8.空賊の最終戦争


サードニックスの船の中は、静かに時間が流れていた。

誰も何も喋らず、只、船をアンダークラウドへと向かわせる為に、1人1人がやるべき事をやっていた。

中には、休憩中の者もいるが、仮眠をとる部屋なり、食事をとる部屋なりで、ぼんやりと、過ごしている。

セルトは、1人で、暗くなった空を見上げて、デッキで風の流れを感じていた。

セルトの黒い前髪がサラサラと風で揺れる。

「星が・・・・・・綺麗だな・・・・・・」

空を見上げ、そう呟き、こんな上空にいても、星は遠いなと思う。

星に手を伸ばし、届かない星を握り締める。

その手には何もない。

「おれの人生・・・・・・何かあったかな・・・・・・」

残して来た筈の足跡が、消えていくような感じがした。

ガムパス・サードニックスが亡くなり、この船は、サードニックスとして続けて行く事は不可能だ。

ガムパスの跡を継ぐ者が現れないからだ。

皆が言うだろう、次はセルトだと。

きっとセルトが継いでくれると、皆、信じているだろう。

そのセルト自身は・・・・・・

「悪いな・・・・・・おれは最初からサードニックスの賊じゃないんだ・・・・・・」

その囁きが、風に乗って、消えていく。

「でも最後まで、やり抜くから、オヤジ、見ててくれるよな」

一番光り輝く星に、そう呟く。

ふと、視線を降ろすと、遠くの方で、キラキラと光る、幾つもの輝きに、セルトは、目を細めた。

嘘だろと、セルトは、

「物凄い数の船か飛行機だ!! こっちへ向かって来る!! 敵か!!?」

そう吠えた。

見張り台では、ぼんやりし過ぎていた男が、今更、望遠鏡を覗き込み、カンカンカンカンとベルを叩き、

「敵襲だぁぁぁぁ!!西南・・・・・・いや北東・・・・・・いや南北東西から船が来てる!! 取り囲まれてるぞ!!!!」

そう叫んだ後、東方向から、ドーンッと音が鳴り響き、その音で、一瞬、船が揺らぐ。

外れたが爆弾が飛んで来たのだ。

クソッと口の中で言いながら、セルトは、出された小型の船へとデッキから飛び乗った。

「ギャングじゃねぇよな!?」

「賊だろう!! 船旗が見えねぇが、こりゃほぼほぼ空賊と呼ばれる連中全員が集まってるぞ!!」

「キャプテンが亡くなったのを知られたんだ!! サードニックスを叩き落とし、その地位を今なら奪えると思ってやがる!!」

「おいセルト!!!! お前どこへ!!?」

どこへ行くかなど、決めてない。

セルトは兎に角、最初に爆弾が飛んで来た東方向へと、小型の船を走らせた。

もう直ぐそこまで来ているのだ、距離は近い。

あっという間に最初の一番近くまで来ていた船に着いた途端、セルトは小型の船を乗り捨てて、敵船へ飛び乗った。

数名が待ち構えていたかのように、サーベルを振り回して来る敵を、短剣で薙ぎ払う。

ガキンガキンガキンと刃から散る火花。

セルトの背後で、光る剣を、セルトは振り向きざまに、長剣で、受け止め、押し払う。

右手に長剣、左手に短剣。

二刀流ではないが、まるで二刀流の如く、動く。

鬼神の如くの強さ。疾風の如くの動き。誰にも止められない。

銃声ですら、避ける運の良さ。

何もかもがセルトに味方しているのか、もしくは、セルトが神の如く何もかも味方にするのか、その船のデッキで立ち上がっているのはセルト1人だけになるのは、数分だった。

その数分で、船はサードニックスの船に接近し、セルトは空にいる事を忘れてるのか、落ちたら最後の場所で、船から船へと飛び移る。

数メートルとは言え、余裕で飛んで来たセルトに、敵かと、銃を向けるサードニックスの賊に、

「おれだ!」

それだけ言うと、サードニックスに乗り込んで来ている賊達を叩き潰していく。

そう、それだけ戦いながら、誰一人として殺して行かないセルト。

叩き潰す。気絶させていくだけ。それがどこまでこの戦いに通用するだろう。

何機とある船は、全て敵なのだから。

それでも今あるチカラを惜しみなく全力で使うセルトは、既に息を切らしているが、あっという間に、サードニックスの船に乗り込んでいた敵を叩き潰していた。

「流石セルトだ・・・・・・」

サードニックスの賊である誰かが、そう呟くと同時に、皆が、ワァッと歓喜の声を上げて、

「これなら勝てる!! なんてったってセルトがいるんだ!!」

と、また誰かがそう叫んだ時、銃声が聞こえ、その誰かが倒れた・・・・・・。

一瞬の喜びが一瞬にして消え、仲間が倒れるのを目に映し、皆、動きを止める。

だが、敵の動きは止まらない。

撃ったソイツは直ぐに近くにいたサードニックスの賊に殺されたが、

「セルト!! どういう事だ!!? まさか狙いを外したのか!!?」

そう怒鳴られ、セルトは、ハァハァと呼吸を乱しながら、何も答えない。だが、自分のせいで仲間が1人やられた事に、焦りを感じている。

全員、叩き潰した。だが、いつ起きるか、それはわからない。明日まで眠ってるかもしれない、だが数秒で起きるかもしれない。

戦いは始まったばかり。

大砲が鳴り響き、再び、戦闘態勢になる。

ドゴンッと、響く音で、船が傾く。

サードニックスの船の底に、飛んで来た大砲の大きな弾丸が当たったのだ。

だが、他の船と違う、これはサードニックスの船!!

多少の弾丸くらい、当たっても、多少の修理はする事になるだろうが、墜落する事はない。

「セルト!! 指揮をとれ!!」

誰かがそう吠え、サードニックスのみんなが、セルトの指示を待っているが、セルトは、何をどうすればいいか、わからない。

今迄どうしてたかさえ、わからなくなっている。

ガムパスが戦えなくなったのは、もうだいぶ前の話。

その間、ずっとセルトがガムパスの変わりに先頭に立って来た。

なのに、何故か、今更、何をどうすればいいか、みんなにどう命じればいいのか、サッパリわからない。

だが、動けない訳じゃない、セルトは、戦う為に、走り出し、今、サードニックスの船にロープをかけて、近づいて来る船に乗り込んで行く。

そんなセルトに、皆、動揺するが、セルトの次に、キャプテン候補として名を挙げていた、数名が、セルトの変わりに声を上げ、皆に指示を出した。

セルトは、敵がかけたロープを伝い、敵の船に1人で乗り込み、サードニックスの船にかけられたロープは切り離した。

セルトを取り囲む男達だが、攻撃をする前に、セルトに攻撃され、潰されるが、やはり、息の根は止められないセルト。

次から次へ現れる男達。叩いては潰す、攻撃を交わしては潰す、攻撃を交わしきれずに掠りながら潰す、兎に角潰して潰して潰して潰しまくるが、潰した奴が起き上がって来る。

ロープを切ってしまったから、仲間の援護はない。

いや、そもそも援護をしてもらおうとは思わない、何故なら、サードニックスは賊だから、賊は敵を殺してしまう。

今迄は、叩き潰せば、それで連中は逃げてくれた。

ガムパスの存在だけで、セルトの強さを実感すると、尻尾を巻いて逃げてくれた。

殺さないで済んで来た。

だが、もう、ガムパスはいない。

誰も守ってくれない。もう誰も守ってくれない。守ってくれないんだと、セルトは、

「死ぬしかねぇのかよ!!!!! テメェ等それでいいのか!!!! おれに殺されて本望かよ!!!! 逃げろよ!!!! なんで逃げねぇんだよ!!!! もうオヤジは・・・・・・ガムパスはお前等を守ってくれねぇぞ!!!! おれから守ってもらえねぇぞ!!!!」

そう吠えながら、剣を振り上げた。鋭い風のように、剣の刃が、敵の喉スレスレを掠る。だが、賊相手にそれは脅しにもならない。死ぬか殺すか、やるかやられるか。それが賊だ。

だから、そんな殺す気のない攻撃をする者は、やがて、殺す気のある攻撃に当ってしまう。

セルトは額から血が流れ落ちる。

掠めた弾で、肩がやられる。

剣が重なり、鳴り響き、弾いても、直ぐに戻って来る。

どんな傷も全て軽傷だと、跪いたら終わりとわかっているから、セルトは動きを止めずに走り続ける。

次から次へと現れる連中を、殺さない為に。

その戦いは、永遠に続くように思われた。だが、空が明るくなり、日の光に照らされると、一瞬、皆、空を見る為に、動きが止まった。

もうセルトは限界だった。ヨレヨレのくたびれたボロ雑巾のようだった。

口の中は血の味しかしない。呼吸は、殆ど、うまくできていない。

そして、誰かが夜明けの空に吠える。

「サードニックスは終わったも同然だぁぁぁぁ!!!!」

そうだろうなと、きっともう生き残っている者は少ないだろうと、セルトは思う。

「空賊の天下は我等のモノ!!!!」

と、敵の雄たけびと共に、一機の飛行機が頭上を飛んで来た瞬間、セルトの目の前に、降り立った影。

「嘘だろ、ボロボロじゃねぇか、セルト」

「・・・・・・その声はスカイ?」

「嘘だろ、見えてねぇのか?」

「血が目に入って・・・・・・」

「そうか、じゃぁ、教えてやるよ、青い飛行機から飛び降りてヒーローの如く現れた・・・・・・」

「フォックステイルだぁぁぁぁ!!」

誰かがそう叫んだので、ヒーローの如く現れた、スカイではなく、フォックステイルになってしまった。

どういう事!?と、セルトは、叫び声のする方を向くと、

「おっと、オレに近付かない方がいいよ? ほーら、ね? 折角の素敵な剣が木の枝になっちゃった」

と、ふざけた事を言っているフックスが、敵の攻撃を交わしながら、こっちへ来る。

そして、軽快な足取りで、近寄ると、小声で、

「ヤバイね、逃げた方がいい」

そう言うから、スカイが、

「お前は本当にふざけた野郎だな!! サードニックスが逃げるとか有り得ねぇから!! セルトが逃げるとか有り得ねぇから!! 勝つから黙ってみてろ!! このヒーロー擬きのふざけた野郎が!! なんだその仮面!!? 仮面付ける意味って、なに!!!!??」

と、青筋立てて、フックスに怒鳴り散らした台詞を、

「え、バカなの?」

と、一言でフックスに片付けられるから、スカイは、

「お前をぶっ殺してやろうかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

と、腰から短剣を抜いて、フックスに向かって振り切った。

「なんで怒ってんのかな? 逃げた方がいいから逃げた方がいいって言っただけじゃん。なのにバカな返事が来るから、バカなの?って聞いただけだよ? あ、そうか、バカにバカなの?って聞いてもわからないか」

ヒョイヒョイと避けるフックスに、スカイは剣を振り回しながら、追い詰める。

「お、おい、何してるんだ・・・・・・? おい、お前等・・・・・・飛行機はどうした・・・・・・?」

と、自動操縦で飛んで行った飛行機の心配を、何故かしているセルト。

急に現れて茶番を始める2人に、なんだコイツ等?と、そこにいる連中がポカーンとしている。

フックスはスカイの短剣を避けながら、賊連中の傍に逃げ惑うから、連中もスカイの短剣から避けながら、2人を見ている。

再び、フックスがセルトの横を通る時、

「逃げ道できたよ」

と、囁いた。

スカイの剣裁きに、避ける連中は、セルトから遠のいていた。

だが、セルトは、逃げろと言われて、どこへ?と、思っている。もう終わりなんだ、どこにも逃げれないと。

だが、スカイとフックスだけは逃がさなければと、

「なんで戻って来たんだ、お前等、飛行機どうしたんだよ!?」

そう言って、逃げようとしないから、フックスは、嘘でしょと、

「セルトさんもバカなの?」

なんて呟いてしまう。

フックスとスカイは、まだ元気だ、だからどうにでもなる。

今は、立っているのがやっとに見える酷い状態のセルトを逃がすのが先だ。

だが、スカイは、そう思っていない。

セルトは天下無双のサードニックスのキャプテンになる男。セルトは圧倒的。セルトは最強。セルトは無敵。

「セルトはなぁ!! オイラの兄貴分だ!! 敵なしのサードニックスのセルトなんだぞ!!」

と――。

そのスカイの気持ちに、セルトは、何も応えられない。

「セルトが勝利を導いてくれるんだぁぁぁぁ!!!!」

そう言って、踏み込んだスカイの、その手に持たれた短剣を蹴とばして、

「だから?」

と、フックスは、スカイから離れて飛んで、落ちて来る短剣を、まるでジャグリングみたいにキャッチし、

「逃げるが勝ちって言葉知らないの?」

と、

「逃げるのが恥ずかしいとか、負けとか、思ってるようなら、サードニックスも只のバカな賊だね」

と、短剣の刃の部分を持って、ちゃんと持ち手をスカイに向けて、差し出すから、そんなフックスに舌打ちしながら、スカイは短剣を奪うように取って、

「只のバカな賊ってなんだよ!!?」

と、更に怒鳴る。

だが、ここで、このふざけたコイツ等2人もサードニックスだと、見ていた連中が怒り狂い出した。

そりゃそうだ、突然現れたガキ2人に、セルトを殺す邪魔をされたようなもんなのだ。

背中合わせに立つセルトと、スカイと、フックス。

「すいません・・・・・・王子・・・・・・賊の戦いに巻き込んでしまって・・・・・・」

セルトがそう呟く。

「ホントだよ、さっき逃げてって言った時に逃げててくれれば、こんなに囲まれる事はなかったのに」

と、ふてくされた顔で呟くフックス。

「大体どこへ逃げんだよ!!? 空の上だぞ!! サードニックスの船は敵の船のロープでギチギチに固定されてたろ!!」

もともと逃げ場なんてない事を吠えるスカイ。

そこにやって来たのが・・・・・・

「おい? なんだ? あっちの方で大騒ぎしてるぞ・・・・・・?」

誰かがそう言うと、皆が、あっちの方という方向を見る。

セルトと、スカイとフックスも、あっちの方向を見ると、小さな船がやって来た。

「なんだあのオモチャ・・・・・・」

と、また誰かが呟く。

「まさかあれもサードニックスか?」

と、また誰か、

「あんなオモチャが現れたからって、なんで、あっちにいる奴等、騒いでんだ・・・・・・?」

と、また誰か、

「おい、あのオモチャみたいな船の先端にいる奴・・・・・・」

と、また誰か、

「よく見えねぇけど・・・・・・あれは・・・・・・まさか・・・・・・」

と、また誰かが口々に呟き続け、そして、誰かが叫んだ。

「シャーク・アレキサンドライトだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

と。

セルトもスカイも、今かよ!?と、あっちの方向から目が離せなくなる。

フックスは、敵?味方?と、クエスチョン顏。

オモチャのような可愛らしい船の先端で、大きなマントを風に靡かせて、大きな鍔の帽子を深く被り、大きな背丈の、攻撃的な存在感の、驚異的な重圧で、漆黒の鋭い風を纏った男。

誰もが目を逸らしたくても、逸らせない程の恐怖。

こんな男が実在するのかと言う程に、誰もが、硬直し、震えあがる。

勿論それはサードニックスの賊以外の話。

ガムパスと共に生きて来たサードニックスの賊にとったら、ガムパス同様の男であるシャークは、恐怖に思ったとしても、実在する事は知っている。

寧ろ全てにおいてガムパスの方が上であると思っている連中だ、恐怖より、牙を向け、威嚇し、怯む事は一切ない。

それはセルトもスカイも同じ。

だが、2人は、今、敵として現れるのは困ると思っている。

全てがシャークよりも雑魚連中だが、その雑魚の数の多さ、そして、雑魚でも武器を持てば、それなりの攻撃力があり、当たれば即死確定のモノまであるのだ。

どこまでもツイてないなと、セルトは、耳に手を当て、ハッとする。

「イヤフォンが・・・・・・どこで落としたんだ・・・・・・!?」

カモメからもらったイヤフォンを、いつの間にか、なくしたようだ。

フックスがいる事を伝えたかったが、それもできなくなった。だったら、

「スカイ!! なんとしてもフックス王子だけは守れ!!」

そう言うしかない。

「ハァ!?」

スカイもフックスも、そう返した。

「あの、オレ、こんな奴に守られる程、弱くないし、寧ろ、オレの方が強いと思うんだよね」

「ハァァァァァァ!!? テメェ!! オイラがお前より弱いってのか!!? オイラはなぁ、嘗てガムパスの右腕とまで呼ばれてたんだぞ!!」

「え、そんな弱いの、サードニックスって。聞いてたのと違う」

「ぶっ殺されてぇか!! このクソ王子がぁぁぁぁ!!」

「おれの言う事を聞け!!!! 黙って守られ、黙って守るんだよ!! お前達は!!」

そう怒鳴るセルトに、とりあえず黙るスカイとフックス。

「でも安心しろ、スカイ。お前がやられるような事は絶対におれが阻止するから。おれが守るから」

そう言ったセルトに、

「何言ってんだよセルト、さっきから! オイラの強さ知ってんだろうが!」

と、スカイは、弱気になるんじゃねぇよと、呟く。

皆が皆、シャークに注目している今が、チャンスじゃないかと、セルトは、周囲の様子を伺っていると、

「テメェ等ぁぁぁぁ!! 勝手にサードニックスに手を出すんじゃねぇぇぇぇ!!」

と、シャークの怒声が響いた。

それはもう風に乗って凄い響く声だ。

「サードニックスをやるのは、この俺様だぁぁぁぁ!!」

皆、ザワザワと騒ぎ出す。

「老いぼれが死んだと聞いて集まりやがったんだろう!! だがな、老いぼれが死ぬ訳ねぇだろ!! サードニックスの老いぼれ野郎が死ぬ時はなぁ、この俺様が殺した時だけだぁ!! わかったら、とっとと消え失せろクソ共がぁぁぁぁ!!」

だが、誰も引く訳はない、引き際など、わからなくなる程の人数だ、この人数なら、シャークにだって勝てるんじゃないかと、皆、思っている。

どんなに恐怖を感じていても、この人数ならと!!

「おっと、消え失せる前に教えろ、エル・ラガルトはどこにいるか知ってる奴がいるか? 飛行機に乗った加減の知らねぇガキ共でもいい、誰か情報持ってる奴いるか? それから、この中でサードニックスと同じくらいデケェ船を持ってる一味はどれだ? 俺様が頂いてやる、その船を! 無論、その一味も、仲間にして下さいと言うのなら、考えてやってもいいぞ。さぁ、答えろ!!!!」

シーンと静まり、誰も何も答えない。

というか、シャークの言っている事に答えれないのもあるが、シャークの肩に乗っている者に、皆、釘付けなのだ。

どんどん小さなオモチャみたいな船は近付いて来る。近付いて来るにつれて、ハッキリと見えて来る。

大きな暗黒の塊みたいな男の肩に、チョコンッと乗っている男の子の姿が・・・・・・。

「シンバだ! シャークの肩にシンバが乗ってる!」

スカイがそう言って、セルトは目に入った血を手で拭い、シャークがいる方を見る。

まだ遠くてハッキリは見えないし、男達が邪魔で、よくは見えないが、確かに、シャークの肩に、小さな子がいるように見える。

今、シャークは、乗って来たオモチャのような船から、一番近くにいた別の船に飛び乗った。そして、

「おい、答えろ、飛行機に乗ったガキを知ってる奴はいねぇか? もしくはエル・ラガルトがどこにいるか、些細な事でもいい、知ってたら教えろ」

と、その船にいた連中に問う。だが、誰も何も答えないから、

「そうか、消え失せる気もねぇみてぇだな。俺様が大人しく空からいなくなった後、空賊等は、俺様の脅威から逃れたせいか、何もかも忘れたようだ」

そこまで言うと、大きな大きなソードを片手で抜いたと思ったら、一振り。たった一振りした。

その瞬間、その船のデッキにいた全員が、その衝撃に、吹っ飛んだ。

倒れる者もいれば、船から落ちる者もいて、それを間近で見た者達は、ちょっとしたパニックになる。

遠くにいるセルトやスカイにも、その衝撃は感じとれた。

ビリビリと肌で感じる恐怖に対して、キョトンとしているフックス。

「俺様を感じるがいい!! 忘れた奴は思い出せ!! シャーク・アレキサンドライトという、恐怖をな!!」

と、高笑いしているシャーク。

「そして、俺様に怯え、跪け、従え!! それができねぇ奴は消えるのみだ!!」

今、デッキの隅に吹っ飛んだ男が、うめき声を上げて、立ち上がった。皆が、生きてるのか?と、驚きで、どよめく。

「安心しろ、誰も殺しちゃいねぇ。この坊ちゃんが、殺すなと言うからな。船から落ちた連中もパラシュートくらい付けてんだろ。気絶してたら知らねぇが」

と、肩に乗ったシンバを見ながら言うから、あの少年は誰なんだ!?と、皆、余計にざわついた。

「嘘だろ・・・・・・? シャークが誰も殺してない・・・・・・?」

セルトが呟く。

「なんで・・・・・・シャークがシンバの言う事聞いてんだ・・・・・・?」

シンバが呟く。

「結構いい奴なんだね、あのシャークって人」

と、フックスが、あっけらかんとした口調で言うから、セルトとシンバだけでなく、そこにいた男達が皆、フックスを見た。

「何? 見た目に寄らず、いい人でしょ?」

と、そう言ったフックスに、皆、何も言えない。

シャークがいい人じゃないのは、誰もがわかっているからだ。

わかっているから、わからないのだ、あのシャークが、何故、少年一人に従っているのか。

「さぁ、テメェ等、何も情報がないなら、この現状への命令を聞いてもらおうか。サードニックスから手を引いて、俺様に素敵な船をプレゼントしてくれ」

そう言ったシャークに、

「いい人・・・・・・かもな・・・・・・。船とられる一味には悪ぃけど・・・・・・」

と、スカイが呟いた後、

「その後、存分に、サードニックスを潰してやるから、テメェ等は退いて見てろ。俺様の活躍をな」

と、笑うシャークに、

「前言撤回。やっぱ悪ぃ奴だよ、アイツは」

そう言ったスカイに、セルトは、そうだなと頷きながら、あの悪人から、シンバをどうやって救うか考えていた。

皆、近くにいるサードニックスの男を見ながら、その場をゆっくりと去ろうとする。

それは勿論、セルトの傍にいる連中も同じだ。

シャークの言葉に従おうとする奴等に、

「まぁ、ほら、大勢相手にするより、シャーク1人を相手にした方が・・・・・・」

そこまで言うと、スカイは黙り込んだ。あのシャーク相手に勝てるのか? 誰か? この場にいる誰もが勝てる気なんてしないだろう。

だが、勝てる気はしなくても負ける気はしないと思う連中もいる。どこの一味かわからないが、先にシャークをやろうと、船の向きを変え、シャークの乗って来たオモチャのような船に大砲の狙いを定め、そして、ドーンッと撃った!!

既にシャークは別の船にいるから、シャーク自身は無傷だが、船に乗っていた連中は大惨事。

しかも、たった一発で、船は炎と共に崩れ落ちていく・・・・・・。

「だろうな」

と、それを見ながら、あの船ならと納得のシャーク。

「オジサン! みんな、まだ乗ってたよ!! 助けないと!!」

シャークの肩に座っているシンバがそう言った。

「心配ない。皆、パラシュート付きの服を着ている。バカじゃない限り、悲鳴もなく落ちてパラシュートを広げる」

シャークがそう答えたが、ああああああぁぁぁぁっと悲鳴を上げて落ちていく連中に、

「バカだったらしい」

と、呟くシャークと、オロオロしているシンバ。

「シンバ」

「え? え? な、なに? オジサン?」

「黙って掴まってろ。どうやら、戦う事になる」

シャークが乗って来た船が落ちたのを見た連中が、これはやれるかもと、皆が皆、シャークに向き直ったのだ。

「賊って輩はバカが多いからなぁ、状況と判断を誤るのはしょうがねぇが、腐ってもこの俺様が!! この俺様がだ!! いいか!! バカでもわかる、このシャーク・アレキサンドライト様がだ!! この俺様が乗って来た船に、ぶっ放したバカ一味はどこだぁ!!? 木っ端微塵にテメェ等の船も落としてやる!!」

そう言って、大きな巨体とは裏腹な身のこなしで、直ぐ近くの船に身軽に飛び乗り、剣を振り回し、そこにいる賊連中を一掃する。

「これって、不本意だけど、シャークが味方になるのか!?」

スカイがそう言って、フックスが、

「サードニックスの賊も攻撃受けて、吹っ飛ばされてるけど?」

と、言うから、

「だよな・・・・・・」

と、スカイは、苦笑い。

「だがチャンスだな。全員がシャークに向いてる。おれ達はシャークの攻撃を食らわないよう、コイツ等をぶっ倒す!!」

と、セルトは、数人を叩き潰し、スカイとフックスも、近くにいる連中を叩き潰す。

勿論、殺してはいない。

一旦、3人離れて、周囲にいる連中を叩き潰した後、また次から次へと現れる連中に、3人、傍に位置を置く。

「クソッ!! 休む暇ねぇしキリがねぇ」

スカイが呟く。

「終わりがあると思うな。永遠の戦いだと思ってやるしかない」

セルトが呟く。

「あのさ」

と、呟きではなく、普通の口調で、振り向いて、2人を見ながら、フックスが、

「もっと小回りで動いた方がいいよ? 大きく動きすぎじゃない? 持久力続かせる気ある?」

そう言うから、緊張感とかないのか!?と、スカイはフックスに思うが、今、フックスの背後を狙うサーベルを、フックスが振り向きもせずに、ポケットから出したボールを背後に投げて、振り上げたサーベルを持つ男の顔面に当ったた後、振り向いて、

「あ、ごめんね? 顔にぶつけちゃった? 笑っちゃうね」

と、ヘラヘラ笑ってるから、サーベルを更に振り上げられ、フックスは軽く避けながら、男の顔面に今度は肘鉄を食らわし、男は鼻から血を噴射させながら、引っくり返る。

「ごめんね? 顏にぶつけちゃったね、笑っちゃ悪いよね」

そう言って、ヘラヘラ笑ってるフックスに、マジでコイツは何者なの?と、スカイは眉間に皺を寄せる。

だが、フックスにイロイロと突っ込んでる暇はない。敵は待ってくれない。

スカイは戦いながら、幼い頃を思い出している。

サードニックスにいた頃の事だ。

その頃、三日三晩、戦争が続いた事もあった。

終わりが見えない戦いもあった。

一瞬で片付いた争いもあった。

仲間も何人も失って来た。

自分が生き残る為にだけ、剣を振るう戦い。そう教えられて来た。

例え、隣に、助けられる仲間がいたとしても、関わるな、自分さえ生き残る為の決断をしろ、そうする事で、生き残れた者が勝者となるのだ。

仲間を仲間と思うな。

殺される前に殺せ。

攻撃の失敗は許されない。失敗は死を意味する。

ガムパスからも、セルトからも、そう教わって来た。

だが、セルトは、必ず、盾になってくれた。

必ず、助けてくれた。

どんな時だって、セルトは、自分が傷付く事をわかっていても、手を伸ばしてくれた。

仲間想いなのだと思っていたし、それがカッコいいとも思っていたし、セルトを目標にもしていたスカイ。

だから、一度、裏切られて、セルトが、サードニックスから、アレキサンドライトになった時は、信じられなかったし、今も、あの時の事は、信じられないでいる。

でも、確かに賊という連中は、教えられた通りで、仲間を盾にしても、自分さえ生き残ろうとする。

こうして見渡しただけでも、銃を連射する相手に、近くにいる仲間を盾にして、撃たれた仲間を更に盾にしながら、もう死んでいる仲間が弾に何度も撃たれても、その盾を捨てずに突き進み、銃を持つ奴を斬り殺す。

残忍で、冷酷で、無慈悲で、残酷で、狂暴で、凶悪。

そういう言葉を知ってるだけ並べても、足りないくらいの悪だ。

さっきまで共に笑いながら酒を呑み、くだらない話で盛り上がり、肉を食らって、無防備に裸で寝転がっていたとは思えぬ程の、悪――。

そんな事わかってると、スカイは、それでもサードニックスを愛してるんだと、失くしたくないんだと、戦う。

セルトは叩き潰しても叩き潰しても、起き上がって来る連中に、絶対に殺さないと思いながらも、既にこの戦いには限界があると思っている。

今迄、どんなに戦いが長引いても、一切、殺しはしなかった。

何故なら、彼は賊ではない、フォックステイルだからだ。

居場所は賊の頂点に属しているが、心はフォックステイルとして生きて来た。

でも、叩き潰した相手は、その内、起き上がる。その時に、誰かに殺されてしまう事はある。

そもそも戦争は、生か死か。どちらかしかない。

そして、今、気付く。

この戦いに勝ったとして、何が得れるのだろうか?と――・・・・・・。

もうガムパスはいない。

そして、サードニックスを背負う気は、セルトにはない。

ガムパスには、感謝している。

尊敬もしている。

愛すべき師匠でもある。

可愛がってもらった恩もある。

だが、サードニックスを継ぐ気はない。

もし、それを、ガムパスに伝える事ができたら、ガムパスは「好きにしろ」と、言うだろう。

「儂が生きている間は儂の座に着けると思うなよ」そう言うガムパスを思い浮かべながら、死んだら、意味ねぇじゃんと、セルトは思う。

もっと、縋って、お前にしかと、願われて、頼み込まれたら、それならば・・・・・・。

そんなガムパスは想像もできない。

それにガムパスは・・・・・・

今、現実逃避してる場合じゃないなと、息もできないくらいの動きで、攻撃をし続け、男達をぶっ潰していくセルト。

フックスは、お腹減ったなぁと、キッチンってどこにあるの?と、攻撃を交わし、逃げるように、船内へ行こうと考えていた。

戦っても無駄、叩き潰したって、気絶してる連中はやがて起き出すし、倒したところで、次から次へと増える。

だったら逃げるが勝ちと、軽いフットワークで、身を翻し、目的場所へと近づいて行く。

そもそもこの戦いに、何の関係もないしと、思うのは、とてもフックスらしい。

だが、ふと「お前の正義は正義とは言わない」と、父親の言葉が脳裏を掠める。

「自分本位で動く事は、結果、正義になったとしても、正義じゃない」

「自分の事ではないからと、知らぬ顔で通すなら、お前に王の資格はない」

「あっちが悪いから、こっちは正しいって、どちらかを正義と悪に分けるから、平等じゃなくなるんだ、あっちの意見も聞いてやるべきだろ」

「フォックステイルに拘る必要があるのか? お前が存在してる場所は童話の中じゃないんだ」

「フォックステイルがヒーローだって? 有り得ないな、あれは賊と変わらない輩だ。童話だから成り立つだけの話」

「フォックステイルになるだって? なれる訳ないだろ、お前に」

「いずれ王になるんだ、だが、お前にその資格があるとは思えないな」

父親の言葉が、グルグルと脳裏に巡り、気付いたら、目の前にいる男が銃を構え、弾き金を弾く瞬間だった・・・・・・。

スローモーションのように、ゆっくりと、フックスの目に映る銃口から出る煙と弾――。

呪いにでもかかったように、鉛のように重い体が動かない。

いつもなら、身軽に飛び跳ね、風のように流れる動きで、軽く消えるのにと、頭ではわかっているのに動けない。

死ぬのかなと、目を閉じようとしたトコで、思いっきり突き飛ばされて、フックスはゴロンゴロンと床に転がり滑った後、何事かと直ぐに起き上がった。

セルトが横腹から血を流しながら、跪いている。

横腹を押さえ、息遣い荒く、滝のように流れる汗、そして、

「王子・・・・・・ご無事で・・・・・・」

なんて言いながら、笑って見せるから、フックスは余計に動けなくなる。

「セルトーーーーーーッ!!!!」

二刀流の短剣で、男達を振り払って、走り寄るスカイ。そして、フックスの背後にいる男を短剣の柄で殴り飛ばして、

「何ぼさっとしてんだよ、クソ王子が!!!!」

と、怒鳴るスカイに、

「ご・・・・・・ごめ・・・・・・」

謝る事もうまくできずに、フックスは、セルトの周囲にいる男達を倒していくスカイを見ていた。

「セルト!! 大丈夫か!?」

そう叫ぶスカイに、

「あぁ、掠り傷だ、大丈夫」

と、立ち上がるセルト。その時、遠くの船が爆破し、炎上。落ちていく人と船の破片。

また違う方向で、船が爆発。

皆が、動きを止めて、爆発音のする方を見る。

「みんな、敵が誰なのか見失ってる。戦う意味や理由がなく、只、目の前にいる誰かを殺そうとしている。こんな戦争無意味じゃないか!!?」

そう言ったセルトを、セルトの周囲にいる全員が見た。

「サードニックスを倒したいのか? それともシャーク? それとも目の前にいる誰か? これだけ多くいるんだ、肩がぶつかっただけで血の気の多い連中だ、殺し合いになるのは目に見えてる!! お前等、意味もなく死にたいのか!!?」

そう言ったセルトに、

「他にどうする? 殺されるなら殺す迄だ!!」

と、誰かが叫び、皆が、また武器を掲げ、雄たけびを上げだす。

どうやったって、この戦いを止めれないのか?と、セルトは、クソッと口の中で呟く。

「セルトさん、あの・・・・・・」

フックスが傍に来て、

「あの・・・・・・どうしてオレを助けたの?」

「え?」

「あの・・・・・・なんでオレの事助けたのかなって・・・・・・」

「そりゃ、王子の事を助けないなんて有り得ないですから」

「王子だから? 賊ってそういうの無視だよね? 自分勝手なのが賊だよね?」

「えぇっと・・・・・」

なんて言えばいいかと、セルトが困っていると、

「どうでもいいけど、オイラばっかに戦わせてないで、加勢するとか、戦うとか、せめて威嚇するとかしろ!!」

スカイが怒鳴った。

「悪い悪い」

と、セルトが武器を再び構えようとしたが、その剣を持つ手を、フックスに掴まれた。

「ねぇ、答えて? どうして? 賊って、誰かを助けたりするものなの? ホントは賊ってイイ奴なの?」

「あ、あの、王子、その話はまた今度・・・・・・」

「今度っていつ!? 今聞きたい!!」

「おい!! クソ王子!! 状況を考えろ!! 今ゆっくり話してる場合じゃないだろ!! オイラだけが!! オイラだけが頑張ってる!!」

セルトとフックスの変わりに、倍動いているスカイ。それでもフックスはセルトの腕を掴んで離さないから、

「そうだよ、賊だってな、悪い奴じゃねぇんだぞ!! 現にセルトはお前を庇っただろ!!」

と、

「わかったら、お前も戦えっつーの!!!!」

そう吠えた。だが、セルトが、

「違う違う違う!! 違うよ!! 賊は悪い奴だ!! おれは、只、その・・・・・・」

と、勢いよく否定したが、その後の理由が出て来ない。

「賊じゃないから? 本当は賊じゃないからでしょ?」

フックスが真っ直ぐに見つめて来て、そんな事を言うから、セルトの心臓がドクンッと強く鳴った。

「何言ってやがんだ、テメェは! 頭のおかしな王子だぜ!! セルトは最強のサードニックスを背負って来た男だ!! これからもな!! わかったらとっとと動いて戦え!!」

スカイがそう叫びながら、男達を叩き潰した。それに対し、

「スカイくんはさ、飛行機乗りだよね? 賊じゃないよね? だから殺さないの?」

そう言ったフックス。ハァ!?と、フックスを見ながら、また1人、男を叩き潰す。

「オレも賊じゃない。だから殺さない。なら、セルトさんは?」

スカイは、デタラメにぶっ放してくる銃を持った男を叩き潰し、2人、3人と、倒した後、フックスに向き合い、フックスの顔に自分の顔を近づけながら、

「テメェはさっきから何が言いてぇんだよ!? 黙って戦えねぇなら、庇ってくれてありがとうって言ったらどうなんだ? それともごめん? どっちでもいいんだけどなぁ!!? ベラベラベラベラくだらねぇ事を聞かされるよりは!!」

と、怒り露わの表情と、目の色と声色で、そう言った後、フックスを睨む。今度はセルトが、周囲にいる男達と戦いながら、

「おい! 今ゴチャゴチャやってる暇ないだろ!!」

そう言って、2人に怒鳴る。

もうこんな事やってられるか!!と、スカイが怒りに任せ、周囲の連中を一気に蹴散らした。

「力温存とか、勝ち残るとか、もう知らねぇ!!」

「おい! スカイ! お前まで、この状況の中で見失うな!!」

「ハァ!? セルトが怒るべき相手はオイラじゃなくて、コイツだよね!!」

スカイは、フックスを指差す。

「だから今おれに歯向かって来るなよ!! おれ達は味方同士だろうが!!」

「味方!? オイラはとっくにサードニックスを破門されたけどね!!」

「だから!! 今、俺に牙を向ける意味ないだろ!! それに破門されて良かったじゃねぇか!!」

「ハァァァァ!!!?」

セルトとスカイが言い合いを始めてしまった。フックスが、

「あのさ、今度はオレが、攻撃してくる奴等を、二人分、叩き潰して行った方がいい?」

なんて言うから、

「そうしてくれると助かるよ!!」

と、セルトとスカイ同時に、フックスを見て怒鳴るように言う。

「オレの質問まだ答えてもらってないのに?」

と、ブツブツ口の中で文句を言いながらも、フックスは、セルトとスカイ、そして自分を攻撃して来る男達を叩き潰していく。セルトとスカイも言い合いをしながらも、1人や2人の男は軽く殴り倒していたが、突然、セルトが、スカイからフックスに向き直り、フックスを引っ張って、背後へ置いた。

ダンッと大きな音が響き、船が傾く程の衝撃。皆が、態勢を崩しながらも、その方向を見ると、黒いマントのシャークの参上。

ズザッと、皆が皆、シャークから後退り。

「嘘だろ、さっきまで、もっと遠くの船にいたよな?」

と、スカイが呟き、セルトが、

「あっという間に、ここまで来やがった」

そう呟き、

「オレ、初めましてだ。スゲェ。あれがシャーク・アレキサンドライト?」

と、フックスがヘラヘラとそう言うので、セルトもスカイも振り向いて、フックスを見る。

「え? なに? 違うの?」

セルトとスカイの表情に、フックスは、そう問うと、

「違わねぇよ、違うのはお前の、この場に似つかわしくない態度とか感情とかイロイロ!!」

と、スカイが、そう突っ込んでる間に、

「おい! スカイ!!」

と、セルトが叫んだ。シャークが直ぐ目の前に来た事に、気付かなかったスカイは、急いで向き直るが・・・・・・

「スカイにぃちゃん!」

シャークの肩に座るようにしているシンバが、スカイを見て、嬉しそうにそう言って、手を振っている。

「シンバ・・・・・・お前・・・・・・なんでシャークと一緒にいんだよ・・・・・・」

冷や汗を流しながら、そう言ったスカイに、シンバはキョトン顏。

「小猿ぅ・・・・・・久しぶりだなぁ・・・・・・デカくなったじゃねぇか・・・・・・」

と、シャークがスカイを見て、ニタァと笑った顔が余計に恐怖を感じる。

「おい!! シャーク!! サードニックスと戦いたいなら、スカイはもう関係ない!!」

そう叫ぶセルトを、ギロリと睨むように見て、シャークは、クックックックッと笑い、

「セルトじゃねぇか。貴様にも会えるなんてな。さぁて、どいつから地獄を見せてやるか?」

と、嬉しそうに肩を揺らし、その肩に乗っているシンバが、首を傾げている。

一歩、一歩と、ジリジリ後ろへ下がりながら、スカイはセルトの傍に近付き、

「オイラとセルトの2人でなら・・・・・・やれるか?」

小声で、そう聞く。

「いや、お前は王子と逃げてくれ。ここはおれ1人で」

セルトは、そう小声で答えると、

「無理だろ!!」

と、大きな声で吠えるスカイ。

「無理じゃねぇ!! お前等が逃げるくらいの時間は稼げる!!」

と、大きな声で答えるセルト。冗談だろと、スカイはシャークから目を離し、セルトを見た。

「オイラは一度シャークに勝ってるんだぞ!! 逃げるなんておかしいだろ!! オイラだって戦える!!」

セルトも、そんなスカイを見て、

「あの時のお前は小さくて、シャークの懐にも入れる程だったからだ!! 体が小さい分、スピードもあった!! 成長と共にチカラは増しただろうが、スピードは落ちてるだろ!! それだけじゃない!! ガキの頃の怖いもの知らずの大胆不敵な性格は、大人になって保守的になってんだろ!!」

そう怒鳴った。

「そんな事わかってるよ!! だからオイラとセルトの2人で戦えばって言ってんじゃん!!」

「おれだって、あの時はシャークがお前にやられた後だったから、強気でいられたし、やれるとも思った!! でもあの時と今は違うんだ!! 現におれは今万全じゃない、怪我もしている。そんなおれと、お前で戦った所で、勝てる訳ないだろ!! 逃げるしかない!!」

「おいおいおいおい、仲良くしろ。仲良く殺してやるから。それに相談ならもっと声のトーンを落とせ。聞こえてるぞ。いいか? 一匹も逃がさねぇよ。お前等はな」

シャークがそう言って、セルトもスカイもシャークを見る。

「小猿、テメェは俺様の大事な船に大穴を開けてくれたよなぁ。クソデカい化け物みてぇな飛行機でよぅ。セルト、テメェはサードニックスからアレキサンドライトに寝返った後、また直ぐにサードニックスに戻りやがった。この傷付いて大ダメージを受けている俺様を嘲笑うように足蹴にしてな」

恨み辛みを話すシャークに、セルトもスカイも嫌な汗が流れ落ちる。

シャークは、肩に乗っているシンバに、

「悪いが、シンバ、コイツ等には恨みがある。だから、お前の殺すなと言う願いは・・・・・・シンバ?」

肩に乗っている筈のシンバがいない!!

シャークはどこ行った?と、辺りを捜す。

セルトも、スカイも、キョロキョロしていると、ちょっと離れた場所で、フックスがシンバを抱き上げて、

「へー! そうなんだー! じゃぁ、いい人だね、シャークって」

と、シンバに、そう言っているフックス。

「そうだよ! オジサンはとってもいい人!」

と、フックスに、そう言っているシンバ。

いつの間に!?と、シャークだけでなく、セルトもスカイも驚いているが、更に、シャークは気付く。

「おい!? おい!! 貴様ぁぁぁぁ!! 貴様!! フォックステイルかぁぁぁぁ!!!!」

フックスに鉤腕を向けて、怒り露わで、そう言ったシャークに、スカイは、なんで?と、

「オイラ達に恨み言ってる時より、フォックステイルを見つけた時のが怒ってんじゃん」

と、言う。確かにと、セルトも頷く。

「フォックステイル、やっと俺様の前に現れたな!! この時をどんなに待ち望んだか!! 俺様はな、誰よりも貴様を嬲り殺しにしてぇと思ってたんだ」

そう言って、鉤腕を更に差し出しながら、

「貴様のせいで、俺様の人生は狂いに狂いまくったんだからなぁぁぁぁ!!」

と、そう怒鳴った後、

「シンバを離しやがれぇぇぇぇ!! シンバを人質にとったつもりかぁぁぁぁ!! ガキがいようがいまいが、俺様は容赦しねぇからなぁぁぁぁ!! 覚悟しやがれキツネェェェェッ!!!!」

と、更に怒鳴った。フックスは、

「なんだかよくわからないけど」

と、抱っこしていたシンバを下ろし、皆が、シンバをシャークに返すつもりか!?と思ったら、また抱き上げ、

「逃げるが勝ちかな!?」

と、シンバをまた抱き上げて、走って逃げだした!!

シーンと静まる間が結構開いた。賊達の間をスルスルと交わしながら走って行くフックスの背を見送り、

「キツネェェェェェェェェェェェェッッッッッッッ!!!!」

と、シャークがこれでもかと言う大声を上げて怒鳴った時には、既にフックスの姿は違う船へと飛び移ったトコ。

追いかけようとするシャークに立ちはだかるセルトとスカイ。

「おっと! フォックステイルを追い駆けたいなら、おれを倒してからだ」

「シンバをお前に渡すくれぇなら、フォックステイルに渡した方がマシ」

相手にしてられるかと、大きな剣を横振りに振り払ったシャーク。勿論、そんな大きな攻撃、いとも簡単に上に飛び上がり避けるセルトとスカイだが、その近くにいた連中は全員吹っ飛んだ。そして、セルトとスカイが着地する前に、シャークはフォックステイルを追い駆けた!!

「嘘だろ!? 完全に狙いはフォックステイルなのか!? オイラ達よりも!?」

「フォックステイルに何をされたんだ、シャークの奴」

「てゆーか、あのクソ王子は只のフォックステイルのコスプレイヤーだよね? シャークにその辺の事を教えてやった方がいいんじゃね?」

「信じると思うか? 只のコスプレイヤーが、この終末とも言える空賊の戦争に参加してるって?」

「あー・・・・・・わかんねぇけど、兎に角シンバを助けなきゃだから、オイラ達も追わないと!」

「だな。それに王子に何かあったら大変だ」

2人共、シャークの後を追い駆ける。倒れて起き上がれない賊達で道が出来ているから走りやすい。

「てか、セルト、カーネリアンの王と何かあんの?」

「何かって?」

「やけに息子の事を大事にしてるからさ」

「そ・・・・・・そりゃそうだろ、一国の王子だぞ!!」

「そういうもん?」

と、どうでもいい話をしながら走れる程、邪魔な者がいない。

そして、今、やっとシャークに追い付いた時、シャークも、シンバを抱っこしているフックスを船の先端に追い詰めていた。

「シャーク!!!!」

と、セルトとスカイが同時に、そう叫んだ声は、飛行機の音で掻き消される。

只の飛行機が飛んで来る音にしては大きい。近くスレスレを飛んで来るにしてもと、皆が、その音のする方向を見上げる。

見上げた方向は、皆、バラバラ。

そう、飛行機は、四方八方から飛んで来る。数機の飛行機は、下部に何か設置されていて、それが霧状のモノを撒き散らしていると気付いた時には既に遅く、

「ギャングか?」

「何か撒いてるのか? 煙幕じゃねぇよな?」

「おい、あれ毒じゃないのか!!?」

「ギャングが毒を撒き散らしてるぞぉぉぉぉ!!」

と、大勢がパニック状態になったと思ったら、皆、バタバタと倒れていく。

嘘だろと、こんな時にギャングまで!?と、セルトはフックスの場所まで走り寄ろうとしたが、足がもつれ、そして、ガクンと膝から落ちて、ガクンッと倒れてしまった。

スカイはとっくに倒れていて、シャークは、マントで顔を隠すようにしたせいか、フックスからシンバを奪い、そして、マントの中へ仕舞うようにして、シンバを懐に入れたが、その後は、ガクンッと、足元から、セルトと同じようにして倒れ、フックスもクランクランと頭を回しながら、バタンッと、倒れてしまった・・・・・・。

こうして空賊の最終戦争は幕を閉じる事となった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る