7.王の考え
「あのさ? フォックステイルとして行くんだよね?」
そう言って、シカは、着替えて来た王の格好を上から下まで見てから、聞いた。
「まさか。カーネリアンの王として行くんだよ。言ったろ? 妻との約束もあるから、僕はフォックステイルにはならないよ」
「あぁ、ですよね、だから、いつものキングファッションなんだ・・・・・・」
「変かな?」
「もう見慣れてるから変とは思わないけど、それより、エル・ラガルトに会いに行くんだよね?」
「そのつもりだけど? 王冠って必要かなぁ?」
「必要ないでしょ、別に何かの儀が始まる訳でもないんだし。只のお出掛けに王冠まで持ち出さなくてもいいよ」
「シカはその格好で行くの?」
「ボクは・・・・・・着替えて来てもいいかな?」
「そうだね。それじゃぁ、まるでフォックステイルだ」
「だよね。フォックステイルとして行くと思ってたから」
「あぁ、ごめんね。ちゃんと言えば良かったね、シカも、僕と一緒に行くんだから、フォックステイルじゃない格好で」
「うん・・・・・・あの、でも、もう一度聞くけど、エル・ラガルトには王として会いに行くの?」
「そうだよ」
「わかりました・・・・・・」
「うん、じゃぁ、転送装置の部屋で待ってるから、着替えたら来て」
「わかりました・・・・・・」
シカは頷いて、着替えに戻る為、王の部屋を出る。
「どういうつもりなんだ・・・・・・王は・・・・・・」
考えがサッパリわからないと、シカは何度となく首を傾げながら歩く。
エル・ラガルトに王として会いに行く。
つまり、カーネリアンの王として、エル・ラガルトを捕まえる?
何の罪で?
罪人達にチャンスを与え、裁かない、この国の王が?
違うかと、シカは別の理由を考える。
カーネリアンの王として、エル・ラガルトに会う。
何の為に?
革命家への支援?
寧ろ、革命を起こしているような国の王が?
これも違うかと、シカは別の理由を考えようとした所でパンダに会う。
「シカ」
「やぁ、パンダ。まだ出掛けてないの?」
「オラもこれから行くとこ」
「ツナくんやカモメとは一緒に行かなかったんだ?」
「オラだけ違うトコに行くんだよ。リーフを呼びに行くから」
「リーファス・サファイア? シンバくんの父親を呼びに?」
「そう。シンバくんがもうすぐここに来るから、呼んだ方がいいって」
「へぇ。それって、シャーク相手に決着つけれるって事?」
「そりゃそうでしょ、ツナだもん」
「まぁね。でも、それなら、ちゃんと決着がついて、シンバくんがここに来てから、呼びに行ったら? 転送装置使ったら直ぐでしょ」
「ダメダメ。転送装置は、この国だけの事だから、リーフ連れて来る時、転送装置は使えないから。それに連絡はとってるんだけど、留守電でさ、多分、シンバくんを捜しまわってて、留守電も聞いてるのか、どうか、わかんないし」
「だからさ、転送装置で行って、その後はリーファスの飛行機に一緒に乗せてもらえば?」
「・・・・・・ん?」
「カーネリアンの飛行機で来たけど、飛行機は一旦引き上げたって話してさ。もしくはジェイドまで船で来て、ジェイドからエクントまで、普通の乗客として航空機使って来たって言えば? だから行きは転送装置で。帰りはリーファスの飛行機で。それじゃダメなの?」
「いいかもしんない」
そう言って頷くパンダに、ニッコリ笑うシカ。
「って事で、パンダ、時間少しできたね。ちょっとボクの話に付き合ってよ。絵本作家の意見が聞きたい」
「何?」
「エル・ラガルトに会いに行くって言うんだけど、王として会うって言うんだ。フォックステイルじゃなくて、王としてだよ? それってどういう意味かな? フォックステイルは何を考えてるんだと思う? いや、王は何を考えてるんだと思う? フォックステイルの絵本を書いてるパンダの意見は?」
と、歩きながら、シカはパンダに話をする。
その頃、王は、転送装置の部屋で、世界地図が映し出された映像を見ていた。
エル・ラガルトがいると言う、バッファローエリア。
バッファロー王国から南東にあるホースという街を通り抜けて、更に南東方向・・・・・・。
そこには何もない。
だが、ホヌと言う小さな集落があるらしい。
王は思い出している。
幼い頃、自分が住んでいた場所を。
ダムドエリアのムジカナと言う小さな村だった。
野心家と言うのは、意外に金持ちだなと思ってしまう。
小さな集落でさえ作れる程だ。
ある程度の人がいなければ、隠れ蓑にもならないからだろうから、人を集めるだけでも大変な事だ。
「なんでそのチカラを悪に向かわせるかなぁ・・・・・・」
王は、そう呟きながら、世界地図を見つめ、溜息。
「お待たせしました、行きましょう」
シカが部屋に入って来て、そう言って、コンピューター画面に向かい、
「バッファローエリアのホヌより少し離れた場所がいいでしょうか?」
と、王を見る。
「いや、バッファロー王国へ行く」
「え? エル・ラガルトに会うんじゃ・・・・・・?」
「エル・ラガルトをバッファローから、カーネリアンへ移送する。その為に、王と話す」
「移送!?」
「護送って言った方がいい?」
「いや、だって、エル・ラガルトを匿ってるかもしれない王に、何を話すんです? それに連れて来るなら、転送装置で行くのはダメですよね? 転送装置で連れて来れないでしょ?」
「エル・ラガルトはギャングと一緒にいると思うし、ソイツ等の飛行機があるでしょ。それに乗って帰ってくればいいよ」
「あぁ、では、バッファローの王に、どのように話されるんですか?」
「バッファロー王は、エル・ラガルトの革命に一枚噛んでるんだと思う。でも、それを知らぬ存ぜぬで通すよ」
「つまり?」
「普通に、エル・ラガルトの罪を叩きつけて、連行するって言うだけ。この国のエリアに身を潜めているという情報を得たから、見つけ次第、カーネリアンに連れて行く事を了承してほしいってね」
「了承しますかね?」
「するでしょ。だってカーネリアンと言う国は罪を裁かない。どこの国でも知ってる事だ。それに反対する国も多くあるしね」
「あぁ・・・・・・」
「捕まっても直ぐに釈放される筈って思うでしょ」
「釈放するんですか?」
「する訳ないだろ」
と、笑う王に、シカは、クエスチョン顏。
「カーネリアンには連れて来る。でも直ぐに別の国に護送する」
「どこの国に?」
「それはまだわからない」
わからない?と、シカは、王の言っている事がわからないって顏になる。だが、王が、
「ほら、早く行こう、バッファロー王国へ!」
そう言うので、わかりましたと、頷くしかなかった。
転送装置は、あっという間に、行きたい場所へと移動する。
この未来的なものは、カーネリアンには、幾つか存在する。
まるで魔法のようなものだ。
バッファロー王国、城下町入り口に、転送されるカーネリアンの王と、その付き添いとして、カーネリアンの正式正装の格好をしたシカ。
「しまった、眼帯して来るの忘れた」
カーネリアン以外に出る事が余りなかった最近、眼帯などする必要がなかったからと、シカは言うが、
「いいよ、眼帯なんてしなくても」
と、あっけらかんと言う王。
「いや、でも、悪魔の瞳ですよ!?」
と、自分の目を指差して言うシカ。
シカの片目はラブラドライトアイ。
空では福音として称えられる瞳だが、地上では悪魔の瞳として忌み嫌われている。
カーネリアンの王の付き添いとして、王の傍にいる以上は、その瞳で、他国に行く事は許されないと思う。
ましてや他国の王に会うのならば、尚更だ。
「王、やはり眼帯を取りに戻ります、転送で直ぐですから。もしくは、城下町で買いたいのですが、この格好で他所の国で買い物は・・・・・・」
「シカ」
「はい」
「いいんだよ、そのままで。今日はキミに従者役を頼んだのは僕なんだ。その僕がいいって言うんだから」
「ですが、王! おわかりですか? アナタの評価になるんですよ! アナタの側近はキチンとした者でなければ、アナタが・・・・・・」
「僕が? 変な事言うなよ、シカ。キミはキチンとしてるし、その悪魔の瞳があるから、今日は一緒に来てもらったんだから」
「は?」
「最も権力のある者って誰だと思う?」
そう言いながら、街へ入って行く王を、シカは追いかける。
「王もそうだけど、その王という肩書を持っていても、恐れる者がある」
言いながら、軽快に歩く王に、シカは、周囲の反応を見る。
「ぶっちゃけ、王なんて怖いものだらけかもね。王ってだけで、怖いものがない訳でもない」
人々が王を見ながら、何かヒソヒソ話し出し、驚いた顔をする者もいれば、逃げ出す人も。
「ほら、小さい頃から、王族として厳しく育てられて来たんだろうけど、守られて来たのも確かだ」
気付いた者は、頭を下げ、土下座までしている。
「でもだからこそ余計にかもね、想像を超えるものへの恐怖は大きい」
人々が集まり出す。
「なんでも手に入って来た、そして、全て理解してきている。だからこそ手に入らないものや理解できなものは恐怖でしかない」
王がそう言った時、1人の女性が駆け寄って来て、
「スイマセン、カーネリアンの王様ですよね? 握手してもらってもいいですか?」
と、手を差し出して来た。王はにこやかに、握手をすると、次から次へと、握手を求められて、シカが、スイマセン!と、何度も言いながら、
「王! 王! あの・・・・・・ちょっとコチラへ!!」
と、王を引っ張って、人気のない細道へと入る。
「何? どうしたの?」
「やっぱりボク達2人で来たのは間違いだ、ちゃんとカーネリアンの紋章の入った乗り物に乗って、アポイントとってから来るべきでは?」
「なんで?」
「何故って!! わからないんですか!!?」
「何をわかれって?」
と、笑いながら、人々に手を振って、広い道に戻ろうとするから、
「シンバくん!!!!」
と、大声で、シカは呼んでしまう。王は振り向いて、
「久々だね、そう呼ばれたのは。誰も僕の名前呼ばなくなって、みんな僕の名前忘れてるんじゃないかと思っちゃったよ。それにしても、いつも冷静なシカがね」
と、笑いながら、軽快なステップを踏んで行くから、何考えてんだよと、シカは溜息。
握手やらサインやら、一通り、人々とのコミュニケーションをとった後、
「バッファロー城へ行きたいんだけど、誰か連れて行ってくれないかな?」
王は、そう言いだして、馬車を出してくれると言う方に、甘える事にするから、シカは、とんでもない王だと、頭を抱えだす。
「軽々しく何やってるんですか! 暗殺とかされる事も考えてますか!? アナタはカーネリアンの王なんですよ!!」
小声だが、ハッキリとした怖い声で、そう言ったシカを見て、
「誰も僕がここに現れる事は知らないし、突然の登場に暗殺はないし、僕はカーネリアンの王だから他国の人々への好感度も上げとかないと」
と、ヘラヘラ笑って、出してくれた馬車に、警戒もなく、乗り込もうとするから、乗るなら、せめて中をちゃんとチェックしてからにしてほしいと、シカは、
「王!! 先に乗らないで下さい!! 中を確認しますから!!」
と、怒鳴った。
大きな立派な馬を2匹繋いだ馬車に揺られる事、1時間程して、城への入り口へ辿り着く。
空へと高く聳え立つ大きな城を見上げながら、馬車を降りて、シカは、ここまで運んでくれた人に、多めのチップを渡し、王は笑顔で手を振りながら、礼を言った。
城の入り口前、バッファローの騎士達が並ぶ。
中へ入ると、礼をしながら、
「ここはバッファロー城。何か御用でしょうか?」
と、奉仕の者が現れた。シカが、
「こちらはカーネリアンの王です」
と、次に、
「私はカーネリアンの王の共として来ました」
と、自分を紹介。そして、
「突然のご訪問で失礼は承知の上で、バッファロー王にお会いしたいのですが」
要件を言った後、
「コチラの無礼はわかっていますので、幾等でも待たせて頂きます。バッファロー王のお時間ができるまで」
と、笑顔で言った後、
「なんなら外で。我が王も」
そう言った。
「只今、王のご都合を聞いて参ります」
と、ペコリと頭を下げて、急ぎ足で去って行く奉仕を見ながら、王が呟く。
「シカのそういうトコ、ホント好き」
と。
「そういうトコ?」
「相手に断るという選択肢を与えないトコ。味方にしとくと心強いけど、敵にしたらイヤな奴だよね」
と、笑う王。
「王のそういうトコ、ホント嫌い」
「そういうトコ?」
「ボクを褒めてるようで褒めてないトコ!」
「褒めてるよ?」
「自分の利益になるなら褒めれるけど、利益にならないなら、褒めれないって事だよね? それ褒めてないから」
「だってシカはずっと僕の味方でしょ? だからずっと褒めてる事になるでしょ?」
と、笑う王に、呆れるシカ。
「お待たせいたしました、コチラへどうぞ」
と、奉仕が戻って来て、バッファロー王の所へ案内してくれる事になった。
大きな城の中、長いローカが続き、時々、別の奉仕と擦れ違い、奉仕同士頭を下げ合う。
コチラですと、王の間へと続く大きな扉の前に案内されると、奉仕は頭を下げて、去って行く。
そしてその扉の前に立っていた騎士が、ノックをして、
「カーネリアンの王をお通し致します」
と、大声で言い、扉が開いた。中へ入ると、数段の階段の上に大きな王座があり、そこにドーンと座って構えているバッファロー王。
年齢は、カーネリアンの王よりも、かなり上。
髭の生えた貫禄のある顔で、深い皺が、ゆるりと動き、
「ようこそ我が城へ。カーネリアンの王よ」
と、歓迎するという声色と表情を見せた。
「いきなりの訪問で失礼します」
と、頭を下げるカーネリアン王。
「いやいや、驚きはしたが、一度ゆっくりと話したいと思っていた。いい機会だ、我が国と友好を深める為にも、ゆっくりして行くといい」
「友好を深めるつもりはありません」
笑顔で、そんな事を言うカーネリアン王に、顏が凍り付いたのは、バッファロー王だけでなく、シカもだ。
「だって、バッファロー国は我が国と共通する目的がない。つまり同盟は結べないと言う事。今まで通り、反対国であり、いつ戦争を起こしてもおかしくはない」
「それをやめる為に来たのではないのか?」
「バッファロー国が、我が国と共に目指すべき未来へと同じ道を行くのならば、いつでも同盟を結びますよ」
「カーネリアンの考えに従えと? カーネリアンが考えを改める訳ではないのか!?」
「我が国が、考えを改める必要があるとは思えません。ですが、そういう話をしに来た訳ではありません。バッファローエリアに、犯罪者がいると言う情報が入ったんです」
「犯罪者?」
「革命家として名のある男です。ジェイド国で捕まり、ジェイドの法により、裁かれる予定だったのですが、何者かが、法に従い、逃がしたようで」
「法に従ったのなら、何の問題もない筈だが?」
「ですね。法というのは厄介です、悪人を裁く為にできたモノが、逆に悪人を守る為になる場合もある。ところでバッファロー国は、他の国で捕まった罪人が、人生をやり直す為に、新たな生活の場所として、生きていく事を受け入れているのでしょうか?」
「な!?なんと!?」
「いえ、我が国は罪人の罪を裁く法がありません。ですから、元賊などが多くいる国でして。そうなると、何の罪もない人達からの意見も多いんです」
「そ、そうだろうな。罪を償う事もせず、普通に暮らせるなど・・・・・・民達は不安も大きいだろう」
「そうなんですよね、今後の課題です」
そう言ってニッコリ笑うカーネリアンの王に、バッファロー王は、苦笑いで、一旦、会話が途切れた。そして、バッファロー王は、目を逸らすようにして、シカを見て、そして気付く。シカの瞳の色に・・・・・・。
「そ・・・・・・その者の瞳は・・・・・・」
震える声で、そう言いながら、シカを指差すバッファロー王。
「あぁ、気付かれましたか、彼の片目はラブラドライトアイ。悪魔の瞳です」
「わ・・・・・・災いを連れ込むと言われる者を・・・・・・」
「ご安心下さい、何もしなければ、何も起こりませんよ、現に、我が国で彼はずっと暮らしてますが、災いなど起こりません。大事に、こうして、傍に置いてますし」
と、意味深な表情をするカーネリアンの王。
ゴクリと唾を呑み込むバッファロー王。もうシカから目が離せない様子。
「バッファロー王! 話は戻しますが、エル・ラガルトを我が国で引き取る事をお許し頂けますか?」
「え?」
思わず、バッファロー王は、シカから目を離し、カーネリアンの王を見る。
「今日はその事で、お伺いしました」
「しかし彼はジェイドで裁かれたから、ジェイドの法により、未だ、その罪の猶予が終わっていない。今現在、静かにしているのならば、このままにしとく方がいいのではないだろうか」
「知らないんですか?」
「何を?」
「そうですよね、知る訳がない。賊からの情報ですから」
「賊からの?」
「彼は罪を犯している可能性があります」
「なっ!?なんだと!?」
「子供達を使い、飛行機で、賊に攻撃をしかけている。その黒幕がエル・ラガルトであると言う噂です。勿論、賊の言う事ですし、只の噂。しかし、もしですよ、万が一、本当の事だったら、罪の期間猶予中に、再度罪を犯していると言う事になり、ジェイドが動く事も有り得る」
「・・・・・・」
「その前に、我が国で手を打ちましょうと言う事なんです」
「手を打つ・・・・・・?」
「我が国でなら、エル・ラガルトが何か罪を重ねていたとしても、ジェイドが動く事はない。何故なら、ジェイドと我が国は同盟を結んでいますから、全てカーネリアンに任せてくれるでしょう。そして我が国は、罪人を裁く法が緩い。それ故に、全て我が国の責任となる」
「何故そのような事を・・・・・・」
「我が国はフォックステイル発祥の地として有名なのは御存知ですか?」
「あの絵本の事だろう?」
「そう、フォックステイルの絵本。世界中の孤児院に、あの絵本を寄付して、勿論、我が国と対立する反対国にも、寄付をした結果、私は、このバッファローと言う国の民達にも握手を求められる程、有名となった。恐らく、国は兎も角として、王としてなら、どこの王にも負けない程の知名度がある筈。つまり、バッファロー王、アナタの国に住む民達は、アナタより、この僕を選ぶんじゃないでしょうか? 只の人気投票では」
最後の投票の所で、笑いながら言いだすから、シカが笑えないと表情を凍り付かせる。
「そして、そのフォックステイルを、エル・ラガルトは侮辱している可能性があります」
「侮辱?」
「子供達の乗っている飛行機にフォックステイルという文字が描かれているらしいのです」
「それが本当の事だったとしても、子供が憧れて書いた文字ってだけの事かもしれないだろう! 有名な絵本だ、子供達も好きで読んでいる。絵本などは賛否両論あるものの1つ。例え悪意ある事としても、然程の問題にはなり得まい! そのような事が、革命家と関係があるとは思えないのだが!」
「関係があるかもしれません。全てはかもしれないの話です。それとも、エル・ラガルトを我が国で引き取る事に何か問題があるのでしょうか?」
「いや、知らんよ!! エル・ラガルトが我が国のどこにいるのかも知らん!! それこそかもしれないの話だろう!!」
「ですね。でも居場所は突き止めているんです。もしバッファロー王の許可が得れるならば、直ぐにでもカーネリアンへ連れて行こうと思います」
「・・・・・・」
「何か問題がありますか?」
「い・・・・・・いや・・・・・・」
「あぁ! そうか! エル・ラガルトは革命家! と言う事は・・・・・・この国にいると言う事は、もしかして何かテロ行為などの、そのバックアップにバッファロー王が絡んでいるとか・・・・・・?」
「ない! それはない!! 革命家に手を貸すなど!! 絶対にない!!」
「そうですか。ならば、他に何か問題は?」
「ない!!」
「ですよね」
と、ニッコリ笑った後、カーネリアンの王はシカを見て、
「悪魔の前で嘘は吐けないでしょ」
なんて言うから、どんな顏で返事をすればいいの!?と、シカは仰せのままにと、顔を隠す為、頭をペコリと下げた。
「要件はそれで終わりか?」
「とりあえず」
「ならば城から早く出て行ってくれ。反対国とは言え、カーネリアンと戦争を起こす気はない。カーネリアンに反対しているのは、不可思議で想像を超える国だと聞いているからだ。そんな恐ろしい国と戦う気はないし、悪魔の瞳を持つ者がいる事も知らぬが故に、こうして、城に通してしまったが、本来なら、災いを招いたとして、それこそ捕まえてもいいのだぞ! 何をするにしても手は貸せぬし、賛成もできぬが、戦う気はないと言う意味で、ここは穏便にする。エル・ラガルトの事もそちらが勝手にやった事として、我が国は何も見ておらぬし、何も聞いておらぬとする。わかったら、さっさと出て行ってくれ」
その台詞を聞き終えると、カーネリアンの王は、ペコリと頭を下げ、シカも頭を下げ、そして、その部屋を出て行く手前で、
「だが、我が国で勝手は許さぬぞ! 民達を手懐けようなどとするな! あくまでも罪人を捉える為、そして罪人の今後の事を考えての為の、罪人を裁く法が緩いカーネリアンに任せるとした迄の事!」
そう言われ、カーネリアン王は、振り向いて、笑顔で、また頭を下げた。その笑顔に、
「食えぬ男だ」
と、呟くバッファロー王。
カーネリアン王と、シカが、王の間を出て、直ぐに城を後にし、とりあえずホースという街へ向かう為の乗り物を手配。
その町から更に南東方向へ向けて、ホヌと言う小さな集落へと辿り着いたのは・・・・・・通常なら、そういう手順で行かなければならないが、転送装置があるので、一瞬でホヌへと辿り着く。
シカの手首にある腕時計みたいなモノは、転送装置を小型にしたモノ。
「ホント、カモメ様々だし、パンダ様々だよね。カモメのおかげで、移動手段が一瞬だし、パンダのおかげで、どこへ行っても好感度高い王様だし」
そう言った後、シカを見て、
「そんでシカ様々だよね。その瞳のおかげで・・・・・・」
王がそこまで言うと、
「この瞳は脅しの為に使うものではありませんよ」
と、シカが怒った口調で言うので、ごめんと、苦笑いする王。
「そんな事より、本当にエル・ラガルトを我が国で受け入れる気ですか?」
「そのつもりだけど?」
「何か考えがあっての事でしょうけど、それを話してくれないと、コチラとしては・・・・・・」
「シカ!!」
話の途中で、突然、王に名を呼ばれ、ビクッとするシカ。
「見て!! シカ!! 青い飛行機!! 小型で・・・・・・ボディにフォックステイルの文字・・・・・・」
「あぁ・・・・・・ギャングの飛行機ですね・・・・・・」
シカがそう言うと、王は飛行機に駆け寄った。
そして飛行機の周りをぐるーっと一回りして、更に飛行機のボディを手で触って、イロイロと確認している。
「凄いね、コンパクトで、スピードありそうな感じで、でもアクロバット機と言うよりは戦闘機。しかも、見て、妙な場所に部品が付いてる。ミサイルでも出るような感じの。多分ここから煙幕とか出せるように改造してあるんだ。なんだっけ? 見た事あるなぁ、確か・・・・・・」
「スモーク発生装置」
「あぁ、そうそうそう、それだ! 通常ならエンジン排気ノズルの所にスモークオイルの噴射用ノズルを追加して、そこに機内のスモークオイル用タンクから配管を引っ張って来て、操縦桿に取り付けたトリガーを引くとオイルが出るようになっているんだよね?」
「はい、確か、そのような感じかと」
「これ、前からも後ろからもスモークが出るように改造してある。普通なら風の抵抗で、前にスモークを噴射すると、自分の視界も失われる。でも失われなければ、噴射した相手には、大きな目くらましになるね。煙に包まれて消える飛行機って事だ」
「ですね。と言う事は、やっぱりカモメのゴーグルの設計書は盗まれたんでしょうね。しかし設計書を見ただけで、簡単にゴーグルなんて作れる筈もない。それなりに知識がないと、無理でしょう」
「だね。僕なんて、この前、電池1つ変えるのに大騒ぎして、カモメ呼んじゃったくらいだし」
「それは・・・・・・王としての特権使い過ぎなんじゃ・・・・・・?」
そう言って苦笑いするシカに、そう?と、王も笑う。
「いずれにせよ、電子工学に優れた者がいそうですね」
「カモメの授業を受けた子がいるんだろうね」
「え?」
「じゃないと、普通に電子工学に詳しくても、魔法は理解できないからね」
「だとしたら・・・・・・カーネリアンに住んでたと言う事に・・・・・・」
「だね」
「だねって・・・・・・王は知ってたんですか!?」
「なんとなく、ギャングはカーネリアンに住んでた事がある子供かなって。確信はなかったけど、実際に飛行機を見て、根拠はできたかなって思ってる」
「それが世にバレたら・・・・・・」
「カーネリアンが悪くなるね。だから他の国に知られないように手を打つんだよ」
「・・・・・・」
「そもそもカーネリアンは、悪人を受け入れ、チャンスを与えるが如く、人生をやり直しさせている。それを良く思わない人も多い。当然だ、賊に家族を殺された人は、その賊を死刑にするだけでは、許せない。苦しめて苦しめて、死ぬべきだと思うだろう。でも、カーネリアンでは、そういう裁きはしない。もう一度だけ、チャンスを与えようって、その考えが間違っていると思われる事は、握り潰すしかない」
「・・・・・・」
「行こう、エル・ラガルトの所へ」
「シンバくん」
王ではなく、名を呼ぶシカに、振り向くと、
「なりきるのは、キミの得意分野だ。そうだろう? フォックステイル」
今度はフォックステイルと呼ぶシカ。そして、
「でも、王になりきって、ツライ時はどうしてる? 最近、大人になったボク達は、傍にいながらも、余りちゃんと話してない気がするよ。ツナくんには心の内、見せてる? ネイン妃には、ちゃんとシンバくんでいれてる? ボクで良ければ、いつだって付き合うよ。カモメだって、パンダだって、いつだって、シンバくんになら時間は作る筈」
そう言った、そのシカの瞳の色が変わる。王は、少し微笑んで、
「ありがとう」
と、それだけ言うと、背を向けて、先を急ぐ。
その王の背を見ながら、シカは思い出していた。
あんなに王になる事を否定していたシンバの事を。
わかっている、王になったのは、仲間の為だった事。
ツナ、カモメ、パンダ、そして、シカが、将来、路頭に迷う事のないよう、王になる事を選んだシンバ。
その事を一切、見せないけど、本当は、王になりたかった訳じゃないだろうと、今も、シカは、そう感じている。
特に悪魔の瞳を持つシカは、フォックステイルをやめたら、居場所なんて、この世界のどこにもなかった。
今、こうして、カーネリアンに居場所があるのは、シンバのおかげだと思う。
だが、シカは、ふと気付いた。
本当のシンバを思い出せない事に。
気付けば、いつも、王として、シンバは、そこにいた。
昔を思い出しても、あの時のシンバは、誰だったか。
そう、シンバは、いつだって、誰かだった。
でもフォックステイルは、キミ自身だったのかなと、シカは、ぼんやり、王の背を見つめる。
小さな集落の手前、既にバッファロー王からの連絡があったのか、数名の少年の姿と、エル・ラガルトの姿があった。
荷物も幾つかあり、集落を出て行く準備はできているようだ。
王が足を止めると同時に、シカも足を止める。
「逃げる気だったかな」
王の呟きに、
「でしょうね、荷物まとめて既に待っていたなんて事は有り得ないでしょう、コチラは転送装置で来た訳ですから。まさかこんなに早くに到着する筈ないと驚いている筈」
と、答えるシカに、頷く王だが、エル・ラガルトは丁寧に頭を深々と下げて、逃げようなんて思ってもみないと言う態度で、
「カーネリアンの王ですね? 我々を保護して下さるそうで、ありがとうございます」
と、待っていたという体で、そう言った。すると、エル・ラガルトの後ろにいる少年達も頭を下げた。
「なるべく、大人しくさせますので」
そう言って、エル・ラガルトは頭を上げる。それを数秒の間、黙って、見ていた王。その数秒が、とても長く感じたのだろう、エル・ラガルトは困った表情になった。
「バッファロー王から、どう聞いたのか知らないが、僕はキミ達を保護する気はない」
え!?と、王を見たのは、シカも同様。
「保護じゃない。保護なんてする訳ないだろう。何故、犯罪者のキミ達を、僕が守る必要がある? キミ達は犯罪者だ」
「ちょ、ちょっと、それは後からで、今は保護という事でいいのでは?」
と、シカは王に耳打ちするが、
「僕はキミ達を連行しに来た」
王が、そう言うから、シカは、額を押さえ、この後の展開に頭を抱えそうにもなる。
「パパ! どういう事!? 俺達捕まるの!?」
「犯罪者って事は牢屋とかに入れられるの!?」
「おれ達はパパの言う通りにやって来ただけだよ!?」
少年達は騒ぎ出すが、エル・ラガルトは冷静な表情で、王を黙って見ている。
1人の少年が、
「僕達は戦った方がいいですか?」
顔色1つ変えずに、そう言った。王もシカも直ぐにピンッと来た、彼こそが、少年の中でリーダー格であり、あの青い飛行機の持ち主だと。
エル・ラガルトは、目だけで周囲を確認しているから、
「他には誰もいない」
王がそう言うと、クックックックッと、喉で笑いながら、
「王が直々に来て、ワタシを連行する? それは光栄だが何の罪で? それにカーネリアンは罪を背負わせない国なのだろう? バッファロー王からはそう聞いているが?」
そう言って、余裕綽々な態度。だが、
「切り札を出してないと思ってるのか?」
王がそう言った事で、エル・ラガルトは、笑いを止めた。
「バニという女の姿が見えないな、仲間なんだろう? いや、違うか、脅して動かしてるってトコかな」
王はそう言うと、フッと笑い、
「バニが誰かの言う事を聞くって事は、ラビをどうにかされた時だろうな。つまり、ラビをどこかで拉致してるんだろう? ラビを置いて逃げるつもりだったか? だが、思いの外、僕達の登場が速かったか? ここは大人しく逆らわずで、わざわざ外まで来て、僕達を待ってた体で、今、そこにいるのだとしたら・・・・・・その集落へは僕達を招き入れたくない理由があるんじゃないか? つまりラビは集落のどこかにいるって事だ。シカ、捜して来てくれ。普通に探しても見つからないような、隠し扉や通路を捜してみて」
と、目でシカに行けと合図。シカはペコリと頭を下げ、集落へ入ろうと歩き出す。
「王様1人で何ができる?」
と、剣を抜いたエル・ラガルトに、少年達は、ザっと後退し、そして数名がシカを取り囲んだ。
「賢明だ」
この状況で、不利になる筈の王がそう言った事に、皆、王を見る。その隙に、シカは懐から麻酔銃を取り出して、1人の少年を撃った。
銃声に、王から、シカへと視線を戻す瞬間に、王も剣を抜き、風の如く、シカの場所まで駆け抜けると、数名の少年達を刃は使わずに叩き潰し、
「戦うしかない、逃げる事もできないよ、僕はここへ来る途中、飛行機の部品を何個か盗んでいる」
などと、言い出した。それは傍で見ていたシカも知らなかったので、いつの間に!?と、驚く。
飛行機を見てただけでなく、部品を!?と、シカが王を見た瞬間、戦った方がいいですか?と、聞いた少年が動いた。
少年はナイフを持って、振り上げながら、王へ向かって走って来る。
「いい動きだ」
と、ナイフに剣の刃をあてながら、まるで剣の稽古をしてあげているような感じで、刃を合わせる王と少年。
シカの銃口は、エル・ラガルトへと向いている。
エル・ラガルトは、右手で剣を持ったまま、その視線は王を見ている。王の動きを見ながら、左手の指でリズムをとっている。
シカが手を挙げろと言っている声は聞こえてなさそうだ。
「エル・ラガルト! 王への反逆行為で拘束する!! 手を挙げろ!! 手を挙げるんだ!!」
シカが大きな声を出して、そう言うが、エル・ラガルトの目は王を映し、やげて、左手の指だけでなく、足でもリズムを取り出したかと思うと、
「避けろ!!ラファー!!!!」
そう叫んだ。ラファーとは、ナイフを持って、王と刃を交じ合わせている少年の名だろう、ラファーは、その叫びを待っていたとばかりに、ナイフで思いっきり、王の剣を弾いた後、身を低めた。
驚いたのは、いつの間にか、エル・ラガルトの左手に、銃が持たれていて、弾き金を弾かれた瞬間・・・・・・。
エル・ラガルトは、剣を使う気はなかったのだろう、カムフラージュとして剣を右手に持っていただけ。
ラファーの動きのタイミングと、王の隙を知る為にリズムをとって、銃を出す機会を伺っていた。
そして、今だとばかりに、ラファーに避けさせて、王の額へ、ドンッと一発撃つ!!
筈だったのだろう。
だが、弾き金を弾かれた瞬間、驚いたのは、パンッと鳴って出た紙吹雪・・・・・・。
どういう事だと、皆が、エル・ラガルトの銃口を見る。
エル・ラガルトも、クエスチョンばかりが浮かびながら、銃をいろんな角度から見る。
「錠をかけろ」
そう言った王に、シカが急いで、エル・ラガルトの手首に錠をかける。
「パパ!!」
そう言って、エル・ラガルトに駆け寄ろうとしたラファーの背後から襟首を掴み、
「キミには案内してもらおうか。ラビの居場所へ」
と、まるで子猫を掴む親猫のように、ラファーを引っ張り上げて、王が言った。
「離せ!! パパを離せ!!」
言いながら、ナイフを振って来たので、王は、一旦、ラファーを離し、
「しょうがない、気絶させて撤退するか」
そう言って、再び剣を持ち直すから、
「王様相手に手加減してただけだから。そっちがその気なら僕も本気出すけど」
と、ラファーは鋭い目つきで、王を睨み、そして構えた。
「そのオモチャのナイフで本気出すの?」
そう言われるまで、自分が握っていたモノがオモチャのナイフになっている事に、ラファーは気付かなかった。
「え? な!? なんで!? どうして!?」
さっきまで本物の切れ味のいいナイフだった筈。
「どうする? 気絶させられたい? それとも案内するか、そのまま大人しく連行させられるか」
「どういう事だ!? なんで僕のナイフが!!? さっきもパパの銃がオモチャになってたし!!」
混乱しているラファーは、そればかり叫んでいる。
所詮、子供だなと、ラファーの後頭部に軽く衝撃を入れる為に、手刀を入れて、気絶をさせた後、王は、ラファーを抱き上げた。そして、
「行こうか」
と、呆然としている少年達を見て言う。
行くってどこへ?と、言う顔の少年達と、
「他の気絶してる子供達はどうしますか?」
と、問うシカに、
「ちょっと待てぇ!!!!」
と、錠をかけられて、怒声を上げるのはエル・ラガルト。王もシカもエル・ラガルトを見る。そして、王は、ニッコリ笑って、
「大丈夫」
と、
「キミ達全員いなくなれば、ラビは自力で何とかするさ。どうせこの様子だと、見張りとかも子供に任せてるんだろう? 後はバニもバカなりに、何とかするでしょ」
と、
「ほっといて大丈夫」
なんて朗らかな笑顔で言うから、
「そんな事じゃない!!!!」
と、エル・ラガルトは怒鳴り、少年達はビクッとする。
エル・ラガルトは、なんてふざけた王なんだと、これが本当に王なのかと、有り得ないだろうと、王を見ながら、
「貴様・・・・・・何者なんだ・・・・・・? ワタシの銃をオモチャに変えたのは貴様か・・・・・・?」
そう聞いて、更に、
「王に成りすまして何が目的だ・・・・・・? どこぞの賊の回し者か・・・・・・?」
と、王である筈がないと思ったようだ。
「よく考えれば、王が直々にこんな所に来る筈はない。万が一にも王だと言うのならば、1人の付き添いだけで、何の用で来た? ワタシを連行する理由はなんだ? 王様直々の連行など、余程の王の怒りを買ったか? 有り得ない。確かに子供達を集め、ファミリーを新たに作り、賊にはちょっかいを出した。だが、どこぞの国を貶した訳でも、侮辱した訳でもなければ、王の暗殺計画だって立ててない! 確かに、いつかは、どこかの国の王を暗殺するかもしれない。我が革命に必要ならば、消える命もあるだろう。だが、ワタシは今現在、大人しくしているだろう」
「大人しくしているのは、ジェイドの法により、未だ、その罪の猶予が終わっていないから? カーネリアンに身柄を拘束されて、王の僕に保護されれば、ジェイドの法から、カーネリアンの法に変わり、罪人に裁きを下さないという法で守られるから、猶予がなくなり、革命家として今すぐにでも復活できる為、大人しくカーネリアンに行こうと思った?」
王がそう言うと、エル・ラガルトは黙り込んだ。
「僕はカーネリアンの王だ、カーネリアンで一番偉い、そして、カーネリアンでは僕の言う事は絶対だ、誰も僕には逆らわない。例え、誰も望まない事でも、僕が望めば、それに従うしかない。いい例がある。僕は罪人を裁かないという法を作った。それを民達は恐れた。猛反対された。足を洗ったと言う賊達を受け入れ、街で普通の民として暮らす事、それだけではなく、賊達が買い物をするのに、当たり前のように、カーネリアンに招き入れる事。全てが恐怖でしかないと、殺人者が隣にいる事に笑えないと言われた。でも僕がそうすると決めたら、そうするしかない。民達は、恐怖を感じながら、暮らしている街となっている」
「ならば・・・・・・何故そんな国を築き上げたんだ・・・・・・?」
思わず、そう問うエル・ラガルト。
「笑いたいからさ」
と、バカみたいに、めいっぱいの笑顔で言う王。
「そんなバカげた国、笑えるだろう? 僕の国では恐怖で震える人もいるが、罪人も共に笑える国でね、そう、老人も子供も、障害がある者も、健常者も、動物達も、みーんな笑うんだ、バカみたいな有り得ない国だってね。このスタンスは変える気はない。でも恐怖を取り除く為、イロイロと考えてる最中だ。だってね、罪人って言っても、イロイロだからね、全員が全員、反省するとは限らないし、犯した罪の重さも違う訳だから」
「だから・・・・・・?」
「だから、とりあえず、カーネリアンに来てくれる? あ、来ないって言っても連行するから。言ったでしょ? カーネリアンでは僕は一番偉いんだ。僕の言う事は絶対だから。さぁ、行こうか、飛行機は自動操縦でいいよね、それとも誰か操縦する?」
と、子供達を見るが、子供達は黙ったまま何も答えない。
「ちょっと待て!! 貴様が本当に王だとして、その王の権限で、カーネリアンで、ワタシをどうするつもりだ!!?」
エル・ラガルトが吠えると同時に、シカが、錠をグイッと引っ張り、
「何度も言わせるな。カーネリアンに行けば、わかる事だ」
そう言った後、
「実はボクもね、王の考えがサッパリわからない。何を考えてるんだか。困った人だよ」
と、小声で、エル・ラガルトに言う。エル・ラガルトは、本気か!?と、シカを見て、王を見て、またシカを見て、
「本当に王なのか・・・・・・? ふざけすぎだろう・・・・・・お前達・・・・・・」
そう囁くから、シカは肩をすくめ、
「ふざけすぎなのは、前からだったでしょ?」
なんて言うから、前から?と、エル・ラガルトは眉間に皺を寄せた。
その後、何機かの飛行機の中に、気絶した子供達を乗せ、自動操縦で、カーネリアンに行くよう設定し、エル・ラガルトとラファーは、王とシカと一緒に青い飛行機に乗り込んだ。
「王、飛行機の部品は?」
「部品?」
「言ってたじゃないですか、部品を幾つかとって来たから逃げれないって」
「あぁ、そんなの嘘だよ」
「嘘!?」
「言ったろ? 電池1つ変えれないんだよ? 飛行機のパーツなんて怖くて勝手にはイジれないよ」
と、ヘラヘラ笑う王に、いい加減にしてよと、シカは、溜め息を吐きながら、何回目の溜め息だっけ?と、思う。
小型飛行機の為、4人はキツイが、墜落はしないだろうと、言った後、
「オグルさんの操縦よりは安心だよ」
と、王が言って、確かにと頷くシカ。
オグル? オグル・ラピスラズリの事かと、エル・ラガルトは考える。
何かが引っかかっているのだ、カーネリアンの王の事なのだろうが、その何かがわからない。
王という立場を、存分に使い、だが、罪の猶予が課せられて、静かに暮らしている男を、王直々に捕まえる、その理由。
その様はまるで、おふざけだ。
付き添いの男も、王の言動には幾度となく、溜め息を吐く程の。
しかも戦い方が本気ではなく、お遊び同然。
本気の銃を、ナイフを、オモチャに変えた。
いつ、どこで、どうやって――?
まるで魔法のように、いつの間にか・・・・・・
魔法のように・・・・・・?
青い飛行機に乗る前に、そのボディに書かれたフォックステイルの文字が頭に浮かんだ。
瞬間、思い出す。
エル・ラガルトが、革命家としてファミリーを集め、我が身に集う者達にファーザーとして、君臨していた頃、フォックステイルという連中にちょっかいを出した。
理由は、ラビという女に絆されたからだ。
サードニックスからブルーアースという宝石を、フォックステイルが奪ったと言う話がキッカケだった。
そんな事は今更どうでもいい。
要はコイツは本当に王なのだろうかって事だと、
「・・・・・・ラビ・ダークネス」
と、エル・ラガルトは、ラビのフルネームを口に出した。
王もシカも操縦席に座っていたから、振り向いて、エル・ラガルトを見た。
その2人の表情から、エル・ラガルトは気付いた。だから、クックックックッと、喉の奥で笑い、
「久し振りだなぁ、フォックステイル。随分と老けたなぁ。お互い様か? 確か、初めて会った時、お前は若く、青年と言う感じだったが、今は中年だな。それとも、そう化けてるだけか? いや、昔のお前が青年に化けてたのか?」
そう言った。
シカは王を、王はシカを見る。そして、2人同時にエル・ラガルトを見た。エル・ラガルトは、またその2人の表情で気付く。
「カーネリアンの王と言うのは、そんな夕日みたいな下品な髪色だったか? もう少し上品に化けてやったらどうだ? まぁ、どうでもいいが、王に化け、ワタシに何の用だ? あぁ! そうか! やっとわかった! 今思えば、ラビは、お前の仲間だったんだ。そうだろう? フォックステイル?」
再び、シカは王を、王はシカを見て、そして、2人同時にエル・ラガルトを見た。その表情に、エル・ラガルトは眉間に皺を寄せる。
「ラビを助けに来たんだろう? そうなんだろう? フォックステイル? 王なんかじゃない、お前はフォックステイルだ。王に化けてるだけの泥棒野郎だろう? 今回も仲間を助ける為にこんな芝居がかった小賢しい事をしているだけだ。お前には空の大陸での事もあるしな、復讐も考えたが、どこの誰なのか、サッパリわからない謎多き怪盗だ、復讐しようがないと思っていた。だが、こうして態々会いにくるとはな! つまり、まさかの煽りに煽った罠に、まんまと掛ったのはキツネの方だ、そうだろう!! いいか、仲間は返さないぞ!! あの集落にラビがいると思うか!!?」
そう怒鳴るエル・ラガルト。
「おい! 聞いてるのか!!?」
「聞いてるよ。よくわかった。フォックステイルの文字、賊の旗の強奪、ラビへの監禁、イロイロと確かに煽り過ぎ。しかもそれ等が只の恨み辛みだったって事だろ?」
「只の!? 只のだとぅ!?」
「だってそうでしょ、フォックステイルの事なんて、どうでもいいと思っていながらも、フォックステイルを気が付いたら、煽ってたって事なんでしょ? だからって安易な思考過ぎでしょ、革命家なのに。ていうか、もう出発するけど、いい?」
くだらないと言う風な口調で、そう言った王と、
「あぁ、王の口調は気にしなで? 睡眠不足で機嫌悪いだけですから。他に何か言いたい事があれば言っといた方がいいよ? ボクも王も、空は、オグルさんの操縦のせいでトラウマなんだ。会話なんてできる状態じゃなくなるから」
シカもそう言って、2人はエル・ラガルトを見ている。
「え? いや、だから、王に化けたフォックステイルなんだろう?」
「かもね」
と、笑う王は、
「カーネリアンに向けて、発進!!」
と、自動操縦のレバーを引いた。
「本気でカーネリアンに行く気か!?」
そう言ったエル・ラガルトに、
「読みは当たってる。でも本質が違う」
と、シカはそう言って、エル・ラガルトは余計に混乱する。そして、
「つまり・・・・・・読みは当たっていると言う事は・・・・・・フォックステイルでいいんだよな・・・・・・? 狙いはラビじゃない・・・・・・? 何かを盗みに来たのか・・・・・・? だが、今のワタシには何もない・・・・・・。子供達が手に入れた賊の旗か・・・・・・? いや、何故、王になって現れる必要がある・・・・・・?」
と、考えながら、ブツブツと呟き続け、ふと思う、最初にフォックステイルに出逢った場所はカーネリアンだったと!!
「王だった・・・・・・? カーネリアンの王族が・・・・・・フォックステイルだった・・・・・・? おい!! お前は本当にカーネリアンの王で、フォックステイルなのか!?」
だが、その声は、王にもシカにも聞こえていない。2人共、ガチガチになって、窓の外に広がる雲を見ている。
既にカーネリアンに向かっている飛行機の中。
エル・ラガルトは錠もされているが故に、身動きはとれない。
今後、どうなるのか、革命家さえも読めない。
わかっているのは、フォックステイルに良い印象はない。勿論、フォックステイルもエル・ラガルトに良い印象はないだろう。
罪人を裁かないと言う国で、王という権力を持って、どんな罪を背負わされるのかと、思うと、全く、この先の展開が読めなくて、恐怖でしかない。
どこで失敗したかと考えれば考える程、ラビの顔が過ぎる。
あの女め・・・・・・!と、あの時も、あの女のせいでと思うが、今回は、自ら、ラビにちょっかいを出したんだったと、全ては復讐の為にと思うと、自業自得という言葉も浮かぶ。
その繰り返しで、考えがループするから、もう考えるのはやめる事にした。
どうせ、カーネリアンで全ては明かされるのだろうと、諦めも含め、背を丸め、大きな溜息と共に、顔を両手で覆い尽くした後、背を伸ばし、綺麗な空に目をやる。
「そうか・・・・・・キツネの弱点は空か・・・・・・もっと早く知りたかった・・・・・・」
そう呟きながら、美しく、どこまでも広がる青空と雲を見つめ、いっその事、この飛行機、墜落しないだろうかと、考える――。
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