・・・・モリオンの船旗が見えます!」

「モリオンか。わかった。直ぐに行く」

ツナはそう言うと、無線を肩に戻し、近くにいる騎士に、ロープを外す手配を伝え、その場を移動。

上空を一気の飛行機が行ったり来たりしながら、強制的に強い風を通し、ツナはそれを見上げながら、頭からマスク付きのメットを外し、深呼吸。そして、

「シカの麻酔液は効くねぇ」

と、呟くと、倒れている賊達を見下ろし、

「いい眺めだ」

そう言いながら、倒れている連中を踏まないように、飛び跳ねながら、南方向へと、走り、飛び越え、また走り、飛んで、走り抜ける。

この船か?と、船旗を確認し、

「あれは・・・・・・モリオンじゃねぇな。あれか? あぁ! あれだな!」

と、もう一船向こうの船の上で、騎士達が手を振っているのが見えて、ツナは、その船へ向かう。

軽く船と船の間を飛び越え、

「どこだ?」

手を振った騎士に近付きながら、そう聞くと、

「多分、この人の事かと! 隊長が仰っていた格好にそっくりなので」

と、倒れている男を見下ろした。ツナも、その視線を辿り、見下ろし、腰を下ろすと、

「あぁ、そうだ、セルトだ。なんだコイツ、イヤフォンしてねぇな。だから、連絡が途絶えたのか。床に血が滲んでるな、どこから血が出てるんだ? 結構重傷じゃねぇか・・・・・・おい! コイツを優先的に診てやってくれ、死なせるなよ、コイツが死んだら、王が怒り狂うぞ」

と、とりあえず無事な事にホッとして、最後は冗談なのか本気なのか、わからない台詞を言いながら、直ぐ近くに、スカイが倒れているのを見る。

「コイツも来てたのか。って事は・・・・・・おい!! 王子もいるかもしれねぇ!! 王子を捜せ!! 直ぐにだ!!」

そう大声で叫んだ。そして、フックスに何かあったら許されないと、思った瞬間、

「隊長!!コチラに!!」

と、直ぐ近くで、騎士に呼ばれ、ツナは走り寄り、フックスの無事に安堵する。

「怪我はしてなさそうか? おい、王子を丁重に運び出せ! 怪我はないか、確認もしてくれ! それから、そこにいる奴も一緒に運んでくれ」

そう言って、スカイも、フックスと一緒に運ぶよう命じていると、そこからまた直ぐ近くに、敷物のように大きな黒い布が広がっているのが見えて、

「あれは・・・・・・シャークのマントだよな・・・・・・」

と、ゆっくり近づいて、マントをそっと捲ってみると・・・・・・

「嘘だろ・・・・・・」

シャークが倒れているのは、想像通りだったが、シャークがシンバを抱きしめたまま倒れているのが、信じられない光景だった。

「ガキを・・・・・・守ったのか・・・・・・? シャークが・・・・・・? あのシャーク・アレキサンドライトが・・・・・・?」

信じられなさ過ぎて、そう呟き、ツナは、暫く、その嘘みたいな光景をジッと見つめるしかできなかった。

「ツナ!」

その声に振り向くと、カモメが駆けて来る。今、倒れている男に躓いて、倒れそうになるが、バランスを崩しただけで、倒れずに済んだのに、また別の男に引っかかり、ドベッと、ツナの目の前で倒れた。そしてツナを見上げながら、ヘヘヘッと頭を掻いて、立ち上がるカモメ。

「遅かったな、カモメ」

「飛行機を自動操縦にして、カーネリアンまで勝手に戻るようにしたらね、飛行船に降りれなくなっちゃって。降りようとしてるのに、あっという間に、飛行船がない場所に行っちゃうんだもん。だからまた自動操縦解除して、ここまで飛んで来て、自動操縦をオンにして、でも飛び降りれなくて、その繰り返しでさ、でも何とか飛び降りれて、やっと来れたんだけど、でもさ、これでも急いで来た方だよ。頑張ったもん! 飛び降りるの怖いのなんのって! ホント頑張ったよ!」

「それでもフォックステイルかよ」

「オイラは完全裏方だから! そういうのはシンバと・・・・・・じゃなかった、王とツナの役目!」

「それより、これ見てみろよ」

「ん? え? これって・・・・・・シンバくんと・・・・・・シャーク?」

「あぁ、どう思う?」

「どうって・・・・・・。パッと見ただけだと、シャークがシンバくんを守っている・・・・・・? 裏がないなら、そう見えるけど・・・・・・」

「だよな」

「有り得ないと思うよ。だって、あのシャーク・アレキサンドライトでしょ? この首の賞金って幾らだっけ?」

「懸かってねぇよ」

「え? そうだっけ?」

「値段なんて付けれない程の首っつー訳だ。コイツの首をとった奴は、英雄として、歴史にも名誉にも残る功績を得るだろうけどな」

「成る程。世界中で英雄と謳われるなら、お金なんて必要ないね。自然と入って来るだろうし」

「運動神経がちょっとアレでも、今なら、英雄になれるぞ、カモメ」

「アレって何!? ていうか、オイラは英雄なんて興味ないし、シャークの首なんて、もっと興味ない。こんな怖い奴! 死体だったとしても近寄れないよ!」

「俺も」

と、ツナは、頷きながら、

「お前は、こんな怖い奴のどこが気に入ったんだ?」

そう言って、シャークの腕の中から、シンバを取り出そうと、大きなシャークの腕を持ち上げる。

確かに、誰もがシャークを恐れるのに、この光景は嘘のような真実。

でもシャークがどんなにヒールを貫いて来たかと言う真実に囚われ過ぎて、今のこの光景に目を背けても意味はない。

事実、シンバは、シャークに懐いていた。それを考えたら、この光景は、嘘ではない。

「鉤腕って、こんな重いのかよ・・・・・・よくこんな腕を普通に動かせれるもんだぜ・・・・・・よいしょっと! 嘘だろ!?」

シャークの腕をどかしたら、今度は、シンバが、シャークの服をシッカリ握っているから、

「どんだけ好きなんだよ!!? この怖いオッサンの事!!?」

と、思わず突っ込んでしまう。

「夢でも見てるようだよね」

と、カモメがシンバの手を解いて、ツナを手伝う。

寝てる子供が握っているモノくらい、軽く外せると思ったが、本気で、ギュッと強く握っているから、

「ええええええ・・・・・・嘘でしょ~!?」

と、変な声を出してしまうカモメ。

やっとシャークとシンバを引き離し、ツナはシンバを抱き上げ、やれやれと溜息。

カモメもフゥッと、溜息。

「サードニックスの船の整備が済んだら出発だ。一人残らず、カーネリアンに運ぶ。動かせる船に全員詰め込んで、全員に錠をかけとけ」

ツナが、周囲にいる騎士に、そう言うと、皆、敬礼のような仕草で、返事をし、全員に、その命令が届くように、無線で連絡を取り合う。

「ねぇ、シャークだけは後2、3本薬うった方がいいと思うよ。他の連中より直ぐに目を覚ましそう。体も大きいし、絶対に直ぐに目を覚ますよ。それで暴れたら大変だよ」

そう言ったカモメに、ツナは頷き、

「じゃぁ、任せる」

と、シンバを抱いて、先にサードニックスの船に向かう。そのツナの背に、カモメは、

「シャークはここに寝かせたままにしとくよ! 重すぎて運べないし! この船を動かすようにするね!」

そう叫んだ。ツナは振り向きもせず、

「任せるよ。俺はサードニックスの船にいる」

そう言った。

一番大きな船がサードニックスの船であり、一番頑丈だから、それを先頭に飛ぶ事にした。

まさか賊の船に乗り、先頭を行き、指揮をとり、操縦室から空を眺める事になるとはと、複雑な気分だ。

ツナは、ガムパスがまだ横たわっている部屋の隣の部屋に、シンバを寝かせた。

その部屋に、フックスと、セルト、そしてスカイを運ぶようにも指示を出した。

ガムパスの遺体はどうするものかと、考え、王に連絡をとる事にした。

このままアンダークラウドへ寄り、ガムパスの冥福を祈るのか、それともカーネリアンに連れ帰るのか――。

王からは、ガムパスの遺体は冷凍保存できるなら、そうしておいて、そのままに・・・・・・との事。

全て終わった後、ガムパスをどうするかは、サードニックスの連中に決めさせると言う事だろうc

フックス王子がいた事、セルトも無事だった事、スカイも無事で、シンバも無事に保護した事、シャークも一緒にいる事などを王に報告をした後だった、

『ツナ~? オラオラ~!』

と、ふざけた口調のパンダの声がイヤフォンから聴こえて来た。

「誰だよ?」

『オラだよ!!』

「オラオラ詐欺かよ」

『オラだよ! パンダ!』 

「わかってる! 何か用か?」

『冷たいなぁ~! ツナには、いつだってオラからの連絡待っててほしいのに』

「忙しいんだ、お前の遊びに付き合ってる暇はない!」

『相変わらずノリ悪いなぁ。あのね、シンバくんが見つかったなら、オラ、そろそろリーフに伝えに行った方がいいかな?』

「まだ行ってねぇのか?」

『まだって、見つからなかったら、リーフに伝えれないから行っちゃダメでしょ』

「そうか。もう見つかったから、こっちも片付けが終わったら、カーネリアンに向かうから、そっちも行った方がいい」

『オッケー! んじゃ、またねー!』

「おい! おい? パンダ? 切りやがったのか?」

シンバが無事なのか、怪我はないのか、そういう事も聞かないで、連絡切りやがってと、ツナは、

「アイツ、ちゃんとリーファスに伝えれるのか?」

と、呟いた後、さぁ、こっちはこっちで、急いでやる事やらないとな!と、動き出す。

パンダはパンダで、これでも急いでいた。

「えっとぉ、えっとぉ、ここだ、このレバーを押した後、ボタンを押して、行先をフォータルタウンへ設定してぇ・・・・・・」

と、転送装置の前で、1人、頑張っていた。

「カモメがいないと、こういうのは、ちょっと苦手だなぁ。まぁ、いつも見てる手順通りでやれば問題ないけどぉ・・・・・・」

ちょっと手こずっている事を、誰もいないのに、言い訳を呟くパンダ。

「えっとぉ・・・・・・そうそう・・・・・・ここがこうで・・・・・・こうやって・・・・・・こうだ!!」

バンッと、スイッチのようなボタンを押したが、何も起こらず、あれぇ?と、首を傾げ、再び、別のキーを押しながら、ブツブツ呟くパンダ。

だが、なんとか作動したようで、パンダの姿は消え、エクントに現れた。

目の前の光景に、パンダは、あれぇ?と、首を傾げ、

「あ! オラ、ちゃんとワープしたんだ! やればできる男だからな~、オラは~」

と、笑いながら、歩き出す。

「ここどこだっけ? 空が近いし、空気が薄いからエクントで間違いないだろうけどぉ・・・・・・」

言いながら、キョロキョロして、誰かに聞こうかと歩いていると、バス停を発見する。

「嘘だろぉ!? はぁ・・・・・・リーファスの家から遠いトコにワープしちゃったなぁ・・・・・・とりあえずバスに乗って空港に出るかなぁ・・・・・・」

と、バスの時刻表を見てるパンダに、

「パンダ?」

と、呼ばれ、振り向くと、

「リンシー! どうしたの? 何してんの? こんなとこで?」

シンバの母親で、リーファスの妻で、舞台女優のリンシー・ラチェットだ。

「それはコッチの台詞よ。何してるの? こんなとこで?」

「オラはリーフ呼びに行こうとして・・・・・・リンシーは?」

「私はシンバを捜してるのよ。あ、シンバ、いなくなったの・・・・・・」

「うん、知ってる」

「あの子、もしかしたらバスに乗って、こんなトコまで来ちゃったかもしれないと思ってね。お金持ってないだろうから、バスに乗っても、降りる時に、運転手に掴まると思うんだけど、小さい子だから、運転手に隠れて降りた可能性もあるかなぁって・・・・・・。こっち経由のバスは大体乗って探したんだけど、目撃者もいなくて。兎に角、手あたり次第ずーっと探してるんだけど・・・・・・シンバ・・・・・・どこに行っちゃったんだろう・・・・・・?」

涙目になるリンシーに、パンダもしょぼくれた顔をする。

「あ、ごめんね、それでパンダは、リーフを呼びにって・・・・・・だから、どうしてここに?」

「え!? オラがどうしてここにいるかって? それは、その、空港からバスに乗って、こんなトコまで来ちゃった、アハハハハハハ」

「相変わらず間抜けね」

と、少し笑うリンシーに、アハハと、笑い続けるパンダ。

「それで、リーファスに何の用なの? リーファスもシンバを捜してるから忙しいと思うわよ?」

「うん、シンバくんが見つかったから」

「え!!?」

「うん?」

「今なんて!!?」

「だからシンバくんが見つかったんだよ」

「なんでそれを早く言わないの!!」

と、パンダの肩を強く掴むリンシー。

「痛い、イタイイタイ! リンシー力つよッ!?」

「シンバどこ!!? どこなの!!?」

「カーネリアン!! カーネリアンで保護してるから!!」

「カーネリアン? なんでそんな遠くの国に???」

「カーネリアンにいた訳じゃないよ! えっと、ツナが保護したのかな、多分そう」

「多分!!?」

「いや、オラは連絡受けただけなの! ツナからシンバくん無事だよって」

「シンバ無事なの?」

「無事だよ」

「大丈夫なの?」

「大丈夫だよ」

「でも見てないんでしょ? 聞いただけでしょ?」

「誰が連絡して来たと思ってんの? カーネリアンの騎士隊長ツナだよ? 無事で大丈夫に決まってんでしょ」

それを聞いて、リンシーはホッとして、腰を抜かしたように、その場にストンッと崩れ落ちて座り込んだ。

「イテテテテ。もー! オラの柔肌にリンシーの爪が食い込んで痛かったよ」

と、やっと離してくれたと、肩を摩りながら、そう言うと、

「でも奇跡だよね、シンバくん、シャークと一緒にいたのに無事なんてさ」

パンダは、笑いながら、そう言った。ハァ?と、リンシーは立ち上がり、またパンダの肩を鷲掴み、

「どういう事よ!!? シャークって、まさかあの悪名高いシャーク・アレキサンドライトじゃないでしょうね!!?」

と、怒鳴った。

「痛い!! イタイイタイイタイイタイ!! わかった!! わかったから!! オラが悪かったから!! 離して!! リンシー!! 痛いから!!」

とりあえず、離してもらえた後、うまく説明できないからと言い切って、リーファスの元へ急ぐ事にした。

リンシーは、バスの乗客や運転手にも話しを聞いて回っていた為、車ではなく、バス移動だったので、バスで行く事に。

「なんだぁ、リンシー、車で来てないのかぁ」

ブツブツ文句を言いながら、バスに乗ったら、口を開けて寝始めるパンダに、

「ちょっと!! シンバの話を聞かせなさいよ!! シャークってどういう事なのよ!! パンダ!!?」

と、声を上げるが、パンダはイビキをかいて寝てしまった為、リンシーは、イラッとしながらも、しょうがないと、窓に流れる景色を見て過ごす。

「リンシーも少し寝たら? 寝てないんでしょ? 疲れた顔してるよ」

そう言ったパンダを見ると、イビキをかいて寝てるから、

「パンダ? 起きてるの?」

と、聞いてみるが、パンダは寝てるようだ。リンシーは、また窓に映る景色を見つめ、

「彼が・・・・・・シンバを助けてくれたのかしら・・・・・・」

と、ぼんやりした目で呟く。どうやらツナを思い出しているようだ。パンダは寝たふりをしながらも、リンシーに、リーファスとどうなってんのかなぁ?と、ちょっと不安に思う。

何度か乗り換えもあったが、パンダは寝たふりで、やり過ごし、リーファスの待つ場所に無事に辿り着く。

途中でリンシーがリーファスに連絡を入れた為、リーファスはパンダを見つけると、直ぐに走って来て、パンダの肩を鷲掴んだ。

「シンバは無事って本当なのか!? どこにいたんだ!? 今はどこにいるんだ!?」

「痛い!! イタイイタイイタイイタイ!! リーフ!! 痛いって!!」

「パンダ!! シンバは無事なんだな!!?」

「無事だから!! 離して!! 痛いから!!」

やっと離してもらえた時には、もう既にパンダの肩は赤く腫れていた。

「なんで服の上からでもハッキリ手形が付く程なの!? 力の加減ってどうなってんの!? ゴリラなの!? ゴリラ夫婦なの!!?」

「パンダ、いいから、早く連れて行ってくれ!! シンバのトコに!!」

「それはリーファスが連れてってくんないと」

「俺が?」

「シンバはカーネリアンで保護されてる筈! だからカーネリアンまで飛行機でオラも一緒に連れてって!」

「筈ってなんだ!!?」

「オラ、騎士隊長からシンバくんが無事に発見された事を連絡受けただけなの。カーネリアンに連れて行くって言ってたから、その間にリーフ呼んどいてって事で、オラが来たって訳!」

「ちょっと待て。おかしくないか? カーネリアンからここまで何で来たんだ? 船に乗って、列車か? それで飛行機か? 数日かかるよな? それともカーネリアン専用の飛行機で数時間飛んで来たか? だとしても、シンバがどこで見つかったか知らないが、その騎士隊長が、何故、ここまで連れて来てくれない? その方が手っ取り早くないか?」

「んー・・・・・・えっとぉ・・・・・・なんて言えばいいかなぁ・・・・・・」

「さっきパンダ、シャークの名前を言ってたのよ」

突然、リンシーがそう言うから、それ言ったら、話がややこしくなると、

「あー!! あー!! あー!! そうそうそう!! 王様が!! みんなでカーネリアンに集まれって言ったの!!」

大声で、パンダは、そう言って、そう言った後、勝手に王のせいにしちゃったけど大丈夫かなコレ?と、自分の言動に挙動不審になる。

「お・・・・・・王様が・・・・・・? 王様って・・・・・・ブライトの事だよな・・・・・・?」

「ブライト? あぁ! うん! そうだね! ブライト! で、リーフのブライトは? どこ?」

「え? 俺の飛行機か?」

「うん、リーフの飛行機にオラも乗せて? ほら、早く行くよ! シンバくん待ってるから!」

と、パンダに急かされ、リーファスもリンシーも、飛行機乗り場へ向かう。

空港ではなく、オグル・ラピスラズリの飛行機場だ。

伝説の飛行機乗りオグルの飛行機達がある場所。

スカイのウィッシュスターも、ここの飛行機達の仲間だ。

「ここに来るの久々だなぁ!」

「お前来た事あるか?」

「あるよ! ほら、武器イッパイ持った奴とツナが戦ってさ!」

「・・・・・・」

「あの時、オラもいたよ! そしたらツナとリンシーが・・・・・・」

キスしたと言おうとして、パンダは、リーファスとリンシーの顔を見て、言葉を呑み込んだ。

「リンシーが?」

そう聞き返すリーファスと、

「あの時ってパンダいた?」

と、首を傾げるリンシー。

「あー・・・・・・えっとぉ・・・・・・勘違いだった・・・・・・オラはここに来た事ありませんッ!! いませんでしたッ!!」

「あら、でも、そのツナって言うのはカーネリアンの騎士隊長の事でしょう? 彼に私がキスしたのを知ってるみたいじゃない?」

わざわざリーファスの前でソレ言っちゃうの!?と、パンダは目を丸くして、リンシーを見る。

「そんな顏しなくても、その時の事は、リーファスもよく知ってるわ、リーファスが来た時にキスしたんだもの」

だからって言う必要はなかったと、パンダは顔も体も丸い癖に、更に目までまん丸くする。

「ブライトに乗るのはいいが、俺はここずっと飛行機の操縦らしい操縦はしてないからな」

そう言って、赤い飛行機に乗り込むリーファス。

「あ、あれ、あれぇ? リーファス、いいの?」

「ん?」

「リンシーとキスしたって話、それで終わり? オラが言わなくても、知ってたんだろうけど、もっとこう・・・・・・不機嫌になるとか? 怒るとか? 苛立つとか?」

「どうでもいい。それに何年前の話だ、今じゃないだろ、俺だって、リンシーと一緒になる前はイロイロあった」

「そうなの!? イロイロって!!? え!!? 誰と!!? オラの知ってる人!!?」

「あら、パンダ、そんなに気になるの? パンダだってもう大人なんだから、いろんな女性とあれやこれやあったんじゃないの?」

「オラ!? オラがいろんな女性とあれやこれや!? ある訳ないでしょ! 大体オラがあるように見える訳ないよね!? リンシー、もしかして意地悪で聞いたの!?」

っていうか、リンシーは、リーファスのあれやこれやは気にならないのかと思った時、

「パンダ、そんな事より、早くしてくれ。シンバが心配だ」

と、リーファスに急かされ、

「あぁ、そうだね、早く行こう!」

と、パンダも飛行機に乗り込みながら、本当にこの2人、大丈夫かなと、心配になる。

今も昔と変わらず、ラブラブな2人だよねと、信じたいパンダ。

2人の結婚式には、カモメと一緒に呼ばれて出席したと、あの頃の2人を思い出すパンダ。

白い綺麗なドレスに身を纏って、リンシーは美人な顔がクシャクシャになるくらい、凄い笑顔で、でも、今迄で見たリンシーの中で、一番綺麗で、一番可愛くて、一番幸せそうで、見てるこっちも笑顔になって、タキシードが似合わないと駄々こねていたリーファスも、リンシーの笑顔に、今迄ないくらいの嬉しそうな顔をしていた。

この赤い飛行機ブライトに乗って、空から紙吹雪を撒き散らしながら、そのまま新婚旅行に行った2人。

青空に消える赤い飛行機を、いつまでも見送った後、カモメと、「いい結婚式だったね」「いつか誰かと結婚する時が来たら、こういう結婚式にしたいな」って話した。

あの頃の2人とは違う表情の、今の2人。

結婚したら、こうなるとは思わない。何故なら、この2人の結婚式と同じくらい、素敵な結婚式を見た事がある。

それはカーネリアンの王と妃の結婚式。

カーネリアンと、ジェイドで、2回、結婚式が行われ、「二度目でも緊張するな」と、照れくさそうに王族の衣装を身に纏って、「この服も、きっとこれから先、何度着ても、緊張するんだろうな」そう言って、カチカチになる若き王に、「似合ってないしな」そう言ったツナと一緒に、「そんな本当の事を言ったら可哀想だよ」と、追い打ちをかけて、笑い合った。

そこへシカがやってきて、「プリンセスの方の準備できたみたいだよ。チラッと見たけど、二度目とは思えないくらい綺麗だった」と、そして王の傍に駆け寄ると、「永遠の愛を誓った後、姫はアナタの妃になるんですね。本当に永遠に1人の女性を愛せます?」って、意地悪な質問だったのだろうけど、王はとてもいい笑顔で、「僕の方はね、楽勝だと思うよ。でも彼女に愛され続ける自信はないから、永遠に頑張るよ」って、自信あり気な表情で言っていた。

「二度目の結婚式なのに、オイラまで緊張しちゃって、お腹が痛いんだけど」と、トイレから戻って来たカモメ。

「朝から何度目のトイレ?」と、シカ。

「お前が結婚する訳じゃないんだぞ、カモメ」と、ツナ。

そうは言っても、なんだかんだ、みんな緊張していた。

いざ、式が始まると、やっぱりすごく素敵な結婚式で、ツナもカモメもシカも涙目になっていたし・・・・・・

「オラは号泣したなぁ・・・・・・」

今、飛行機の窓から見える真っ白のもくもくとした雲が広がっているのを、遠くまで見つめながら、パンダはそう呟く。

あの時、本当に号泣する程の感情が込み上げて来て、そして、今も、あの時の、感情は正しかったと思えるだけの、2人の姿がある。

そう、王と妃は、今も、あの時と変わらず、愛し、愛され、思い合っている。

照れるような関係ではなくなっただろうが、王が妃を思っているのは、誰が見ても伝わるし、妃が、王を思っているのも、伝わる。

理想の関係だとパンダは思う。

何が違うんだろうかと、操縦席に座るリーファスと、その隣に座るリンシーを見ながら、パンダは、

「王にも負けないくらい、あんなに素敵な結婚式挙げたのになぁ・・・・・・」

と、溜息交じりに呟き、ふと、あの時、王が言っていた「彼女に愛され続ける自信はないから、永遠に頑張るよ」と言う台詞を思い出し、

「リーファスもっと頑張ればいいのに!!」

と、大声でそう言うと、リーファスは振り向いて、

「何か言ったか?」

と、クエスチョン顏。別にと、ムゥッと不貞腐れた顔で、パンダは、

「着いたら教えてね! オラ寝るから!」

と、寝る事にした。

丁度その頃、カーネリアンの王は、エル・ラガルトを拘束し、国へ戻って来た後、フォックステイルの銅像を見上げていた。

「フックス、もうすぐだよ。もうすぐ、アナタが願い、想い描いた世界になる。後少し、後少しで、賊がいなくなる世界に」

銅像にそう話しながら、少し涙目になり、

「僕が王になったのは、この時の為だったと思える」

そう囁き、俯いて、また顔を上げて、銅像を見て、

「アナタが生きてたら、もっと早く、世界は変わってたかもしれない。こんなに遅くなったけど、やっとアナタの足跡を僕が残せそうです。そうなれば、嬉しいんだけど・・・・・・」

うまくいくかなと、複雑な表情になりながらも、泣きそうな顔で微笑む王――。

ガムパスの死、エル・ラガルトの拘束、捕らえる事ができたシャーク。

今、立ち上がり、生き残ったのは、どの賊でもない。

フォックステイルだ!! 

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