3.久々の登場
ここはカーネリアンという島国。
カーネリアンは城と城下町があるだけの小さな国だが、気候は恐ろしく良く、作物も素晴らしく育ち、子供も多く、国としては、世界で1位2位を争う程の裕福さで、とても住みやすい国だ。
なのに、罪人への取り締まりはなく、死刑という重罪者への刑もない。
だから多くの賊や罪人達は、この国に来る。
だが、不思議な事に、今迄、誰も、この国では、罪を犯した者はいない。
皆、のんびりと、優雅に、人として、過ごす事ができるこの国を、好いている。
そして、なんと言っても、この国で有名なのは、フォックステイル。
怪盗フォックステイルという絵本を描いている作家がいて、フォックステイルの活躍を子供達に贈り続けている。
架空人物なのだが、銅像まであり、嘗ての賊達は、フォックステイルから宝を盗まれたと言う者までいて、もしかしたら本当に実在した人物かもしれないと伝えられている。
フォックステイルは腰に狐のシッポのようなアクセサリーを付けていたと言う事から、カーネリアンの土産にはフォックステイルと言う狐のシッポアクセサリーが定番だ。
ここにも1人、フォックステイルを付けている男がいる。
そう、サードニックスのセルト。
「なんでセルトの奴、カーネリアンへ来たんだ? 今、買い出しする必要あるか? ギャングをどうにかしねーと!」
「食料も充分あるのにな」
「あれだろ、またフォックステイルの新しい絵本が出たとかじゃねぇのか?」
「あぁ、セルトはフォックステイルのファンだからなぁ・・・・・・」
「アイツ、そんなんで、サードニックスの次の頭をやってけるのかねぇ」
サードニックスの賊達は、そう口々に話しながら、カーネリアンへと来ていた。
セルトは、城へ入り、受付で、王に会いたいと伝え、待っていた。
約束なしでは王に会えないと言われ、要件は聞いておくと、現れたのは、大臣を名乗る者だったが・・・・・・
「セルト!?」
と、わざわざ、王が、受付となる所まで来て、
「セルトが僕に会いに来てるって聞いて、全てキャンセルして、急いで来たんだ! どうしたの? 何かあった?」
と、セルトに近寄っているので、大臣は、お知り合いかと、ペコリとお辞儀をした後、下がった。
「あ、あの・・・・・・えっと・・・・・・全てキャンセル???」
「あぁ、気にしなくていいよ、それでどうしたの?」
「ここでは話しにくいんですけど・・・・・・」
と、周りを見ながら言うセルトに、そうだねと、王は、王の間へと、セルトを連れて行く。
そして、王座に座り、セルトを見て、
「やっぱり近くに行っていいかな?」
と、立ち上がるから、
「いいえ! その位置で大丈夫です! そこでおれの話を聞いて下さい!」
と、セルトが言うので、王は、そう?と、座る。
何からどう話すかと、緊張しながら、セルトは考ていて、ふと、王を見ると、王は、なにやら嬉しそうにニコニコしているから、
「何かイイ事でもあったんですか?」
と、聞いてみる。
「え? なんで?」
「凄く笑ってるから」
「あぁ、うん、セルトが僕に会いに来てくれたのが嬉しくてさ! だって、いつもサードニックスが来てもさ、セルト、僕に会いに来ないでしょ? 初めてじゃない? 僕に会いに来てくれたなんて!」
「あぁ・・・・・・まぁ・・・・・・」
「だから凄く嬉しくて、勝手にニヤニヤしちゃうよね!」
「はぁ・・・・・・」
「あ、でもわかってるよ、何かあったんだろ? だから僕に話に来たんだよね? キミの助けになる事はなんでもするよ、言って?」
「あの・・・・・・」
その時、さっきの大臣を名乗る男が、王の間の扉を開けて、
「リーファス・サファイア様とスカイ・パイレーツ様がいらっしゃいました」
そう言った。
え!?なんで!?と、思うセルトは、大臣を見て、王を見て、大臣を見て、また王を見て、オロオロしてるから、
「あ、僕がね、リーファスを呼んだんだ、ちょっと話があってね」
と、言った後、通してと、大臣に言うので、セルトはどうしようと思う。
「王は、何の話があって、リーファスとスカイを呼んだんですか?」
「いや、僕が呼んだのはリーファスだけ。実はね、大した事じゃないんだけど、リーファスの奥さんがさ、最近、やたらツナに会いに来てるんだ。知り合いの飛行機乗りに乗せてもらって来てるみたいでさ」
「え? ツナ騎士隊長に? リンシーさんが?」
「ツナから相談されててね、その事で、リーファスを呼んだんだけど」
「なにそのどうでもいい話!!?」
と、逆に平和かよ!?と、しかもそんなの王が間に入る事じゃないだろと、セルトは思う。
「いや、どうでもいい話って言うけどさ、ツナ、凄く困ってたしさ」
「いやいやいやいや!? ハァ!?」
と、セルトが、どこから突っ込めばいいのやらと思った時、扉が開いて、リーファスとスカイが現れた。
「あ! セルト! なんでここに!?」
スカイがセルトに走り寄る。
「お前こそ何しに来やがった」
「リーファスが、カーネリアンの王に呼ばれたって言ってさ、王に呼ばれる理由がわからないって言うから、それはもうシンバの事だろうって思って、オイラも一緒に来てみたんだよ」
「シンバの事?」
「だからアイツ行方不明じゃん?」
と、スカイがそう言って、え?と、セルトは、嘘だろ?と、内心驚くが、ポーカーフェイスで、
「そうだったな」
と、頷いておく。
リーファスは、1人、王の前で跪き、
「リーファス・サファイアです」
と、頭を下げているから、セルトも、リーファスの横で跪いてみる。
そういうもん?と、スカイも、一応、跪いてみる。
「そんな畏まる必要ないよ、みんな顏上げていいから。ていうか、リーファス、久しぶり!」
と、王が軽快な口調で言うので、リーファスは顔をあげて、王を見る。
「元気そうだね」
なんて言う王に、リーファスはクエスチョン顏。
「あ、僕だよ、わかんない?」
と、立ち上がり、王の座から、更に段差を降りて、リーファスに近寄った王に、
「ブライト!!?」
と、飛び上がって驚くリーファス。
スカイもセルトも、ブライト?と、首を傾げる。
「どういう事だ? ブライト? お前、ここで何してるんだ? 俺は王に呼ばれて来たんだけど・・・・・・」
「うん、僕がカーネリアンの王だよ。僕が呼んだ」
「え、王って・・・・・・ハァ? 何言ってんだよ、嘘だろ!? だってお前・・・・・・え? 孤児だったよな?」
「うん、まぁ、子供の頃はイロイロあってね、ちなみに僕の名前、シンバって言うんだ」
「え? シンバ?」
「そう、シンバ。確かキミの息子の名前もそうだったね。ブライトって言うのはね、僕が子供の頃、世話になった孤児院のブライト教会の事だよ」
「ハァ? えぇ? 何がどうなって・・・・・・じゃぁ、俺は孤児院名を愛機の飛行機に名付けたのか?」
「いい名前だと思うよ」
と、ニッコリ笑う王に、嘘だろと、頭痛がすると頭を押さえるリーファス。
シンバと言う名前に、頭痛がするのはスカイも同じだ。
「ていうか、カーネリアンって、最近できた国・・・・・・だよな? 変わった国だとは聞いた事はあったんだが、王が誰かも知らなかったし、名前すら知らなかった・・・・・・飛行機から降りて、ずっと整備士してたからなぁ」
リーファスが大きめの独り言で、そう言うと、王が、
「とてもいい国ではあるんだけど、小さな島国だしね、知名度は低いし、なんていうか、法が緩いせいか、他国から、あんまりいい印象はないから」
と、苦笑いで言う。
「そんな事より、今さっき、シンバくんが行方不明とか言ってた気がしたんだけど・・・・・・」
王がそう言うと、リーファスが、
「あぁ、家で勉強してた筈なんだが、いなくなってしまって、エクント中を捜してるんだが・・・・・・」
と、そこで、王の間の扉が開いて、騎士隊長のツナ、カーネリアン学園の教授のカモメ、医療センターのドクターのシカ、そして、最後に、
「あー! ホントにリーファスが来てる! 久々だなぁ~!」
と、絵本作家のパンダが来た。
「リーファスが来てるって聞いて、逢いに来た」
と、カモメ。
「ボクは昼ドラのドロドロ劇の見物に」
と、シカ。そんなシカを睨みながら、
「話はしてくれたか?」
と、ツナ。王は、首を振って、
「あのね、リーファスの息子が行方不明らしいんだ」
そう言った。
途端、ツナもカモメもシカもパンダも、真剣な表情になる。が、リーファスだけ、カモメとパンダに、え?え?え?と、驚いている。
リーファスとカモメとパンダは一時期は一緒の孤児院にいた幼馴染みだからだ。そんなリーファスを無視して、話を進めるカモメが、
「行きそうな場所とか、心当たりは?」
と、真面目な顔で聞くので、
「エクント中探したし、心当たりも探したんだが・・・・・・」
と、リーファスも驚いている場合じゃないなと、真面目に答える。
「いつから行方不明なの?」
パンダがそう聞く。
「もう丸2日になる」
と、リーファス。
「最後の目撃者は?」
シカがそう聞く。
「スカイが一緒に家にいたんだが・・・・・・」
と、リーファス。するとスカイが、
「いや、大丈夫だと思ってさ、1人で留守番できると思ったんだよ、したら、いなくなっちゃってさぁ・・・・・・」
と、頭を掻きながら言う。
「その時、エクントに、サードニックスの船が来ていた」
リーファスがそう言うと、王が、
「どうして? ジェイドエリアは飛行機乗りのエリアで、賊は入れないだろう?」
と、セルトを見て聞く。
「あぁ、いや、スカイに呼ばれてエクントに行ったんだ。リーファスが王に許可を得てくれて」
と、セルト。
「どうしてサードニックスをエクントに招き入れる必要があったんだ?」
と、ツナがスカイを見て聞く。
「今、空賊の旗を狙ってるギャングっつーのがいんだよ。ソイツ等、飛行機乗ってて、煙幕で空賊の旗を奪って逃げてくんだ。だから煙幕を吹き飛ばせるプロペラを付けてもらったらいいと思って、俺がサードニックスを呼んだんだ」
と、スカイがそう言って、成る程と、王は頷き、
「ギャングって、賊?」
と、誰になく、問う。
「賊じゃねぇよ!! あんな連中!!」
と、怒鳴るスカイ。
「あんな連中って言うって事は、ギャングの特徴を掴んでるって事だよね?」
カモメがそう聞くと、スカイは、
「なんか、セルトが言うには、オイラを真似てるって」
と、拗ねたように口を尖らせながら言うから、皆、セルトを見た。セルトは、溜息を吐きながら、
「実は俺はその話をしにここに来た」
そう言って、王を見て、話し出した。
「奴等は小型で最新型の飛行機に乗って、数人で現れる。最新の飛行機は、音もなく、忍び寄れるから、船のデッキに勝手に着陸される。つまりヘリコプター型にも変形できる飛行機だ。そして催涙ガスで、船員を攻撃。その後、帆の先端にある、印のある旗を盗み、煙幕でずらかる。そのリーダーとなる奴の飛行機は青色で、スカイの愛機であるウィッシュスターに似ている。それだけなら、俺達だけで解決するんだが・・・・・・」
そこまで話すと、王から目を逸らし、黙るセルトに、王は、
「だが?」
と、更に話の続きを聞き出す。セルトは、少し考えた後、王を見て、そして、ツナを見て、カモメを見て、シカを見て、パンダを見て、そして王に目線を戻し、
「ソイツ等の、機体の・・・・・・飛行機のボディには、フォックステイルって文字が書かれている」
そう言った。
シーンと静まった中で、最初に声をあげたのは、スカイ。
「じゃあ、フォックステイルって奴の仕業だろ? それって、ここの王子じゃん!!」
そう言って、解決だよな?と、皆を見る。
「僕の息子が・・・・・・ギャングだって・・・・・・?」
さっきまでの優しい柔らかい口調とは違い、あからさまに怒っている口調で、そう呟く王に、スカイは少しビビって、セルトの腕を掴んだが、セルトがそれを払った。
「僕の息子がギャングだって言いたいのか!!?」
そう怒鳴った王に、皆、黙り込んだが、
「有り得る!!」
と、言い出す王に、有り得んのかよと、皆、突っ込みを入れたくなる。
「誰かフックス呼んで来て!!」
怒っていたのは、息子にらしく、王は、怒った口調で、そう言うと、カモメが、
「今、まだ授業中だよ」
と、苦笑いした所で、
「オレなら、さっきからここにいるよ」
と、その声に皆、振り向くと、王の椅子に座っているフックス。
いつからそこにいたんだ・・・・・・と、王は額を押さえ、
「何してるんだ、フックス! 学校はどうしたんだ!?」
そう言った。
「カモメ先生が、城へ行くって言ってたのを聞いて、何しに行くんだろう?って付いて来ちゃった」
「付いて来ちゃったじゃないだろ! 授業はどうしたんだ! 授業は!!」
「大丈夫だよ、授業受けなくても、オレは優秀な生徒だから。いつも試験では学年1位に君臨してるしね」
そう言ったフックスに、
「だからっていつも授業をサボっちゃダメだよ」
と、カモメが言って、
「いつも!? いつもサボってるのか!!?」
と、王が怒鳴った。ウルサイなと、フックスは面倒そうに溜息。そして、
「いつもサボってもいいの、オレは成績優秀、容姿端麗だから」
「容姿端麗は置いといて、成績優秀だからと言って、授業をサボっていい理由にならないだろう!」
「それはパパの理由でしょ? オレの理由では、サボってもいいって事になってるから」
「世間一般の理由だ!!!!」
王がそう怒鳴ると、ツナが、ちょっと落ち着け、親子喧嘩は後だ、と、今にもフックスの所に駆け寄りそうな王を抑える。
王は仕方なく、深呼吸をして、自分の気持ちを落ち着かせていると、フックスが、
「で、ずっと話を聞いてたけど、そのギャング? 結論から言うと、オレじゃない」
と、話をギャングに戻した。
「まず、オレは飛行機の操縦はできないし、飛行機も持ってない。そんな乗り物必要ないからね、転送装置があるし」
と、
「それに、オレは賊の旗なんて興味ない。宝を奪って、寄付するって言うなら、わかるけど、旗なんて、賊以外の者には、一銭の価値もないでしょ?」
と、
「でも、気になるのは、ギャングは最新の飛行機をどうやって手に入れたかだよね? よっぽどの金持ちじゃないと、飛行機なんて、早々手に入らない」
と、
「更に、気になるのは、空賊の旗を狙うって、大きな帆となる更に上にある、あの印の旗だよね? そこまで一瞬にして登れるかなぁ? まるで魔法みたい」
と、
「魔法って言うなら、煙幕の後、全員うまく逃げれてるってのも変だよね? 誰も煙幕でやられてないの? 1人でやるなら兎も角、数人で煙幕は危険じゃない?」
と、
「で、何が言いたいかって、これからどうするの?って事」
と、笑顔のフックス。
シーンと、皆で、フックスを見てる中、スカイが、
「転送装置ってなに?」
と、言い出し、フックスが何か言い出す前に、カモメが、
「でも、フックス王子の言う通りだ、印の旗を盗むには、一気にあの上まで行ける道具が必要だよね、例えば、一瞬にして自分を上に引っ張り上げれるワイヤーとか!」
そう言って、王を見る。王が頷くと、シカも、
「煙幕もそうだね、煙幕を撒き散らして、敵の視界を奪うなら、自分達の視界は見えるようにしとく必要がある。飛行機で逃げるなら特に予想できない空の風を考えると、逃げ道を確保してるとは思えない。まるで、煙の中でも見える目を持ってるみたいだ」
そう言って、王を見る。王が頷くと、スカイが、
「だから、フォックステイルの仕業なんだろう?」
そう言うと、セルトが、
「違う。フォックステイルは足跡を残さない。奴等は足跡を残してる」
と、王を見る。王は頷き、
「フォックステイルの偽物ってトコか。これはほっとけないな」
と、ツナと、カモメと、シカと、パンダを見て、
「捕まよう」
そう言った。
「あぁ、悪いが、俺は帰っていいか? ギャングとかフォックステイルとか、俺は今それどころじゃないんだ」
リーファスがそう言って、場違いだと言う顔をする。
「あの! あのさ、アンタの息子さ・・・・・・エクント以外の町とか・・・・・・探してみたらどうだ? 例えば、レイドエリアのグラシスとかさ」
セルトがそう言い出し、リーファスは眉間に皺を寄せる。
「なんて言うか、もしかしたらさ? 万が一さ? 誰かの飛行機に乗ってるとしてさ? そしたら、ジェイドエリアから出て、どっか買い物に寄るとしたら、グラシスとかかなぁって・・・・・・」
「それはない」
「なんで?」
「飛行機乗り達は、皆、俺の知り合いだ、息子が飛行機に乗り込んでたら、必ず教えてくれる」
「いや、でも、隠れて乗ってたかもしれねぇだろ?」
「隠れて乗る場所なんてない」
「いや、でも、アンタの息子まだスゲェ小さいだろ? だから荷物に紛れてとか」
「だとしても、飛行機に隠れてずっと1人で乗ってるなんて有り得ないだろう」
「じゃぁ・・・・・・車とか・・・・・・汽車とか・・・・・・そういうのに乗り込んじまったとか・・・・・・」
「そうだとしたらカメラに映ってるよ」
と、カモメが言い出し、更に、
「エクントは風祭で、沢山人が訪れるからね、安全の為に、カメラを配置したいってジェイドからの依頼があって、ターミナルとか、駐車場とか、そういう場所にはカメラを設置してあるんだ」
と、説明して、パンダが、
「カモメ特注のカメラだぞ! オラもちょっと手伝ったけど凄いんだ! ひとりひとり俯いてても、髪型や背格好だけで、そこを通った奴全員の顔認証バッチシだから! 画質も最高!」
と、自慢気に言うから、セルトはマジかよと、どうしたらいいんだと、頭をガシガシ掻き出す。
「なら、やっぱりエクントの中にいるのかな、シンバくんは」
と、王が言うが、ツナが、セルトの様子に違和感を思って、
「とりあえず、彼の言う事も一理あるかもしれないから、他の町でも探してみたらどうだ? 手分けして」
と、セルトを見ながら、そう言って、セルトはうんうんと頷く。
「僕は王としての仕事があるし、ツナも、カモメも、シカも、パンダも、仕事を急に休めない。だから兵を行かそう。カーネリアンの兵士が、あちこちの町でウロウロしてたら、民達も変に思うし、賊やギャングも、もしかしたら警戒するかもしれない。だから、ツナ、私服の兵をジェイドエリア以外の町へ行かせて、シンバくんを探させて。私服兵には無線を持たせて、連絡をとれるようにして」
「わかりました」
と、ツナは王に頷く。
「それからフックス」
「オレ?」
「あぁ、スカイくんと一緒に行っていいよ」
「えぇ!? オイラと!?」
と、スカイが声をあげるのと同時に、
「冗談でしょ」
と、フックスも声をあげた。
スカイとフックスはお互い見合い、そしてフックスが、
「オレは授業に戻るよ」
なんて言い出すから、
「お前が? 授業に戻る? 嘘はやめろ、お前の事だ、偽フォックステイルを追う気だろう」
と、王が言う。
「そんな事しないよ、なんでそう思うの? オレをもっと信じてよ」
と、無垢な表情でフックスがそう言うから、
「そんな顏しても騙されないぞ、フックス。お前の父親を何年やってると思ってるんだ! 17年もやってるんだ!! お前の言動はお見通しなんだよ!!」
と、王は怒鳴るから、フックスは、めんどくさッ・・・・・・と、口の中で呟いた後、
「ていうか、放課後デートの約束あるんだけどなぁ」
と、ぼやく。
「デートは延期しろ。この件が片付くまでな。その間に勝手な事をする前に、お前にも任務を与える。スカイくんと一緒に行動して、シンバくんを見つけるんだ、偽フォックステイルの情報も集めていいが、まだ得体の知れない奴等だから、勝手な事はするな」
王はそう言って、スカイを見て、
「そういえば、キミの乗ってる飛行機は1人乗りだったね、フックスを乗せるのは無理かな?」
そう尋ねる。
「あー・・・・・・ギャングがオイラの飛行機と同じ型だって言うから、とりあえず、ウィッシュスターには休んでもらってて、違う飛行機で来たんだけど・・・・・・」
「そう、それは何人まで乗れるの? フックスも乗っていいかな?」
「数人乗れるよ、フォックスイヤーは」
スカイがそう言うと、王は一瞬動きを止め、そして、
「フォックスイヤー? フォックスイヤーが来てるの?」
と、スカイが乗って来たと言う飛行機に食いついて来た。
「あぁ・・・・・・変形型の操縦が難しい飛行機なんだけどさ、アイツ・・・・・・あぁ、オイラ、飛行機と対話できるんだけど、オイラが普段ウィッシュスター以外の飛行機に乗ろうとしても、アイツだけは、絶対に乗るなって、オイラを拒否するんだよね。賊は嫌いだって言ってさ。オイラをバカにしてんの、アイツ」
そう言いながら、今は賊じゃないけどねと、呟き、そして、
「なのに、カーネリアンに行くから、誰かオイラを乗せてくれないか?って飛行機達に言ったら、真っ先にアイツが乗せてやるって言い出してさぁ・・・・・・」
と、気まぐれにも程があるよと、言いながら、
「だから操縦がちょっとうまくできないんだよね、アイツ、オイラに心を開かないトコあるから。そのオイラの操縦でいいなら、王子を乗せてもいいんだけどさ」
と、スカイは王を見ると、王は、酷く懐かしそうな表情で、
「後で、フォックスイヤーに会いに行っていいかな?」
そう言った。スカイは、その表情の意味もわからないし、なんて答えていいかもわからなくて、只、頷くしかなかった。
「じゃぁ、リーファスは、エクントに戻って、もう一度、シンバくんを捜してみて?」
王がそう言うと、
「あぁ」
と、頷くリーファス。
「セルトは、サードニックスに戻った方がいい」
王がそう言って、セルトは、どうしていいか、わからないのか、困ったような顔をして、とりあえず頷く。
「じゃぁ、また何かあったら連絡して。ツナ、カモメ、シカ、パンダは残って。話があるから」
そう言った王に、リーファスとセルトとスカイとフックスは王の間を出て行った。
「なぁ? 俺別に手伝ってもいいんだけど。ガキ探し」
と、ツナ。
「うん、ボクも。偽フォックステイルも気になるし」
と、シカ。
「オイラもだよ。仕事なんてしてる場合じゃないし」
と、カモメ。
「オラも、締め切りまで日にちあるし、何か手伝うよ」
と、パンダ。
「当たり前だろ、キミ達は、フォックステイルなんだから、偽物が現れたってのに本物が黙ってる訳いかないし、迷子の子供をほっとく訳にもいかないだろ」
と、王の台詞に、皆、そうだよねと、苦笑い。
「久々のフォックステイル登場って訳だね。でも僕は王として、この国を出る訳にいかない。それに、妻との約束もある。二度と僕は魔法にはかからないって約束。本来の姿、王として、人々を救っていくってね。だからキミ達に任せたい」
「うん、それは当然そうだよ」
そう言ったカモメに、皆も頷く。
「でもキミ達はフォックステイルの裏方だ」
王がそう言うと、ん?と、皆、王を見る。
「表舞台で活躍するフォックステイルを助けてやるのがキミ達の仕事」
そう言われ、
「誰を助けてやれって?」
と、ツナが聞いた所で、王の間の扉が開いた。セルトが戻って来たのだ。
「どうしたの? セルト?」
王が聞くと、セルトは、
「あの・・・・・・話があって・・・・・・」
なんて言うから、
「あぁ、そうだよね、その為にセルトは来たんだよね? あれ? でも偽フォックステイルの事を話したくて来たんじゃないの?」
と、王は、セルトに尋ねた。セルトは頷き、
「来た時は、その話だったんだけど、今は、別の話って言うか・・・・・・実はリーファスの息子・・・・・・うちの船に乗ってたんだ・・・・・・」
なんて言うから、皆、ええええ?と、驚いた顔でセルトを見る。
「でも、レイドエリアのグラシスで降ろしたんだ、電話代もやって。後、チンピラ如きには手出しできないようにサードニックスの剣も背負わせた。何度も、どっか店に入って、家に電話をしろって言い聞かせた」
その話で、だからリーファスにレイドエリアのグラシスを探したらと言っていたのかと、皆、思う。
「でも・・・・・・シンバ・・・・・・電話しなかったみたいだ・・・・・・」
セルトは自分を責めるように、俯いて話す。
「シンバが船に乗ってると知ったのは、エクントを出たトコだった。オヤジの部屋で寝てるアイツを見つけた。もう一度エクントへ戻るのは無理だった。ジェイドからは一度の入国を許可すると言われてたから。二度はない。オヤジは1人で冒険させろと言った。でも・・・・・・おれが一緒に付いて行けば良かった・・・・・・」
更に俯いてしまうセルト。
「なんでおれはこうなんだろう・・・・・・ガキの将来を潰してばっかだ・・・・・・フォックステイル失格だ・・・・・・」
そんな事を言うセルトに、
「まだマシだよ、うちのリーダーより」
と、カモメが言う。
「だな。お前はよくやってる」
と、ツナが言う。
「そうだね、ボク達のリーダーよりは全然マシだよ」
と、シカが言う。
「セルトがフォックステイル失格なら、うちのリーダーはもっと失格!」
と、パンダが言う。
「そこまで言う!? 傷付く!! これでも一生懸命やって来た!!」
と、王が言って、
「でも確かに、セルトが失格なら、僕はもっと失格だった」
と、そう言うと、顔をあげるセルトに、王は笑って見せ、
「潰してなんかないよ、スカイくんはよく笑うようになったし、リーファスの息子のシンバくんも、きっと見つかるよ。大丈夫」
と、優しい口調で言う。
「あの! おれも! フックス王子とスカイと一緒に行っていいですか!?」
「え!?」
「おれ、どうしてもリーファスの息子見つけてやりたいし!!」
そう言ったセルトに、王もツナもカモメもシカもパンダも、フォックステイルは子供好きだからなぁと、
「それはいいけど、でもそしたら、サードニックスの方はどうするの?」
と、王が問う。
「サードニックスの方は、オヤジがいるし」
「でもガムパスは寝たきりなんだろ?」
ツナが問う。
「そうだけど・・・・・・」
「キミは次のキャプテンなんだよね?」
シカが問う。
「いや・・・・・・オヤジにそうと言われた訳じゃない・・・・・・」
「あれ? でもさ、何れサードニックスを背負う頭だって言われてたよね? ほら、セルトがアレキサンドライトになって、スカイくんと戦ってた時にさ、言ってたよね?」
カモメが問う。
「あれは・・・・・・あの時はそう言っただけで・・・・・・」
「ハッキリしないなぁ」
と、パンダが言うと、セルトは困ったように俯くから、
「わかった、兎に角、セルト、キミを信じてるから、キミの好きにしたらいい。サードニックスの方はキミに任せるから、スカイくんの飛行機に乗るなら、早く準備した方がいい」
王はそう言うと、セルトは頷き、急いで王の間を出て行く。
王は、ツナ、カモメ、シカ、パンダを見て、
「みんなも準備したら、転送装置に集まって。僕は、スカイくんとフックスとセルトが旅立つのを見送ったら、直ぐに行く」
そう言って、王の間を出て行く。
「で、俺達は誰の表舞台を助けるんだ?」
ツナの呟きに、
「セルト・・・・・・かな?」
と、カモメ。
「フックス王子でしょ」
と、シカ。
「でも王子もセルトもスカイって奴も、オラ達の助けなんているかなぁ?」
と、パンダ。
「とりあえず俺達も準備して行こう」
ツナがそう言って、皆、頷き、王の間を出た。
王はスカイと一緒にフォックスイヤーを停めてある場所に来ていた。
スカイは、カーネリアンで購入した荷物をフォックスイヤーに乗せていて、王は、その反対側で、フォックスイヤーの機体を優しく撫でながら、
「久し振りだね」
と、囁く。
「長い間、会いに行けなくてごめんね、でも会いに来てくれて嬉しいよ」
と、
「またフォックステイルとして冒険に行く事になるけど、大丈夫?」
と、
「僕は行けないんだ、でも僕の息子がキミと一緒に行くから、宜しくね」
と、
「僕の息子は凄く生意気なんだ、だからキミにも失礼な態度をとるかもしれないな」
と、
「でも許してやってね」
と、
「キミの声が僕にも聞こえたらいいのに・・・・・・」
と、フォックスイヤーに話し続ける。
フォックスイヤーは、王の言葉に応えているのか、スカイは荷物を乗せ終えた後も、フォックスイヤーの声が聞こえての事なのか、黙って、反対側で、王とフォックスイヤーの邪魔をしないよう、空を静かに見上げていた。
暫くすると、着替えて来たフックスが来て、セルトも来たから、
「セルト、見送りなんていいよ」
と、スカイが言うと、
「おれもお前達と一緒に行くから、飛行機に乗せてくれ」
と、言い出し、スカイは、サードニックスどうすんだよ!?と、怒り出す。
「サードニックスの事は、お前には関係ない!」
「なんだよそれ!? そんなん言うなら、オイラの飛行機に乗せてやるもんか!」
スカイがそう言った後、フォックスイヤーが何か言ったのだろう、スカイはフォックスイヤーを見て、
「んだよ!! 賊は嫌いなんじゃないのかよ!! セルトはサードニックスだぞ!! なのに乗せるっつーのか!!?」
と、怒鳴り出す。
そんなスカイを見ながら、あくびをして、まだ~?と、面倒そうにしているフックスに、王は、コイツは本当にもう!!と、怒りたくなるのを堪える。
そこへ走って来たのはカモメだ。
スカイが飛行機に怒鳴っていて、フックスが飛行機の機体に持たれかけてウトウトしているのを見ている王がイライラしている。
それを見て、カオスだなとカモメは思いながら、セルトに近付き、
「セルト、これ」
と、ちょっと洒落たピアスを差し出す。
「なんですかソレ?」
「無線を拾えるピアス型のイヤフォンだよ。本当はもっと早く渡したかったんだけど、セルト、全然会いに来ないから、渡せないままだったんだ。これ、ここを押すと開くんだ、そしたら、羅針盤みたいになってるだろ、その針を、このチャンネルに合わせれば、オイラ達と繋がれるから」
と、イヤフォンに付いた小さな針を動かしてみせる。
「それで、この数字のチャンネルに合わせると、飛行機乗り達が使ってる無線だから。後、こっちに数字を合わせると、賊達の信号が聴こえるから。常に耳に付けててもおかしくないようにね、ピアスみたいにしてみたんだ、フォックステイルのキミの為に作ったんだよ」
と、笑顔で渡してくるカモメに、セルトは嬉しそうに受け取り、早速耳に付ける。
「フォックステイルのチャンネルに合わせた場合は、お互いに通信可能だから、何かあったら話しかけてみて?」
「話しかける時って、どうやって・・・・・・」
「発信する時は、ここの小さなボタンみたいなのを爪で押して、後は、そのまま耳に付けたままで、チャンネルをフォックステイルに合わせてあれば、普通に小声で喋ってるセルトの声はコッチに聴こえるし、コッチの声は、セルトに聴こえるから。受信の場合はピッて小さな音だけ鳴るから、そしたら、同じように、この小さなボタンを押せばいいから」
「わかりました、ありがとうございます」
「何かあったら、いつでも連絡して」
「はい!」
と、セルトは一旦、耳から外して、チャンネルを確認して、また耳に付ける。
「じゃぁ、頑張ってね」
と、スカイやフックス、王の、この感情のカオス状態を無視して、カモメは、逃げるように行ってしまった。
セルトは、まだフォックスイヤーと言い合いをしているスカイに、
「おい、もう行くぞ、無駄な時間を過ごしてる暇はない」
と、フォックスイヤーに乗り込み、フックスも、
「あぁ、なんだ、乗り込んで良かったんだ」
と、言いながら、フォックスイヤーに乗り込むから、
「おい!! 勝手な行動とるんじゃねぇ!! オイラは認めねぇし、オイラより、先に乗るんじゃねぇ!!」
そう言いながら、スカイもフォックスイヤーに乗り込む。
王は、フォックスイヤーが飛び去るまで、見送り、そして、急いで、転送装置の場所へ向かった。
転送装置の場所では、既にツナ、カモメ、シカ、パンダが待っていた。
「おー! みんな、なんか懐かしいな、その格好!」
と、フォックステイルを腰に付けた動きやすい格好をしている4人に、王は声を上げる。
「私服兵達は船で、グラシス付近の町に向かわせたけど、それでいいよな?」
と、ツナが聞くと、
「うん、ツナ達はグラシスで、シンバくんを捜してみて?」
と、転送装置をいじりながら答える王に、
「あのね、思い出した事があるんだけど、煙の中でも見えるゴーグルって言うのを、生徒が自由研究で作った事があったんだ」
カモメがそう話出し、王は手を止めて、カモメを見る。
「いいアイディアの作品で、消防士の為に使えそうだと思って、イロイロと直しも必要だったから、もっとちゃんと設計が出来上がったら、生徒にも新たに作り直してみないかって話してみようと思ってて、だからまだ世に出てないモノなんだ。その設計は、作った生徒とオイラしか知らない筈。でも、ギャングが煙幕の中を逃げれるって言うなら、そういうゴーグルでも付けてるんじゃないかなって・・・・・・」
「成る程。じゃぁ、カーネリアンに残る僕がその辺は調べてみるよ」
そう言った後、また転送装置をいじろうとしたが、カモメが、
「あの、でも、えっと、設計盗まれてたかも!!」
なんて言い出し、どういう事?と、王は再び振り向いてカモメを見る。
「じ・・・・・・実は・・・・・・バニが・・・・・・」
「バニ!!?」
と、王と、ツナと、シカと、パンダは声を上げる。カモメはアワアワしながら、
「違うんだ、何もない、何もないよ! 只、バニが来て、一緒に飲みに行ったんだよ! それだけ!! でも、その後、オイラは酔い潰れちゃってね、起きたら、部屋が荒らされてて、特に何かなくなった訳じゃないんだけど、そういえば、ゴーグルの設計書がなくなってたかなぁって・・・・・・設計書の内容はオイラの頭の中に既にあったから・・・・・・それに悪用されるようなもんでもないと思って・・・・・・特に問題ないと思ったんだよね・・・・・・」
なにやってんだよと、皆で、額を押さえる。
「じゃぁ、もしかして、この一連・・・・・・」
ツナが、皆を見まわして、そう言うと、
「ウサギちゃん達が関わってるって事?」
と、シカが皆を見回して、そう言って、
「久々の美女2人にオラ達またやられそうなの?」
と、パンダが皆を見回して言って、
「ラビバニの登場か」
と、王が呟き、その王の呟きより小さな声で、
「ごめん・・・・・・」
と、カモメが言った――。
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