5.偽物フォックステイル
「なにぃ!? サードニックスがアンダークラウドへ方向転換しただとぅ!?」
シャークは小さな船長室で、小さな椅子にふんぞり返って座っている。
小さく見えるのは、シャークが大きいからだ。
「どういう事だ!? ギャング等如きに誰かやられたってのか!?」
「噂ではガムパスが死んだんじゃないかと・・・・・・」
シャークに乗っ取られる前は、この船のキャプテンだった男。
シロギス・カルサイト。
ここはカルサイト一味の船だったようだ。
今はシャークの船として、アレキサンドライトの船となり、一味もカルサイトからアレキサンドライトとなった。
「面白ぇ事言うじゃねぇか」
シャークはそう言うと、高笑いし、シロギスをギロリと見下ろした。その眼力に、シロギスは小さくなる。
「ガムパスが死ぬ時は、俺様がアイツを殺す時だ、それ以外はない!」
シャークはそう言うと、鼻でフンッと笑い、
「だが、そんな噂が流れてるとなると、サードニックスを狙う連中は多いだろうな、狙うなら今か・・・・・・」
と、呟く。そして、
「もっとレベルの高ぇ連中を襲い、もっと大きな船を手に入れ、もっと多くの手下共を従えようと、サードニックスの船がある場所から遠ざかってしまったが・・・・・・」
そう呟き続けながら、顎の辺りで人差し指を上下に動かし、考えるポーズで、
「やるなら今か?」
と、シャークはニヤリと笑う。
「それにしても・・・・・・この船は小さすぎる。よくこれで今まで空賊として生きて来られたもんだな、シロギス」
「はぁ・・・・・・そりゃ・・・・・・シャーク様がおられなかったもので・・・・・・」
「ハーッハッハッハッハッ! バカなのか? 俺様がいなくても、他の空賊にやられててもおかしくないと言っているんだ、それ程までに、カルサイト一味は弱過ぎるだろう。それとも何か? 俺様がいない間、空賊という者のレベルが下がったか?」
と、シャークがシロギスをギロリと睨みつけた時、
「オジサーン!!」
と、船長室の扉がバーンッと開いて、シンバが飛び込んで来た瞬間、ドアノブが外れて、扉が壊れた。
「あ・・・・・・ごめんなさい、態とじゃないんだ」
シンバがすまなそうにそう言うと、シロギスは、
「いいえいいえ、元気のいいお坊ちゃんで」
と、苦笑いで答え、シンバからドアノブを受け取る。
「ガキに扉を簡単に壊されるような船に、この俺様が乗るとはな。世も末だ・・・・・・」
「オジサン!」
「あぁ? なんだお前? 包帯だらけじゃねぇか」
「ミイラみたいだよね! なんか怪我したトコ、手当してもらったら、こんななっちゃったの。オジサンも手当してもらった?」
「俺様は手当される程、どこもなんともなっちゃいねぇ」
「えー? でも・・・・・・」
「それで飯は食ったのか?」
「うん! お腹イッパイ! それでね、あのね、展望台に登ってもいい?」
「展望台? 見張り台の事か?」
「一番高い場所で風を見たいから!」
「好きにしろ、だが、妙な風を感じたら直ぐに伝えろ」
「わかった!!」
と、元気いっぱいに駆けて行くシンバに、シャークはフンッと鼻で笑う。
「そ・・・・・・それでシャーク様・・・・・・サードニックスを追ってアンダークラウドへ向かいますか?」
「何故サードニックスを追う?」
「へ? だって・・・・・・やるなら今と・・・・・・先程言いませんでしたか?」
「あぁ!?」
「言ってませんよね! すいません! 申し訳ございません!!」
シャークの睨みが恐ろしくて、土下座までして謝るシロギス。
「やるなら今なのは、俺様以外の空賊共の事だ。俺様はサードニックスにいつでもどこでも挑んで勝てる男だ、そうだろう?」
「その通りです!!」
「サードニックスが最強と言われるのは、俺様が負けてた訳じゃねぇ」
「その通りです!!」
「ちょっと遊び過ぎただけだ、本気を出せばサードニックスの一匹や二匹。それこそ老いぼれガムパスなど、軽く捻り潰せるってもんだ」
「その通りです!!」
「だがな、この小さな船でサードニックスの前に行けるか? この俺様が! このオモチャみたいな船で! 有り得ないだろう!!!!」
「その通りです!!」
「まずは見た目からだ、見た目を整えてから、このシャーク・アレキサンドライトの完全復活が完成する」
「その通りです!!」
「ところでだ、シロギス」
「はい!!」
「お前、エル・ラガルトを知っているか?」
「勿論です、革命家として有名でしたから。ですが、捕まった筈です」
「なんで捕まった?」
「確か・・・・・・反逆罪でジェイドに捕まったと・・・・・・」
「そりゃ革命家だからな、反逆罪だろう。そうじゃない、何故その反逆がバレて捕まったんだ?と聞いている」
「えっと・・・・・・」
「頭のいい革命家なら、世界を変える為、コツコツと裏で手をまわし、多くの味方をつけてから、行動をする筈だ」
「ですね・・・・・・」
「俺様が知っている限りで、奴に大きな動きはなく、特に目を付ける程の奴でもなかった。それがいきなり反逆罪で捕まったと言う事が気になるな」
「フォックステイルに騙されたと、裁判で言っていたそうですが・・・・・・」
「ほぅ。フォックステイルにか?」
「いや、そんな架空の人物の事など・・・・・・」
「架空? そうか、お前等如き連中には架空になるのか、あのキツネ野郎は」
「え・・・・・・? えっと・・・・・・」
「それで?」
「え? えぇっと・・・・・・あ! 後、サードニックスともやり合ったみたいです、空の大陸で!」
「もしかして聖戦と言われたあの話か?」
「そうですそうです! 空に大陸が現れたあの時に、サードニックスとラガルトと、それからジェイドの騎士達が、その空の大陸で戦った時の事です!」
「そこにフォックステイルもいたのか?」
「それが・・・・・・ラガルトはそう言っていたようで・・・・・・サードニックスはうまく逃げてしまったらしく・・・・・・」
「まぁ、元々がお尋ね者連中だ、ジェイドに捕まらないのも当然だろうな、聖戦で何があったかは知らんが、ガムパスを捕らえれねぇなら、サードニックスに手を出す程、国もバカじゃねぇだろう。大きすぎる戦争は避けたいだろうからな。それで、ラガルトは、今は?」
「さぁ・・・・・・? 死刑宣告を受けたと聞いた事はありますが・・・・・・」
「だが革命家だ、世界中に味方はいるだろう、奴を逃がそうとする奴も多くいる筈だ、なんならジェイドにもいるかもしれねぇ。奴を崇拝する奴等はどこにでもいるだろう」
「はぁ・・・・・・」
「奴を逃がす計画をたてるとしたら・・・・・・テロ行為などはあったか?」
「すいません、地上の事は余り知らないんですよ、空賊として空に殆どいますから。ですが、その話に何の意味が?」
「ラファー・ラガルト」
「は?」
「飛行機乗って、空賊共の旗を狙ってるガキのリーダーみたいな奴の名前だ」
「あぁ! ギャングの事ですね!」
「エル・ラガルトのガキか、なんかだろ。ラガルトのアジトはどこだ?」
「さぁ・・・・・・?」
「ガキ共の格好は割りといい服装だった、更に何機もの飛行機をガキに与えられて、煙幕などで目くらましをする事も教えるような事ができる人間は限られてくる」
「はぁ・・・・・・」
「ラガルトを疑って間違いない筈だ」
「はぁ・・・・・・」
「地図を持って来い」
「はぁ・・・・・・」
「早くしろ!!」
「はい!!」
シロギスは急いで世界地図をシャークに渡す。
シャークはバンッと近くにあった机に地図を広げた。そのシャークの力で、机が少し斜めになる。だが、お構いなしに、シャークは地図を睨み、考える。
「この孤島・・・・・・ラガルトの所有島だったな・・・・・・」
と、小さな島を指差した。
「そうなんですか」
「あぁ、俺様は空へ来る前は海賊だった時もあるからな、よく知っている。島の中央には悪趣味な館があった。まぁ、暗黙の了解で、そこへ行く賊はいなかったがな。革命家に手を出す賊はいねぇだろ。土俵が違うしな」
「はぁ・・・・・・」
「よし、ここへ向かえ、今いる位置から、そう遠くはないだろう」
「え? このラガルトの島へですか?」
「そうだ」
「でも革命家に手を出す賊はいないのでは?」
「先に手を出して来たのは向こうだ」
「しかし・・・・・・ギャングと繋がってるというのは憶測では?」
「憶測? いいか、俺様が黒と言えば黒だ。白と言えば白! 例え白でも黒と言えば黒なんだ! その逆も然り。わかるか?」
「勿論です!!」
「なら、お前等は黙って俺様に従ってればいい!」
と、シャークは机をぶっ叩き壊す。
「は、は、はい!! わかりました!!」
と、シロギスは急いで部屋を出て、操縦室へ向かった。
やれやれと、シャークは大きな溜息を吐き、様々な自分の敗因を考える。
あの時、その時、この時、あれは、それは、これは、全てはどこでどうなって、今、この小さな船にいるんだろうかと考え、そして、自分の鍵腕を見る。
「あの時だ・・・・・・そう・・・・・・あの時・・・・・・全てはあの時なんだ・・・・・・」
シャークの脳裏に浮かぶ、あの時――・・・・・・。
『・・・・・・笑っているのか?』
奴は喉の奥で笑いを堪えるようにして笑っていた。あの時、確かに奴の腹部に剣を入れた筈だった。
痛みで奴は跪いたのかと思っていたが、そうじゃない、笑いを堪える為に跪いたのだ。
それを確かめようと近くに行こうとした時、
『シャーク、余りボクに近付かない方がいい』
奴は、余裕あり気にそう言った。
『この期に及んで不可思議な発言だ。致命傷を与えた奴に近付き、首を切り落とすのが賊の礼儀だ。礼儀作法のいい騎士に対し、礼儀で返そうってんだ、我ながら紳士だろう?』
言いながら、奴に一歩一歩と近づいた。後、数センチと言う程に近付いた時、奴の短剣が牙を向いた。
跪いていた奴が急に素早い動きで、襲って来た。
そして、奴の動きは、全くの別人の如く、ガラッと変わった。
騎士のような礼儀正しい剣術ではない、雑で、隙だらけだが、力強く、荒々しく、死を恐れない、それはまるで賊の戦い方だった。
驚く事は別人のようになっただけではない。
確かに奴の腹部に剣を差し込んだ筈なのに、奴の動きに、負傷を全く感じられない。
確認したいが、奴のスピードが速過ぎて、確認ができない。
その時だった。
左腕を斬り落とされたのは――。
最早、自分の腕から落ちる赤黒い血で、奴が流したかもしれない血など、確認しようがない。
ゴロンと転がり落ちる左腕を、見下ろしながら、何が起こったのか、理解できなかった。
『忠告した筈だ、余りボクに近付かない方がいいと――』
そう囁く奴をゆっくりと目に映し、
『覚悟はできてるんだろうな、俺様の左腕は貴様の首だけじゃ足りねぇ』
と、怒りに任せ、片腕で、剣を振り回した。
片腕を失い、バランスが悪く、奴は攻撃を軽く交わして行き、そして船の先端に立った。
『貴様、逃げるのか!?』
『これ以上、戦ってもボクに利益はない。おっと、忠告しておこう、シャーク』
奴は、相変わらず口元緩く、微笑んでいる。
『海に潜ってる連中やらサソリ団を追って行った連中を呼び戻した方がいい。こうも無防備だと、折角、倉庫に隠した宝も簡単に持って行かれるぞってね。あぁ、手遅れかな、賊のいない間に宝は盗まれたかもしれない。悪い奴がいるからね、用心しないと――』
『貴様ぁ!!!!』
『おっと、忠告した筈だ、ボクに余り近付かない方がいいってね』
奴はそう言って、笑っている。
剣ではダメだと、銃を抜き、奴に銃口を向け、
『ご忠告感謝する』
と、弾き金を引いた。パンッと甲高い音が辺りに響き渡り、銃口から出た紙吹雪。
思わず、それこそ何が起きたのかと、銃を見つめたまま、フリーズした。
『忠告したろ? ボクに近付くと、その立派な剣もオモチャになるかも』
奴が笑顔でそう言った時、嘗てない程の怒りを感じて、銃を床に叩きつけた。
『シャーク、ここ笑うとこ』
『・・・・・・黙れ』
『笑えよ、シャーク』
笑えよ、シャーク。
その台詞が何度も何度も幾度となく、脳裏を掠めたのは、今が初めてじゃない。
「笑えるかっ! ここは貴様の妙な術を披露する場じゃねぇ!! テメェにとっちゃスポットライトで登場し、世紀のマジックショーってタイトルの如く、派手に蘇って、俺様の船を爆破させ、賊達の宝を奪い、更に俺様の左腕まで奪って、気分上々だろうよ!!」
あの時、そう怒鳴りつけた台詞を、そっくりそのまま、今、誰もいない部屋の中で、怒鳴る。
誰もいない部屋だが、シャークには、バイバイとご機嫌に手を振って行ってしまう背中が見える。
奴の背中が――。
「フォックステイル・・・・・・貴様だけは絶対に許さねぇ・・・・・・あの時からだ・・・・・・全て今の俺様があるのは・・・・・・」
「オジサン?」
部屋にシンバが入って来た事で、フッと我に戻り、
「なんだ? 何か用か?」
と、シャークはシンバを睨む。
「オジサン、声が大きいから、筒抜け!」
「見張り台にいたんだろう、そこは全ての部屋と通気口が繋がってる筈だからな、それで声が聞こえたんだろうよ」
「あのね、オジサン」
と、シンバはシャークに近付き、嬉しそうな表情で、
「ボクね、エクントに住んでるんだ」
そう言った。
「エクント? あぁ、空の大陸か・・・・・・」
「エクントは空に近くて、飛行機がイッパイ飛んでてね」
「フンッ・・・・・・あそこは飛行機乗りの縄張りだからなぁ・・・・・・」
「縄張り? フーン・・・・・・」
「それがどうかしたか?」
「飛行機が全然ない空って初めて見た気がする。なんか、初めてがイッパイで、ドキドキしちゃうよね」
「何言ってんのかサッパリわからねぇが、1つわかった事がある」
「何? 何がわかったの?」
「お前、エクントに住んでるガキなのか」
「あ!」
と、思わず、自分の口を押えるシンバ。
「記憶がねぇとか、迷子とか、帰る場所がねぇとか、そういうんじゃねぇみてぇだな」
「えっと・・・・・・」
「親はいるのか?」
「いるよ」
「なら、捜してんじゃねぇか?」
「探してるかも・・・・・・」
「親は何してんだ? 親の職業はわかるのか?」
「父さんは飛行機の整備士。母さんは劇場で働いてる」
「ほぅ・・・・・・如何にもエクントの住人って感じだなぁ。で、父親の名前は?」
「リーファス・サファイア」
「・・・・・・ほぅ」
と、シャークは小さく声を出して頷いた。
「母さんはリンシー・ラチェット。結婚してもサファイアを名乗らなかったんだ、舞台に立つ時の名前のままなんだって」
「で、お前は?」
「ボク? ボクは父さんと同じで、サファイアだよ。シンバ・サファイア」
「違ぇだろ、お前は、シンバ・アレキサンドライトだろ」
「あ・・・・・・そ、そっか・・・・・・」
ちょっと困った顔になるシンバに、シャークは、ニッコリ笑うから、なんとなく余計怖いと思うシンバ。
「サファイアより、アレキサンドライトである事を誇りに思う時が来る」
と、シャークはそう言って、シンバの頭を大きな手で鷲掴み、わしゃわしゃと撫でくり回すが、慣れない事をしたせいか、指が吊りそうになる。
そして、シャークは嬉しそうに、
「そうか、リーファス・サファイアか・・・・・・クックックックックックッ」
と、喉の奥で笑いを堪えながら、肩を揺らしているから、シンバはクエスチョンで、首を傾げる。
「おい、シンバ。少し休んでおけ。着いたら戦闘になるだろうからな」
「戦闘?」
「俺様達を襲ったガキ共を殺しに行く」
「え・・・・・・ころ・・・・・・? 殺すの・・・・・・?」
「あぁ、一匹残らず全滅させてやる」
「で、でも、殺すなんて・・・・・・ダメだよ・・・・・・」
「ダメ?」
「ダメだよ・・・・・・殺しちゃダメだよ・・・・・・」
「何言ってやがる。あぁ、そうか、お前はそういう世界にいたんだな」
「え?」
「教えてやろう、今後、お前がいる世界では、殺しは当たり前だ」
「え・・・・・・?」
「人を殺しちゃいけない、どこの国でも、世界中、そんな法はない。つまり、人を殺してはいけないって事はない」
「え・・・・・・? ほ、法? よくわからないけど・・・・・・でも捕まっちゃうよ」
「罰則があるだけだ」
「罰則・・・・・・?」
「何故、人を殺してはいけないのか、別にいけなくはない。だが、秩序ある平和で安定した世界を作る為に便宜上そうなってんだ」
「便宜じょぉ・・・・・・?」
「その方が都合がいいって事だ。いいか、殺しはいけねぇって事にはなっているが、国が戦時下にあれば、殺してもいいって事になんだよ。そうなったら、多くを殺した奴が英雄となるんだ。世界とは、そういう適当で曖昧な矛盾のある話でできてる」
「・・・・・・」
「そして、お前は、公に殺しオーケーの世界に足を踏み入れた、賊とはな、そういう秩序のねぇ世界で生きてく連中の事を言うんだ」
「・・・・・・」
「但し、お前も殺されるであろう事を忘れるな。弱ければ簡単に殺される。強い者だけが生き残る。守られる事はない。そういう世界だ」
「・・・・・・」
「お前が今まで殺されずに済んだのは、法はないが、秩序を重んじる世界で生きて来たからだ。日頃から、人を殺そうとも思ってねぇし、殺したいとも思わねぇ。死をいちいち考えて生きてる訳じゃねぇ。そういう世界にいるから、お前は、今迄、生きて来れてるってだけだ」
「・・・・・・」
「俺様が殺人鬼のように恐ろしく思うか? 賊が悪だと思うか? いや、違う。本当の悪と言うのはな、自分だけが殺す側にいようとする人間を言うんだ。自分は殺されたくない、常に殺す側でありたい、そう言う奴等は、弱き者を甚振りたいだけの異常者だ」
「・・・・・・」
「まぁ、賊とどう違うのか?って聞かれたら、よくわかんねぇな。やらなきゃやられるって訳じゃねぇ、強くある為に戦い、勝ち続ける、それは弱い者を叩く事と変わりねぇかもしんねぇなぁ。兎も角だ、お前は、殺してもいい、だが、殺される事もあるって世界に来たって事だ」
「・・・・・・」
「ようこそ、シンバ・アレキサンドライト! この世界は自由だ」
「・・・・・・」
「喜べ、シンバ」
黙っているシンバにそう言って、ニタァと笑うシャークに、シンバは、
「オジサンの世界を作ればいいと思う」
そう言った。
「あぁ!?」
「賊の世界じゃなくて、オジサンの世界! オジサンの世界ではオジサンが強いから、強さを主張しなくていい! つまり誰も殺されないし、殺さないでいいんだよ」
「はぁ!?」
「だって、オジサンは誰も殺さなくても、もう誇れる程の強さがある。この船に乗ってる賊達も、オジサンに恐れをなして直ぐに服従した! だったら、それでいいと思う! それがオジサンの世界だよ!」
と、今度はシンバがシャークに、ニッコリ微笑み、
「ボクは、そんなオジサンの世界に来て、良かったよ。だって、オジサンが一番強いから、誰も殺したり殺されたりしないもん。じゃぁ、ボク、休んで来るね」
と、部屋を出て行った。
「チッ・・・・・・もっと怯えるとか泣くとかするのかと思ったら・・・・・・流石賊狩りのリーファス・サファイアの息子か。憎たらしくもいい血統だ」
と、呟き、シャークは、シロギスを呼び、シャワーの準備をさせて、自分も少し休む事にした。
充分に休息がとれたと体が感じた頃、シャークは、操縦室に向かう為、通路をドスドスと歩きながら、どこら辺の空を飛んでるんだ?と、窓の外の空を見る。
それにしても、数時間も無防備に空の上を漂ってるにも関わらず、どこの誰とも戦闘にならない。
呆れる程、このカルサイト一味は誰にも相手にされないのか、それとも今いる場所が縄張りのない無法空域なのか。
だとしたら、余計に、雑魚連中がウヨウヨいてもおかしくはないだろう。
そもそもカルサイトの旗は下ろしたのだから、この船は周囲から認識さえなく、見境のない連中が戦闘を吹っ掛けて来てもいい筈だ。
こうも何もないと体が訛ってしまうと、シャークは思うが、
「ダメダメ! そっちに行くと嫌な風が吹いてるから、こっちから回って! 急がば回れって言うでしょ?」
と、操縦室からシンバの声が聞こえた。ドアを開けると、
「このまま真っ直ぐ飛んでけば大丈夫」
と、シンバは操縦士に言っている。そして振り向いて、
「あ、オジサン!」
と、ニッコリ笑うから、
「何してんだ?」
と、聞くと、
「お坊ちゃんが、嫌な風を感じとってくれるので、それを避けながら安全なルートを進んでます」
と、舵を握った男がにこやかに答えるから、シャークは頭を抱える。
「おいおいおい、安全なルートだと!? 賊がか!? 空賊が安全なルートで目的地まで飛んでるのか!? 客船じゃねぇんだぞ!!!!」
と、シャークが怒鳴るから、シンバは耳を塞ぎ、操縦室にいる男達は全員フリーズする。
「テメェ等、俺様を誰だと思ってんだ!? 俺様が乗ってる船が優雅に空を漂っているだけだと!? おい!? 誰か何とか言ったらどうなんだ!!?」
「あのぅ・・・・・・」
望遠鏡を覗いていた男が、すまなそうな声を出しながら、シャークを恐る恐る見て、
「目的地北西方向・・・・・・着きました・・・・・・」
そう言うから、シャークは、その男の傍にツカツカと歩み寄り、その男を突き飛ばし、望遠鏡を奪って、覗き込むと、広い海にポッカリ浮かぶ島。
そして、その島の周りには色とりどりの飛行機達。
ニヤリと笑い、シャークは、
「船を降ろせぇ! ラガルトの島に乗り込むぞぉ!!」
そう叫んだ。
賊達が一斉に声を上げ、戦闘雰囲気が盛り上がる。
まさに宴のように、賊達は歌をうたいながら、風を読み、帆を左右に動かすレバーを押したり引いたり。
みんなが嬉しそうに動くから、シンバは不思議に思うが、
「これだこれだ、戦う前の高ぶり、勝機の風を呼び込もうと歌う賊達。楽しくなって来た」
などとシャークが言うから、シンバは首を傾げて、
「戦うのに嬉しいの?」
と、尋ねる。シャークは大口開けて、大笑いしながら、
「あぁ、嬉しいさ! これぞ俺様達の生きる道! 人を殺して、殺されて、それが俺様達の生きてる証! 奪い奪われ、欲しいモノを手に入れる為に、生き残る為に、戦うんだ!! さぁ、ガキ共を皆殺しだ!!」
と、こんな嬉しそうな顔を見た事がないくらい、嬉しそうな表情のシャークに、喜んでるんだろうけど恐ろしく怖い顔だなぁとシンバは思う。
「おい、シンバ!」
「なぁに?」
「お前、その背負ってる剣は飾りじゃねぇんだ、わかってるだろうな」
「でもボク戦えないよ・・・・・・」
「肩車をしてやろう」
「肩車?」
「あぁ、俺様の肩に乗れるんだ、光栄に思え」
「どういう・・・・・・?」
「お前は俺様の目になるんだ。奴等は煙幕で姿を眩ませるのが、お得意だろう? だが、お前は見えなくても、相手を感じれる。そうだな?」
「うん・・・・・・まぁ・・・・・・」
「お前は俺様の目になり、奴等の動きを教えろ。但し、奴等も必死に向かって来る。俺様の頭上まで、奴等の攻撃が届くとは思えんが、俺様が身を低めた時に、お前が奴等の攻撃を受ける可能性もあるだろう。その時は自分の身は自分で守れ」
「ど、どうやって!?」
「おいおい、剣は飾りじゃねぇぞ?」
「でもボクは剣を持って戦った事なんてないし・・・・・・」
「だったら学べ。俺様の肩の上で、俺様が戦うのを見れるんだ。それはもう絶景だ。このシャーク・アレキサンドライトの戦いを絶好の場所で見学できるんだからな」
「・・・・・・」
黙っているシンバを、まるで子猫のように、襟首をヒョイっと掴んで、自分の肩に乗せ、
「野郎共ー!!!! 飛行機は全部壊せぇ!!!! 一匹も逃がすんじゃねぇぞ!!!!」
そう叫んだ。賊連中は、歓喜に似た声を上げ、武器を掲げた。
小さな船とは言え、それなりの人数が乗る空賊の船だ、空から降りて、海へザッパーンと着水すると、島に大きな波が押し寄せる。
夕暮れ時、空はオレンジ。
「暗くなる前に片を付けるぞ!!お前等は空賊の中でも最弱かもしれねぇが、ガキにまで負ける訳ねぇよなぁ!!?」
そう吠えるシャーク。
船から、わぁっと、雄たけびを上げながら、賊達が下りて、島へと向かって行く。
島の中央、洋館に似た場所から、15歳から20歳くらいの子供達が、何事だと、砂浜へと駆けて来て、直ぐにヤバイ状態だと気付き、飛行機に乗り込もうとした連中もいたが、既に飛行機は壊されている。
洋館へ逃げる連中と、賊と戦おうとする連中と、怯えてその場に蹲る連中と・・・・・・。
シャークは、そんなカオスと化した砂浜を、シンバを肩車しながら、歩いて行く。
悲鳴を上げながら、シャークに向かって来る奴を片手で払い飛ばし、目指すは洋館。
道はどこかにあるのだろうが、道を捜す必要はない。
大きな草木は兎も角、大きな木でさえ、剣で薙ぎ倒し、洋館へと向かい、あっという間に辿り着く。
シャークの頭にしがみついて、シンバは、洋館を見上げる。
シャークは、大きな扉をノックもせず、当たり前のように蹴り壊し、中に入った。
そして、ぐるりを見回し、階段を見つけ、登って行く。
「オジサン? どこへ行くの?」
「ラガルトは外にいなかっただろう、なら中にいるだろうよ、もしくは奴等が手に入れた旗がある筈だ。俺様のアレキサンドライトの旗を返してもらう」
「そうなんだ・・・・・・」
「あぁ、そうか、シンバ、お前、人の存在がわかるんだったな?」
「うん、風の流れで」
「なら、この館のどこかに人がいる気配があるのはわかるのか?」
「わかる」
「それならそうと早く言え。どこに人がいる?」
「えっと・・・・・・下から風を感じる・・・・・・」
「下?あぁ、だから、俺様が上に行く事に、どこに行くのかと聞いたんだな?」
と、シャークは階段を降り始めた。
「どこの部屋だ?」
「もっと下」
「もっと?」
「うん、えっと、風は、あっちからするかな・・・・・・」
シンバが指差す方へ歩いて行くシャーク。
ふと、シンバは、振り向く。
「どうした?」
「あ・・・・・・ううん・・・・・・」
風が背後から感じた気がしたが、直ぐにその気配が消えたから、シンバは首を傾げながら、前を向いて、あっちとまた指を差す。
シンバの言う方へ行くと、地下へと続く階段が。
シャークはフンッと鼻で笑い、階段を降りていく。
薄暗いのが少し怖くて、シンバはギュッとシャークの頭にしがみつく。
暗がりだろうが、階段が揺れようが、カビ臭いニオイがしようが、ガンガン進むシャーク。
そして、扉が浮かび上がり、シャークは蹴破った。
大きな扉が一蹴りで、簡単に壊れる。
煙がモクモクしている部屋の中には数名の少年達が煙草を吸っていた。
何事かと咳き込む少年もいて、シャークは、
「煙が好きなガキ共だな」
と、部屋の中へ入った。一人の少年が銃を持ち出し、シャークに向けるが、そんなのお構いなしで近づいて、銃を握っている少年の手をそっと握り、
「ここを狙わないとな」
と、自分の胸に銃口を押し当てるから、少年は震えて、シャークを見ると、その怖すぎるシャークの顔に、銃を握ったままストンと座り込んでしまった。
シャークは銃を取り上げて、
「安全装置ってのがあるのを知ってるか? それを外さねぇと、弾き金を引いても弾は出ねぇぞ」
と、手慣れた風に銃を持ち、そして、少年の額に銃口を向け、構えた。
「オジサン! やめッ――!?」
シンバがやめてと言う前に、シャークを弾き金を弾いた。少年は小便を垂らし、涙もヨダレも垂れた顔で、ヒィッと声をあげたが、生きている。
シャークはチッと舌打ちをし、
「弾が入ってねぇじゃねぇか。しかもエアガン!!?」
と、銃を叩き壊し、捨てる。
別の少年が、椅子を振り上げて、シャークの背中に叩きつけた。椅子はぶっ壊れたが、シャークは振り向いて、少年を見る。少年は後退しながら倒れ、座ったまま、後退して行き、シャークは、その少年が壊した椅子のカケラを手に持った。
尖った木片を見て、ニヤリと笑ったかと思うと、それをシュッと投げて、壊れた扉の柱に突き刺した。
今、逃げようとした少年達が、その木片で逃げれなくなる。
「ここにいねぇのか? お前等のリーダーは?」
そう言ったシャークに誰も答えないから、
「ラガルトはいねぇのかって聞いてんだろ!!!!」
と、怒鳴ると、
「ラ・・・・・・ラガルトはここにはいないよ・・・・・・ここは僕達のアジトだから・・・・・・ラガルトは・・・・・・・ラガルトは・・・・・・」
震える声で、そう言いながら、シャークに向けて、煙幕を投げた。もくもくと色のついた煙が部屋に広がり、
「小賢しい連中だ」
と、シャークは呟き、
「おい、シンバ! 奴等の動きを俺様に教えろ」
そう言ったが、
「無理だよ、だってこの部屋には窓がないし、ゲホッ、みんなが纏ってる風はこの部屋に漂うだけになってて、ゲホゲホッ、ガハッ! 風の動きがないもん! みんなの動きもわからないよ! ガハガハッ!! ゴホゴホッ!!」
煙に咳き込みながら、シンバがそう言うと、シャークは、舌打ちをし、だが、部屋という狭い空間なら、剣を一振り二振りもすれば全滅かと、剣を握り締めようとした時、背後から、襲って来る影に、シャークは身を低めた。
再び、シャークの舌打ち。
影は、更に、シャークを襲う。シャークは身を低めた為、シンバが襲われると、シンバを片手で、頭から引き剝がし、そして、自分の懐に隠すように抱く。そんなシャークの後頭部を狙う鉄バット。ガンガンガンッと、3発程、一気に殴られ、シャークは、フラッと足元がよろめき、更にガンガンッと、2発程食らい、シャークは跪いた。
「オジサン・・・・・・?」
しゃがんで、懐の中に隠されるようにして、抱き締められるシンバは不安を感じる。
「オジサン・・・・・・どうしたの・・・・・・?」
人の気配があっても、風が読めないと、直ぐ近くにいるシャークの事さえ、何が起きてるのか、わからない。
只、わかる事は、守られてるって事だと、シンバは、
「オジサン!! もういいから!! ボクを離して!! オジサンがやられちゃう!!」
シャークだって、そうしたいと思っているだろう。
今すぐシンバを突き放し、剣を抜いて、ガキ共を一掃してやりたい筈。
だが、シャークは、シンバを抱きしめたまま、動かず、やられ放題。
シャークが壊した扉から、煙は流れて行ったが、その前に、少年達は逃げたのか、静かになった。
シャークは、それがわからなくて、まだ跪いたまま、動かずに様子見をしている。もし、万が一、何かの罠だったら、動いたら最後、致命傷を負う可能性はある。
子供と言うのは、やりすぎる時がある。
特に仲間がいる場合、平気で、酷い事をするだろう。
そんな事に怯えてる訳ではない、なんとしても、シンバに傷を負わす訳にはいかない。何故なら・・・・・・
何故なら・・・・・・?
シャークは少し考える。
何故なら、今後の目になるからだ。自分の大きな利益になる者を、自分の味方に付けときたいからだと、そう思いながら、だいぶ煙が消えた部屋の様子を、自分の目で確認する。シャークは目だけを動かし、そして、そこに誰か立っている事に気が付いた。
バッと、立ち上がり、直ぐに剣の柄に手を置き、そして、周囲を見回し、少年達が倒れているのを目にし、直ぐに後ろ向きに立っている男を見る。
背中を見せて立っている割には、隙を感じさせないと、シャークは男を見つめる。
シンバは、シャークの足元で、辺りを見回しながら、何が起こったの?と、震える。
少年達は死んでない、只、気絶しているようだ。
「・・・・・・誰だ、貴様?」
シャークが、しゃがれた声で、背中を向けて立つ男に問う。
シャークの足元で、ケホケホと、小さな咳をするシンバ。
シャークは、その男の腰にあるフワフワのシッポのような飾りを見て、
「フォックステイル・・・・・・なのか・・・・・・?」
そう問う。シンバは、フォックステイル?フォックステイルってあの絵本のフォックステイル?と、目を丸くして、男を見る。
「フォックステイルなのか!!? 貴様!!!! やっと俺様の前に現れやがったな!!!! 貴様は絶対に生きて帰さん!!!!」
と、シャークは腰の大剣を抜いて、男の背に向けた。
「シャーク・・・・・・こんな狭い部屋で、その剣は諸刃だろ・・・・・・」
「俺様の心配か?」
「お前じゃない、その子供の心配をしている」
男は顔だけ横を向いて見せて、そう言った。そして、シャークは足元にいるシンバを見て、周りで倒れている少年達を見て、
「貴様がやったのか? フォックステイル? 俺様を助けたのか?」
そう聞いた。
「まさか。助けたのは少年達の方だ。煙はやがて消える。そしたら、シャーク、お前は少年達を皆殺しにしたんじゃないか?」
「成る程、俺様に殺させない為に、コイツ等を気絶させたか。流石だな、あの煙の中、見えるのか? 奇妙な術は健在なのか? だが、俺様に宝はないぞ? お前が狙うようなモノは何も持ってねぇ。なのに何故現れた?」
「その子を奪いに来た」
「あぁ!?」
「その子をもらう」
と、フォックステイルがそう言うと、シンバは、シャークの足元で、シャークのズボンをギュッと握り締めた。
「シンバを奪いに来ただと? ハッ!! コイツの親にでも頼まれたのか? 悪いが、コイツは俺様のファミリーになったんだ。シンバ・アレキサンドライトと名付けた」
と、シャークは、シンバを片手でヒョイっと抱き上げ、そして、大剣の刃をシンバに向けるから、フォックステイルは、思わず、シャークに振り向き、面と向かった。
「ほぅ・・・・・・随分と大人になったようだな? フォックステイル? それともその姿も、また違うのか? 仮面をとれよ、もう騙されるのは懲り懲りだ」
フォックステイルは黙ったまま立っている。
「仮面をとる気はないか。1つ、質問だ、コイツの親がコイツを探してるのか? それでお前が現れたのか?」
フォックステイルは、何も言うまいと思っていたが、
「お前の正体は、リーファス・サファイアか?」
などと言い出され、挙句、シンバが、
「え? 父さん?」
などと、シャークの腕の中で剣を向けられているにも関わらず、キョトン顏で問うから、
「その子の父親の事は知らない。ギャングがフォックステイルを名乗ってるようだから、ギャングにお仕置きをと思っていたら、お前等賊が現れた。賊の中に子供がいたから助けようとした迄だ」
そう答えた。
シャークは、ほぅと、頷き、
「コイツ等・・・・・・フォックステイルなのか?」
と、倒れてる少年達を見回す。
「違う! コイツ等はフォックステイルを名乗ってるだけだ」
「そうだろうか?」
シャークがそう言って、フォックステイルを睨み見る。そして、
「それで貴様が本物のフォックステイルだと言うのか? その証拠は?」
そう聞かれても、証拠などない為、フォックステイルは黙り込む。
「俺様はな、フォックステイルに一度やられてんだ、つまり、奴には会った事がある。貴様は、俺様の知っているフォックステイルとは程遠い」
だからどうした?と、思ったが、シャークに、まさかの事を言われる。
「だが、コイツ等のリーダーは俺様の尤も嫌いなフォックステイルにソックリだ」
と。
まさかフックス王子の事を言っているのか?とも考える。が、コイツ等のリーダーだと言い切ったシャークに、王子の事ではないなと思う。
「奴の喋り口調、小バカにしたような、見下したような、飄々とした感じ・・・・・・ソックリだった」
シャークは、思い出すように少し目を細め、そう言った後、フォックステイルを睨みつけ、
「ところが貴様は全く似てないな。フォックステイルの喋り口調とは思えねぇ」
そう言った後、急に声色を変え、
「シャーク、相変わらずだな、僕の喋り口調はどんな風にでも変えれるさ、どれが僕かな? 子供の声を出そうか? それとも女の声? 好みの声を出してあげるよ」
などと言い出して、
「奴なら、ふざけてそう言う筈だ、だろう? だが、貴様はだんまりだ。あぁ、そうか、奴は芸達者だ。俳優顔負けの演技もするからな、今は貴様のようなクールガイを演じてるってトコか? 笑えねぇな」
そう言って、フォックステイルを伺うように見ている。
フォックステイルは黙ったまま。シャークは、フンッと鼻で笑うと、
「どけ。ここに俺様が探してる旗はないようだ。偽物フォックステイルにも興味はねぇ」
そう言うから、偽物じゃないと言いたいが、そこはどうでもいいかと、フォックステイルは、
「子供は置いて行け」
そう言った。だが、
「だったら、俺様から引き剥がしたらどうだ? 偽物」
と、簡単にシャークはシンバを手放さない。それどころか、シンバは、シャークにベッタリだ。シッカリとシャークの足にしがみついている。
こんな時、フォックステイルならどうするんだ?と、フォックステイルが悩んでいる。
「それともシンバ自身に決めさせるか? おい、シンバ、あの仮面付けた妙な奴と、この俺様と、どっちに付く?」
シンバは、
「オジサン」
と、即答。
フォックステイルが子供から選ばれないなんて有り得ないと、フォックステイル自身が信じられないと思っている。だから、
「ちょっ、ちょっと待てよ、行くな! なんでだ!? シャークといる方が不安じゃないのか!? 理由はなんなんだよ!?」
と、焦った台詞が口を吐く。
「ボク、気付いたんだ。オジサンの後をコソコソ隠れて付いて来てたよね? ボクがここにオジサンを案内している時、妙な風を背後から感じた。今、アナタから出てる風と同じ風。オジサンの影に隠れて、何をしようとしていたの?」
「な、何って、それは・・・・・・」
隙を見て、現れるタイミングを見計らっていたとは、言えない。そんな事を言って、子供に選ばれる筈はない。
今、シャークが、シンバと一緒に、その部屋を出て行く。
シャークが、傷1つ与える事なく、バトルする事もなく、去って行く。
目の前にいるのに、手を出さずに。
つまり、それは、シャークから、偽物のフォックステイルだと思われたと言う事だ。
挑発で言った訳ではなく、本気で、本当に、偽物だと思われた。
フォックステイルは、シャークを追う事も、止める事もできず、只、立ち尽くしていた――。
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