第4話〜ぼくのドッペルゲンガー④
…………。
「⬜︎⬜︎…!」
父さん?
数日、いや、数週間ぶりに見た父はここまで相当急いで来たのか、肩で息をしていて、今にも倒れてしまいそうだった。
こんな薄暗い部屋であっても、どこか憔悴したような雰囲気が伝わってくる。
何でここにいるんだろう、なんて疑問は頭の片隅に。
もしかして、僕の事を心配して来てくれたのか、なんて希望が一瞬沸き起こる。
停電の知らせを受けて、急いで駆け付けてくれたのかも。
けど、ただの検査入院でどうして父が…
「父さ」
「⬜︎⬜︎!」
父がよたよたと近づいてくる。
そして僕の横をすり抜けるようにして部屋の奥のベッドへと向かっていった。
思考が、停止する。
「⬜︎⬜︎?⬜︎⬜︎?」
何度も何度も、僕の名前を、僕ではない誰かに、ベッドに横になってる人に呼びかける。
どういうことだろう?
疑問が沸き上がってきた。
どうして父は、僕じゃなくて、別の誰かに話しかけているのだろう。
僕はここにいるのに。
なんで別の誰かを僕の名前で呼ぶのだろう。
まるで、僕が幽霊にでもなったみたいだ。
けれど、杖は付いてるけど、僕は確かにここにいる。
なのに父は僕を見ない。
僕ではない誰かを、僕の名前で呼んでいる。
なんでだろう、おかしい、どうして。
頭の中を疑問がぐるぐると回る。
ぐちゃぐちゃになった思考。
頭の片隅にほんの僅かに残った思考が出した答え。
信じられない。
ありえない。
だとしたら、あのベッドに横になっているのは…
…………。
『院内の電力が復旧致しました。ご利用の皆様は慌てずに、近くの医師、看護師の指示に従って下さい。繰り返します、院内の電力が復旧致しました…』
唐突に明るくなった部屋の中。
記憶にあるものより小さくなったように感じる父の背中と、そして、ベッドに横になる誰かの顔が見えるようになった。
相変わらず僕の方は見向きもせず、僕の名前を呼びかけている。
そして呼びかけられている誰か。
顔の上半分は機器のせいで見えない。
けれど、その目元には…
「おい、こっちの部屋にいたぞ。すぐに機械室に連れて行け」
不意に肩と腕を掴まれた。
いつの間にか部屋に入って来ていた人たちに抱えられるようにして部屋から連れ出される。
でも、僕の頭の中はぐちゃぐちゃで、体を動かすこともできなかった。
答えに至って、僕を動かす意思はもろくも崩れ去ってしまった。
ベッドに横になっていた彼の目元。
僕から見て左側に、つまり僕と同じ位置に3つのホクロがあった。
つまり、ベッドで横になっているのは、僕だった。
じゃあ……
僕は一体、誰なんだ…?
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