4.最後まで
フォックスイヤーを操縦するスカイの隣でゲームをしているフックス。
手のひらサイズのゲーム機相手に真剣に向き合っている。
「スカイ、グラシスへ向けて出発しろ」
セルトがそう言うから、やっぱりグラシスから捜すのか?と、スカイは高く飛んだ後、平行飛行しながら、方向確認。
「・・・・・・おい」
スカイがフックスに声をかけるが、返事はない。
「おいって!」
再び声をかけるが、返事はない。
「おい王子って!!!!」
スカイがそう怒鳴ると、フックスは、チラっとスカイを見て、
「なに?」
と、やっとの返事がソレ。イラッときたスカイが、
「フォックスイヤーは2人操縦もできんだけど!!」
と、苛立った声を出して言う。
「へぇ」
と、頷くだけのフックス。
「操縦しようって気にはなんねぇの!!?」
「ならないね」
「オイラが1人で操縦してるのを見て、大変そうだなとか、手伝いたいなとか、思わない訳!!?」
「思わないよ」
「お前どういう育ちしてんだよ!!?」
「キミよりはいい育ちしてるよ」
「んだとぉ!!?」
スカイがそう怒鳴ろうとした時、後ろの席に座っているセルトが、
「うるっせぇ!! 静かにしろスカイ!!」
と、スカイに怒鳴った。なんでオイラなんだよ!?と、スカイはクソッ!と呟いたのと同時に、フックスもクソッ!と、呟き、スカイを見て、
「キミのせいでゲームオーバーになったよ、黙って操縦しなよ、うるさいんだよ、ホント!」
なんて言いだすから、スカイは、
「誰のせいだと思ってんだ!!?」
と、更に大声を出す。
「誰のせいなの?」
「お前だよ、お前!! 王子様!!」
「そんなにオレに操縦してほしいの?」
「そうじゃねぇけど、操縦手伝おうか?とか、そういう気持ちになんねぇのか!?」
「だって、手伝うには、それなりの知識が必要でしょ?」
「オイラが教えてやるよ」
「別に興味ないから、教わろうとも思わないんだけど」
「お前のそういう態度が腹立つんだよ!! 大体さぁ、操縦してる隣でゲームするか!? 態度悪すぎるだろう!!」
「オレの態度が悪い? これでも静かに操縦してもらおうとしての態度なんだけど。でもそれを言うなら、そっちの態度も相当なもんだよ」
「オイラの態度が腹立つとしたら、お前のせいだっつーの!!!!」
言い合いをしているスカイとフックスに、犬猿だなとセルトは溜息を吐きながら思い出している。
サードニックスでの事――。
船長室で、皆に集合してもらい、横たわるガムパスに、シンバを探す為、船を降りたいと伝えたセルト。
当然、皆、納得はしなかった。
『セルト、今、ギャングが賊を狙ってるって時に、お前が船を降りるってどういう事だ』
『お前がいない間にサードニックスがギャングに狙われたらどうするんだ』
『オヤジがこんな状態の時に長い時間、船を降りるなんて有り得ねぇだろ』
皆がそう言って、大反対の中、
『セルト・・・・・・行っていいぞ・・・・・・』
そう言ったのはガムパスだ。
ザワつく中、セルトは、ガムパスの隣で跪き、
『オヤジ・・・・・・すまない・・・・・・』
そう言うと、ガムパスは、フンッと鼻で笑い、
『悪いと思わねぇ事を謝罪の言葉で誤魔化すんじゃねぇ』
そう言って、
『だが・・・・・・儂の責任でもあるしな・・・・・・セルトやスカイのガキの頃と同じかと・・・・・・1人で大丈夫だと・・・・・・思っちまったからなぁ・・・・・・セルトやスカイが特別だったんだな・・・・・・ガキなんて皆同じと思っちゃいけねぇか・・・・・・すまなかった・・・・・・』
と、謝罪の言葉を口にするから、余計に、皆、ザワつく。
『オヤジは悪くねぇよ! おれが一緒に付いて行けば良かったんだ・・・・・・そこまで頭回らなかった。兎に角おれは捜しに行く!』
と、立ち上がるセルトに、皆が、待て待て待てと、口々にそれはダメだと言いだした。そんな連中に、
『情けねぇなぁ・・・・・・』
と、ぼやいたセルト。それは自分自身への言葉だと、皆、思っていたが、
『テメェ等、最強のサードニックス名乗ってんだろうが!!』
と、セルトは、皆に怒鳴る。
『それとも何か? おれがいなきゃ最強じゃなくなるのか? オヤジが寝てたら最弱なのか? お前等全員1人1人、最強のサードニックスだろうが!!』
皆、そのセルトの台詞にシーンと静まる。
『言っとくぞ、おれは、オヤジ亡き後、こんな最弱のテメェ等を背負わされるのはゴメンだ。こんなんだったらサードニックスは終わりだ!』
オヤジの前で、そう吠えたセルト。
『おれなんていなくても、最強のサードニックスでいてくれよ』
そう言って、その部屋を出て行こうとしたセルトに、
『セルト、お前は、サードニックスと、迷子のガキと、どっちが大事なんだ』
と、誰かが言った。セルトは足を止め、
『なんだそれ? 女みてぇな事言った野郎は誰だ? 今、言った奴、出て来い』
と、皆を見回す。誰も出て来る様子はなく、セルトが舌打ちした時、
『セルトの言う通りだ・・・・・・セルトがいなくなれば・・・・・・テメェ等はサードニックスの賊として・・・・・・やってけねぇのか・・・・・・? 情けねぇ連中ばかりだな・・・・・・セルトが一番若いんだぞ・・・・・・テメェ等がセルトを超えてねぇでどうすんだ・・・・・・若造に全部持ってかれてヘラヘラしてんじゃねぇぞ・・・・・・お前等はサードニックスだろうが!!』
ガムパスがそう言って、皆、ガムパスを見る。
『テメェ等は・・・・・・儂やセルトの背に隠れて・・・・・・最強を背負った気になっている連中ばっかなのか・・・・・・そうじゃねぇなら・・・・・・黙ってセルトを行かせてやれ・・・・・・』
ガムパスがそう言った後、セルトは部屋を出て、ドアを閉めた。ドア越しに、
『でもオヤジ! アイツは次のキャプテンだろう!? 他にオヤジの名を背負えるような奴はいねぇだろ!』
『いつまでセルトを候補にしとくんだ、さっさと次期キャプテンだと、言ってやったらどうだ、オヤジ!』
『そうだ、セルトがいつまでも好き勝手してるのは、早く次のキャプテンの座を言い渡さねぇオヤジにも責任あるだろう』
『こんな事になるなら、スカイをサードニックスから破門するべきじゃなかっただろう!』
と、皆の声が聞こえた。
セルトは、大きな溜息を吐いて、ふと、バチッとフックスと目が合うから、
「え? な、なんだ? どうした?」
と、振り向いて、ジィーっと見て来るフックスに問う。
「さっきから溜息ばっか吐いてるから」
「あぁ・・・・・・ちょっと疲れてるだけだ」
「後、セルトさんって、オレと初対面だよね?」
「え!? あー・・・・・・そうだっけ・・・・・・?」
「でも会った事ある気がしてさ」
「あぁ、そりゃ、えっと、カーネリアンには何度か買い物に行ってるし、町で賊が騒ぎを起こしたら、王子がフォックステイルになって現れるのも見てるから、それで王子も、見物人のおれを見た事があるのかも」
「ううん、そんなんじゃなくて」
と、セルトの腰にあるフォックステイルをジィーっと見て来るフックス。参ったなと、セルトは苦笑い。
フックスが11歳だったか、12歳だったか、それくらいの時に会ってるんだよなぁと、セルトは思い出す。
スカイと戦う為、風祭の時に、アレキサンドライトの船で、エクントへ乗り込んだ時だった。
賊がエクントを襲ってる中、セルトはスカイを探しながら、人々を避難させていた。
その時に『フォックステイルだ』と、フックスはセルトに言ったのだった。
懐かしいなぁと、思う反面、あの時の事を思い出されたら、イロイロと面倒だなぁとも思い、セルトは、
「まぁ、どこにでもある顏だからな」
と、言ってみる。そうかなぁと、首を傾げるフックス。
「てか、セルトは、オイラとよく一緒にいるし、そん時に見たんじゃねぇの?」
スカイがそう言って、フックスが、そうかなぁと、また首を傾げる。
「なんかね、オレ、昔、フォックステイルに会った事あるんだけどさ、その記憶はあるんだけど、顏が想い出せないって言うか、絵本のフォックステイルとは、ちょっと違った感じだったような気がしてさ、でもフォックステイルだったんだよ、その彼はさ、セルトさんに似てたなぁって思って」
そう言いながら、セルトをジィーッと見るから、セルトはどうしていいかわからず、思わず、視線を逸らしてしまい、余計怪しいだろ!と、自分に突っ込んでると、スカイが大笑いしながら、
「良かったじゃん、セルト! 大好きなフォックステイルに似てんだってさ」
と。
「セルトさん、フォックステイル好きなの?」
「絵本とか買いまくってんだぜ! 変だろう?」
と、笑いながら、フックスに答えるスカイに、ホッとするセルト。ここはスカイに話を合わせようと、
「うるっせぇ! 面白ぇんだよ、フォックステイル! 大人でもハマる奴はハマんの!」
そう言って、笑ってみせる。
フックスはフーンと頷いて、前を向くから、更にホッとして、胸を撫で下ろした。
「てか、お前、フォックステイルに会った事あんの!!?」
と、今更、ビックリした声を上げるスカイに、そうだよ、そこで驚かなきゃおかしいよなと、セルトも、
「本当にフォックステイルに会った事があるのか!?」
などと言ってみる。フックスは頷いて、振り向いて、セルトをジィーッと見て来るから、別の話題にならないかなぁと、冷や汗タラタラだ。
「そろそろグラシスに着く」
スカイがそう言って、
「え? もうか? レイドエリアに入ってるのか?」
と、セルトが言うから、
「とっくだよ、飛行船じゃないんだ、飛行機だぜ? それにオイラが操縦してんだ、スピードは光の如くだっつーの!」
なんて言われ、凄いなと、セルトは思う。
「そういやぁ、おれ、お前の操縦する飛行機なんて初で乗ったな」
「そうだな」
「お前、いつも1人乗りのウィッシュスターだもんな」
「あぁ」
「この飛行機は何て名前だっけ?」
セルトがそう聞いて、フォックスイヤーと、スカイは答えた後、
「そういやぁさぁ、王様さぁ、フォックスイヤーとイロイロ話してたみたいだけどさぁ、飛行機と対話できんのかなぁ」
なんて言うから、
「ないないない」
と、鼻で笑いながら、フックスが答える。
「そうかなぁ、王様と何か話してる風だったんだけど、それからフォックスイヤーがヤル気出してるっぽいんだよね。オイラの操縦に素直に従ってるしさぁ」
スカイがそんな事を言うから、セルトは、もしかしたらフォックステイルとして活躍してる時に、この飛行機と何かあったのかなぁと思う。その時、小さな電子音が鳴った。
あ、ピアスの・・・・・・と、セルトは、カモメに言われた通り、小さなボタンを爪で押してみる。
『セルト、聞こえるか?』
ツナの声が聞こえ、思わず、
「はい!」
と、返事をしてしまい、何?と、フックスが振り向いて、
「どうした? セルト?」
と、スカイが言いだし、
「は、は、ハイペースだな、スカイ!!」
と、誤魔化してみるが、フックスは妙な顔で、ジィーッと見て来るから、迂闊に喋れなくなる。
『今どこだ?』
いや、どこって、喋れない事を察して下さい。
『あれぇ? セルトぉ?』
と、今度はパンダの声。
『喋れないのかも』
と、カモメの声に、心の中で、その通り!と、頷く。
『とりあえず、まだ飛行機で移動中なら、シャークの船を追ってくれ、飛行機なら追いつくだろう?』
ツナの声に、シャーク?と、眉間に皺を寄せるセルト。
『だから今、セルト達がどこらへん飛んでるのか、わからないから、追えって言われても、方向がわからないでしょ』
カモメの声に、
「もうすぐグラシスに着くんだよな? スカイ?」
と、セルトが言う。スカイは、だからそう言ってんじゃんと――。
『もうすぐグラシスか、なら、無線で、サードニックスの船はどこら辺にあるのか聞いて、サードニックスの船がある方向へ向けて飛べば、シャークの船に会える筈だ』
ツナがそう言っているが、だから、シャークの船って!?と、セルトは、どうしたら伝わるだろうかと考えていると、
『シャークが小さな男の子と、グラシスの町を出たっていう目撃者がいてね、その小さな子ってのが、シンバくんに似てるんだ』
と、パンダ。マジかよ・・・・・・と、セルトは驚愕の表情。
『どうやら、ギャングらしい連中ともめたみたいだ、そういう目撃情報も得た』
と、カモメ。更にマジかよ・・・・・・と、セルトは驚愕の表情のままフリーズ。
『サードニックスの旗を狙うような話も出てたらしい』
と、パンダ。
『シャークがギャングと手を組んだのかは謎だけどな、ガキ連れてくってのも謎だ。リーファスのガキだとわかっての事で、何か企んでんのかもな』
と、ツナ。
『ここからはオラ達の憶測に過ぎないんだけどね、シャークは乗り物を手に入れると思うんだ、グラシスは賊が結構来てるし、空賊も利用する町の1つだよね?』
と、パンダ。
『飛行船を奪ったんじゃないかな、今頃、奪った飛行船で、サードニックスがいる船に向かってると思う』
と、カモメ。
「今、サードニックスは、寝たきりのオヤジしかいないんです、そこにシャークが現れたら・・・・・・」
小声で、そう言ったセルトに、
『サードニックスへは俺が向かってる』
と、ツナ。
『オイラは煙の中でも見えるゴーグルを急遽作る事になって、カーネリアンにいるんだけど』
と、カモメ。
『オラもカモメと一緒に作る事になったから、カーネリアンにいる』
と、パンダ。
『あのさ、何もしてないのかって思われたら嫌だから、言うけど、ボクがグラシスで聞き込みしたんだからね』
と、シカ。
「でももしシャークとギャングが組んでたら、煙幕で見えなくて、ツナさんだけでは・・・・・・」
セルトがそう言うと、
『ギャングは俺だけで大丈夫だ、煙で視界が失われても、俺は見えるんだ』
と、ツナ。
『目の見えないライガさんとの修行の成果を発揮する時だね』
と、パンダ。
ライガさん?と、セルトは知らない人だと思うが、今はそんな事どうでもいい。
「じゃぁ、おれはシャークをなんとしても止めて、シンバを救います」
と、セルトは通信を切る。
ジィーッと見て来るフックスを無視して、
「スカイ! サードニックスと無線で連絡とってくれ、今、どこら辺を飛んでるか聞いてくれないか? わかったら、そっち方向へ飛んでくれ」
と、セルトが突然そんな事を言うから、スカイは、ハァ?と、思うが、とりあえず、無線でサードニックスに連絡してみる。
「さっきからブツブツ独り言?」
と、フックスが問うので、
「あ、いや、おれ、考え事する時、口に出して言う癖あって。それで、思い出したんだけど、シャークらしい奴がシンバ連れてるかもしんねぇ」
なんて突然のセルトの台詞に、スカイが、
「ハァ!? シャークが!? シャークって、あのシャークか???」
と、驚きの声を上げる。
「あぁ、なんか、サードニックスに乗ってた時に、無線で、そういう会話を拾った気がして、シンバかどうかは、わかんねぇんだけど、ガキ連れてるって言ってた気がしてさ、もしかしたらシンバかもしんねぇなって、今思ったんだ。んで、グラシスで目撃されてたなって。まぁ、それが誰の会話かもわかんねぇんだけど、デマかもしれねぇし。でも、もしシャークなら、サードニックスを狙うだろう? で、グラシスで目撃されたっつー事は、どっかの賊の飛行船でも奪って、サードニックスに向かって出発してんじゃねぇかって思って」
「そういうの早く言えよ!!」
と、スカイに怒鳴られ、
「悪い、今、なんか、思い出したんだよ、急に! きっとどっかで気になってたんだな、だからおれ、グラシスを捜した方がいいとか思ってたんだ」
と、セルトは、無理あるかとも思うが、そう言って、誤魔化す。
ていうか、なんでシャークが!?と、スカイもセルトも困惑状態だ。
フックス1人が落ち着いている。
その頃、サードニックスには、スカイからの無線が入っていた。
グラシスからだと、数時間程、南へ行った所の上空だと伝え、スカイが直ぐに行くと言うが、何故来るのかは言わないまま無線が切れたので、首を傾げる船員。
「セルトも一緒なんだろ? もうガキが見つかって、セルトを送りに来るって事じゃないか?」
「あぁ、きっとそうだな」
と、呑気にそんな事を言っていると、
「飛行機らしきモノがコチラへ向かって来る!」
と、見張り台から連絡が入り、
「飛行機? スカイか?」
もう来たのかと、そう思ったが、
「スカイの飛行機じゃない、ギャングかもしれない、全員持ち場に付け!」
そう言われ、皆、戦闘時の位置へと走り出す。
だが、来た飛行機は一機。
しかも船のデッキに降りれるような飛行機ではない。
一瞬にして、その飛行機は、飛行船スレスレを通り抜けた瞬間、誰かが飛び降りた。
皆、一斉に武器を構える。
飛行機から飛び降りた男は、顏に仮面をつけて、腰にはフォックステイル。
そして長剣を携えているから、皆、警戒しながら、男を取り囲む。
男の背後には大きな白い犬が攻撃態勢でいるから、皆、その犬にも驚きを隠せない。
そして誰かが、
「フォックステイルだ・・・・・・」
そう呟くと、また誰かが、
「フォックステイルだぁぁぁぁ!!!!!」
と、誰かが叫び、皆、殺気立つ。
「フォックステイル!! 貴様ぁ!! このサードニックスの船に何の用だぁぁぁぁ!!?」
剣を向けて怒鳴る男に、
「心配するな、何もしやしない。不本意だがお前等の味方だ」
と、その声はツナだ。ツナはフォックステイルとして裏方だった為、声色を変えれない。
だが、誰もツナの事など、知らない。
カーネリアンの騎士隊長である人物など、知る筈もない。
だから、皆、殺気立ち、
「キツネぇぇぇぇ!!!! お前のうまい口車に乗ると思うかぁぁぁぁ!!」
などと怒鳴り散らしている。ツナは、溜息を吐きながら、
「俺のヘタな口車に乗っとけ。もしかしたら、後少しでここにギャングが現れるかもしれねぇ。ソイツを一緒に叩き潰してやるってんだから」
などと言い出し、皆、ざわつく。
「ギャングを叩き潰すだと!? 何の為にだ!? フォックステイルのやる事じゃねぇだろう!!」
「ギャングがフォックステイルを名乗ってるかもしんねぇからだ」
「なんだと!?」
「兎に角、俺はここで奴等を待ち伏せる」
「ここはサードニックスの船だ!! キツネに好き勝手させる訳にいかねぇ!! それにな、お前がホンモノのフォックステイルかどうかは知らねぇが、お前1人で何ができる!!」
「俺は目を閉じて、お前等と戦う事ができる」
そう言ったツナに、
「テメェ・・・・・・最強のサードニックスの船の上で、サードニックスの俺達に向かって、よく言えたな・・・・・・」
と、余計に、怒りを買ったようだ。
「ハッ! フォックステイルよぅ、俺達はな、賊の中でも最強と言われるサードニックスだ。お前が妙な奇術を使うフォックステイルだからと言って、目を閉じて、俺達の相手ができるって事はだ、見えなくても戦えるって事になると思わねぇか?」
そう言った奴に、ツナは、
「そういう事だ。だから俺はギャングと戦えるんだ」
そう言うから、皆、隣にいる奴と見合い、黙り込む。
「つ、つまり、アレか? お前、ギャングの煙幕の中でも見えるのか? 何か妙な術でも唱えて見えるようにするのか?」
そう言われても、しょうがないだろうなと、ツナは思う。
フォックステイルは魔法使い。
魔法を使って、賊達をギャフンと言わせてきた。
だが、こればかりは魔法じゃないし、種も仕掛けもないが、
「そういう事になるな」
と、フォックステイルとして、ツナはそう言った。
皆、シーンとする中で、
「だからと言って、フォックステイルと組む訳にはいかねぇ!!」
誰かがそう叫び、皆、そうだそうだと武器を掲げ出す。
「俺だって賊と組むなんて嫌に決まってんだろ!!」
ツナがそう怒鳴ると、皆、またシーンとする。
「利害関係が一致してんだ、俺は偽フォックステイルを捕まえる、お前等は旗を守る。今は賊だの、フォックステイルだの、ゴチャゴチャ言ってる場合じゃねぇだろ。それともあれか? 賊の癖にプライドが邪魔して、天敵のお情けを受けれねぇってか? そうだな、最強のサードニックスが、フォックステイルに助けてもらったなんて噂が広まったら、そりゃ情けねぇって、賊の地位でも変わるか!? だが賊である事自体既に情けねぇだろ、今更じゃねぇか」
「テメェ、言いたい放題抜かしやがって・・・・・・」
「あぁ、言いたい放題言わせてもらう、俺は賊が大嫌いだからな! でもテメェ等は賊の中でも最強なんだろ? だったら、どんな噂が広まろうとも、ドーンと構えてりゃいいだろ!! 誰と手を組もうが、何をしようが、関係ねぇ、サードニックスのやる事に、誰も文句付けさせねぇってくらい言ってみたらどうなんだ!? サードニックスって器にいい気になって、粋がってるだけか!? お前等賊なんてやってる最低な人間は、いっちょまえにプライドなんて持って生きる価値なんてねぇ事ぐらい、自分達でもわかってんだろ! 言っとくぞ、俺にとったら、賊に最強も最弱も関係ねぇからな!! 賊は賊だからな!! 賊のトップなんざ、全うな人間にとったら、底辺なんだ、お前等のプライドなんてゴミの価値もねぇぞ」
サードニックスをここまでバカにされ、貶され、皆、拳を握りしめ、今にも怒り狂いそうだが、
「言ってくれるじゃねぇか。そこまで言うなら、お前の奇術とやらを拝見しようじゃねぇか。本当に目が見えなくても戦えるなら、やってみろ。但し、お前に手を貸す奴は誰もいねぇがな!」
誰かが冷静な声色でそう言って、皆、怒りを堪え、頷く。
「それはここで待機していいって事か?」
「好きにしたらいい。だが、ギャングがいつ来るのか知らねぇが、その前に俺達の誰かに背後を狙われねぇように気を付けるんだな、なんせプライドのねぇ奴等ばっかだ、平気で卑怯なやり方をする連中だ、そしてここは血の気の多い賊の船だ、意味もなく殺されてもしょうがねぇよなぁ」
そう言われ、ツナは、
「好きにしろ」
と、俺の背後を狙ってる時間はない、ギャングはもう直ぐ来る筈だ…と、呟きながら、後ろにいた大きな白い犬の頭を撫でる。その犬は、リブレの子で、狼であり、名をアリオトと言う。
リブレは子を7匹生み、ドゥーベ、メラク、フェクダ、メグレズ、ミザール、ベネトナシュ、そしてアリオトと、7つの星の名から名付けられた。
その中でも、ツナにとても懐いたのがアリオト。
そして、フックスに懐いているのがベネトナシュで、皆からナシュと呼ばれている。
「アリオト、いいか、煙幕で視界が全部奪われる、鼻もやられる覚悟しておけよ、耳だけが頼りだ」
そう言っているツナをジィーッと見つめるアリオト。そんなアリオトの頭を撫でながら、自分も神経を高ぶらせなければと、腰に携えた長剣の柄をグッと強く握る。
「おい! また飛行機がこっちへ向かって来てるぞ!!」
誰かがそう叫び、ツナは、その叫び声の方へ走る。デッキの東側。数名の賊が遠くを見るようにして指を差しているから、
「ギャングだ!! 全員、持ち場に付け!!!!」
ツナがそう吠え、何故お前が指図を!?と、思った連中も、
「東方向!! 数機の飛行機発見!! コチラへ真っ直ぐ向かって来る!! 全員戦闘時の位置に付け!!」
と、誰かの大声で、船内は慌ただしくなる。
ツナはホッとする。何故なら、まだ飛行船の発見報告はない、つまりシャークはいないって事だ。ギャングだけなら何の問題もないからだ。
ツナはアリオトを見て、ニヤリと笑い、
「ガキにシッカリと説教してやらないとな」
そう言うと、アリオトは、ツナの余裕な態度に、自分も余裕な表情で返し、グルルルルと喉を鳴らした。
飛行機は、サードニックスの飛行船の真横から、真正面と、真後ろへと分かれて飛ぶ。
飛行機相手に大砲や爆弾は使えない、狙いが小さすぎる。敵を飛行船へ、わざと招き入れるサードニックス。数機の飛行機がデッキへ降り立った瞬間、他の飛行機が色とりどりの煙幕を出しながら飛行船の周りを飛び回る。
デッキに降り立った飛行機から人影が数名飛び出した。
「まず一匹」
と、ツナは、影の後頭部にガスンと一発食らわし、気絶させる。
「二匹目」
まるで見えているかのような動きで、ツナはまた1人を気絶させる。
「三匹、四匹」
順調に気絶させる。
サードニックスの賊達は煙幕の中、煙を手で払うようにして、辺りを手探りで動いているが、敵か味方か、わからない影に、武器は抜けず、
「おい!? お前誰だ!?」
と、声を掛け合っている。
アリオトが何匹倒したかなと、ツナは思いながら、そして、何匹いやがるんだ?とも思いながら、人影を叩き潰し、何人か間違ってサードニックスの連中を潰してしまった。
仲間がやられてると思ったギャングの連中は、催涙ガスを使おうとしたが、ツナが、
「おっと! それはダメだ」
と、ソイツの手を握り、後頭部に一発入れて気絶させて。
もしかしてヤバイ状態か?と、やっと気付いたギャングの連中は、何人か飛行機に戻り、2機程、逃がしてしまった所で、
「・・・・・・なんだ?」
ツナが何かを感じた。
もう一機飛行機が近づいて来る音。
「カモメか?」
だが、イヤフォンから連絡は何もない。
アリオトも煙の中、音が近づいて来る事に唸り声をあげている。
「セルトでもないのか? じゃぁ、まだギャングが来るって言うのか?」
返り討ちに合うと思わないのか?と、ツナは、剣を構えた瞬間、上から誰かが降って来た。
スタンッと、目の前に降り立ったソイツの気配に、ツナは戸惑う。子供の雰囲気ではないからだ。
「シャーク? いや、違う、誰だ?」
ギャングの親玉か?とも思うが、ソイツが、剣を振り上げて来た事に、ツナは驚く。
「剣を使うのか?」
と、剣を剣で受け止め、相手の攻撃を全て払い、コチラの攻撃を仕掛けていくが、攻撃が当たらない。勿論、ツナに殺す気はないが、殺す気で剣を振るっても、攻撃は当たらないだろう、それ程、相手は剣の使い手。
しかも、その動きに覚えがある。
「バニ!?」
ツナは相手にそう言って、相手の剣を受け止めた。煙で視界は奪われているものの、相手の気配、空気、影、その全てが、ツナのよく知っているバニに似ている。そして、その剣裁きは絶対にバニだと確信させる。
「待ってたよ、フォックステイル」
ツナにそう囁く影の声もバニだ。
「待ってた?」
剣を強く押され、押しながら、お互い、囁く。
「エル・ラガルトを調べて」
バニらしき影はそう言うと、バッと、後ろに後退し、ツナから離れた瞬間、もう一機の飛行機の音。
それは誰もが気付く程の大きなプロペラ音。
『ツナ!』
「カモメ?」
イヤフォンから聞こえた声に返事をするツナ。
『今、飛行機で目的地上空にいる!煙で包まれてるサードニックスの船を発見したから、風で煙を吹き飛ばすね!』
「お前、できたのか?」
『勿論! 持って来たよ! 船の先端に落とすからね!』
「わかった」
イヤフォンからそう聞こえた後、一気に煙が辺りから消えていき、まるで霧が晴れたように目の前に光が戻る。
大きな飛行機が風を連れて来て、煙を吹き飛ばしたのだ。
そしてその飛行機は船の先端に、まるでサンタクロースが持つような大きな袋を落とし、飛び去った。
なんだ?なんだ?と、サードニックスの連中は辺りをキョロキョロし、大きな袋に警戒する。
ツナは、バニを捜そうとキョロキョロ。
今、バニらしい奴が飛行機に乗り、飛び去るのを見る。
その飛行機が飛び去った瞬間、また煙幕が撒かれるから、ツナは、大きな袋に駆け寄って、中を漁り出し、そして中の物を、一番近くにいた男に投げつけ、
「付けろ! 煙の中でも見える筈だ!!」
そう叫んだ。それはカモメが作っていた煙の中でも見えると言うゴーグル。
ツナはゴーグルを何人かに投げ、
「まだ残ってるガキ共を逃がすな!! 全員とっ捕まえろ!!」
そう吠える。
あたふたしながらも、ゴーグルを付けた連中は、視界がハッキリ見えて、敵となるギャングの姿も見えるようになり、例え、サードニックスの中で一番弱かったとしても、ガキ相手に負ける訳もなく、残ったガキは全員、サードニックスに捕らえられた。
勿論、サードニックスの旗も無事だ。
そして、煙が綺麗に消えた頃、漸く、皆、船の上、全てを見る事になった。
袋の中には、まだゴーグルが沢山あり、
「それがあれば、ギャングにやられる事はねぇだろ」
と、ツナに言われ、だが、
「なんで…フォックステイルが俺達を助けてくれるんだよ…?」
と、皆、ツナを信じていいのか、わからず、だが、ツナの言う通り、ギャングが来て、煙幕の中、この何人か気絶している子供はツナがやった訳で…。
やっと、今、フォックスイヤーが到着。
デッキの上に縛り付けられた子供達を見ながら、何事だ!?と、スカイとフックス、そしてセルトが船に降り立つ。
「おい! セルト! ギャングが来たんだが、フォックステイルも現れやがって!!」
セルトは、イヤフォンで、ツナが、サードニックスへは俺が向かっていると言っていたから、ツナがいるんだろうと思い、キョロキョロ船内を見回しながら、
「…で? そのフォックステイルはどこだ?」
と、尋ねるが、気付けば、フォックステイルの姿はどこにもない。
「おっきな犬を連れてやがったんだが…犬もいねぇな…」
と、誰かが言う。
「おかしいな…どこへ消えた…?」
と、また誰かが言う。
「でも確かにいたんだ! ほら! そのゴーグルを置いて行った!」
と、また誰かがそう言って、大きな袋を指差し、フックスが、その袋の中身を確認。
「あれ? これって、消防隊用に考えてるって言うゴーグルに似てる」
そう言って、フックスはゴーグルを自分に付けて言うから、
「んだよ? 消防隊用って?」
と、スカイが尋ねた。
「煙の中でもハッキリと見えるんだ。これがあれば、ギャングが来ても倒せるね」
と、フックスが言うので、実際に付けた連中が、
「そうなんだ、ハッキリと見えんだよ、景色がそのまま! 煙なんてないみてぇに!」
「まるで魔法だ」
「どういう仕組みになってんだコレ?」
「そんでもって奴はパッと消えていなくなりやがった! 最後まで奇妙な奴だったな」
と、口々に言いながら、持っているゴーグルをマジマジ見ている。
『セルト』
「…ツナさん?」
『俺はまだ船内にいるんだが、全員、デッキから移動させてくれないか? パラシュートで降りるんだが、みんながいるから飛び降りれない』
「わかりました」
イヤフォンからツナの声が聞こえ、セルトは頷きながら、まだ船のどこかにいるのかと思った時、
「おい!! 大変だ!! オヤジの様子がおかしい!! オヤジの部屋にまで煙が入り込んでやがった! 煙が呼吸に入ったんじゃねぇか!!?」
誰かがそう叫び、セルトが何か言う前に、皆、ガムパスの船長室へと走った。
誰もいなくなったデッキに、ツナとアリオトが、そっと忍び足で出て来て、
「フックス王子も行ったよな?」
と、そーっと船の先端に立つ。そして、アリオトのパラシュートを確認し、
「大丈夫だ、途中で開くようになってるから」
と、ツナは、ビビりまくっているアリオトの背中を押して、空へ落とす。そして、自分も飛ぼうとした時、
「フォックステイル?」
と、背後で呼ばれ、振り向くと、フックス王子がいるから、ヤバッ!!と、直ぐに顔を戻すと、
「フォックステイルなの? ホンモノ?」
そう言いながら、近寄って来る足音に、ツナは、急いで空にダイブ!!
フックスは急いで、先端に駆け寄り、下を覗き込む。
強風で、流されたのか、もう既に見当たらないから、船体から体を出して覗き込む。
それでも見つからなかった為、フックスは、皆がいる場所に戻る事にした。
だが、そこは場違いな気がして、居辛いから、デッキに出て来たんだったと思うが、他に居場所もない為、スカイやセルトと一緒にいた方がいいかと戻って行く。
船長室には、皆が勢ぞろいで立ち並び、寝ているガムパスの傍で、大きなガムパスの手を握っているのはセルトだ。
セルトの隣にはスカイ。
「オヤジ! シッカリしろ!」
セルトのその声に、ガムパスは、ゼーゼーと妙な呼吸音を出しながらも、薄っすらと目を開ける。
皆、静かに、ガムパスを見守る。
「全員揃ってるのか・・・・・・」
ガムパスがそう言って、皆、静かに頷く。
「ギャングはどうした・・・・・・?」
ギャングはどうしたのか、その時に、いなかったセルトは説明できない。勿論、スカイも説明できない。だが、
「実はフォックステイルを名乗る男が現れて」
と、誰かがそう言ったのと同時に、皆、口々に言いだす。
「フォックステイルがギャングを追っ払いやがったんだ」
と、
「煙の中でも相手の動きが見えるとか言いやがって」
と、
「でも確かに見えてたようで、数名のガキを叩き潰しやがって」
と、
「妙な奇術は健在みたいだったよな」
と、
「だが、アイツ、ホンモノか? ここ数年、フォックステイルは姿を消してたんだ、それが・・・・・・」
と、
「ギャングがフォックステイルを名乗ってたから現れたとか言ってなかったか?」
と、
「しかも俺達に煙の中でも見えるゴーグルを渡して来やがって」
と、
「何のつもりなんだか知らねぇが・・・・・・」
と、
「気付いたら、奴の姿は消えてたんだ」
と、余りにもワイワイと皆で喋り出すから、フックスは何言ってるかわかんないよと思っていると、
「つまり、ホンモノかニセモノかわからねぇフォックステイルが現れて、ギャングを追い払い、煙の中でも見えるゴーグルをくれたってのか?」
セルトがそう言ったので、フックスは、わーぉ!と、全ての声を聞き分けていると驚く。そして、
「流石、次期サードニックスのキャプテン」
と、誰かの呟きが聴こえ、フーンと、フックスは思う。だが、そんな話しをガムパスが信じるだろうかと、思っていると、
「そうか・・・・・・フォックステイルが・・・・・・貸しをつくっちまったなぁ・・・・・・」
なんてガムパスが言うから、信じるの!?と、フックスは驚いて、思わず、
「フォックステイルって賊の天敵だよ!? しかも宝を盗まないで逆にアイテム置いてくとか、おかしくない!?」
と、大声で言ってしまった後、自分の口を押さえ、皆を見回し、皆が自分を見てるから、苦笑い。だが、フックスの言う通りだと、皆がまた、
「やっぱりニセモノだろ」
と、口々に話し出す。
「どうだっていいだろ、フォックステイルってのがホンモノだろうが、ニセモノだろうが! オヤジがヤバイんだ! 他に話す事があんだろうが!!」
スカイがそう怒鳴ると、皆、静かになる。
「スカイ・・・・・・お前が・・・・・・偉そうに仕切るんじゃねぇ・・・・・・お前には関係ねぇだろう・・・・・・」
ガムパスにそう言われ、スカイは、
「だけどよぅ!!」
と、言い返そうとしたが、自分を押さえて、
「わかったよ、セルトが仕切るべきだ」
と、一歩後ろへ下がった。だが、ガムパスは、
「セルトが仕切る・・・・・・? まだ儂はセルトにサードニックスを任せるとは言ってないぞ・・・・・・」
そう言った後、
「セルト・・・・・・二人で話がしたい・・・・・・」
そう言った。皆、サードニックスのキャプテンとして全てを、セルトに受け継がせる話をするのだろうと、部屋を出て行く。
勿論フックスも出て行くと、皆、
「オヤジ・・・・・・後持ってどれくらいだ・・・・・・?」
「数日か・・・・・・下手したら今日で別れが来るかもな・・・・・・」
などと話しながら、落ち込んでいて、スカイもしょぼくれている。
そりゃそうかと、賊とは言っても、朝昼晩、共に暮らし、喜怒哀楽を共にし、仲間であり、家族である連中の親なんだもんなと思う。
暫く、皆、キャプテンの部屋の近くで待機していたが、なかなかセルトが出て来ないので、数名は操縦室に戻った。
スカイは行ったり来たり、ウロウロしながら、船長室のドアの前で何度か立ち止まり、またウロウロ。
やっとセルトが出て来たと思ったら、
「どこへ向かってる?」
と、船の方向を聞いた。
「どこって、とりあえず、そこ等辺漂ってるだけだろ、それよりオヤジは? なんだって?」
スカイがそう言うと、
「アンダークラウドへ向かうよう伝えてくれ」
セルトがそう言うので、皆、シーンとする。
アンダークラウド。
そこは空賊の墓場と言われる場所で、亡くなった賊を葬る場合、その空域場所から遺体を落とす。
その下は黄泉への海域と言われる場所で、海流が激しく読めない流れをしている為、迷った船は、波に呑まれたら最後、二度と、上がっては来ないと言われている。
そこは地獄に繋がる場所、そう伝えられてきた。
天国ではない、地獄へ繋がる道を選び、墓場として利用するようになったのは、ガムパス・サードニックスが、死んでも尚、賊として、あの世の連中を束ねてやろうじゃないかと、仲間を投げ捨てた事がキッカケだったと言う。
「地獄で待ってろ! 直ぐにそこも賑わせてやるからな!」
と、笑いながら、仲間の冥福を祈った事が、他の空賊連中にも広まり、いつの間にか、そこは空賊の墓場と言われる場所となった。
「嘘だろ?」
スカイが俯くセルトにそう言って、嘘だよな!?と、揺さぶるから、
「そんな嘘吐く訳ないだろ」
そう言いながら、スカイを軽く突き飛ばし、
「ガムパス・サードニックスは死んだ! オヤジは最後までサードニックスである事を望み、その死後は賊として葬ってくれと願った! 敬意を込めて、オヤジが墓場と決めた場所に葬る! 方向確認しろ! アンダークラウドへ!!」
と、セルトは、皆に聞こえるよう、大声で、叫んだ。
皆、シーンとして、動かないから、
「何してる!! 早くしろ!! アンダークラウドへ出発だ!!」
そう怒鳴ると、皆、急いで動き出す。
「スカイ、気絶してるコイツ等・・・・・・」
セルトはデッキに来て、縛り付けられているギャングを見ながら、
「カーネリアンに引き渡してくれ」
そう言った。その場にいた連中が、
「おい!? そりゃどういうこった!!? コイツ等はサードニックスを襲ったんだぞ!!? 俺達サードニックスで裁きを下すんじゃねぇのかよ!!?」
と、セルトに怒鳴り出す。勿論スカイも、
「そりゃそうだ、カーネリアンは関係ないだろ、コイツ等はサードニックスで処刑すべきだ」
そう言って、皆の意見に頷く。
「裁き? 処刑? 賊のソレは死を意味する。コイツ等はまだガキだ、国に引き渡す」
セルトがそう言うが、皆、納得しない。
「ガキっつっても、15、6だろ!? オイラとそんな変わんねーよ!」
スカイが、そう吠える。
「お前もガキだろ、それにお前はサードニックスの事に口出す義務も権利もない」
セルトがそう言うと、
「だが、義理はあるだろうよ」
と、誰かが言った。すると、サードニックスの連中は、皆揃って、そうだそうだと、
「スカイは俺達の兄弟みてぇなもんだ、口出ししてもいいじゃねぇか」
などと言い出し、更に、
「セルト、テメェより、よーっぽどスカイの方がサードニックスを想ってるじゃねぇか!」
と、誰かの、その台詞で、シーンとする。
スカイは、流石にそれはヤバイと、慌てながら、セルトに駆け寄り、セルトと、皆を見まわしながら、
「いや、セルトは、みんなの事を思ってるけど、ほら、子供に優しいんだよな? でもセルト、今回はさ、サードニックスに手を出したんだから、ガキだとか、関係ないだろ? コイツ等はサードニックスで裁きを受けさせようぜ? まぁ、そうは言ってもさ、誰も殺しはしねぇよ、精々リンチってくらいで・・・・・・セルト? 聞いてる?」
と、遠くの空の向こうを見つめているセルトの顔を覗き込んだ。
シャークの船は見つからなかった。
だが、サードニックスの大きな船がアンダークラウドへ向けて動き出したのを、他の空賊が見逃す筈ないだろう。
そう、サードニックスの船だ、遠くから、何艘かの空賊の飛行船に、常に監視はされている。
だから、いつ、誰の耳に、ガムパスの死を知られてもおかしくはない。
そして、それがシャークの耳に届くのは、直ぐかもしれない・・・・・・。
「セルト?」
スカイの顔が近くに来て、ハッとして、セルトはプイッと横を向きながら、
「いいから、ガキ共をカーネリアンに連れて行け」
と、スカイに言う。
「だから、それはみんな納得しねぇって! それにカーネリアンって、あそこは賊でさえ捕まえない国だぜ? そうだろう?」
と、フックスを見て、スカイが言うから、フックスは、頷く。
「だとしたら、このガキだって、何の罪も償わないままになる。それより今はオヤジの為にアンダークラウドへ向かうなら、オイラも一緒に行きたいし」
「お前は飛行機だろ、カーネリアンへ行った後、直ぐに戻って来れるだろ」
「だけどさ・・・・・・」
「いいからおれの言う通りにしろ!! ゴチャゴチャ話し合ってる暇はねぇ!! 文句ある奴はおれを倒してからにしろ!! 今すぐ相手になってやる!!」
セルトはそう怒鳴った後、皆、静かになる。セルトは、フックスを見て、
「王子、スカイと一緒に一旦カーネリアンに戻って下さい」
と、そう言って、操縦室へ向かった。
皆、そんなセルトに不満を感じているのが、スカイにビシビシ伝わる。
「クソッ! 折角ギャングを数名捕まえても、これじゃぁ逃がすようなもんだ」
「これじゃぁサードニックスは舐められたままじゃねぇか」
「こんなガキ、生かしておく意味があんのかよ」
と、皆、ブツブツと口の中で文句を言っている。
「でも被害は何もなかったんでしょ?」
フックスがそう言うと、皆がフックスを見る。
「旗だって盗られてないんだし」
と、その場に似つかわしくないニッコリ笑顔で、フックスはそう言って、
「早くカーネリアンに帰ろ、スカイ」
と、フォックスイヤーに乗り込もうとするから、
「おい! コイツ等をフォックスイヤーに入れるの手伝えよ!」
と、スカイはギャングを指差した。
「やだよ。そんなのオレのやる事じゃない、そういうのはスカイがやればいいんじゃない?」
「なんだとぅ!? オイラのフォックスイヤーに乗せてやんねーぞ、クソ王子!! 歩いて帰れコノヤロウ!!」
スカイとフックスの言い合いが始まる。
セルトは操縦を変わると言って、1人で操縦室で頭を抱えていた。
まずはシャークと一緒にいるであろう、シンバを助けなければならない、このまま船をアンダークラウドへ向かわせれば、ガムパスの死を知ったシャークが現れる可能性は高い。
だが、シャークだけではない筈だ、最強のサードニックスをやるなら今だと、他の空賊も襲って来るだろう。
他の空賊共とシャークが一斉に現れる事だけは避けたい。戦いが始まる前にシンバを救い出すのが先決だ。空賊の戦争に、子供を巻き込ませられないからだ。
早いとこ、シンバを助け出さなければ――。
操縦室の窓から、スカイとフックスが言い合いしているのが見える。
「スカイ!!!! さっさと行け!!!! いつまでも遊んでんじゃねぇ!!!!」
イライラをぶつけるように、デッキのマイクに向かって怒鳴るセルト。
なんでオイラだけに怒鳴るんだよと、怒るスカイを窓から見ながら、
「早く行ってくれねぇと、お前も王子もギャングのガキ共にも、戦いに巻き込みたくねぇんだって・・・・・・」
と、呟くセルト。そして、そんな自分に、どこまでもフォックステイルなんだよなぁと改めて思う・・・・・・。
「悪ぃな、オヤジ。でもちゃんとオヤジの事は、オヤジが決めた場所で、ちゃんと最後まで見送ってやっから、オヤジも見守っててくれよ、最後まで、おれがサードニックスじゃなく、フォックステイルだってトコをさ!」
そう言うと、舵をまわしながら、アンダークラウド方角の空を見た。
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